個人の所得にかかる所得税は、年金に対してもかかります。しかし、年金の雑所得の算出には、公的年金等控除という制度が設けられています。公的年金等控除によって、年金に対して所得税がかからないケースもあります。

この記事では、ファイナンシャルプランナーの藤井亜也さん監修のもと、控除内容や計算方法について解説。また、確定申告の必要な場合についても紹介します。

※:この記事では、年金に対する税金計算の部分では「年金収入金額」、それ以外の場面では「年金受給額」と使い分けています。どちらも同じ意味と捉えていただいて問題ありません。

この記事の監修者

藤井 亜也(ふじい あや)

株式会社COCO PLAN 代表取締役社長。ファイナンシャルプランナー(CFP、FP1級)。独立系ファイナンシャルプランナーとして20代~90代と幅広い年代のお客様の相談に対応。一人一人に心を込めて最適なプランを提案し、多くのお客様のライフプランを実現。個別相談だけでなく、マネーセミナー、執筆・監修など幅広く活動中。著書に『今からはじめる理想のセカンドライフを叶えるお金の作り方』(三恵社)がある。ラジオ番組『未来のためのお金のハナシ』(FM川口)毎週月曜16時から放送中。

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公的年金には税金がかかる

公的年金の受け取り時には、所得税や住民税がかかります。65歳になると受け取れる老齢年金は、雑所得に該当します1)。そのため、年金受給額に応じて所得税が発生するのです。また、2037年までは所得税と合わせて復興特別所得税が課税されます2)

ただし、年金の雑所得が一定額以下であれば、税金はかかりません。

また、所得金額に応じて住民税もかかります3)。住民税は所得金額に応じて負担額が変わる「所得割」と、所得金額にかかわらず一定額を負担する「均等割」で構成される税金です。年金額によっては均等割のみかかる場合と、所得割・均等割どちらもかかる場合があります。課税要件や税率は自治体ごとに異なるため、詳しくはお住まいの市区町村の窓口に問い合わせてみましょう。

なお、年金にかかる税金について以下の記事で詳しく解説しています。興味のある人は確認してみてください。

【関連記事】公的年金にかかる税金について、詳しくはコチラ

公的年金等控除とは?

画像: 公的年金等控除とは?

公的年金等控除とは、公的年金に課せられる税金に対する控除のことです。公的年金の課税所得額は、年金収入金額から公的年金等控除額を差し引いて計算します。会社員の給与に課せられる所得税の負担を軽減するための給与所得控除と同様に、公的年金等控除によって年金にかかる所得税負担が軽減されます

公的年金等控除は受給者全員が対象です。これと併せて、配偶者控除や扶養控除など該当する各種控除が受けられます。

公的年金等控除額とは、雑所得を算出するために差し引く金額のこと

公的年金等控除額とは、年間の公的年金の雑所得を算出するために差し引く金額のことです。年金収入金額から公的年金等控除額を引くことで、公的年金の雑所得を算出できます。

控除される金額は、年金受給額によって変わります。計算時は以下の表を参考にしてください。

〈表〉公的年金等控除額の一覧表

受取人の年齢公的年金の収入金額の合計公的年金等控除額
65歳未満130万円以下60万円
130万円超〜410万円未満年金収入金額×0.25+27万5,000円
410万円以上〜770万円未満年金収入金額×0.15+68万5,000円
770万円以上〜1,000万円未満年金収入金額×0.05+145万5,000円
1,000万円以上195万5,000円
65歳以上330万円以下110万円
330万円超〜410万円未満年金収入金額×0.25+27万5,000円
410万円以上〜770万円未満年金収入金額×0.15+68万5,000円
770万円以上〜1,000万円未満年金収入金額×0.05+145万5,000円
1,000万円以上195万5,000円
※年金以外の所得が1,000万円以下の場合。年金以外の所得が1,000万円超〜2,000万円、2,000万円超の場合は計算方法が異なる

なお、年金収入金額から雑所得を直接算出できる計算式もあります。年金収入金額から公的年金等控除額を差し引く計算は複雑なため、手間をかけたくない人は以下の式を用いて計算してください4)

