この記事では、ファイナンシャルプランナー・藤井亜也さん監修のもと、貯蓄と税金についてよく知らない人に向けて、正しい基礎知識を解説し、賢く貯める方法についても提案します。
貯金に税金はかかる? 貯蓄と税金の正しい基礎知識
一言で回答すると、貯金には税金はかかりません。ただし、貯金によって得られる「受取利息(利子所得)」は金融所得課税の課税対象です。
金融所得課税とは、預貯金、株式や投資信託などの金融商品で得た受取利息にかかる税金です。預貯金の場合は利子、金融商品の場合は配当や売却利益が所得として課税されます。金融所得に対する税率は一律20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%(※)+地方税5%)です1)。受取利息の金額が高くなっても税率は変わりません。
つまり、貯金の利息は課税の対象ですが、貯金自体には税金がかかりません。貯金の金額や種類(普通預金・定期預金・積立預金)も、課税や税額には関係ありません。
※:2013年1月1日〜2037年12月31日の期間
参考資料
税金がかかる貯蓄と税金がかからない貯蓄
貯蓄には税金がかかるものとかからないものがあります。それぞれについて以下で詳しく説明します。
税金がかかる貯蓄 | 税金がかからない貯蓄 |
---|---|
・預貯金の受取利息 ・財形貯蓄(※1)の受取利息 ・株式投資の分配金+譲渡益 ・投資信託の配当金+譲渡益 ・国債の受取利息 ・社債の受取利息 ・貯蓄型保険金の満期保険金 | ・タンス預金 ・一般NISA(※2) ・つみたてNISA(※3) ・新NISA(※4) ・iDeCo(※5) |
税金がかかる貯蓄
税金がかかる貯蓄は、預貯金の利息、財形貯蓄、株式投資や投資信託、国債・社債などの投資などです。基本的に課税の対象となるのは、それぞれの受取利息で、預貯金の場合は利子、金融商品の場合は配当や売却利益が所得として課税されます。税率は一律20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+地方税5%)です。
ただし、財形貯蓄2)には非課税枠があります。一般財形貯蓄(勤労者財産形成貯蓄)、財形年金貯蓄(勤労者財産形成年金貯蓄)、財形住宅貯蓄(勤労者財産形成住宅貯蓄)の3種類があり、財形年金貯蓄のみなら385万円まで、財形住宅貯蓄は550万円までの元本から生じる利子は非課税です。2種類以上を所有している場合も、元本の金額が合計550万円までは非課税です。
また、貯蓄型保険の満期保険金も課税対象ですが、税金の種類が異なります。税金の種類は、受取人が契約者である場合は一時所得、受取人が契約者以外である場合は贈与税となります。支払った保険料よりも満期保険金の額が多い場合、すなわち利益が出た場合のみ、税金が発生し、税率は受け取った満期保険金の金額や払込保険料によって異なります。
なお、身体障がい者手帳の交付や障がい年金の受給をしている「障がい者」と、遺族年金や寡婦年金を受けている「そのほかの人(妻)」など、一定の要件を満たす人は非課税となる優遇制度3)もあります。
税金がかからない貯蓄
税金がかからない貯蓄は、タンス預金、一般NISA、つみたてNISA、新NISA、iDeCoです。
タンス預金は銀行に預ける預貯金と異なり、利子がつかず、受取利息(利子所得)を生み出さないので、非課税です。ただし、相続する場合には相続税が発生する点に注意しましょう。
投資で利益が生まれた場合、分配金や配当金、譲渡益に税金が発生します。しかし、一般NISA、つみたてNISA、新NISA、iDeCoは、非課税枠内を利用すれば、利益が出ても税金は発生しません。詳しくは後述します。
貯蓄の種類で税金の納め方は異なる
預貯金や財形貯蓄、国債・社債などの受取利息は、源泉分離課税制度の対象となっているため、受取時に自動的に徴収されます。そのため、自分で確定申告をする必要はありません。
一方、株式投資や投資信託の利益、貯蓄型保険の満期保険金の利益分は納税する必要があります。ただし、源泉徴収ありの特定口座を利用すれば、証券会社が売却損益・税金の計算を行い、売却代金から税金を差し引いてくれるので、基本的に確定申告は不要となります。
とはいえ、投資用に複数の口座や証券会社を利用している場合、全ての口座を合算して税金を計算してもらえるわけではありません。自分で確定申告をしたほうが納税額は低くなる可能性がある点に注意しましょう。
噂されている「貯蓄税」が実現する可能性は?
