この記事では、ファイナンシャルプランナーの中村賢司さん監修のもと、失業保険を一度利用するとどうなるのかを徹底解説します。失業保険を申請する時に注意すべき点や申請方法、受給できる金額の計算方法も紹介します。失業保険をしっかり活用したい人や、失業保険がどのようなしくみか知りたい人は必見です。
※本記事で紹介する内容は、厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」をもとに構成しています。
失業保険を一度もらうと加入期間がリセットされる

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そもそも、失業保険は正式には雇用保険といい、この雇用保険に加入している人が失業や自己都合退職などの“特定の条件下”で受給できるお金のことを、失業手当(正確には基本手当)といいます。この失業手当は、現職を離れ、つぎの就職先が見つかるまでの期間の生活費を保障することを目的としています。
そのため、失業手当を受給するためには、離職するまでの2年間のうち通算12カ月以上、雇用保険に加入していなければなりません1)。失業手当を一度受給すると、雇用保険の加入期間がリセットされます。つまり、再度退職したあとに、もう一度失業手当を受給するには、改めて12カ月雇用保険に加入しなければなりません。
失業手当の給付日数は雇用保険の加入期間に応じて決まります。加入期間が長いほど給付日数が多くなり、受給できる金額も高くなります2)。
そのため、加入期間をリセットしたくない場合には受給を控えるほうがいいでしょう。なお、離職後1年以内に転職先の雇用保険に加入できれば、加入期間の引き継ぎが可能です。
失業保険で知っておくべき5つのポイント

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失業手当を受給する際に、押さえておきたいポイントは以下の5つです。
以下では、各ポイントを詳しく解説します。
①受給条件は働く意思や就職できる能力があること
失業手当を受給するには、働く意思や就職できる能力があることが条件です。以下のように、「働く意思や就職できる能力がない」人は、失業手当を受給できません。
〈表〉「働く意思や就職できる能力がない」人の例
・病気やケガですぐに就職できない人 ・妊娠や出産、育児によりすぐ就職できない人 ・退職後しばらくは休養したい、勉強に専念したい人 ・退職後は専業主婦になりたい人 |
詳細は後述しますが、働く意思や就職できる能力があることは、ハローワークでの求職活動をもって判断されます。なお、失業保険の受給条件についてもっと詳しく知りたい人は、以下の記事をご覧ください。
②受給できる期間は離職の翌日から1年間
失業手当を受給できる期間は、離職の翌日から1年間です。受給期間が満了すると、給付日数が残っていても、受給できない点に注意しましょう。
〈図〉失業手当を受給できる期間

特に自己都合退職で離職した人は、2カ月の給付制限期間があり、受給できるタイミングが遅くなります。特別な理由がない限りは、速やかに失業手当を申請しましょう。
なお、病気やケガ、出産などですぐに就職ができない人は、受給期間延長申請書を提出すれば最大4年まで受給期間を延長できます。受給期間を延長することで、就業できる状態になったあとに受給を開始しても、失業手当を満額で受給できます。
③受給期間中に再就職すると祝い金をもらえる場合がある

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失業手当の受給期間中に就職できた場合、祝い金がもらえる可能性があります。この祝い金は、正式には「再就職手当」といい、失業手当の受給期間を3分の1以上残して就職できた場合に受給可能です3)。
残りの受給期間が長いほど、再就職手当の受給額が高くなります。受給期間の3分の1を残して就職できれば、まだ受け取っていない支給総額の60%が一括で給付されます。なお、3分の2を残した場合の受給額は70%です。
せっかくなので、給付日数をすべて消化し、失業手当を満額もらいたいと思う人もいることでしょう。しかし、早く再就職した場合にもメリットはあるのです。
④自己都合の退職の場合、初回の給付が2カ月半後になる
「仕事が嫌になった」「新しい仕事に挑戦したい」などの理由で退職した場合は、自己都合による退職と見なされます。
この場合、失業手当の初回給付までに、ハローワークに申請してから「待機期間7日+給付制限期間2カ月」が設定されているので注意が必要です4)。実際に失業手当が支給されるのは、振り込みまでの期間なども含めて2カ月半程度かかることになります。
なお、倒産や解雇などの会社都合や、病気などやむを得ない理由で退職した人はこの限りではありません。この場合、給付制限期間はなく、7日間の待機期間が明けたあとに受給を開始できます5)。
また、失業手当の受給には回数制限がありません。ただし、何度も離職している場合は注意しましょう。1回目の離職日から5年間に3回以上自己都合による退職をしている場合、給付制限期間は3カ月になります6)。
⑤受給期間中にアルバイト・パートはできるが制限がある
失業手当を受給中でもアルバイト・パートはできますが、以下の3つの条件を満たさなければなりません。
〈表〉失業手当の受給中にアルバイト・パートが認められる条件
・待機期間を終えている ・失業認定申告書にアルバイト・パートをした旨を必ず申告する ・雇用保険の加入条件を満たさない範囲で働いている7) (1週間の所定労働時間が20時間未満、同一の事業主に31日以上雇用されることが見込まれない) |
特に3つ目の就業時間をオーバーすると、「就職している」とみなされ、失業手当を受給できません。内職や手伝いでも、労働で賃金が発生すれば申告の対象となります。また、無申告でアルバイト・パートを行うとペナルティーを課せられるため、必ずハローワークへ申告しましょう。
失業保険の申請方法と受給までの流れ

