この記事では、そんな誰もがかかる可能性のある熱中症に関して、症状や対処法、何日で治るのか、翌日の過ごし方、そして予防法など、済生会横浜市東部病院 患者支援センター長の谷口英喜先生監修のもと解説します。いざという時のために、ぜひ参考にしてください。
※この記事は2021年6月24日に公開した内容を最新情報に更新しています。
この記事の監修者
谷口 英喜(たにぐち ひでき)
医師。済生会横浜市東部病院 患者支援センター長兼栄養部部長。
1991年、福島県立医科大学医学部を卒業。専門は麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理など。著書に『はじめてとりくむ水電解質管理』『いのちを守る水分補給:熱中症・脱水症はこうして防ぐ』など。
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熱中症ってどんな病気?
そもそも熱中症とは、どのような病気なのでしょうか。改めて、症状や原因を把握しておきましょう。
熱中症が起こるメカニズム
熱中症は、炎天下でのみ発症するとは限りません。気温や湿度の上昇といった体の外側で起こる要素(外的因子)と、運動による体温の上昇といった体の内側で起こる要素(内的因子)の2つが体に影響を与えることで、体温が上昇し、熱中症を引き起こしてしまうのです
〈図〉熱中症の外的因子と内的因子
人間には通常、上の図のような「外的因子」「内的因子」によって体温が上がる状況に置かれた時に、汗をかいたり、皮膚表面から空気中に熱を逃がしたりすることで体温が上がりすぎないように調節する機能が備わっています。うまく調節できていれば、体温を36~37度に保てるため熱中症にはなりません。
しかし、そういった状況に置かれた時に、水と塩分の補給、暑い場所(※)からの避難ができないと、体温が上がり、大量の汗をかき、体内の水や塩分が減ってしまいます。そうすると脱水症状が起こってしまい、汗をかけなくなり、さらに体温が上がる…というループに陥ってしまうのです。
※:以下、「暑い場所」は熱中症の外的因子がある場所のことを指します
熱中症の症状をチェックシートで確認!
熱中症の症状は、自覚して対処できる軽度のものから意識を失ってしまうような重度のものまで様々です。
以下のような症状が見られる場合には、熱中症の可能性があります。後述する対処法を参考に、適切な処置を心がけましょう。
〈熱中症チェックシート〉
□めまいや立ちくらみがある
□手足がしびれる、体の一部がつる
□吐き気がある、嘔吐した
□頭痛がある
□体がだるい
□体が熱い、発熱がある
□けいれんしている
□意識がはっきりしていない
□蒸し暑いところにいた
□唇の周りがヒリヒリする
□筋肉や関節が痛い
年齢や持病によっては、上記以外の症状が見られることもあります。少しでもおかしいと感じた際には、病院を受診するようにしましょう。
熱中症の症状は3段階に分けられる
熱中症の症状は、重症度によって3つの段階(Ⅰ度、Ⅱ度、Ⅲ度)に分類されています。
めまいや立ちくらみ、そしてこむら返りなどの症状はⅠ度に分類され、熱中症の初期症状として見られます。Ⅰ度では、発熱がないことがほとんどです。Ⅰ度の症状に加え、頭痛や吐き気、嘔吐、倦怠感などがある場合にはⅡ度に分類され、発熱が見られるようになります。そして、40度近い高熱や意識障害、けいれんなどの症状がある場合にはⅢ度に分類され、緊急性の高い状態です。
〈表〉熱中症の重症度分類
分類 | 重症度 | 症状 |
---|---|---|
Ⅰ度 | 軽度 脱水症がメイン(熱は出ない) | ・脳の水分が不足する (めまい、立ちくらみ) ・消化器の水分が不足する (食欲低下、吐き気、腹痛) ・筋肉の水分が不足する (こむら返り、筋肉がつる、痛い) |
Ⅱ度 | 中等度 高体温がメイン(熱が出る) | Ⅰ度の症状に加え ・脳に行く血液が熱くなる (頭痛、吐き気、嘔吐) ・全身への血液が熱くなる (全身倦怠感、疲れ) |
Ⅲ度 | 重度 | ・異常高体温(40度近い) ・意識障害、けいれん、血圧低下 ・多臓器不全 |
重症度分類される理由は、症状ごとの対処を明確にするためです。Ⅰ度、あるいはⅡ度のうち軽い症状であれば家庭や学校、職場などでも対処できますが、Ⅱ度のうち重い症状が出ていればすぐに病院へ行く必要があります。また、Ⅲ度の症状が出た場合には救急車を呼んで対処しなければなりません。
もし周囲の人が熱中症になってしまったら、症状を見て重症度を判断し、適切な対応を取るようにしましょう。
熱中症は何日で治る?
