そんな方々に知ってほしいのが、次の仕事が見つかるまでの間、生活費として受け取れる失業手当です。この記事では、失業手当の受給条件や給付期間、金額について解説していきます。正しく知って、失業時に上手に活用しましょう。
※この記事は、2021年5月24日に更新しています。
この記事の著者
於 ありさ
ライター・インタビュアー。大学卒業後、生命保険会社に入社。在職中に2級ファイナンシャル・プランニング技能士の資格を取得。その後、編集プロダクションでの経験を経て独立。現在は、エンタメ系のインタビュー記事を中心に、毎日が少しだけ豊かになるような記事を執筆している。
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失業保険(失業手当)とは

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そもそも失業保険(失業手当)とは、どのようなものなのでしょうか。基本的な情報を確認していきましょう。
失業保険は正式には「雇用保険」といい、「失業手当」とは雇用保険に加入している人が“特定の条件下”で受給できるお金のことです。
失業した場合、次の仕事が見つかるまでの間は収入が途絶えてしまうことがあります。収入が途絶えると、当然生活は安定しなくなりますよね。失業手当は、そんな時に生活費の心配をせず次の仕事を安心して探すためのお金なのです。
ただし、この失業手当は全員が受け取れるものではありません。手当を受けるには、いくつかの条件があります。
失業手当の受給資格について

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では、失業手当を受けるには一体どのような条件があるのでしょうか。
失業手当を受けられる場合、受けられない場合を判別するために、確認すべきポイントを解説していきます。
(1)【チャート診断】失業手当の受給資格をチェック
まずは失業手当を受け取る資格があるのか、受給期間はどれくらいになるのかを、チャートでチェックしてみましょう。
〈図〉失業手当の受給確認チャート

ここで重要なのは、下記の4つのポイントです。
〈表〉失業手当受給の4つのポイント
① 働く意思・能力
② 求職の意思
③ 雇用保険への加入期間
④ 退職理由(自己都合退職か、会社都合退職か)
これらを軸として、受給資格があるのかないのか、受給期間はどのくらいになるのかということが決まります。このチャートの内容について、ポイントごとに解説していきましょう。
(2)受給資格の4つのポイントを解説
① 働く意思・能力
そもそも失業手当を受け取るためには、失業状態である上で「働く意思や能力」がなければいけません。つまり、次のような場合は、失業手当を受け取れません。
〈表〉「働く意志や能力」がないと見なされる例
- ケガや病気ですぐに働くのが難しい人
- 妊娠・出産などですぐに就職するのが困難な人
②求職の意思
失業手当は、“次の仕事が見つかるまでの生活”を保障するためのものです。そのため、すぐに次の仕事先を見つけるつもりがない人は、失業手当を受け取ることができません。
求職の意思を示すためには、まずハローワークへ行きましょう。
そこで簡単な手続きをし、「就職したいという積極的な意思」と「いつでも就職できる能力(健康状態・家庭環境など)」を示した上で、「積極的に求職活動を行っているにもかかわらず、就職できない状態にある方」と認められた場合に給付の対象となります。
そのため、次のような方は原則として失業手当の支給を受けられません。
〈表〉「求職の意思がない」と見なされる例
- 家事に専念するつもりの人
- 自営を開始、または自営準備に専念する人
- 雇用保険の被保険者とならない短時間就労のみを希望する人
③雇用保険の加入期間
雇用保険加入の期間も、受給できるか否かを左右します。具体的には、次の表の通りです。
〈表〉雇用保険の加入期間ごとによる失業手当の受給資格
雇用保険の加入期間 | 受給資格 | |
---|---|---|
A | 過去1年間に通算6カ月以上 | 失業手当の受給資格あり |
B | (Aの条件を満たしていない場合)過去2年間で12カ月以上 | |
C | A・Bの条件を満たしていない | 失業手当の受給資格なし |
④退職理由(自己都合退職か、会社都合退職か)
上記①〜③は受給できるか否かの判断材料でしたが、④「退職の理由(自己都合退職か、会社都合退職か)」は、受給期間や支給開始日を左右します。
退職の理由は「会社都合」か「自己都合」の2つに分けられ、具体的には下記のような違いがあります。
●会社都合退職
会社都合退職とは、倒産による離職や、解雇による離職など「退職を余儀なくされた」場合を指します。
また、ハラスメント被害を受けた場合や、外的要因による精神的苦痛で働くことが困難となってしまった場合など、自分の意思に反して退職を余儀なくされたケースも「会社都合」となります。
●自己都合退職
自己都合退職とは、その名の通り「自分の都合で退職するケース」のことです。例えば、結婚や出産、職場が原因ではない病気を理由とした療養、両親の介護のためなどの理由が、これに当たります。
なお、上記チャートとこれらのポイントについては、あくまでも目安です。受給資格の要件については、アルバイトを週20時間以上しているか、同一の事業所で離職と就職を繰り返していないかなど、より詳細に決まっているので、ハローワークでの審査結果が異なる場合もあります。
失業手当の手続きに必要なものと受給までの流れ