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失業手当の申請方法や受給までの流れを紹介します。まずは手続きに必要なものを確認しましょう。
失業保険の受給手続きに必要なもの
失業手当の申請を行う際、ハローワークに持っていく必要があるものは以下のとおりです。
〈表〉失業手当の受給手続きに必要なものリスト8)
・雇用保険被保険者離職票 ・個人番号確認書類(マイナンバーカード、通知カード、住民票) ・身元確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など) ・証明写真2枚(縦3.0cm×横2.5cm) ・印鑑(シャチハタNG) ・本人名義の預金通帳またはキャッシュカード |
申請から受給までの流れ
必要な書類を準備できたら、失業手当を受給するための手続きをしましょう。
〈図〉申請から受給までの流れ

①離職票を受け取る
まずは、退職した会社から離職票を受け取りましょう。大抵の場合は、事前に離職票が欲しい旨を伝えておけば、退職から2週間程度で郵送されます。しかし、会社によっては発行に時間がかかるので、なるべく早めに手続きをお願いするほうが得策です。
②ハローワークへ行く
離職票を受け取ることができたら、前述の失業手当の受給手続きに必要なものリストで紹介したものを持ってハローワークに行きましょう。雇用保険被保険者証、離職票をもとにハローワークで条件を満たしていることが判断され、受給資格が決定されます。また、この時に初回の説明会の日程と会場も決まります(説明会については④で説明します)。
③待機する(7日 or 7日+2カ月間)
受給資格の決定から初回説明会までの間には、待機期間が7日間9)あります。この期間は、失業状態の確認を行うことが趣旨となります。
つまり待機期間は、アルバイトであっても就業活動を行うことができません。もしアルバイトをした場合は、その日数分が待機期間として延長されます。
なお、待機期間中に求職活動をすることは可能ですが、この期間中は求職活動の実績としてカウントされないので注意してください。
会社都合で退職した場合は待機期間7日間、自己都合で退職した場合は、待機期間7日間+給付制限期間2カ月が設定されています。給付制限期間中は、失業手当が受給できないため覚えておきましょう。
ただし、給付制限期間中のアルバイトは可能です7)。注意点としては、雇用保険加入条件を満たす「1週間の所定労働時間が20時間以上」「同一の事業主に31日以上雇用されることが見込まれる」アルバイトの場合は就職と判断され、失業手当が受給できなくなります。
④受給説明会に参加する
②で示した初回の説明会に参加します。初回の説明会では、失業手当の受給やハローワークの使い方などについて詳しい説明が行われます。雇用保険受給資格者のしおりなど、最初にハローワークへ行った際に説明された必要な持ちものを持参しましょう。説明会に参加すると、「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」の2種類の書類が配布されます。
⑤求職活動をする
ハローワークの窓口で職業相談や職業紹介を受けるなど、求職活動をスタートさせます。失業手当はつぎの職を探す人に給付されるものであるため、28日間ごとに失業状態であることを認めるための認定日が設定されています。基本的には、この28日間で最低でも2回以上は求職活動をする必要があります10)。なお、求職活動として認められる活動は以下のようなものです。
- 求人への応募
- 職業相談やセミナーへの参加
- 国家試験や資格試験の受験
認定日は、②の受給資格の決定から28日後に初回認定日が設定され、その後28日間ごとにつぎの認定日が設定されます。ただし、自己都合退職で給付制限期間がある場合には、給付制限期間明けの認定日が2回目の認定日となります。
会社都合退職の場合、初回の認定日までの期間に1回以上求職活動をする必要がありますが、初回の受給説明会が求職活動1回としてカウントされるため、加えて求職活動を行う必要はありません。2回目以降から28日間ごとに2回以上求職活動をしましょう。
〈図〉会社都合退職の場合の求職活動スケジュール例

自己都合退職の場合は、2回目の認定日までに合計で3回以上求職活動を行う必要があります。ただし、会社都合退職と同じく初回の受給説明会が求職活動1回としてカウントされるため、実際に必要な求職活動は2回となります。
〈図〉自己都合退職の場合の求職活動スケジュール例