〈表〉所得が年金のみまたは年金以外の所得が1,000万円以下のケース

受取人の年齢公的年金の収入金額の合計雑所得の算出方法
65歳未満60万円以下0円
60万円超〜130万円未満年金収入金額−60万円
130万円以上〜410万円未満年金収入金額×0.75−27万5,000円
410万円以上〜770万円未満年金収入金額×0.85−68万5,000円
770万円以上〜1,000万円未満年金収入金額×0.95−145万5,000円
1,000万円以上年金収入金額−195万5,000円
65歳以上110万円以下0円
110万円超〜330万円未満年金収入金額−110万円
330万円以上〜410万円未満年金収入金額×0.75−27万5,000円
410万円以上〜770万円未満年金収入金額×0.85−68万5,000円
770万円以上〜1,000万円未満年金収入金額×0.95−145万5,000円
1,000万円以上年金収入金額−195万5,000円
※年金以外の所得が1,000万円以下の場合。年金以外の所得が1,000万円超〜2,000万円、2,000万円超の場合は計算方法が異なる

計算の結果、所得金額が0やマイナスの数字になった場合、所得税は課税されません。

公的年金や企業年金が控除の対象

年金収入金額から一定額を差し引ける公的年金等控除ですが、控除の対象となる年金と対象外の年金があります。公的年金等控除の対象となる年金は以下のとおりです。

  • 老齢基礎年金
  • 老齢厚生年金
  • 確定給付企業年金(DB)
  • 企業型確定拠出年金(DC)
  • 個人型確定拠出年金(iDeCo)

公的年金等控除が適用されるのは国民年金、厚生年金の老齢年金や、確定給付企業年金、確定拠出企業年金などの企業年金です。

一方、生命保険や生命共済で受け取る年金、互助年金などは私的年金に分類されるため、公的年金等控除の対象外です。たとえば、個人年金保険の契約で受け取っている年金は、公的年金とはみなされず、公的年金等控除は適用できません。

公的年金等に対する源泉徴収の控除種類と控除額

画像: 画像:iStock.com/Khanchit Khirisutchalual

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公的年金等にかかる所得税は、源泉徴収されます。年金の源泉徴収税は、社会保険料も考慮して計算します。計算式は以下のとおりです。

源泉徴収税額=
(年金収入金額−社会保険料−各種控除額)×5.105%

源泉徴収税を求める際は控除が適用されます。この時適用されるのは前述の公的年金等控除ではなく、以下の各種控除です5)

〈表〉公的年金等に対する源泉徴収の控除種類と控除額

控除の種類対象月割控除額(1カ月)
公的年金等控除、基礎控除相当受給者全員【65歳未満の場合】
1か月分の年金支払額×25%+6万5,000円(最低額9万円)
【65歳以上の場合】
1か月分の年金支払額×25%+6万5,000円(最低額13万5,000円)
配偶者控除控除対象配偶者がいる場合3万2,500円(年間39万円)
老人控除対象配偶者相当4万円(年間48万円)
扶養控除控除対象扶養親族がいる場合(16歳以上)3万2,500円×人数(年間39万円×人数)
特定扶養親族控除5万2,500円×人数(年間63万円×人数)
老人扶養親族控除4万円×人数(年間48万円×人数)
普通障害者控除受給者本人、同一生計配偶者、扶養親族が障害者の場合2万2,500円×人数(年間27万円×人数)
特別障害者控除3万5,000円×人数(年間42万円×人数)
同居特別障害者控除6万2,500円×人数(年間75万円×人数)
寡婦(寡夫)控除受給者本人が寡婦(寡夫)、ひとり親の場合2万2,500円×人数(年間27万円×人数)
ひとり親控除3万円×人数(年間36万円×人数)

各種控除は「扶養親族等申告書」を提出した人にのみ適用されます6)。「扶養親族等申告書」は、年金で源泉徴収される所得税の各種控除を受けるために必要な書類です。

扶養親族等申告書を提出しなかった人は「公的年金等控除」「基礎控除相当」の控除しか適用されません。提出し忘れてしまうと配偶者や扶養親族がいても控除対象とならないため、該当する親族がいる場合は必ず提出しましょう。

公的年金等控除を適用した雑所得の計算方法

前掲の表に記載している公的年金等控除額が適用された場合の、雑所得を計算する方法を紹介します。

公的年金等の雑所得は、以下の流れで計算します。

STEP1.年間の年金収入金額を求める
毎月の年金収入金額×12=年間の年金収入金額

STEP 2.公的年金等控除額を確認する
前掲の表をチェックする

STEP3.雑所得を求める
年金収入金額−公的年金等控除額=雑所得

なお、雑所得にかかる所得税まで求めるのであれば、さらに以下の計算を行います。

所得税=
(雑所得含む総所得−基礎控除額48万円)×税率−控除額

税率および控除額は、以下の表から確認してください7)