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前述の通り、失業手当を受けるためにはいくつかの条件を満たしている必要があります。
では、具体的に失業手当を受けたい時には、どのような手続きが必要なのでしょうか。手続きに必要なものと合わせて解説します。
(1)失業手当の受給手続きに必要なもの
失業手当をもらうためには、まずはハローワークに行って手続きをする必要があります。その際、持っていくものは下記の通りです。
〈表〉失業手当の受給手続きに必要なものリスト
必要なもの | 説明・要件 |
---|---|
雇用保険被保険者証 | 会社で保管しているため、退職時にもらう場合が多い |
離職票 | 退職後に会社から郵送してもらえる |
個人番号確認書類 | マイナンバーカード、通知カード、個人番号の記載のある住民票(住民票記載事項証明書)のいずれか1種 |
身元確認書類(写真付き) | 運転免許証、マイナンバーカード、官公署が発行した身分証明書・資格証明書(写真付き)など |
顔写真2枚 | 最近の写真、正面上半身、縦3.0cm×横2.5cm |
印鑑 | シャチハタはNG |
本人名義の預金通帳 又はキャッシュカード | インターネットバンク・外資系金融機関不可・ゆうちょ銀行可 |
(2)申請から受給までの流れ
必要な書類を準備できたら、失業手当を受給するための手続きをしましょう。手続きは次の流れの通りです。
〈図〉申請から受給までの流れ

①離職票を受け取る
まずは、退職した会社から離職票を受け取りましょう。大抵の場合は、郵送で受け取ることになります。会社によっては発行に時間がかかるので、なるべく早めに手続きをお願いする方が得策です。
②ハローワークへ行く
離職票を受け取ることができたら、前述の「失業手当の受給手続きに必要なものリスト」で紹介したものを持ってハローワークに行きましょう。雇用保険被保険者証、離職票をもとにハローワークで条件を満たしていることが判断され、受給資格が決定されます。また、この時に初回の説明会の日程と会場も決まります(説明会については④で説明します)。
③待機する(7日 or 7日+3カ月間)
受給資格の決定から初回説明会までの間には、待機期間があります。この期間は、失業状態の確認を行うことが趣旨となります。
つまり待機期間は、アルバイトであっても就業活動を行うことができません。もしアルバイトをした場合は、その日数分が待機期間として延長されます。
なお、待機期間中に求職活動をすることは可能ですが、この期間中は求職活動の実績としてカウントされないので注意してください。
待機期間は、会社都合であれば7日間、自己都合で退職した場合の待機期間は7日間+3カ月となります。退職理由によって期間が異なるので確認しておきましょう。
④受給説明会に参加する
②で示した初回の説明会に参加します。初回の説明会では、失業手当の受給やハローワークの使い方などについて詳しい説明が行われます。雇用保険受給資格者のしおりなど、最初にハローワークへ行った際に説明された必要な持ちものを持参しましょう。
⑤求職活動をする
ハローワークの窓口で職業相談や職業紹介を受けるなど、求職活動をスタートさせます。失業手当は次の職を探す人に給付されるものであるため、28日間で最低でも2回以上は転職活動をする必要があります。
⑥失業の認定を受ける
失業手当の給付を受けるためには、原則として4週間に1度、失業の認定を受ける必要があります。「失業認定申告書」に求職活動の状況などを記入し、「雇用保険受給資格者証」とともに提出してください。
⑦失業手当が口座に振り込まれる
失業が認定されたら、約1週間後に28日分の失業手当が振り込まれます。
失業手当の受給期間と受給額について

