「社会保険の扶養が外れるタイミングや条件は?」「社会保険の扶養が外れる時の手続きはどうやるの?」などと疑問に思っていませんか。これから就職をする人で、扶養が外れた際の手続き方法を知りたい人も多いことでしょう。

この記事では、社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの岡佳伸さん監修のもと、社会保険の扶養が外れるタイミングや手続き方法を解説。扶養に関する注意点も紹介します。扶養を意識しながら仕事をしたい人、これから扶養を外れる予定のある人はぜひご覧ください。

※この記事は、2025年1月29日に公開した内容を最新情報に更新しています。

この記事の監修者

岡 佳伸(おか よしのぶ)

社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士。

大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当したあとに、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会(東京商工会議所練馬支部、中央支部、公益社団法人東京ビルメンテナンス協会)講師および各種WEB記事執筆。日経新聞、読売新聞、女性セブンなどに取材記事掲載のほか、NHK「あさイチ」に専門家ゲストとしても出演(2020年12月21日、2021年3月10日)。

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【最新動向】「年収の壁」の引き上げについて

社会保険の「扶養から外れるかどうか」の目安として知られる「年収106万円の壁」は、2026年10月に撤廃される見通しです。これは、2025年6月に成立した年金制度改正法によるもので、週20時間以上働く人は、年収や企業規模にかかわらず厚生年金に加入できる方向へ移行していきます。段階的に拡大され、2029年10月には個人事業所の従業員も対象となる予定です。

【社会保険の加入要件(学生を除く)】1)

●現在
・企業規模が従業員51人以上
・労働時間が週20時間以上
・賃金が年収106万円以上(月8万8,000円以上)※3年以内に廃止の予定

●改正後(2035年10月以降)
・労働時間が週20時間以上

一方で、税制度上の扶養も大きな変化がありました。令和7年度税制改正により、これまで年収103万円だった扶養控除の基準が123万円に引き上げられました。いわゆる「年収の壁」が高くなり、所得税が発生するラインも変わっています。

つまり、社会保険と税制度の両面で「扶養の壁」が変化する時代に入り、今後は「どの制度の壁を意識するか」によって働き方が大きく変わっていくことになるでしょう。

【注】以下の説明では、記事公開時点での情報を掲載しています。今後、所得税や社会保険料の支払いが発生する年収が変化する可能性がありますので、ご留意ください。

そもそも社会保険の扶養とは

画像: 画像:iStock.com/RomoroTavani

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社会保険の扶養制度とは、1人で生計を立てることが難しい人を援助する制度です。条件を満たすと、配偶者や両親などの扶養に入ることができます。

対象者は、年間収入が原則130万円未満の被扶養者です(年間収入の上限については、現在見直しが検討されています)。なお、扶養認定日が令和7年10月1日以降で、扶養認定を受ける人が19歳以上23歳未満の場合(被保険者の配偶者を除く)は、現行の「年間収入130万円未満」が「年間収入150万円未満」に変わります2)。また、被扶養者が60歳以上または障がい者である場合は、年間収入が180万円未満であることが条件です3)

たとえば配偶者が社会保険の扶養に入ると、配偶者本人の社会保険料の支払いがなくなります。被保険者は被扶養者がいれば配偶者控除などの適用対象となり、税負担の軽減も可能です。配偶者を扶養に入れる前よりも手取り額が増える点がメリットです3)

一方で、国民健康保険には扶養の制度がありません。経済的な扶養者が国民健康保険の加入者の場合は、その家族も個別に加入しなければならないので、注意しましょう。

【関連記事】扶養家族の対象範囲や条件について、詳しくはコチラ

社会保険の扶養が外れるタイミングはいつ?

社会保険の扶養が外れるのは、見込み年収が130万円を超えると判断されたタイミングです4)。基準となる金額は、単純計算で130万円を12カ月で割った10万8,333円です。臨時的に月収が10万8,333円を超える場合は問題ありませんが、継続的に超過すると扶養が外れるので、注意しましょう。

また、見込み年収が106万円超であり、特定の条件(後述)に当てはまると判断された場合にも、扶養が外れてしまうことがあるので注意しましょう。

社会保険の種類によって扶養資格などは異なる場合があるので、詳細は加入している社会保険の規定を確認してみてください。

社会保険の扶養が外れる際に必要な手続き

画像: 画像:iStock.com/ChardayPenn

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被扶養者の収入が106万円または130万円を超えると、扶養を外れる手続きが必要です。扶養が外れる場合、勤務先の社会保険か国民健康保険に被扶養者が加入するケースがほとんどです。まずは自分がどちらのパターンに当てはまるかを確認しましょう。

以下では、それぞれのケースにおける手続き方法と期限を解説します。

社会保険に加入する場合

扶養が外れる場合、外れることが確定した日から5日以内に扶養者の会社へ被扶養者(異動)届の提出が必須です4)。その後、自分の勤務先の社会保険に加入するために、会社を通じて被保険者資格取得届を提出します。