誰もがかかる可能性のある熱中症ですが、きちんと対処すれば改善が見込める場合も多いです。
大人の場合、重度の熱中症でなければ適切な対処で24時間程度で回復する
自分で対処ができるⅠ度〜Ⅱ度の軽い熱中症の場合、健康な大人であれば適切な対処を行うことで、長くても24時間程度で回復するでしょう。水分・栄養補給をして十分な休養を取ることが大切です。
Ⅱ度の重い症状やⅢ度の熱中症の場合は、そのケースにより回復にかかる時間は異なります。速やかに病院を受診し、指示に従いましょう。
なお、幼い子どもや高齢者、持病がある人の場合には、より長引く可能性もあります。24時間はあくまで目安として考えましょう。
症状が継続する場合は熱中症以外の可能性あり
もし、1日以上経っても症状が改善しない場合は、熱中症以外の疾患を疑う必要が出てきます。
炎天下での活動中に起きた体調不良を熱中症と自己判断したものの、症状が長引き、病院で診てもらったら脳梗塞だった…というケースもあります。24時間経過しても症状が続く場合は、早めに病院を受診しましょう。
熱中症になった場合の対処法
熱中症への対処方法は、重症度によって異なります。Ⅰ度やⅡ度の軽い症状の場合は以下の対処法を自分や周囲の人が行うことで回復が見込めます。一方で、Ⅱ度の重い症状が出ている場合は病院へ行く手配、Ⅲ度の場合はすぐに救急車を呼ぶ必要があります。
①涼しい場所に移動する
熱中症を悪化させないために、まずは暑い場所から避難し、涼しい場所に移動しましょう。できれば風通しのいい日陰や、クーラーが効いた室内がいいでしょう。
②水と塩分を補給する
熱中症では、脱水症状と塩分不足が起きています。そのため、素早くこれらを補給することが大切です。熱中症の際、水と塩分の補給に最も適した飲み物は、経口補水液です。飲んでから10分程度で体内に吸収されるため、回復を早めることができます。経口補水液がない場合は、スポーツドリンクがいいでしょう。とにかく早く飲むことが大切です。
逆に、熱中症になった場合に、飲まないほうがいいものは「アルコールを含む飲み物」「コーヒーや緑茶など、カフェインを含む飲み物」「牛乳」です。カフェインの利尿作用は脱水を促すだけでなく、交感神経を刺激して脈拍や血圧を上げるため、症状を悪化させる危険性があります。牛乳は、含まれているたんぱく質に体温を上げる作用があるためNGです。
〈図〉熱中症になってから飲まないほうがいい飲み物
③体を冷やす
体の熱を逃すために、服をゆるめて通気性をよくしましょう。また、氷枕や保冷剤を首筋やわき、足の付け根に当て、体を冷やしましょう。氷枕などがない場合は、肌に水をかけ団扇や扇風機で風を当てることも有効です。
病院の受診や救急車が必要なサイン
Ⅱ度の重い症状が出ている場合は急いで病院へ行く手配をし、Ⅲ度の症状が見られる場合はすぐに救急車を呼びましょう。車や救急車を待っている間に上記①〜③の対処法を行います。症状の見分けがつかない場合は、以下のサインでⅡ度の重い症状以上かどうかを判断するといいでしょう。
▼熱中症の症状が進んでいるサイン
- 新品のペットボトルのキャップを自分で開けることができない
- ペットボトルの飲み物を自分で飲むことができない(※)
※:もともと握力が弱い人は、ペットボトルの飲み物を自分で飲めるかどうかのみで判断
