税金の滞納は違法行為であり、罰則が課せられるため注意が必要です。この記事では弁護士・鈴木淳也さん監修のもと、税金を支払えないとどうなるかについて解説。罰則の内容や対処法をご紹介します。
今回の記事の監修者
鈴木 淳也(すずき じゅんや)
大手法律事務所で活躍したのち、2018年4月に鈴木淳也総合法律事務所を設立。借金の債務整理から企業法務など幅広く対応。気象予報士や防災士の資格も保有するマルチ弁護士。
税金を支払えずに滞納するとどうなる?
税金は1日でも納付期限(納期限)を過ぎれば「滞納」となります。住民税や自動車税、自営業者なら法人税や消費税など、税金ごとに納期限が定められており、それぞれ期日は異なります。滞納しないために、まずは支払い義務のある税金について知ることが大切です。
納期限内に税金を支払えない場合、以下のような流れで手続きが進み、最終的に財産が差し押さえられてしまいます。
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(1)延滞税の発生
税金を滞納すると、納期限の翌日から1日ごとに延滞税が課せられます。滞納者は、税金と延滞税を合わせて納付する必要があります。延滞税は、税金を完納(全額納める)する日まで加算されます。
では、実際にどのくらいの延滞税がかかるのでしょうか。
延滞税の計算方法
延滞税は、本来納付すべき税金の額に所定の税率(%)を掛け合わせて計算されます。お金を借りる際の「利息」が税金に上乗せされると考えるのがわかりやすいでしょう。
延滞税の計算方法は以下のとおりです1)。
〈図〉延滞税の計算方法
このうち、税金の金額は1万円未満の端数に関して切り捨てて計算されるため、そもそも税金が1万円未満の場合には、延滞税がかかりません。
なお延滞金の端数処理に関しては、算出された延滞税額が、1,000円未満の場合には納付義務がありません。また、延滞税額が1,000円以上で、その延滞税額に100円未満の端数がある場合、その端数金額は切り捨てます。
例:延滞税額が15万6,300円の場合、100円未満は切り捨てて15万6,000円となる。
参考資料
延滞税の税率は2カ月を境に高くなる
延滞税の税率は2カ月を超えると高くなります2)。なお、国に払う国税も、地方自治体に払う地方税も、基本的に延滞税の税率は同様です。実際にかかる税率は以下のとおりです。
納期限翌日〜2カ月の延滞税
年7.3%、もしくは「延滞税特例基準割合(※)」で定められた割合に年1%をプラスした税率の、どちらか低いほうが適用されます2)。
納期限から2カ月以内の場合の、2023年の延滞税特例基準割合は1.5%であり、1%プラスすると2.5%です。こちらのほうが税率は低いため、延滞税に適用されます。
納期限から2カ月を超えた延滞税
年14.6%、もしくは「延滞税特例基準割合」で定められた割合に年7.3%をプラスした税率の、どちらか低いほうが適用されます2)。
2023年に関しては、延滞税特例基準割合が1.5%であり、7.3%をプラスすると8.8%です。年8.8%
のほうが低く、延滞税に適用されます。
※:延滞税特例基準割合とは、決められた期間において、各銀行が新規で短期貸出をする際の平均金利から計算された割合のこと。そのため、銀行の提示する金利によって毎年変化する。
参考資料
(2)督促状の送付
税金の滞納を続けていると、国税については原則として納期限から50日以内に、地方税については原則として納期限から20日以内に、滞納者のもとに督促状が送られてきます。
督促状を受け取っても税金の支払いをしない場合には、差し押さえを予告する催告書が届くこともあります。また、市区町村によっては、電話での支払い催促や担当職員が自宅までやってくるということもあります。
(3)滞納処分の執行
督促状を発送した日から10日以内に税金の支払いがない場合は、法律上、滞納者の財産を差し押さえることができる状態となります。
どのタイミングで財産の差し押さえがなされるかは、市区町村の担当者の判断によるため一概にはいえません。しかし、少なくとも督促状を発送した日から10日を経過したあとは、いつ差し押さえをされてもおかしくない状態です。
差し押さえの対象となる主な財産としては、不動産、預貯金、生命保険、給与などがあります。
また、給与が差し押さえられた場合には、職場に通知されるため、税金を滞納していることを職場に知られてしまうというリスクもあります。
税金が支払えない時の対処法
税金が支払えないという場合は、以下のような方法を早めに検討しましょう。
(1)税務署・市区町村の窓口に相談する
税金の滞納をして督促状が届いた場合には、財産を差し押さえられてしまうというリスクが発生します。まずは放置せず、税務署や市区町村の窓口に相談をすることが大切です。
「税金の滞納をしている」という負い目があると、つい相談に行くのをためらってしまうかもしれません。しかし、何も対応をしないと支払いの意思がないとみなされて、早い段階で滞納処分が執行される可能性もあるのです。そのため、早めに税務署や市区町村の窓口に相談に行くのはもちろんのこと、相談する際には、現在の経済状況を説明して、税金を支払う意思があることを示すようにしましょう。
(2)分割納付を利用する
税金の支払いは一括払いが原則となります。しかし、支払いが困難な事情がある場合には、分割納付の相談にも応じてくれます3)。分割納付が認められた場合には、分割納付に対応している期間は、財産を差し押さえられるというリスクは低くなります。
「一括での納付は難しくても、分割納付であれば滞納している税金を支払うことはできる」という人は、分割納付の利用を検討してみましょう。
参考資料
(3)猶予制度を利用する
分割納付をすることも困難なほど経済的に困窮している場合には、納付の猶予制度を利用することによって、一定期間滞納している税金の納付を猶予してもらうことが可能です4) 。猶予制度には、「徴収の猶予制度 」と「換価の猶予制度」があります。
徴収の猶予制度とは、特定の事情がある場合に、1年以内で納付ができるように計画を作成することで、徴収の猶予を認めてもらう制度です。徴収猶予が認められた期間については、延滞金の全部または一部が免除されます。
徴収猶予が認められる事情としては、以下のようなものがあります。
- 災害や盗難
- 納税者または家族の病気、負傷
- 事業の廃止・休止
- 事業についての著しい損失
- 本来の期限から1年以上経過後に、修正申告などによって納付税額が確定した場合
一方、換価の猶予とは、「一括で税金を納付すると生活の維持が困難になってしまう」という場合に、1年以内の期間に限って、財産の差し押さえや処分が猶予されるという制度です。
参考資料
税金を滞納してしまった時、家族や仕事にどんな影響があるの?