会社の社会保険に入る場合、併せて厚生年金保険にも加入する必要があるので、事前に年金手帳やマイナンバーがわかる書類を準備しておくといいでしょう。

扶養が外れても手続きをしなかった場合、扶養者が加入している社会保険へ返金しなければならないケースもあります。余計な手間をかけないためにも、手続きは早めに行いましょう。

社会保険や国民健康保険など、健康保険の種類については、以下の記事で詳しく解説しているので、興味がある人は併せてご覧ください。

【関連記事】健康保険の種類について、詳しくはコチラ

国民健康保険に加入する場合

扶養が外れたあと、勤務先の社会保険に加入しない場合は、国民健康保険へ加入しなければなりません。なお、被扶養者であった配偶者が国民健康保険に加入する際は、扶養者の会社に「被扶養者(異動)届/第3号被保険者関係届」を提出する必要があります。

資格喪失証明書の発行も、扶養者の会社または加入していた健康保険組合などに依頼しましょう。資格喪失証明書とは、国民健康保険に加入する際に、社会保険の扶養が外れた日付を証明する書類です。扶養が外れた日から14日以内に市役所などで手続きを行いましょう5)

社会保険の扶養が外れる条件

画像: 画像:iStock.com/PeopleImages

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社会保険の扶養が外れる主な条件は、年間収入が106万円と130万円を超えた時です。それぞれのケースの詳細と、税制度上の扶養が外れる条件も解説します。

106万円を超える場合

扶養家族に年106万円を超える収入がある場合、その人は扶養が外れることがあります。この際、106万円を超えた全員ではなく、以下の条件を満たす場合のみ扶養が外れます。

  • 勤務先の会社の従業員が51人以上6)
  • 月額賃金が8万8,000円以上
  • 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
  • 2カ月を超える雇用の見込みがある
  • 学生ではない

上記の条件を満たす場合、パート・アルバイトであっても、社会保険への加入が必須です。

130万円を超える場合

年収が130万円を超える場合(※)、勤務先の規模や所定労働時間などの条件にかかわらず、社会保険に加入しなければなりません。この場合、自動的に扶養が外れます。

これにはパート・アルバイトも該当し、年収が130万円を超えた時点で社会保険への加入と保険料の支払いが必要になります。学生で扶養を外れたくない場合は、年間の収入を130万円に抑えましょう。

※:令和7年10月1日以降で扶養認定を受ける人が19歳以上23歳未満(被保険者の配偶者を除く)の場合は、年間収入150万円を超える場合。

そのほかの条件

画像: 画像:iStock.com/kohei_hara

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扶養が外れるそのほかの条件として、被保険者の年収の1/2を超える場合が挙げられます。原則、社会保険の扶養に入るには、年収が130万円未満かつ被保険者の年収の1/2未満でなければならないためです2)

また、1月から6月までの収入が65万円を超えている場合も注意が必要です。これは、この限度額が年間の見込み金額で判断されるためです。この時点ではまだ年収が106万円もしくは130万円に到達していないですが、年末までこのペースで収入を得ると130万円を超えると判断されます。扶養を外れたくない場合は、パート・アルバイトのシフトを計画的に入れることをおすすめします。

(コラム)税制度上の扶養が外れるのは123万円

ここまでは社会保険の扶養について解説しましたが、扶養には税制度上の扶養が別にあります。学生や主婦(夫)の多くは、パート・アルバイトをする際に扶養が外れないように注意しているでしょう。この時の「扶養が外れる」は、税制度上の扶養を指しているケースが多いです。令和7年度の税制改正により、扶養に関する様々な年収の壁が見直されました。以下で詳しく解説します7)

●123万円の壁(配偶者控除)

所得税の配偶者控除の対象となる「年間の給与収入上限」が 103万円から123万円 に引き上げられました。年収123万円から最低控除の65万円(給与所得控除)を差し引くと、合計所得は58万円となり、扶養控除の所得要件に合致します。つまり、年収123万円までは税法上、扶養対象として認められます

●150万円の壁(特定親族特別控除)

大学生など、19歳以上23歳未満の扶養親族に対しては、一定以上の所得まで控除が受けられる新制度が設けられました。対象者の年収が150万円までであれば、親側が段階的に「特定親族特別控除」を受けられます。この控除は年収123万円超~188万円以下(給与収入ベース)まで適用され、控除額は所得に応じて徐々に減少していきます。

●160万円の壁(配偶者特別控除)

配偶者控除や配偶者特別控除にも見直しが入り、「勤務する配偶者の年収上限」が引き上げられています。年収150万円までだった「配偶者特別控除」満額適用の上限が、160万円に拡大されました

【関連記事】配偶者控除と配偶者特別控除について、詳しくはコチラ

ただし、記事の冒頭でお伝えしたとおり、政府は課税対象額を段階的に引き上げる方針を示しており、制度が変われば考え方も変わりますので、ご注意ください。

なお、妻が夫の扶養に入る場合の条件やメリット・デメリットについて以下の記事で紹介しています。興味のある人は確認してみてください。

【関連記事】妻が夫の扶養に入るには?条件やメリット・デメリットについて、詳しくはコチラ

社会保険の扶養が外れたらどうなる?