体温が異常に上昇すると、脳に影響が出て、体に力が入らなくなることがあります。上記のサインが出ている時は、体に力が入っていない証拠。このサインが見られたら、Ⅱ度の重い症状以上の熱中症になっている可能性が高いです。逆に、自分で飲み物を飲める状態であれば、焦って救急車を呼ばずに、まずは前述した「対処法」を行うといいでしょう。
また、糖尿病や腎臓の病気など持病を抱えている人が熱中症になった場合は、Ⅰ度の症状だったとしても、かかりつけの病院で診てもらいましょう。体温の異常な上昇によって、臓器に負荷がかかり、持病が悪化する危険性があるからです。
熱中症が重症化すると後遺症が残る場合も
熱中症の危険性は、一時的な体調不良だけではありません。Ⅱ度の重い症状以上の熱中症になると、熱によって臓器障害が起こり、熱中症から回復したあとも後遺症が出ることがあるのです。
特に中枢神経(脳)は、一度障害が起きてしまうと治らないことが多いといわれています。熱中症になったことで、記憶力や集中力の後遺症を一生背負うことになってしまったというケースも報告されています。
万が一熱中症になっても、Ⅰ度で食い止められるよう、素早く対処することが重要だといえるでしょう。
熱中症になった翌日は仕事や学校を休むべき?
熱中症になった直後の対処法は前述のとおりですが、熱中症になった日の翌日は、回復していれば仕事や学校を休む必要はありません。
I度やII度の軽い熱中症になってしまった翌日でも、ふらつきや食欲低下、吐き気といった症状がおさまっていれば、普段どおりに活動して問題ないといえます。判断の目安は、いつもと同じ程度の食事と水分補給ができているかどうかです。
体力が回復していれば、スポーツなどの激しい活動をしても大丈夫です。ただし、水と塩分の補給や適度な休憩といった熱中症対策を、欠かさないようにしましょう。
翌日になってもふらつく、食欲が湧かないといった場合は、熱中症が完全には回復していない証拠。状況によっては仕事や学校は休み、もう1日休養しながら様子を見ましょう。
熱中症は翌日に症状が出ることもある
熱中症は、暑い場所にいる時にだけ発症するとは限りません。暑い場所でスポーツや草むしりなどの活動をした翌日に症状が出る場合もあります。
暑い場所での活動から24時間程度は要注意
前述したように、熱中症は体内の水と塩分が減少し、体温調節ができなくなることで起こります。暑い場所での活動中や活動後に水と塩分を補給しないと、体温調節が十分にできない状態で過ごすことになり、その場では熱中症を発症していなくても、時間を空けて数時間後に熱中症になるということが起こりうるのです。
暑い場所で活動したあとでも、一晩眠れば大丈夫…と考えてしまう人は多いでしょう。しかし、睡眠を取っている間にじわじわと熱中症が進行する場合もあります。暑い場所にいた時から「24時間」が熱中症になる可能性がある目安と考え、油断せず熱中症の症状に警戒することが大切です。
また、夏場の体調不良の原因がじつは熱中症だったということもありえます。たとえば、熱中症の症状に腹痛があります。夏場だと、まずは食あたりや水の飲みすぎが原因と考えてしまいそうですが、前日に暑い場所で活動していて熱中症になっていた…というケースもあるのです。
夏場に体調不良を感じたら、過去24時間以内に暑い場所で活動しなかったかを振り返ってみてください。思い当たるなら熱中症の可能性があります。すぐに水と塩分を補給しましょう。特に子どもや高齢者は熱中症になりやすいので、家族や周りの人は要注意です。
翌日の熱中症を防ぐには、十分な休養と水分補給・栄養補給が重要
