この記事では、家族の介護に臨む人に向けて、介護者専門の事務所を運営する行政書士でファイナンシャルプランナーの河村修一さん監修のもと、親の介護に臨むコツを伝えます。同居や近距離、遠距離など、親との距離別の介護方法のメリットとデメリット、親の介護を投げ出したくなった時の相談相手まで詳しく説明します。
この記事の監修者
河村 修一(かわむら しゅういち)
ファイナンシャルプランナー・行政書士。CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、複数の保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。
親の介護は義務? 介護による生活の変化を検討
親の介護に臨む時、否応なく生活に変化が訪れます。中でも介護者の負担となるのは、以下3つの要素です。
①費用
②時間
③ストレス
親の要介護度や住まいの距離、兄弟姉妹や配偶者などの家族との関係でも、負担の度合いは変わります。
厚生労働省の調査1)によると、「要介護者等との続柄別主な介護者の構成割合」は「同居」が54.4%で最も多く、次いで「別居の家族等」が13.6%となっています。同居している主な介護者と要介護者の続柄は、「配偶者」が23.8%で最も多く、「子ども」20.7%、「子どもの配偶者」7.5%が続きます。
同調査では介護時間と要介護度についても調べています。同居の主な介護者の介護時間を要介護度別にみると、「要支援1」から「要介護2」までは「必要な時に手を貸す程度」が多くなっているのに対し、「要介護3」以上では「ほとんど終日」が最も多くなっています。介護時間が「ほとんど終日」の同居の主な介護者と要介護者の続柄は、「女性の配偶者」が40.9%で最も多く、「子ども(女性)」が20.9%、「男の配偶者」が15.2%で続きます。
参考資料
介護の費用総額は平均581万1,300円、期間は平均5年1カ月
介護費用は実際にどのくらいかかるものでしょうか。生命保険文化センターの調査2)によると、過去3年間に介護経験がある人に「どのくらい介護費用がかかったのか」を聞いたところ、介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)は、住宅改修などの一時的な初期費用の合計が平均74万円、月々の費用が平均8万3,000円でした。
同調査を見ると、介護期間の平均は61.1カ月(5年1カ月)であることもわかります。「初期費用+月額の費用×介護期間」で試算すると、実際に介護を経験した人の介護費用は、平均して総額581万1,300円となります。
介護の費用について知りたい人は、以下の記事で詳しく紹介しているので、ぜひ併せてご覧ください。
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介護の方法は親との距離にもよる。それぞれのメリットとデメリットは?
親の介護をする場合、住まいの距離でできることや介護への関わり方は変わってくるでしょう。距離で介護を分けると、「同居介護」「近距離介護」「遠距離介護」の3種類があります。それぞれの介護におけるメリットとデメリットを解説します。
①同居介護の場合
同居介護の大きなメリットは、近距離介護や遠距離介護に比べ、時間や費用のコストが小さいことです。一緒に暮らしている分、小さな変化にも気づき、素早い対応もできるでしょう。
その一方で、介護から解放される時間が少なく、最もストレスが溜まりやすいのがデメリットです。もちろん、自分だけではなく、家族にも同様の負担がかかります。親の要介護度が高く、常時の世話を必要とする場合には、なおさらストレスも大きくなります。
②近距離介護の場合
近距離の場合は常に目が届きやすいながら、同居とは異なり、介護から解放される時間があるのがメリットです。親が独居であれば、介護保険サービスで家事の補助などを頼めるのも同居にはない利点です。
近距離である場合は、遠距離と異なり、急な呼び出しに対応することが可能ですが、それにより自分の時間が制約されたり、左右されたりするのはデメリットでしょう。また、近所であったとしても、別世帯であるため、同居に比べ、経済的なコストもより大きく発生することになります。
③遠距離介護の場合
同居介護に比べ、常時の介護から解放され、自分の時間が制約されないことがメリットです。ほかの介護に比べ、要介護度が高い時に施設への入所を進めやすいのがメリットかもしれません。
一方で、飛行機や新幹線を使う必要がある距離の場合、親の様子がわかりづらく、急な呼び出しで会いに行くにも交通費や時間の負担が大きいのがデメリットです。また、兄弟姉妹が同居や近距離で介護に臨んでいる場合、介護への参加度に関して揉める可能性があるかもしれません。一方で、もしも呼び寄せを選択することになれば、時間的にも経済的にも大きなコストが発生しますし、親や家族にも大きなストレスがかかることになる可能性があります。
親の介護、関わり方を考えるポイントは?
親の介護に臨む際には、その時点でのお互いの住まいの距離のほかに、つぎの4項目を検討する必要があります。
①親の要介護度は?
②自分や家族のストレスは?
③兄弟や姉妹の協力は?
④仕事との両立は?
特に重要なのは、配偶者の理解や兄弟・姉妹とのコミュニケーションでしょう。1人で抱え込むことなく、家族と協力することができれば、負担を分散することができます。親の要介護度に関しては、地域包括支援センターやケアマネジャーなどに相談して、プロの見解を聞くのが助けになるでしょう。
仕事との両立に悩む場合、会社員であれば、介護休業給付金を得て親や家族に向き合う時間を作るのも一手です。介護休業給付金について知りたい人は、以下の記事で詳しく紹介しているので、ぜひ併せてご覧ください。
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親の介護が大変な時、重要なのは「相談する」こと
介護を経験した知人や友人と経験談を交換したり、愚痴を聞いてもらったりするだけでも大きなストレス解消となります。身近に介護について打ち明けられる人、協力して介護に臨む兄弟・姉妹や配偶者などの家族がいない場合には、ケアマネージャーや地域包括支援センターなどのプロに相談するのもいいでしょう。
親が認知症を患っていたり、要介護度が高かったりして、精神的な負担が大きい場合にもやはり同じ経験をした人と話すことで幾分かは心が落ち着きます。介護者支援をしているNPO法人への参加や地域包括支援センターのスタッフ、ケアマネジャーなどの専門家に遠慮せず何度でも相談することが大切です。
初めての介護でつまずかないためのコツは?
初めての介護で精神的に大きなストレスを抱え込む人は少なくありません。そんな人はつぎの5項目を実践してみましょう。
①1人で抱え込まない
②頑張り過ぎず、自分が楽しむ時間を確保する
③遠慮せずにプロの力を借りる
④自治体のサービスや費用の軽減策など情報を収集する
⑤今後の資金計画を立てる
何より1人で抱え込まず、友人や知人、家族、プロなどの手を借りることが親の介護でつまずかないコツです。また、長期間に及ぶことが多い介護では、完璧を目指そうとせず、適度に手を抜き、息抜きの時間を設けることが大切です。その上で経済的負担を軽減する方法を模索したり、親の持ち家や生命保険などの対処をしたり、介護の先について考える時間を設けましょう。