毎月の給与明細を見れば、会社から支払われている「額面」より、実際に振り込まれる「手取り」の金額のほうが少なくなっていることがわかります。しかし、額面と手取り額の違いを理解している人は、意外と少ないかもしれません。

この記事では、ファイナンシャルプランナー・藤井亜也さん監修のもと、手取り額の計算方法など、会社員の人が知っておくべき額面と手取り額の基礎知識について解説します。

この記事の監修者

藤井 亜也(ふじい あや)

株式会社COCO PLAN 代表取締役社長
ファイナンシャルプランナー(CFP、FP1級)。独立系ファイナンシャルプランナーとして20代~90代と幅広い年代のお客様の相談に対応。一人一人に心を込めて、最適なプランを提案し、多くのお客様のライフプランを実現。個別相談だけでなく、マネーセミナー、執筆・監修など幅広く活動中。著書に『今からはじめる理想のセカンドライフを叶えるお金の作り方』(三恵社)がある。ラジオ番組『未来のためのお金のハナシ』(FM川口)毎週月曜16時から放送中。

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そもそも「額面」と「手取り額」の違いは?

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毎月会社から振り込まれる報酬は、いわゆる「手取り」の金額です。対して、会社が支給する報酬の総額を「額面」と呼びます。それぞれの違いについて詳しく解説しましょう。

額面とは会社から支給される報酬の総額

額面とは、会社が支給する報酬の総額を指す言葉です。通常は、ベースとなる「基本給」に「通勤手当(交通費)」や「時間外手当(残業手当)」といった各種の手当をプラスした金額になります。一般的な給与明細では、「総支給金額」欄に記載されている金額が額面に相当します

〈表〉額面に含まれる代表的な手当の例

時間外手当法定労働時間または、会社で決めた労働時間を超えて働いた場合に加算される手当
通勤手当通勤にかかる費用を補助する手当
役職手当管理職などの役職に応じて支給される手当
家族手当扶養家族がいる社員に対して支給される手当
住宅手当家賃や住宅ローンなどを補助するために支給される手当
資格手当会社で定めた資格を持つ人に対して支給される手当

手取り額とは額面から税金や社会保険料を差し引いた金額

手取り額とは、額面から所得税や住民税、社会保険料などが天引きされた金額のことです。一般的な給与明細では「差引支給額」欄に記載されている金額が手取り額に相当します。ちなみに、額面から税金や社会保険料を差し引かれることなどを「控除」と呼びます。

〈表〉額面から天引きされる代表的な控除の例

所得税所得のある人が納める税金。毎月の給与から概算の金額が天引きされる。年末調整または確定申告で、納めすぎた金額が清算・還付される場合もある。
住民税1月1日時点で住んでいる都道府県、市区町村に納める税金。
健康保険料健康保険の保険料。会社員の場合、通常は算出された保険料を会社と社員が半額ずつ負担する。
厚生年金保険料厚生年金の保険料。通常は算出された保険料を会社と社員が半額ずつ負担する。
雇用保険料失業時に手当が受け取れるようになる、雇用保険の保険料。
介護保険料介護保険制度の財源に使われる保険料。会社員の場合、通常は算出された保険料を会社と社員が半額ずつ負担する。

手取り額の計算方法は?

画像: 画像:iStock.com/takasuu

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手取り額と額面の関係を簡単にまとめると、以下の計算式で表現することができます。

手取り額=額面(基本給+諸手当)-控除(税金+社会保険料)

つまり、控除の計算方法がわかれば、自分でも手取り額の計算ができるわけです。以下に、額面の年収を例にした計算方法をご紹介しましょう。

控除の計算方法①所得税

所得税額を求める計算式は、以下のとおりです。

■所得税額を求める計算式

所得税額=課税所得額×税率-各種所得控除額

まずは「課税所得額」を算出します。課税所得額は、年間の給与所得額から給与所得控除額などを差し引いて求めます。給与所得控除額は収入によって異なり、令和4年分の給与所得控除額は、以下のとおりです。

