この記事では、行政書士でファイナンシャルプランナーの河村修一さん監修のもと、葬儀費用の控除について解説。対象となる費用や注意点、計算方法などを紹介します。
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この記事の監修者
河村 修一(かわむら しゅういち)
ファイナンシャルプランナー・行政書士。CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、複数の保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験を活かし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。
葬儀費用は相続財産から控除できる
大切な家族が亡くなると、相続が発生します。被相続人(亡くなった人)の遺した財産によっては相続税を支払わなければならない場合もあります。相続税を算出する際は、被相続人の遺した遺産から差し引けるものがあります。その1つが葬儀費用です。
株式会社エス・エム・エスが2023年に実施した調査によると葬儀費用の平均は、97万4,844円です1)。相続税の算出にあたって、葬儀費用を差し引けば、それだけ税負担も軽くなります。
なお、葬儀費用が相続税の控除対象となる条件は以下のとおりです。
- 相続人:配偶者や子どもなどの親族
- 包括受遺者:故人の相続財産をすべて引き継ぐ個人・法人
上記に当てはまらない場合は、葬儀費用を負担しても控除の対象にはなりません。
なお詳しくは後述しますが、葬儀費用には相続財産から控除できるものと控除できないものがあります。
葬儀費用で所得税の控除は受けられない
葬儀費用の控除は、相続税申告で適用できるものです。確定申告の所得控除とは異なるため、所得税額が下がるわけではありません。
所得税額は確定申告で決定します。税額計算時には所得金額から一定額を差し引く所得控除を適用可能です。所得控除は以下の15種類で、葬儀費用の控除は含まれません2)。
〈表〉所得控除の種類
- 雑損控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 寄附金控除
- 障害者控除
- 寡婦控除
- ひとり親控除
- 勤労学生控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 基礎控除
なお、亡くなった人の医療費を代わりに負担していた場合は、医療費控除を適用できる場合があります。また、亡くなった人が医療費を自分で負担していた場合は、故人の所得金額を確定させて所得税を納める準確定申告で控除できる可能性もあります。医療費控除は、10万円か総所得金額の5%以上の医療費支出がある場合に適用できます3)。
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葬儀費用はどこまで控除できる?
葬儀費用は相続財産から控除可能ですが、すべての費用を差し引けるわけではありません。葬儀費用のうち、控除対象となる費用とならない費用を解説します。
控除の対象となる葬儀費用
控除対象となる葬儀費用は以下のとおりです4)。
〈表〉控除の対象となる葬儀費用
- 火葬・埋葬料
- 納骨費用
- 棺の費用
- 遺体や遺骨の回送費用
- 通夜や告別式の執行費用
- 通夜や告別式での飲食物費用
- 会葬返戻品
- お布施
- 読経料、戒名料
- 死体の捜索費用
- 死体や遺骨の運搬費用
たとえば、火葬や納骨、祭壇料などの葬式費用で90万円、通夜や告別式での飲食費用で25万円、寺院へのお布施などで30万円かかったとしましょう。これらの費用も控除対象となるため、合計で145万円が相続財産から控除できます。
参考資料
控除の対象とならない葬儀費用
控除の対象とならない葬儀費用は以下のとおりです4)。
- 香典返しの費用
- 墓石や墓地の購入費用
- 墓地の賃借費用
- 初七日や法事にかかった費用
香典は故人ではなく遺族に対して渡されるものです。そのため、香典に対するお返しも葬儀費用とはみなされず控除の対象外です。ただし、参列者全員へのお返しとして渡される「会葬返戻品」は、原則、葬儀費用として認められます。
墓地や墓石の購入費用など、葬儀に直接関係ない費用は控除対象となりません。また、法事費用も控除の対象ではありません。葬儀は故人との別れの儀式ですが、法要は故人の供養をする儀式です。それぞれ趣旨が異なるため、葬儀費用とは認められません。ただし、初七日法要を繰り上げて告別式後にすぐ執り行った場合は、葬儀費用に含まれる場合もあります。
葬儀費用を相続財産から控除する時の注意点
葬儀費用を控除する際は、以下の2点に注意しましょう。
それぞれ詳しく解説します。
領収書などを保管しておく
相続税申告では、確定申告と同じように葬儀に支払った費用の内訳がわかる書類が必要です。たとえば、領収書などがあると葬儀費用を支払ったことを証明でき、支払金額の内訳を明らかにできます。もし領収書などの葬儀費用を証明できるものがない場合、控除が認められないこともあります。
ただし、お寺のお布施代については領収書がもらえない場合もあります。領収書のもらえないお寺のお布施代については、支払日や支払先、金額、支払内容をメモに残しておき、葬儀会社の領収書と併せて保管しておきましょう。
費用を負担しても控除できない場合がある
葬儀費用の控除は、以下に当てはまる場合に費用を負担しても、控除が適用されません。
- 特定受遺者:財産のうち特定のもののみ譲り受ける人
- 制限納税義務者:財産を引き継いだ時点で日本国内に住所のない納税者
控除を使って相続税を抑えたい場合は、喪主(※1)や施主(※2)といった相続人が葬儀費用を支払って、相続税申告をするといいでしょう。葬儀費用を複数人で分担して支払う場合は、負担者全員が葬儀費用の控除を受けられます。
※1:遺族を代表して葬儀を催す人。現在は費用負担含め葬儀全体を管理する役割が多い。
※2:本来はお布施など葬儀費用を負担する人。現在は喪主のサポートをする役割。喪主が施主を兼ねるケースが多い。
葬儀費用の控除を用いて相続税を計算する方法