暑い場所での活動後、しっかりと水や食事を摂り、体を休ませることで、翌日の熱中症を回避できます。
体力が残っていたとしても、体を動かさずに休養することが大切です。人の体は少し動いただけでも体温が上昇するため、熱中症のリスクを上げることにつながってしまいます。
また、寝室の温度や湿度が高いと、寝ている間に熱中症を引き起こしてしまうことがあります。普段から気をつけるべきではありますが、暑い場所にいた日は特に、エアコンや扇風機を活用して寝室の温度や湿度を適切に保つことを意識しましょう。
熱中症の予防・対策方法
熱中症は、予防を心がけることで避けられる病気です。一年中危険性はありますが、特に夏場はしっかりと対策をして過ごしましょう。
基本的な予防法は、Ⅰ度の熱中症になった際の対処とほぼ同じと考えましょう。
①こまめな水分補給
まずは、こまめな水分補給を心がけましょう。喉が渇いたと感じる前に飲み物を飲むようにしてください。「30分に1回は水を飲む」など時間を決めて、その時間になったら必ず水分補給を行うのがいいでしょう。
意外に思われるかもしれませんが、熱中症予防のために水分として摂取する分には、コーヒーや緑茶などのカフェインが入った飲み物でも問題ありません(※)。コーヒーや緑茶を飲み慣れている人であれば、利尿作用による脱水もそこまで心配しなくていいでしょう。
※:あくまでも予防としての摂取が問題ないということなので、熱中症になってからは飲んではいけません
②適度な塩分補給
水と同じくらい、塩分の補給も大切です。大量の汗をかいているのに塩分を摂らずに水のみ補給をすると、血液中の塩分・ミネラル濃度が低くなりかえって熱中症の発症につながってしまう場合もあります。塩分の補給には、経口補水液やスポーツドリンク、塩分が含まれた飴・タブレットなどがおすすめです。ただし、高血圧の人は塩分を摂り過ぎると悪化する可能性があるため注意しましょう。
③暑さを避ける工夫をする
そもそも、気温や湿度の高い場所で激しい運動などの活動をすることは避けましょう。どうしてもそのような場所で活動をしなければいけない際は、涼しい室内や日陰での休憩を挟むことが大切です。また、日傘やハンディファン、クールネックリングなどの熱中症対策グッズも活用するといいでしょう。危険な環境に身を置かないことが、最も重要です。
「室内を涼しく保つ」「暑さ調整がしやすい衣服を着る」「暑さ指数が高い日は屋外で活動しない」など、快適に過ごそうとすることが熱中症予防につながります。
④快適な環境で睡眠を取る
意外と知られていませんが、熱中症は睡眠中に起こることも少なくありません。睡眠中は多くの汗をかく上に、前述したような熱中症の症状を自覚することが難しく、気づかないうちに悪化してしまうことが多いのです。
こうした睡眠中の熱中症を避けるためには、快適な環境で睡眠を取ることが大切です。エアコンを使い室温の上昇を防ぎ、湿度を下げるために除湿機もつけるといいでしょう。また、就寝前にコップ1杯の水を飲むように心がけましょう。
「自分は熱中症にならない」という油断は禁物!
熱中症は、健康な人でも発症する危険性のある病気です。一方で、しっかりと予防すれば、確実に回避できる病気でもあります。天気予報をチェックして暑い日は活動しない、こまめに水と塩分を補給するといったことを徹底するだけで、自分や家族の命を守れるのです。
「自分は熱中症にはならない」と油断せず、これからの暑い季節を乗り切りましょう。