〈表〉令和4年分の給与所得控除額1)

給与などの収入金額
(給与所得の源泉徴収票の支払金額)
給与所得控除額
1,625,000円まで550,000円
1,625,001円から1,800,000円まで収入金額×40%−100,000円
1,800,001円から3,600,000円まで収入金額×30%+80,000円
3,600,001円から6,600,000円まで収入金額×20%+440,000円
6,600,001円から8,500,000円まで収入金額×10%+1,100,000円
8,500,001円以上1,950,000円(上限)

たとえば、年収が400万円の場合の給与所得控除額は、「年収×20%+44万円」で124万円になります。また、一般的に社会保険料は年収の約15%の割合で給料から差し引かれるため、以下の計算例では控除額を60万円として試算します。また、基礎控除は年収が2,400万円以下の場合は48万円になります2)

課税所得額を求める計算式は、以下のとおりです。

■課税所得額を求める計算式

課税所得額=総所得額-各種所得控除額

例)年収400万円の場合の計算式

400万円−(給与所得控除〈124万円〉+社会保険料控除〈60万円〉+基礎控除〈48万円〉)

つまり、年収400万円の場合の課税所得額は、168万円となります。

続いて課税所得額を用いて所得税率と税額控除額を求めます。令和4年分(平成27年分以後)の所得税率と税額控除額は、以下のとおりです。

〈表〉令和4年分(平成27年分以後)の所得税率と税額控除額3)

課税所得金額税率控除額
1,000円から194万9,000円まで5%0円
195万円から329万9,000円まで10%9万7,500円
330万円から694万9,000円まで20%42万7,500円
695万円から899万9,000円まで23%63万6,000円
900万円から1,799万9,000円まで33%153万6,000円
1,800万円から3,999万9,000円まで40%279万6,000円
4,000万円以上45%479万6,000円

課税所得額が168万円の場合、所得税率は5%で、控除額は0円となります。所得税額を求める計算式は、

■所得税額を求める計算式

所得税額=課税所得額×税率-税額控除額

ですから「168万円×5%-0円」となり、年収400万円の所得税額は、年額で8万4,000円となります

なお、2037年までの間は所得税の2.1%にあたる金額を「復興特別所得税」として、別途納付することになっています4)。上記の場合なら、所得税の8万4,000円に加え、1,764円の復興特別所得税を納めることになります。

控除の計算方法②住民税の計算方法

住民税は、お住まいの市区町村によって金額に多少の差が出るものの、基本的な計算方法は同じです。

住民税額は収入に応じて課税される「所得割」と、一定以上の所得がある場合に均等に課税される「均等割」があり、その2つの合計額が住民税の金額となります。計算式は以下のとおりです。

■住民税額を求める計算式

住民税額=所得割額+均等割額

所得割は、課税所得額に税率10%(市区町村税・道府県民税・都民税含む)を掛けた上で、各種控除を差し引く形で算出します5)。なお、住民税の基礎控除は所得にかかわらず43万円です。一方、均等割は通常5,000円(市町村民税3,500円、道府県民税1,500円)と定められています。

たとえば、年収400万円で給与所得控除が124万円、社会保険料控除が60万円の場合、所得割と均等割は以下のとおりです。

例)年収400万円の場合の計算式

所得割:(400万円-124万円-43万円-60万円)×10% =17万3,000円
均等割:5,000円

つまり、年収400万円の場合の住民税は、単純計算で年額17万8,000円となります。ただし、年収の金額によって控除の割合が変化するほか、「調整控除」という制度が適用されるなど、わずかな金額ですが住民税にも復興特別税が加算されるため、実際の税額はこの金額と異なる点にご注意ください。

控除の計算方法③社会保険料

勤務先の所在都道府県によって異なりますが、社会保険料の割合は年収によって大きな変動はありません前述の「所得税」でも触れましたが、健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険などを含めた社会保険料は、年収の約15%にあたります