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失業手当は、人によって受給期間や受給額が異なります。ここでは、それらの決定条件について解説します。
(1)受給期間の決定条件
失業手当の受給期間は、雇用保険の「被保険者期間」と退職理由によって受給日数が変わってきます。
所定受給日数は下記の通りです。
〈表〉自己都合退職の場合の所定受給日数1)
離職時の年齢 | 被保険者期間 | ||
---|---|---|---|
1年以上 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 | |
65歳未満の場合 | 90日 | 120日 | 150日 |
〈表〉会社都合退職の場合の所定受給日数1)
離職時の年齢 | 被保険者期間 | ||||
---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 1年以上 5年未満 | 5年以上 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 | |
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | – |
30歳以上 35 歳未満 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
35歳以上 45歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
45歳以上 60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
60歳以上 65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
また、失業手当がもらえる期間は、離職日の翌日から1年間のみです。手続きが遅れてしまうと、受給できる上限日数分がもらえない可能性もでてくるので、離職後すぐに手続きすることをおすすめします。
(2)受給額の決定条件
続いて、受給できる金額についてです。
受給額は、離職時の年齢と離職した日の直前の6カ月間の賃金(賞与はのぞく)の合計を180で割った金額(=賃金日額)により決定されます。
具体的な計算方法は、以下の通りです。
〈表〉受給額の計算式
失業手当の受給額=基本手当日額×所定受給日数
失業給付の1日当たりの金額である「基本手当日額」は、次の計算方法で求められます。
〈表〉基本手当日額の計算式
基本手当日額
=退職前6カ月間の給与総額(賞与はのぞく)÷180日×給付率(50〜80%)
基本手当を算出するにあたって使用される「給付率」は、賃金日額が低い人のほうが高くなります。これは生活できる水準を考えて設定されているため、低所得の方ほど手厚いサポートが受けられるようにするしくみです。給付率の目安は次の通りです。
〈表〉基本手当日額の年齢別目安2)

また、基本手当日額は年齢区分ごとの上限額が定められており、現在は次の通りです。
〈表〉年齢別基本手当日額の上限3)
年齢 | 上限額 |
---|---|
30歳未満 | 6,845円 |
30歳以上45歳未満 | 7,605円 |
45歳以上60歳未満 | 8,370円 |
60歳以上65歳未満 | 7,186円 |
具体的な受給ケースをご紹介
ここまで受給資格や受給日数、受給額について説明してきましたが、読者の方の中には、結局いくらもらえるのかが知りたいという人もいるでしょう。
そんな方のために、この章では具体的なケースをあげて、失業手当の受給可否と金額について解説します。
(1)自己都合で退職した20代・元フリーターAさんの場合
〈表〉Aさんの失業時の状況
年齢 | 25歳 |
---|---|
退職時の雇用形態 | アルバイト |
退職理由 | 自己都合 |
退職時の給料 | 20万円/月 |
雇用保険 | 加入 |
被保険者期間 | 2年間 |
まずは、失業手当をもらうための条件を見てみましょう。雇用保険に2年間加入しているので、十分条件を満たしていることがわかります。
失業保険を受けるには、雇用形態は関係ありません。正社員ではなく、アルバイトや契約社員であったとしても雇用保険に加入できていれば、失業保険は受けられます。
では、ここで先ほど紹介した失業手当の受給額の計算式に自己都合で退職したAさんの例を当てはめてみましょう。なお、今回の給付率は60%、所定受給日数は28日と仮定します。
〈図〉Aさんの受給額の算出

以上により、失業手当の受給額は81,984円。Aさんは自己都合退職なので、受給が開始されるのは7日間+3カ月後からとなります。
(2)会社都合で退職した30代の元会社員・Bさんの場合
同じように今度は別のケースで見てみましょう。
〈表〉Bさんの失業時の状況
年齢 | 35歳 |
---|---|
退職時の雇用形態 | 正社員 |
退職理由 | 会社都合 |
退職時の給料 | 50万円/月 |
雇用保険 | 加入 |
被保険者期間 | 15年間 |
〈図〉Bさんの受給額の算出