〈表〉所得税早見表

課税所得金額税率控除額
195万円未満5%0円
195万円〜330万円未満10%9万7,500円
330万円〜695万円未満20%42万7,500円
695万円〜900万円未満23%63万6,000円
900万円〜1,800万円未満33%153万6,000円
1,800万円〜4,000万円未満40%279万6,000円
4,000万円以上45%479万6,000円

公的年金等控除額は65歳を境に金額が変わるため、以下の2パターンで計算します。

雑所得の計算方法を理解して、税額計算や確定申告に役立てましょう。

65歳未満、年金収入金額が15万円/月の場合の控除額

65歳未満、年金収入金額が15万円/月という人の場合の、公的年金等控除額と雑所得金額を計算します。なお、公的年金にかかる雑所得の「65歳未満」とは1960年1月2日以後に生まれた人を指します(2024年5月31日での場合)。

はじめに、年間の年金収入金額を計算します。

計算式毎月の年金収入金額×12=年間の年金収入金額
計算結果15万円×12=180万円

年間の年金収入金額は180万円のため、これをもとに雑所得を計算しましょう。

65歳未満で年金収入金額が180万円の場合、公的年金等控除額は「年金収入金額×0.25+27万5,000円」です。計算すると、以下のとおりです。

計算式年金収入金額×0.25+27万5,000円
計算結果180万円×0.25+27万5,000円=72万5,000円

よって、雑所得は以下のとおり算出できます。

計算式年金収入金額−公的年金等控除額=雑所得
計算結果180万円−72万5,000円=107万5,000円

もし所得税額を求めるのであれば、以下のように雑所得に指定の税率をかけて控除額を引いて算出しましょう。

計算式(雑所得−基礎控除)×税率−控除額=所得税額
計算結果(107万5,000円−48万円)×5%−0円=2万9,750円

65歳以上、年金収入金額が15万円/月の場合の控除額

続いて、65歳以上、年金収入金額が15万円/月の場合の公的年金等控除額と雑所得金額を計算します。なお「65歳以上」とは1960年1月1日以前に生まれた人を指します(2024年5月31日での場合)。

はじめに、年間年金収入金額を算出します。

計算式毎月の年金収入金額×12=年間の年金収入金額
計算結果15万円×12=180万円

つぎに、年金収入金額に対応する公的年金等控除額の確認をしましょう。65歳以上で年金収入金額が180万円の場合、公的年金等控除額は110万円です。

公的年金等控除額が把握できたら、雑所得の算出に移ります。年金収入金額から110万円を差し引きましょう。

計算式年金収入金額−公的年金等控除額=雑所得
計算結果180万円−110万円=70万円

さらに所得税額を求める場合は、雑所得に指定の税率をかけて控除額を引いて算出します。計算例は以下のとおりです。

計算式(雑所得−基礎控除)×税率=所得税額
計算結果(70万円−48万円)×5%−0円=1万1,000円

65歳未満と65歳以上で同じ年金収入金額の場合、65歳以上のほうが、公的年金等控除額が大きいため、所得税額も下がります。同じ年金収入金額でも年齢により控除額が異なりますので、受け取れる金額も変わるということを確認しておきましょう。

公的年金等控除を受けるには確定申告が必要?

画像: 画像:iStock.com/ Apichat Noipang

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公的年金等控除を受けるには確定申告が必要な場合があります。以下の2つのケースは、確定申告が必要です。

それぞれのケースについて、詳しく紹介します。

【関連記事】確定申告はいくらから必要? ケース別に解説

年金受給額が年間400万円を超えた場合

年金受給額が年間400万円を超えたら、確定申告が必要です。年金収入金額が400万円を超えるのは、公的年金・私的年金合わせて月33万3,333円より多くを受給している場合です。

特に、個人年金保険を複数本契約して年金を受け取っている人や個人型確定拠出年金の積立金額が大きい人は、年間400万円以上の年金を受け取っている可能性があります。確定申告をし忘れると延滞税が課されることがあるため、忘れずに行いましょう。

年金以外の収入が年間20万円ある場合

年金収入金額が400万円以下でも、それ以外の収入が年間20万円を超えている場合は確定申告が必要です。個人事業の事業所得や不動産の貸付での不動産所得、株式保有による配当所得などは年間20万円を超える可能性があります。年金以外の所得金額がいくらあるのか、年金にかかる税金を計算する際に併せて確認しておきましょう。

もし年金以外の収入が給与所得である場合は、勤務先で年末調整をしてくれるため、確定申告は原則不要です。給与所得以外に20万円を超える収入がある場合のみ、申告が必要です。なお、年収103万円以下であれば、税金は発生しないため年末調整は行われません。

公的年金等控除に関するよくある質問

画像: 画像:iStock.com/AndreyPopov

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公的年金等控除額に関する質問や疑問をまとめました。税額計算や確定申告の手続きの際に参考にしてください。

Q1.障害年金や遺族年金は公的年金等控除の対象になる?

