この記事では、ファイナンシャルプランナーの辻田陽子さん監修のもと、妻が夫の扶養に入ることで、所得税や社会保険料にどのような影響があるのかを解説します。
※この記事は、2023年12月1日に公開した内容を最新情報に更新しています。
この記事の監修者
辻田 陽子(つじた ようこ)
FPサテライト株式会社所属、ファイナンシャルプランナー。税理士事務所、金融機関での経験を経て、「好きなときに好きなことをする」ため房総半島へ移住。現在は地方で移住相談や空き家活用に取り組みながら、ファイナンシャルプランナーとして活動中。
妻が扶養家族になる条件には収入の壁がある

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「扶養家族」とは、自分の収入で生活を支えている家族や親類のことをいいます。たとえば、サラリーマンの夫の収入を主にして生活している妻は、夫の扶養家族になります。
「扶養」には2種類あり、妻のパート・アルバイト収入が一定額を下回った場合に夫の支払う所得税が軽減される「税制度上の扶養」と、妻の健康保険や年金などに関わる「保険制度上の扶養」があります。
所得税とは、個人の所得に対してかかる税金で、夫の給与所得などからも税金は引かれます。妻の年収を一定額以下に抑えることで、夫の給与所得に対する所得税が軽減されます。
扶養の話でよく聞く「123万円の壁」や「130万円の壁」とはこの2種類の扶養のことです。税金と社会保険が入り混じっているため混乱しやすいですが、ひとつひとつ見ていきましょう。
なお、扶養家族については以下の記事で解説しています。気になる人は併せて確認してみてください。
123万円の壁とは? 税金が軽減される税制度上の扶養

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「税制度上の扶養」とは、妻の収入が一定額を下回った場合に、夫の所得に「配偶者控除」または「配偶者特別控除」という所得控除が適用され、夫の支払う税金が軽減されることをいいます。なお、令和7年度の税制改正により、「年間の所得上限」が引き上げられました。以下で詳しく解説します1)。
●配偶者控除
妻の1年間の合計所得が58万円以下の場合は、夫の所得から一定額が控除されます1)。夫の所得によって配偶者控除の額は変わります。たとえば夫の所得が900万円以下で妻の所得が58万円以下の場合は、38万円の配偶者控除が適用されます。給与収入のみの場合、年収123万円未満であればこの条件に該当し、税法上、扶養対象として認められます。
●配偶者特別控除
妻の1年間の合計所得が58万円を超えている場合も、控除額は減るものの「配偶者特別控除」という所得控除が適用されます1)。合計所得金額が58万円を超え95万円以下の場合、夫の所得が900万円以下であれば38万円の控除が受けられます。
妻の所得が95万円を超えると控除額は段階的に減少しますが、133万円以下までは適用対象となります。給与収入のみの場合は、年収123万円超~201万5,999円以下が目安となり、この範囲であれば配偶者特別控除を受けられるしくみです。
106万円と130万円の壁とは? 健康保険や年金に関わる社会保険制度上の扶養
妻の収入が130万円以下(障がい者は180万円以下)かつ夫の年収の1/2未満の場合は、夫の扶養に入ることで妻自身の健康保険料が免除されます。
夫が会社員や公務員の場合は、妻は国民年金の「第3号被保険者」となります2)3)。保険料は、夫が加入している厚生年金や共済組合が一括して負担するため、妻の分の保険料を納める必要はありません。また、妻の分の負担があるからといって、夫の保険料が上がることもありません。
保険証も夫の会社から発行されるため、妻は3割負担で医療機関を受診することができます。
ただし、「106万円の壁」については注意が必要です。妻の収入が106万円を超えた場合は、妻が働いている会社の従業員数や勤務日数・勤務時間などによっては、夫の扶養から外れ、妻自身が勤務先の社会保険に加入しなければならない場合があります。以下で詳しく解説します。
年収106万円の壁の撤廃について
「年収106万円の壁」は、2026年10月に撤廃される見通しです。これは、2025年6月に成立した年金制度改正法によるもので、週20時間以上働く人は、年収や企業規模にかかわらず厚生年金に加入する義務が生じる方向へ移行していきます。段階的に対象が拡大され、2029年10月には個人事業所の従業員も対象となり、2035年10月には「週20時間以上」という基準に一本化される予定です。
【社会保険の加入要件(学生を除く)】4)
●現在
・企業規模が従業員51人以上
・労働時間が週20時間以上
・賃金が年収106万円以上(月8万8,000円以上)※3年以内に廃止の予定
●改正後(2035年10月以降)
・労働時間が週20時間以上
つまり、これまで「勤務先の規模や年収」で加入可否が決まっていた厚生年金が、将来的には「週20時間以上働くかどうか」というシンプルな基準に一本化されることになります。厚生年金への加入を検討するにあたり、以下で説明するメリット・デメリットを参考にしてみてください。
参考資料
妻が夫の扶養に入るメリット