30〜44歳の賃金日額の上限は15,210円のところ、今回の方は上限を超えた16,666円となっています。そのため、基本手当日額は上限額の7,605円が適用となります。
受給は、会社都合による退職のため7日間の待機期間後にスタートします。
(3)自己都合で退職した30代元パート・Cさんの場合
〈表〉Cさんの失業時の状況
年齢 | 35歳 |
---|---|
退職時の雇用形態 | パート勤務 |
退職理由 | 自己都合 |
退職時の給料 | 15万円/月 |
雇用保険 | 未加入 |
被保険者期間 | - |
このケースに関しては、雇用保険に未加入のため、残念ながら手当をもらうことはできません。
なお、従業員人数が5人未満の会社に勤めている人や、週20時間未満のパートタイマーの場合は、雇用保険に加入していない可能性があります。
雇用保険に入っているか否か心配な人は、今一度、雇用契約書に記載があるか、給与明細で雇用保険が引かれているかを確認してみましょう。
失業手当に関する「よくある疑問」

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ここからは、失業手当の受給に関する疑問を紹介しながら解説していきます。
(1)就職促進給付とは?
失業手当について調べていくうちに、「就職促進給付」という言葉を見つけた人もいるでしょう。
この給付は、失業手当とは違い、想定よりも早くに就職先が決まった場合にもらえる給付金のことです。具体的には、再就職手当、就業促進定着手当、就業手当などがあります。
再就職手当は、基本手当の受給資格がある人が安定した職業に就いた場合に、失業手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合に支給されるものです。
ここでいう安定した職業に就くとは、雇用保険の被保険者となる場合や、事業主となって雇用保険の被保険者を雇用する場合などを指します。
再就職手当の支給額の計算方法は下記の通りです。
〈表〉再就職手当の支給額の計算式
再就職手当の受給額
=基本手当の受給日数の残日数×給付率×基本手当日額
また、上記の計算式に出てくる給付率は以下を参考にしてください。
基本手当の支給残日数 | 給付率 |
---|---|
3分の2以上 | 70% |
3分の1以上 | 60% |
失業手当だけでなく、このように早期に再就職が決まった際の手当もあるので、ぜひ活用してください。
(2)事業主と離職者で退職理由の主張が食い違った場合は?
会社を自分の意思で退職した場合は「自己都合退職」として届出が作成されます。
しかし、例えば上司との人間関係や、ハラスメントが原因で精神的苦痛を負い、退職を決断した場合には「会社都合退職」との判定に覆る場合もあります。この場合、事業主と離職者の意見をどちらも聞いた上で、最終的に判定するのは、管轄する公共職業安定所です。
もし退職理由に食い違いが起こった場合、判定には客観的資料が必要となるため、医療機関の発行した診断書などを用意しましょう。
(3)うつ病などで休職中の場合、そのまま辞めたらどうなる?
うつ病などによる休職を経て退職する場合には、休職中は傷病手当、退職後は失業手当が利用できます。
傷病手当とは、休職中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度のこと。被保険者が会社を休んでいる間、事業主から休職手当などの十分な報酬が受けられない場合に支給される制度です。
支給を受けるためには、勤務できなかった期間を含む賃金計算期間(賃金計算の締日の翌日から締日の期間)の勤務状況を勤め先に証明してもらうこと、療養担当者(医師など)に病名などを証明してもらうことが必要です。
この傷病手当は、基本的には在籍期間中に欠勤した分の生活を保障するための制度です。そのため、勤務先を退職した後は、いくつかの条件に当てはまっている場合のみ、継続して傷病手当を受け取ることが可能です4)。
退職後は、先に説明している失業手当を受けるための受給手続きを行いましょう。ただし、失業手当は「病気で働けない」という状態では受け取ることができません。「受給期間の延長手続き」を活用することも可能なので、近くのハローワークで相談してみると良いでしょう。
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まとめ
新型コロナウィルスの流行により、雇用や就業に大きな変化が出てきています。この影響を受けて、今後の転職活動に対して「次の仕事が決まるまでの金銭面が心配…」「新しい仕事を探したいけど、現職を続けながら仕事を探すのは難しい…」と大きな不安や悩みを抱いている人も多いでしょう。
しかし、悲観的になる必要はありません。雇用保険に加入している場合には、失業時の転職活動生活を支えてくれる様々な手当が用意されています。制度を上手く活用して、理想のキャリアを歩みましょう。