障害年金や遺族年金は、老齢年金などと違い非課税給付です。そのため、公的年金等控除の対象とはなりません。また、課税対象の収入ともみなされないため、税金は発生しません。

Q2.個人年金は公的年金等控除の対象になる?

個人年金保険などで受け取る個人年金は、公的年金等控除の対象外です。個人年金は私的年金の扱いとなり、公的年金とはみなされません。

個人年金による雑所得は、年金受給額が年間20万円を超えると確定申告をする必要があります。また、個人年金保険は、年金受給額から保険料や掛金額を差し引いた額が25万円以上の場合、源泉徴収の対象です。年金から保険料や掛金額を差し引いた金額の10.21%が税金として引かれた状態で給付されます8)

Q3.iDeCoは公的年金等控除の対象になる?

iDeCoは私的年金ですが、確定拠出年金に該当するため、公的年金等控除の対象です。

iDeCoの積立金受け取りは、年金形式と一時金形式のどちらかです。年金形式であれば公的年金等控除の対象となり、雑所得金額を減らせます。一方、一時金形式で受け取った場合は退職所得とみなされます。退職所得は収入金額から控除額を差し引いた金額の1/2が所得算入額です。そのため、年金形式よりも税金を抑えられる可能性があります。

Q4.配偶者が年金を受け取っている場合の控除額は?

配偶者が年金を受け取っている場合は、公的年金等控除に加えて配偶者控除や配偶者特別控除が受けられます9)

配偶者控除は、以下の条件を満たす配偶者がいれば適用できます10)

〈表〉配偶者控除の適用条件

  • 納税者と生計を同じくしている配偶者
  • 年間の合計所得が48万円以下
  • 6カ月以上納税者の事業に従事する事業専従者ではない

控除額は年金収入金額などの所得金額によって決まり、最大控除額は38万円です。配偶者が70歳を超えていれば「老人控除対象配偶者」とみなされ、控除額が48万円まで増えます。

もし配偶者控除が受けられなくても、配偶者特別控除を適用できる可能性があります。配偶者特別控除の適用条件は以下のとおりです11)

〈表〉配偶者特別控除の適用条件

  • 納税者と生計を同じくしている配偶者
  • 所得が48万円超133万円以下
  • 6カ月以上納税者の事業に従事する事業専従者ではない

配偶者控除の対象とならなかった場合は、配偶者特別控除が適用できるかどうか確かめましょう。

なお、配偶者自身にも公的年金等控除や基礎控除が適用されます。配偶者の年金収入金額によっては夫婦2人とも所得税がかからない場合もあるでしょう。

Q5.年金と給与合わせていくらまで非課税になる?

働きながら年金をもらっている場合は、以下の金額まで所得を抑えれば総所得金額が0円以下となり、所得税はかかりません。

〈表〉年金を受給しながら働く場合に非課税となる収入上限

受取人の年齢パターン1パターン2
65歳未満年金:108万円
給与:55万円
年金:60万円
給与:103万円
65歳以上年金:158万円
給与:55万円
年金:110万円
給与:103万円

給与と年金を両方受け取っている場合は、非課税となる収入上限にいくつかのパターンがあります。以下の3つの控除を最大限に適用して、はじめて所得税が非課税になります。

  • 公的年金等控除の控除枠:60万円または110万円
  • 基礎控除の枠:最大48万円
  • 給与所得控除(※)の枠:55万円12)

※:給与所得控除は、給与所得に対する所得控除です。受け取った給与額に応じて、55万円から195万円までの控除が適用されます。給与所得が55万円以下の場合は、所得金額が0円となります。

なお、どれか1つでも控除しきれずに所得が残った場合は、所得税が課税されます。

公的年金等控除で正しく年金の所得額を求めよう

画像: 画像:iStock.com/ediebloom

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公的年金等控除は年金にかかる税金を把握する上で重要な控除制度です。いくら差し引かれているのかを押さえれば、おおよその雑所得がわかるため税額を把握しやすくなります。負担している税額や家計見直しの参考にもなるため、制度を理解して老後の年金受給計画の作成に役立てましょう。

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