つまり、世帯年収400万円の場合は60万円と考えることができます。

標準報酬月額の等級1~32の場合、厚生年金保険料率は18.3%で固定されており、会社負担分を除く9.15%が、毎月の給与から天引きされます

また、健康保険料率は勤務先の所在都道府県によって異なります。たとえば東京都6)では、介護保険第2号被保険者に該当しない場合は9.81%、介護保険第2号被保険者に該当する場合は11.45%となります。なお、健康保険料も会社と折半されるため、この半分を個人が負担することになります。

簡単に手取り額を計算する方法もある

画像: 画像:iStock.com/shih-wei

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手取り額の詳しい計算方法をご紹介しましたが、税金や社会保険料の計算方法は複雑なものが多いことに加え、扶養家族の有無などの条件によって計算方法が変わります

そもそも、給与明細の「控除」欄を確認すれば、税金や社会保険料の控除額がわかるわけですから、あえて自分で計算する必要はないともいえるでしょう。

とはいえ給与明細が手元にない場合や、将来希望する月収や年収から手取り額をイメージしたい場合などもあると思います。

そこで覚えておくと便利なのが、額面からおおよその手取り額を導き出す計算式です。一般的な会社勤めの場合、「額面のおよそ75%~85%」が手取り額になるとされています。つまり、以下の計算式を使えば、額面からおおよその手取り額が計算できるわけです。

おおよその手取り額=額面×0.75~0.85

想定される月収や年収から、おおまかな手取り額を知りたいのであれば、こちらの計算式を使うことをおすすめします。

月収を基準とする手取り額シミュレーション

ここでは、先述した簡単な手取り額の計算方法を使った、月収の額面を基準とする手取り額のシミュレーションをご紹介します。まずは20代前半で多く見られる月収(額面)に対する金額とともに、早見表もご紹介します。

●月収(額面)が18万円の場合

基本給に諸手当をプラスした月収の額面が18万円の場合に導き出される手取り額は、

18万円×0.75~0.85=13万5,000~15万3,000円

となります。

●月収(額面)が20万円の場合

基本給に諸手当をプラスした月収の額面が20万円の場合に導き出される手取り額は、

20万円×0.75~0.85=15万~17万円

となります。

●月収(額面)が22万円の場合

基本給に諸手当をプラスした月収の額面が22万円の場合に導き出される手取り額は、

22万円×0.75~0.85=16万5,000~18万7,000円

となります。

参考までに、以下に月収の額面からおおよその手取り額がわかる早見表をご紹介しますので、ご参照ください。

〈表〉月収の手取り額早見表

月収の額面おおよその毎月の手取り額
18万円13万5,000~15万3,000円
20万円15万~17万円
22万円16万5,000~18万7,000円
24万円18万~20万4,000円
26万円19万5,000~22万1,000円
28万円21万~23万8,000円
30万円22万5,000~25万5,000円
35万円26万2,500~29万7,500円
40万円30万~34万円
45万円33万7,500~38万2,500円
50万円37万5,000~42万5,000円