⑥失業の認定を受ける
失業手当の給付を受けるためには、前述のように原則として28日間に1度、失業の認定を受ける必要があります。「失業認定申告書」に求職活動の状況などを記入し、「雇用保険受給資格者証」とともに、指定された認定日にハローワークに行って提出しましょう。
認定日にハローワークに行かないと、対象期間中の失業手当を受給できなくなってしまいます。もし急用などで行けなくなった場合には、あらかじめその旨を担当の窓口に連絡して、指示を仰ぎましょう。
⑦失業手当が口座に振り込まれる
失業が認定されたら、約1週間後に28日分の失業手当が振り込まれます。なお、退職理由によって初回の受給日が異なります。自己都合による退職の場合は7日間の待機期間に加え、2カ月間の給付制限が設けられるので、初回の失業手当は約2カ月半後です。一方で、会社都合による退職の場合は、待機期間が終了した直後から受給を開始できます4)。
失業手当の所定給付日数をすべて消化するまで、求職活動と失業認定、失業手当の受給を繰り返します。
注意点として、以下のような不正受給をすると、ペナルティーが課せられます。
- 求職活動の実績について虚偽の申請をする
- アルバイトなどをしていたことを隠す
- 就職や自営を開始したことを申告しない
給付が停止されるだけでなく、失業手当の返還や不正に受給した金額の2倍の納付が命じられます11)。
手当を受給できる期間は、原則離職日の翌日から最長1年間です。失業の認定と受給を繰り返しながら、自身に合ったつぎの職業を見つけましょう。
参考資料
失業保険の金額の計算方法を3ステップで解説

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失業手当の金額を知ることができれば、今後の支出計画を立てやすくなります。自分が受給できる失業手当の金額は、以下の3ステップで求められます。
以下では、各ステップを解説します。
①賃金日額を計算する
失業手当の金額を計算するには、まず基準となる賃金日額を計算しましょう。賃金日額は「退職する前の6カ月分の賃金額合計(賞与は除く)÷ 180日」で計算できます。
離職する半年前の給与が反映されるため、その間に欠勤や早退があった場合、もらえる金額が少なくなることには注意しましょう。
②基本手当日額を計算する
賃金日額を求めたら、基本手当日額を計算します。基本手当日額は、「賃金日額 × 給付率」で求められます。
なお、この給付率は、賃金日額が低い人のほうが高くなります。これは生活できる水準を考えて設定されており、低所得の人ほど手厚いサポートが受けられるようにするしくみのためです。賃金日額と給付率の関係は以下のとおりです。
〈表〉賃金日額と給付率の関係表12)
賃金日額 | ||||
---|---|---|---|---|
30歳未満 | 13,670円超 | 12,380円超 13,670円以下 | 5,030円以上 12,380円以下 | 2,657円以上 5,030円未満 |
30歳以上 45歳未満 | 15,190円超 | 12,380円超 15,190円以下 | ||
45歳以上 60歳未満 | 16,710円超 | 12,380円超 16,710円以下 | ||
60歳以上 65歳未満 | 15,950円超 | 11,120円超 15,950円以下 | 5,030円以上 11,120円未満 | |
給付率 | 上限額 | 50% ※60~65歳は45% | 50~80% ※60~65歳は45~80% | 80% |
また、基本手当日額は年齢区分ごとの上限額が定められており、現在は以下のとおりです。
〈表〉年齢別基本手当日額の上限1)
年齢 | 上限額 |
---|---|
30歳未満 | 6,835円 |
30歳以上45歳未満 | 7,595円 |
45歳以上60歳未満 | 8,355円 |
60歳以上65歳未満 | 7,177円 |
参考資料
③給付日数から支給総額を計算する

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支給総額は「基本手当日額 × 所定給付日数」で算出できます。所定給付日数は退職理由によって異なります。以下の表にまとめたので、ご覧ください。
〈表〉自己都合退職の場合の所定給付日数2)
離職時の年齢 | 被保険者期間 | ||
---|---|---|---|
1年以上※ 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 | |
65歳未満の場合 | 90日 | 120日 | 150日 |
〈表〉会社都合退職の場合の所定給付日数2)
離職時の年齢 | 被保険者期間 | ||||
---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 1年以上 5年未満 | 5年以上 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 | |
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | – |
30歳以上 35 歳未満 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
35歳以上 45歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
45歳以上 60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
60歳以上 65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
失業保険はよく考えて申請しよう

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失業手当は一度受給すると、雇用保険の加入期間がリセットされます。加入している期間が長いほど受給額は高くなる傾向にあるため、加入期間を引き継ぎたい人は申請しないことも1つの手段です。
一方で再就職に時間がかかりそうな時は、早めに失業手当を申請することがおすすめです。申請が遅れると、手当を満額受け取れない可能性があります。失業手当をしっかり活用するために、この記事を参考に、しくみをよく理解しましょう。