相続税を計算する際は、「本来の相続財産」や「みなし相続財産」「生前に受けた贈与財産」を含めて計算します5)。また、お墓や仏壇の費用、自治体などへの寄付金といった非課税財産は相続財産には含まれません。葬儀費用についても、財産から控除して税額を計算します。
具体的な条件を例に、相続税を試算してみましょう。計算の手順は以下のとおりです。
この記事では、以下の条件で計算します。
- 遺産総額=相続財産:6,000万円
- 葬儀費用:200万円
- 法定相続人:配偶者と子ども2人
参考資料
STEP1.遺産総額から葬儀費用・非課税財産・債務を差し引く
はじめに、遺産総額から葬儀費用や非課税財産額、債務を差し引きます。上記の条件では葬儀費用のみが控除対象のため、計算は以下のとおりです5)。
遺産総額−葬儀費用=控除後遺産総額
6,000万円−200万円=5,800万円
STEP2.基礎控除を差し引いて課税遺産総額を算出する
つぎに、基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を算出します。基礎控除は誰でも適用される制度です。控除後遺産総額から「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を差し引けます。計算は以下のとおりです6)。
基礎控除額
3,000万円+600万円×3人(配偶者+子ども2人)=4,800万円
控除後遺産総額−基礎控除額=課税遺産総額
5,800万円−4,800万円=1,000万円
STEP3.相続税額を算出する
課税される遺産総額が算出できたら、法定相続分で分割したものと想定して、相続税額を計算します。法定相続分とは、法律に基づいて分けられる遺産の割合です。配偶者と子どもの法定相続分(民法に定める相続人が2人以上いる場合の各人の相続割合)は、以下のとおりです6)。
- 配偶者の相続分:課税遺産総額の1/2
- 子ども(1人目)の相続分:課税遺産総額の1/4
- 子ども(2人目)の相続分:課税遺産総額の1/4
これに基づくと、法定相続分に基づく各人の取得額は以下のとおり配分されます。
- 配偶者:1,000万円×1/2=500万円
- 子ども(1人目):1,000万円×1/4=250万円
- 子ども(2人目):1,000万円×1/4=250万円
配分される金額が算出できたため、税率をかけて相続税を求めます。相続税率は、以下の表で確認しましょう7)。
〈表〉相続税率の一覧表
課税される遺産総額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | ── |
1,000万円超〜3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超〜5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超〜1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超〜2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超〜3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超〜6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
上記の表をもとに、配偶者と子どもの相続税を計算すると、以下のとおりになります。
- 配偶者:500万円×10%=50万円
- 子ども(1人目):250万円×10%=25万円
- 子ども(2人目):250万円×10%=25万円
配偶者と子どもに、合計100万円の相続税がかかります。
なお、実際に相続する遺産額は課税遺産総額のほかに債務や非課税財産も含みます。上記のように算出した相続税を課税遺産総額から差し引いた上で、課税されない財産や債務を足すと自身の遺産額がわかります。
今回の試算では、葬儀費用の控除がなければ相続税の総額が20万円増加していました。葬儀費用を控除できたおかげで、相続税額を下げることができたのです。
参考資料
葬儀費用の控除に関するよくある質問
葬儀費用の控除に関する質問や疑問をまとめました。
Q1.確定申告で葬儀費用の控除は使える?
確定申告では、葬儀費用の控除はできません。葬儀費用を控除できるのは相続税額を決定する相続税申告です。確定申告は所得税額を決定する手続きであり、相続税申告とは異なります。
なお、故人の医療費を代わりに負担していた人は、確定申告で医療費控除を適用できる場合がありますので、病院で受け取った領収書は、大事に保管しておきましょう。
Q2.交通費などは葬儀費用の控除対象になる?
交通費は一部費用のみ葬儀費用の控除対象になります。控除の対象となるのは、宗教者(※)などを呼ぶための交通費です。お坊さんが葬儀場までタクシーで来る時などの費用を負担した場合は、必要経費として葬儀費用に含めることができます。
一方、葬儀に参列するために来た親族の飛行機代や電車代は、葬儀とは直接関係のない費用とみなされます。そのため、控除対象にはなりません。
※:寺院の僧侶・神道の斎主・キリスト教の神父・牧師など。
Q3.葬儀費用は年末調整の対象になる?
年末調整は所得税の過不足を調整するものです。葬儀費用を申告しても、対象費用としては認められません。
葬儀費用は年末調整や確定申告ではなく、相続税申告で控除できるものと覚えておきましょう。
Q4.位牌は葬儀費用の控除対象になる?
位牌は仏壇に祀るものであり、葬儀と直接的な関係はありません。そのため、控除の対象外です。
ただし、葬儀の際に用いられる仮位牌(白木位牌)の費用は控除されることがあります。
Q5.香典返しは葬儀費用の控除対象になる?
香典返しは葬儀費用の控除対象ではありません。相続税法の解釈や取り扱いをまとめた規定である「相続税法基本通達」に、香典返礼費用は葬儀費用として扱わない旨が記載されています8)。
ただし、同じく参列者への返礼品として渡す会葬返戻品は、原則、葬儀費用として認められます。
参考資料
葬儀費用の控除で相続税の負担を最小限に
多額の遺産がある場合は、葬儀費用や非課税財産の金額によって相続税額が変わります。相続税額が変われば、手元に残る遺産額にも影響があることでしょう。適切に葬儀費用の控除を受けて、相続税の負担を減らしましょう。