社会保険の扶養から外れた場合、以下のような影響がでます。

それぞれ詳しく解説します。

扶養が外れると、世帯年収が減る可能性がある

被扶養者が扶養を外れると、世帯年収が減るおそれがあります。扶養に入っていたことで適用されていた控除がなくなってしまうためです。

扶養家族の収入が130万円を超えると(※)強制的に扶養が外れ、それまで支払い義務がなかった社会保険料を支払う必要が生じます。これにより、ひとりひとりの年収だけでなく、世帯全体での年収も減ってしまう点に注意が必要です。

※:令和7年10月1日以降で、扶養認定を受ける方が19歳以上23歳未満の場合(被保険者の配偶者を除く)は年間収入150万円を超える場合

社会保険料がかかり、手取りが減る場合がある

社会保険の扶養から外れて、勤務先の健康保険、厚生年金保険に加入する場合、新たに保険料がかかります。そのため、手取りは増えたにもかかわらず、社会保険料の負担も増えて、結果的に手取りが減ってしまう可能性があります。

扶養から外れる場合は、その前後の手取りをあらかじめシミュレーションしておくことが大切です。

ただし、くわしくはつぎの章で説明しますが、この負担には将来へのメリットもあります。

将来の年金額が変わる

社会保険の扶養から外れて、勤務先で厚生年金保険に加入した場合、将来受け取る年金額が変わります。なぜなら、加入する公的年金が国民年金から厚生年金保険に変わるからです。

基本的に国民年金よりも厚生年金のほうが保険料が高くなるため、将来受け取る年金額も多くなります。

保険料が高くなるため、手取りが減る可能性はありますが、長期的に見れば年金額が増えるというメリットがあるため、短期的な負担と長期的な安心の両面から考えることが大切です。

健康保険の保障内容が変わる

社会保険の扶養から外れると、自身で国民健康保険もしくは勤務先が加入している健康保険に加入する必要があります。

国民健康保険に加入する場合は、特に保障内容は変わりません。

一方、勤務先が加入している健康保険に加入すれば、様々な保障が受けられるようになります。たとえば、病気やケガ、出産で仕事を休む場合、要件を満たせば傷病手当金や出産手当金などが支給されるケースがあります。

このように、扶養から外れることはデメリットだけでなく、新たに得られるメリットもあります。自身の働き方やライフプランに合わせて、扶養に入るか外れるかを検討することが大切です。

社会保険の扶養に関する注意点

画像: 画像:iStock.com/takasuu

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社会保険の扶養に関する注意点は、以下のとおりです。

投資などの配当金も収入としてカウントされることがある

扶養から外れている人が、投資で利益を得ている場合、収入としてカウントされてしまうことがあります。収入とみなされるのは、基本的に「継続して入ってくる収入」です。投資などによる配当金がカウントされるかどうかは、継続的に入るのか、一度限りなのかによって異なります

たとえば、NISA口座で株式や投資信託などを売却した場合、その取引は一度限りなので通常は継続的な収入とはみなされません。一方、保有している株式の配当金が毎年入る場合は継続的な収入と判断され、収入としてカウントされます。

さかのぼって扶養が外れることもある

画像: 画像:iStock.com/monzenmachi

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収入が106万円または130万円を超えると、扶養が外れます。この時、扶養が外れる前に使っていた健康保険証を使って、受診してしまった場合、扶養に入っていた期間までさかのぼって、保険診療費の返金を要求される可能性があります。

返金を要求されるのは、扶養が外れる前に病院などで支払った医療費に対して、健康保険組合などが負担していた金額です。差額を要求された場合は、すみやかに返金しましょう。

扶養が外れたあとの再加入にも都度申請が必要

扶養が外れたあと、再加入する場合はその都度申請が必要です。扶養が外れた場合は、期限内に申請しなければなりません。上記で解説した方法に沿って、手続きを行いましょう。

もし、何も手続きを行わなかった場合は、そのままでは再度扶養に入れません。本来受けられるはずのメリットを手放さないためにも、申請は忘れず行いましょう。

扶養が外れる条件や必要な手続きを理解しておこう

画像: 画像:iStock.com/megaflopp

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収入が106万円や130万円を超えてしまうと、扶養が外れる手続きを行わなければなりません。パート・アルバイトとして働いていても、健康保険への加入が求められる場合があるので、注意しましょう。

社会保険の扶養が外れる際の手続き方法は、社会保険に加入するか、国民健康保険に加入するかで異なります。加入する健康保険を事前に把握し、期限内に手続きを済ませましょう。

扶養が外れる基準を知らないと、気づかないうちに扶養が外れている可能性もあります。社会保険のルールをよく理解し、必要な手続きはしっかりと行いましょう。

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