この記事では、税理士の植野正子さん監修のもと、確定申告が必要なケースを解説。白色申告と青色申告の違いや、確定申告の方法もご紹介します。
この記事の監修者
植野 正子(うえの まさこ)
税理士。植野正子 税理士事務所代表。税理士業と並行して執筆活動も活発に行なっており、著書に『個人事業の始め方 手順と届出・経理』『これだけは知っておきたい「副業」の基本と常識』(ともにぱる出版)など多数。
確定申告が必要な4つのケース
確定申告が必要なケースは、以下4つのケースです。
それぞれ詳しく解説します。
①会社員で年収が2,000万円以上ある場合
会社員は年末調整があるので、確定申告をしなくてもいいケースがほとんどです。しかし、年収が2,000万円以上ある場合、確定申告が必要です1)。確定申告を忘れると追加の税金を納めることになるだけでなく、意図的だと見なされた場合は罰則も課せられます。
なお、以下の記事では確定申告をしないとどうなるかについて詳しく解説しています。気になる人は併せて確認してみてください。
参考資料
②副業所得が年間20万円以上ある場合
副業の所得が年間20万円を超える場合は、確定申告が必要です。厳密にいうと、給与以外の収入を受け取っていて、その所得が20万円以上ある場合に必要となります。なお、年の途中で転職した場合は、前職の源泉徴収票を新しい会社に提出すれば年末調整できます。
③医療費控除や住宅ローン控除などを受ける場合
医療費控除や住宅ローン控除を受ける場合も、確定申告が必要です。これらの控除は年末調整でできない手続きのためです。確定申告をすることで、追加の税金を納めずに済みます。
なお、会社員の場合の住宅ローン控除で確定申告が必要なのは初年度のみで、2年目以降は会社の年末調整で対応可能です。2年目以降は税務署から該当年数分の書類がまとまって届く「住宅借入金等特別控除額の計算明細書」と、借入先の金融機関から届く「住宅取得資金にかかる借入金の年末残高等証明書」を勤務先に提出しましょう2)。
なお、確定申告の住宅ローン控除について、以下の記事で詳しく解説しています。併せて確認してみてください。
④個人事業主で年間48万円以上の所得がある場合
個人事業主として年間48万円以上の所得を得た場合も、確定申告をしましょう。48万円とは基礎控除の金額であり、これを超える分の所得には税金がかかります。
個人事業主には原則、源泉徴収がないため、確定申告をしないと税金の未納扱いとなります。納付期限をすぎるとその場合は延滞税が発生するので、注意しましょう1)。
アルバイトでも確定申告が必要な3つのケース
アルバイトでも、以下の3つのケースに当てはまる場合は、確定申告が必要です。
就業先によっては、学生のアルバイトであっても確定申告が必要なケースもあるので、十分注意しましょう。
①就業先で年末調整ができなかった場合
就業先で年末調整ができなかった場合は、確定申告をする必要があります。通常は、アルバイトであっても年末調整の対象です。
年末が近づくと、就業先から「給与所得者の扶養控除等申告書」が渡されます。従業員は書類を記入して提出することで、就業先が年末調整を行ってくれます。しかし、期限までに提出できなかった場合は、自分で確定申告をしなければなりません3)。
参考資料
②アルバイトを掛け持ちしていて年収が103万円を超える場合
アルバイトを掛け持ちしている場合は確定申告が必要です。年末調整は1社でしかできないため、メインの就業先で年末調整をすることになるでしょう。
この時、メインではない就業先での収入は年末調整で考慮されないため、自分で改めて計算し直す必要があります。ただし、年収が103万円以下の人は所得税がかからないため、掛け持ちをしていても確定申告は不要です1)。
③年の途中でアルバイトを辞めた場合
年の途中でアルバイトを辞めた場合は、年末調整を受けられないため、確定申告が必要です。
年の途中で、アルバイトから新たな職場で正社員などとして働き始めた場合は、アルバイトの時の源泉徴収票を職場に提出すれば、年末調整を受けられます。なお、年収が103万円以下であれば、年の途中でアルバイトを辞めても確定申告は不要です1)。
確定申告の方法は青色と白色の2種類
確定申告のうち、事業所得・不動産所得・山林所得には「白色申告」と「青色申告」の2種類があります。
青色申告をするためには、青色申告承認申請書を、原則3月15日までに税務署へ提出する必要があります。ただし、申請書の提出期限は場合によって異なります。詳細な条件は、国税庁のウェブサイトを確認してみてください4)。