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ここでは妻が夫の扶養に入る際のメリットを、税制度上と健康保険制度上それぞれに分けて解説します。
【税制度上のメリット】夫の税負担が軽減される
妻の年間合計所得金額が一定以下の場合、夫に「配偶者控除」または「配偶者特別控除」が適用されます。これにより夫の所得税・住民税が軽減されます。控除額は税目ごとに異なり、所得税では最大38万円、住民税では最大33万円が夫の所得から差し引かれます。
〈表〉住民税と所得税の控除
| 妻の合計所得金額 | 夫の合計所得金額 | ||
|---|---|---|---|
| 900万円以下 (年収1,095万円以下) | 900万円超~950万円以下 (年収1,145万円以下) | 950万円超~1,000万円以下 (年収1,195万円以下) | |
| ●配偶者控除 58万円超 ~95万円以下 (年収160万円以下) | 所得税:38万円 住民税:33万円 | 所得税:26万円 住民税:22万円 | 所得税:13万円 住民税:11万円 |
| ●配偶者特別控除 95万円超 ~133万円以下 (年収201万5,999円以下) | 夫・妻の所得水準に応じて段階的に減少 | ||
| 133万円超~ (年収201万5,999円以下) | 控除なし | ||
【健康保険制度上のメリット】妻が国民年金に加入しなくてもいい
夫が会社員や公務員などの場合は、妻は国民年金の「第3号被保険者」として扱われるため、妻自身が保険料を支払わなくても将来国民年金を受け取ることができます。
ただし、自営業者やフリーランスなど夫が国民年金の第1号被保険者の場合は、妻の年収が130万円以内であっても「第3号被保険者」になることはできないので注意が必要です。
【健康保険制度上のメリット】妻が健康保険料を支払わなくていい
前提として、国民は収入などにかかわらず公的な保険に入ることが義務付けられています。原則として自営業などの場合は「国民健康保険」、会社員などの場合は「被用者保険(協会けんぽなど)」、「被用者保険に加入している人の被扶養者になる」という3つの選択肢があります。
「被用者保険に加入している人の被扶養者になる」以外は健康保険料を支払う必要がありますが、夫が会社員や公務員で健康保険に加入している場合、妻は夫の被扶養者になることができ、健康保険料を支払う必要がありません。健康保険料の負担がないまま、妻は被扶養者として健康保険証が発行され利用できます。
妻が夫の扶養に入るデメリット
続いて妻が夫の扶養に入る際のデメリットを、税制度上と健康保険制度上に分けて解説します。
【税制度上のデメリット】収入を一定額以上増やせない
扶養に入る人の中には専業主婦だけでなく、パート・アルバイトで働く人もいるでしょう。前述したように、扶養に入る条件には収入の壁があり、一定以上の金額を超えることで扶養から外れてしまいます。
扶養に入ることで税金や社会保険料の負担が軽くなる一方、扶養を意識しすぎて収入が増えることを避けてしまうこともあるでしょう。また、一定以上の金額を超えないような働き方が求められるため、職種や業務内容が制限される可能性もあります。
【健康保険制度上のデメリット】妻の年金が少なくなる
第3号被保険者になった場合は、受け取る年金は国民年金のみになります。もし、会社に入り、社会保険に加入した場合には、この国民年金に加え、厚生年金も将来的に受け取ることができます。
そのため、会社で社会保険に加入している人に比べて、老後に受け取れる年金が少なくなります。
【関連記事】厚生年金と国民年金の違いや特徴について、詳しくはコチラ
【健康保険制度上のデメリット】妻の健康保険からの給付が一部制限される
夫の扶養に入ることで、保険料を負担することなく夫の会社の健康保険に加入できることはメリットの1つです。しかしながら給付の対象とならないものもあります。
たとえば、病気やケガなどで仕事を休んだ場合の傷病手当金や出産に伴う出産手当金は、扶養されている妻には支給されません。病気やケガなどで仕事を長期で休んでしまう場合や出産前後に仕事ができない場合に、家計の収入が下がってしまうため留意しておく必要があるでしょう。
【関連記事】出産手当金がもらえないケースとは? 支給要件や退職した場合の支給の有無について、詳しくはコチラ
扶養内で働くか決める際に考えたいこと

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ここまで解説したように扶養内で働くことには、メリット・デメリットがあります。扶養内で働くかどうかを決める際に何に重点をおいて考えればいいでしょうか。ここでは2つの考え方を解説します。
どのような生活スタイルを求めているかを考える
扶養内で働くとどうしても収入は限られてしまいます。しかし、その分、子どもといる時間ができたり、家事や趣味に時間をかけたりと、自分たちの生活スタイルを充実させることができるかもしれません。
反対に、キャリアアップしていくことで収入が増え、また仕事にやりがいを見つけることもあるでしょう。その場合、仕事の充実度や経済的な自由度が上がる一方で、子どもとの時間が減り、家族との関わり方が変わってくるかもしれません。
それぞれの理想とする生活を考え、どのような働き方を選択するのがいいか家族で話し合えるといいでしょう。
自身のキャリアや将来の備えについて考える
扶養に入るには収入の壁があり、勤務時間に制限があるため求人が限られます。働くとなれば多くの人がパート・アルバイトで働くという選択肢になるでしょう。キャリアを一度止めてしまうと再び働きたいとなった時に、前と同じような条件で働くことが難しい可能性もあります。
また、扶養を外れて自分で社会保険料を支払うとなると、経済的負担が増すと考えてしまいがちですが、社会保険に入るメリットもあります。たとえば、働けなくなった時に一定の保障が受けられたり、将来もらえる年金額が増えたりするなど、収入が増えるだけではない魅力があります。
制度に合わせず自分のライフスタイルに合わせて考えよう

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扶養内で働いて税金や社会保険料を抑えるか、扶養から外れて年収や将来受け取る年金を増やすか、選択肢は大きく2つあります。理想とするライフスタイルは人それぞれ、働き方に正解はありません。何を優先すべきか家族で話し合い、自分たちにとって最適な選択を考えましょう。