これまで折に触れて、預貯金自体を課税対象とする“貯蓄税”が議論されてきました。最近では、岸田首相の経済政策の中に金融所得課税の増税があり、話題になりました。しかし、首相就任直後にこの政策が発表された結果、株価下落が起きたため、岸田首相は「当面は金融所得課税の増税は行わない」と述べました。ただし、撤回はしていません。
貯蓄税は、保有する預貯金の残高に応じて一定の税率を課すため、格差是正の手段として有効と論じられてきました。所得の再配分という意味では、累進課税である所得税や相続税が現状、その役割を担っています。行政当局が世帯別の預貯金残高を把握しやすくなる「マイナンバー制度」が貯蓄税導入のハードルを下げるともいわれていました。
しかし、総務省によると、マイナンバーカードの保有枚数の人口に対する割合は令和5年7月31日時点で約71%4)、と全国民の預貯金の把握には至っていません。また、タンス貯金や海外の銀行口座など、政府が把握できない貯金方法もあり、課税の公平性を担保するのは難しいでしょう。こうした事情から貯蓄税の実現を現実的に心配する必要性は低いと考えられます。
参考資料
賢く貯蓄する方法は?
賢くお金を貯めたいのであれば、これまで紹介してきた貯蓄の中では以下の3つがおすすめです。
大前提として、本来は投資で得た利益には税金がかかりますが、公的年金の減少により、政府は貯蓄から投資へと国民を誘導しています。それを後押しするために非課税枠を設けているのが、iDeCoやNISAなどです。続いて、それぞれについて説明します。
財形貯蓄制度
財形貯蓄2)とは、勤労者が金融機関などと契約を結び、賃金からの控除(天引き)によって、事業主を通じて積み立てていく貯蓄です。全ての企業で制度が導入されているわけではない上、フリーランスや自営業の人は利用できないのが難点です。積立は月1,000円からできるので、勤め先の企業で導入されているようであれば、堅実に資産形成ができる方法として利用してみましょう。
財形貯蓄には、一般財形貯蓄(勤労者財産形成貯蓄)、財形年金貯蓄(勤労者財産形成年金貯蓄)、財形住宅貯蓄(勤労者財産形成住宅貯蓄)の3種類があり、貯蓄の使い道がそれぞれ異なります。
一般財形貯蓄の用途は自由ですが、財形年金貯蓄は満60歳以上に年金として受け取るもの、財形住宅貯蓄の使い道は、持ち家の取得または持ち家の増改築に限定されます。
契約時の年齢 | 積立期間 | 契約の制限 | |
---|---|---|---|
一般財形貯蓄 | なし | 3年以上 | なし |
財形年金貯蓄 | 55歳未満 | 5年以上 | 1人1契約 |
財形住宅貯蓄 | 55歳未満 | 5年以上 | 1人1契約 |
また、財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄を合わせて、元利が合計550万円に達するまで、受取利息(利子所得)が非課税になります。また、年金として受け取る財形年金貯蓄は受給が終わるまで非課税措置が継続されるのも利点です。
iDeCo
iDeCo5)とは、確定拠出年金法に基づいた私的年金制度です。20歳以上65歳未満の国民年金の被保険者であれば、任意で加入できます。自分が拠出した掛金を自分で運用して資産を形成し、60歳以降に老齢給付金として受け取ることができます。最大の特徴は、3つの税制優遇メリットがあることです。
①掛金が全額所得控除され、所得税・住民税が軽減される。
②確定拠出年金制度内での運用益は非課税で再投資できる。
③受給時に所得控除を受けられる。
原則60歳になるまで資産を引き出すことはできませんが、老後資金を貯める手段として、税金の面でも魅力的です。
参考資料
【関連記事】iDeCoはサラリーマンの節税にメリットだらけ。すぐに始めたい3つの理由
NISA
NISAとは、個人投資家向けの少額投資非課税制度のことです。
非課税口座内で、毎年一定金額の範囲内で購入した金融商品から得られる利益には税金がかからない制度です。
現行の制度では、一般NISAとつみたてNISA、20歳未満向けのジュニアNISAがありますが、2024年1月からは新NISA6)に切り替わります。これまでのNISAとつみたてNISAで金融商品の購入を行うことができるのは2023年までです。2023年中に購入した金融商品は5年間(2027年まで)非課税で保有することができます。
年間投資枠(非課税) | 非課税保有期間 | 非課税保有限度額 | |
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一般NISA | 120万円 | 5年間 | 600万円 |
つみたてNISA | 40万円 | 20年間 | 800万円 |
新NISA(つみたて投資枠) | 120万円 | 無期限 | 1800万円(※) |
新NISA(成長投資枠 | 240万円 | 無期限 | 1200万円(内数) |
新NISAでは、非課税期間に期限があったこれまでのNISAと異なり、非課税の期間が無期限となります。年間投資枠や非課税保有限度額(総枠)も大幅に引き上げられます。
参考資料
貯金をする方法を知りたい人は、以下の記事で詳しく説明しているので、ぜひ併せてご覧ください。
これからは「賢く貯める」が求められる時代
公的年金が減少傾向にありながら、人生100年時代といわれる昨今、ただ貯めるだけではなく、賢く貯める必要があります。金融商品の運用は知識がなくて怖いという人でも、非課税枠がある財形年金貯蓄やiDeCo、NISAなど制度を理解し、上手に活用したいところです。不安や疑問を抱える人はお金のプロに相談することから始めてみてはいかがでしょうか。