税金を滞納した場合、家族や仕事にはどんな影響が及ぶのでしょうか。また、信用情報には影響があるのでしょうか。
基本的に、税金滞納で家族に大きな影響は及びません。本人に代わり、家族が支払いの責任を負うことはなく、税金の催促の連絡がほかの家族にされることも一般的に考えられません。しかし、滞納者の預金や給与、不動産などが差し押さえられた際に、同居する家族も困窮するなど、間接的な影響は考えられます。
また、信用情報とは、私たち1人1人の借金歴やローンの履歴を専門機関が記録しているものです。ローン契約やクレジットカードの申し込みなどにおいて、金融機関が審査の参考にしています。一般的に、過去に借金の未返済や延滞があったことが信用情報からわかれば、金融機関の審査は厳しくなるとされています。
では、税金の滞納がこの信用情報に影響があるのかというと、基本的に税金の滞納は信用情報に記録されません。税金を管轄するのは国や地方自治体であり、信用情報を記録・共有する機関に加盟していないためです。
税金を滞納しないために注意すること
税金を滞納するパターンは、大きく2つに分けられます。支払い忘れなどのミスによる滞納と、金銭的な事情でどうしても支払えなくて起こる滞納です。まず確実に防ぎたいのは、「支払い忘れ」のパターンです。そこで、税金の支払い忘れを防ぐ方法を紹介します。
なるべく「口座振替」を使う
支払い忘れで税金を滞納する人は、支払いが面倒で先延ばしにするうちに期限を忘れるケースが多いといえます。また、税金の払込用紙をどこかに置きっぱなしにした結果、いざという時に用紙がなくなっているケースもよくあります。
それらの防止策となるのが、口座振替の活用です。種類によりますが、口座振替が可能な税金は多数あります。特に住民税は多くの地方自治体で口座振替が可能です。一度口座を登録すれば自動で引き落とされるので、支払い忘れを防げます。
支払い忘れしやすい3つの税金
突発的に発生する税金は、忘れやすく注意が必要です。代表的なものは以下のとおりです。
(1)転職時の所得税など
勤務先がある場合は、給与から各種税金が天引きされています。しかし、転職時などに無職の期間が発生すると、その間は税金を個人で支払わなければなりません。転職時は忙しさから忘れやすく、注意が必要です。
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(2)自動車税
自動車税はおおむね毎年5月上旬に税金の「納付書」が送られてきます。納期限は一般的に5月末までと短いため、延滞してしまう人が多く見られます。
(3)相続税
普段の生活で発生する税金ではないものは、支払い忘れが多いといえます。そのひとつが相続税です。基本的に、死後10カ月以内に申告と納税をしなければならず、滞納すると延滞税が発生します。
また、亡くなった人が何らかの税金を滞納していた場合、滞納していた税金も相続されます。遺族は延滞税を含めた税金を支払わなければなりません。
滞納した税金は「時効」や「免除」される場合もある
金融機関などでお金を借りた場合、自己破産や債務整理によって借金の支払いを免除されるケースがあります。しかし、滞納した税金は自己破産をしてもなくなりません。
税金に「時効」が適用されるケース
一方、滞納した税金がなくなるケースとして挙げられるのが「時効」です。納期限の翌日から5年間で税金を回収する「徴収権」が切れるため、時効となります。
しかしながら、税金は古いものから徴収されるため、現実的に「時効」が発生するのは5年前から現在に至るまで継続して税金を支払えていない場合になります。
ある期間だけ支払い忘れているものに関しては、基本的に督促・差し押さえを経て必ず徴収されるものと考えておきましょう。
税金に「免除」が適用されるケース
また、生活保護を継続して受給している場合には、基本的に住民税や健康保険税などの税金が免除されます。
しかしながら、生活保護を受ける以前の税金の滞納に関しては「停止扱い」となり、3年以内に生活保護の受給を辞めた場合には、支払いの義務が残ります。
滞納を軽率に考えると痛い目に!税金の支払いは必ず行おう
税金は、基本的に誰もが公平に負担することで社会を成り立たせるシステムです。税金を支払えず滞納してしまうと、納期限の翌日から延滞税が課せられるなど、厳しい措置が設けられています。支払えない場合は、税務署や市区町村の窓口に相談するなど、早めに対処するようにしましょう。