多くの人が認める特徴的な容姿や、卓越した身体能力で人気を得ている、タレントやスポーツ選手たち。それだけに彼らにとっての「もしも」は、私たち一般人と事情が異なるケースも多々あるようです。その「もしも」に備える対策の一例が、皆さんも芸能ニュースなどで見かけたことがあるかもしれない、いわゆる「ボディパーツ保険」です。

脚、腕、瞳、胸など、身体の一部に対し高額な保険をかけ、活動に支障をきたすような「もしも」に備えるということですが、一般に民間で販売されている商品の中で「ボディパーツ保険」に相当するものを見かけたことがある人は、おそらくいないのではないでしょうか?

はたして、私たちのような一般人も利用することができるものなのでしょうか。今回は、「ボディパーツ保険」について調べてみました。


腹筋に1億円のケースも! 世界のボディパーツ保険事情

まずは、過去に報道された「ボディパーツ保険」関連の話題をまとめておきましょう。世界的ファッション誌『VOUGE』のウェブサイトによれば、以下のセレブたちがボディパーツ保険の契約をしたとされています。

名前部位保険金額
テイラー・スウィフト(歌手)4,000万ドル
マドンナ(歌手)2億ドル
ダニエル・クレイグ(俳優)全身950万ドル
アメリカ・フェレーラ(女優)顔(笑顔)1,000万ドル

また、スポーツ界ではR・マドリー(スペイン)で活躍した名FW、クリスティアーノ・ロナウドの両足に9,000万ポンドの保険がかけられたことも知られています。

とはいえニュースでは、対象となる身体の部位や保険金額はわかるものの、どのような保険商品なのかについては明記されていないケースがほとんど。いったい、「ボディパーツ保険」とは、どのようなものなのでしょうか? 保険のしくみに詳しいマネーコンサルタントの頼藤太希さんに聞いてみました。

お話を聞いた人

頼藤太希さん

Money&You代表取締役/マネーコンサルタント。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。女性向けWebメディア『FP Cafe』や『Mocha(モカ)』を運営すると同時に、マネーコンサルタントとして、資産運用・税金・Fintech・キャッシュレスなどに関する執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。『投資信託勝ちたいならこの7本!』(河出書房新社)、『入門 仮想通貨のしくみ』(日本実業出版社)など著書多数。日本証券アナリスト協会検定会員、ファイナンシャルプランナー(AFP)、日本アクチュアリー会研究会員。
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傷害保険の“特約”としてなら、契約できる可能性もありそう?

その詳細が不明なため、実在しないのでは? という疑惑も出る「ボディパーツ保険」。頼藤さんも、ボディパーツ“だけ”に特化した保険商品の存在を確認していない、といいます。

「傷害保険に似ているようにもみえますが、ケガによるリスクに備える傷害保険は『自分では避けられない事故による損害』を補償してくれる商品であり、補償範囲が特定部位に限定されるものではありません。逆にいえば、一般人の場合は通常の傷害保険に加入するだけで十分ともいえるわけですね」

言われてみれば、確かにその通り。では、なぜタレントやスポーツ選手たちは、身体の特定部位に保険をかけたいと考えるのでしょうか。

「仮にそのような保険が成立するならば、考えられるのは保険に加入する人のビジネスにとって、対象となる部位が特に重要であることが、保険会社に認められた場合でしょう。たとえばプロサッカー選手の場合、脚が使えなくなってしまえば、選手としての価値が下がり、収入に大きな影響が出てしまいます。その際に想定される損害額が、通常の傷害保険でカバーできない可能性があるため、『ボディパーツ保険』へのニーズが生まれてくるのではないでしょうか」

画像: 傷害保険の“特約”としてなら、契約できる可能性もありそう?

こういった背景があるため、「ボディパーツ保険」の保険料は、かなり高額になるはず、とも。

「そもそも保険という制度は、同じリスクを抱える人たちが互いに支えあうことで万が一に備える『相互扶助』の考え方に基づいています。その前提でいえば、世界的なプロサッカー選手とビジネス面で同様のリスクを抱えている人は、ごくわずか。同じリスクを抱えている人の数が少なく、一方でそのリスクに見合う補償額が莫大になるのであれば、当然、支払うべき保険料も、それに見合う金額でなければ、保険商品として成立しない(収支相等の原則)と考えられるわけですね」

備えるリスクが特殊な分、契約料は高額になるはず

要するに、仮に「ボディパーツ保険」に加入できたとしても、ニュースになっているような高額の保険金を受け取るためには、それに近いくらい高額の保険料を支払う必要がある、ということ。

「著名人のケースでは、保険金を高額にすることで、一種の宣伝効果も期待しているのではと思われます。宣伝費込みと考えれば、高額な保険料でも支払う価値があるのかもしれませんね」

逆に言えば、そこまで高額の補償を求める必要もなく、保険に入ったことによる宣伝効果も不要な一般人にとっては、やはり通常の傷害保険で十分というわけなのかも。

画像: 備えるリスクが特殊な分、契約料は高額になるはず

「ちなみに、そもそも保険は『自分では避けられない事故による損害』を補償の対象とするのが大原則です。つまり、『ボディパーツ保険』に加入できたとしても、運動不足で自慢の脚力や腹筋の形が悪くなってしまったのだとしたら、保険金は支払われないでしょう」

ならば、ますます「ボディパーツ保険」は、我々にとって縁遠い存在なのかもしれませんね……。

イラスト/石井あかね

この記事の著者

石井敏郎

いしいとしろう。フリーランスの編集者・ライター。神奈川県横浜市出身。格闘技からITまで、幅広いジャンルの記事制作に関わっている。

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