参考資料
青色申告を行う3つのメリット
一般的に、青色申告のほうが税制面でのメリットが大きいです。具体的なメリットは、以下の3つです。
それぞれ詳しく解説します。
①青色申告特別控除額が大きく、課税される所得額を抑えられる
青色申告による特別控除額は通常55万円、e-Tax(国税電子申告・納税システム)を使って確定申告をすると最大65万円です。控除を受けるためには複式簿記に基づいて作成した損益計算書と貸借対照表を添付し、青色申告控除を受ける金額を記載する必要があります。
この特別控除は、白色申告にはありません。基礎控除と合わせると、最大113万円の控除を受けられるため、大きなメリットといえます4)。
②貸倒引当金や純損失の繰戻し還付を受けられる
青色申告を行うと、貸付金などの帳簿価格に対して5.5%(金融業は3.3%)まで経費として計上できます。
また、事業所得に赤字がある場合は損益通算の規定によってほかの所得から控除したあと、残った額を3年間にわたって繰戻しできます。前年分も青色申告をしていれば、支払った所得税の繰戻し還付も受けられるので、資金繰り(※)が厳しい人にとってもうれしいしくみです4)。
※:売上として現金の入金があり、仕入れや経費の支払いとして現金での支払いを管理していくこと。
③配偶者や親族に支払った費用を経費にできる
青色申告を行うと「青色事業専従者給与」を経費に計上できます。青色事業専従者給与とは、青色申告者とともに生計を同じく立てる、15歳以上の人に支払った給与を経費として計上できる制度です。
個人事業主の中には、家族で事業を営んでいる人もいることでしょう。家族へ支払う給与分を経費に計上すれば、家族の給与も基礎控除などで非課税にできます4)。
ただし、2/3以上仕事をしていることが条件なので、ダブルワークはできません。
青色申告を行う際の3つの注意点
青色申告を行う際の注意点は、以下の3つです。
それぞれ詳しく解説します。
①青色申告をするには開業届と申請書の提出が必要
青色申告をするには、事業を開始した日から2カ月以内に、開業届と青色申告承認申請書を所轄の税務署長へ提出する必要があります。
申請書だけを提出しても、開業届を提出していないと青色申告を利用できません。個人事業主として開業する際には、2つの書類を同時に提出することがおすすめです4)。
②申告できるのは事業所得・不動産所得・山林所得のみ
青色申告の対象となる所得は、事業、不動産、山林所得のみです。会社員をしながら副業を行い、青色申告をしたいと考える人もいるでしょう。しかし、事業として認められるのは副業のみで、会社員としての給与所得は含まれません。
会社の給与にかかる所得税は年末調整で、副業収入の税金は確定申告で清算すると覚えておきましょう4)。
③申告遅れの場合は青色申告特別控除が受けられない
確定申告をしないと、所得税を納めていないことになります。申告期限内に税金が納付できていないと、期限の日から実際の納付までの日割りで延滞税が発生します。令和4年の納付時期ごとの利率を、以下の表にまとめました5)。
〈表〉延滞税の利率(令和4年1月1日~12月31日)
納付時期 | 利率 |
---|---|
期限日翌日から2カ月以内に納付 | 2.4% |
期限日翌日から2カ月を超えて納付 | 8.7% |
延滞税の利率は、2022年12月時点で最低2.4%です。納税が遅れれば遅れるほど金額は増えていくため、期限内に必ず申告しましょう5)。なお、低金利が続くため、延滞税率も連動して低くなっています。
参考資料
確定申告の手間を省くにはクレジットカードを使うのが便利
確定申告をするなら、クレジットカードを利用すると便利です。会計ソフトと連携させることで、日々の支払いが自動で記録されます。
また、クレジットカード手数料分の支払い額は増えますが、所得税をクレジットカードで納めることも可能です。効率よく確定申告を行いたい人におすすめです6)。
参考資料
確定申告が必要なケースを把握してきちんと申告しよう
会社員の場合は、年末調整で会社が税金に関する処理をしてくれるので、確定申告が必要な場合が稀です。しかし、給与所得が2,000万円を超える場合や、本業以外の所得が20万円を超える場合、確定申告が必要になります。
確定申告をしなければならないのに、うっかり忘れてしまった場合は、遅れて申告することになります。確定申告を忘れると、追加で納税しなければいけなくなったり、本来受けられるはずの還付金や節税効果が得られなくなったりします。日頃からしっかりとした準備をしておくことが大切です。