なお、月収ごとの手取り額や適切な生活費について詳しく知りたい人は、以下の記事も併せてご参照ください。

【関連記事】手取り15万円の生活費の目安は? 適切な家賃や節約のコツについて詳しくはコチラ

【関連記事】手取り月収20万円の額面や年収は? 適切な家賃や貯金額の目安について詳しくはコチラ

【関連記事】手取り月収25万円の額面や年収は? 適切な家賃や貯金額の目安について詳しくはコチラ

【関連記事】手取り月収30万円の額面や年収は? 適切な家賃や貯金額の目安について詳しくはコチラ

年収を基準とする手取り額シミュレーション

毎月の月収にボーナスを加えた年収の額面からおおよその手取り額を導き出すための計算式も、月収の場合と変わりません。

●年収(額面)が400万円の場合

年収の額面が400万円の場合に導き出される年間の手取り額は、

400万円×0.75~0.85=300万~340万円

となります。

●年収(額面)が500万円の場合

年収の額面が500万円の場合に導き出される年間の手取り額は、

500万円×0.75~0.85=375万~425万円

となります。

●月収(額面)が1,000万円の場合

年収の額面が1,000万円の場合に導き出される年間の手取り額は、

1,000万円×0.75~0.85=750万~850万円

となります。

参考までに、以下に年収の額面からおおよその手取り額がわかる早見表をご紹介しますので、ご参照ください。

〈表〉年収の手取り額早見表

年収の額面おおよその年間手取り額
250万円187万5,000~212万5,000円
300万円225万~255万円
350万円262万5,000~297万5,000円
400万円300万~340万円
450万円337万5,000~382万5,000円
500万円375万~425万円
550万円412万5,000~467万5,000円
600万円450万~510万円
650万円487万5,000~552万5,000円
700万円525万~595万円
750万円562万5,000~637万5,000円
800万円600万~680万円
850万円637万5,000~722万5,000円
900万円675万~765万円
950万円712万5,000~807万5,000円
1,000万円750万~850万円

ボーナスの手取り額の計算方法は?

画像2: 画像:iStock.com/Yusuke Ide

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一般的に夏と冬の年2回支給されるボーナス(賞与)も給与に含まれるため、毎月支給される給与と同様に、税金や社会保険料が差し引かれます。つまり、ボーナスの手取り額も以下の計算式で導き出すことができるわけです。

ボーナスの手取り額=額面-控除(税金+社会保険料)

ボーナスから差し引かれる税金や社会保険料は?

ボーナスの額面から差し引かれる控除は、以下の5つです。

〈表〉ボーナスから差し引かれる控除

税金所得税
社会保険料健康保険料
雇用保険料
厚生年金保険料
介護保険料

通常の給与の場合と比べ、住民税が含まれていない点に注意してください。

ボーナスのおおよその手取り額を知りたい場合は、月収や年収の場合と同様、額面の75~85%を目安にしてもいいでしょう

また月収や年収の場合と同様に、ネットの手取り額計算ツールを使えば、ボーナスの手取り額を簡単に計算することもできます。なお、ボーナスの手取り額の計算方法は、以下の記事で詳しくご紹介していますので、興味がある人はぜひご参照ください。

【関連記事】ボーナスにかかる税金はどのくらい? 手取り額の計算方法や社会保険料についても解説

年金の手取り額の計算方法は?

画像: 画像:iStock.com/RomoloTavani

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定期的に届くねんきん定期便には、将来受け取ることができる年金の金額が記されています。しかし、この金額も実は額面なので、実際にもらえる手取り額とは異なります。

毎月の給与やボーナスと同様、年金の手取り額も、以下の計算式で導き出すことができます

年金の手取り額=額面-控除(税金+社会保険料)

年金から差し引かれる税金や社会保険料は?

年金から差し引かれる控除は以下の4つです。

〈表〉年金から差し引かれる控除

税金所得税
住民税
社会保険料国民健康保険料(75歳未満)または後期高齢者医療保険料(75歳以上)
介護保険料

このうち税金については、公的年金控除7)の対象となるため65歳未満は60万円、65歳以上は110万円以上が課税対象となります。

たとえば65歳以上で150万円の年金収入がある場合には、150万円−110万円=40万円が課税対象となるわけです。さらに配偶者控除や基礎控除などもあるため、年金額によっては全額控除対象となる場合もあります。また、65歳以上の年金生活者で年金の受給額が158万円以下の場合、住民税は非課税となります

社会保険料については、自治体によって計算方法が異なるため、詳しく知りたい場合はお住まいの自治体のウェブサイトを参照するか、担当部署に確認してみましょう。

このように年金の手取り額の計算方法は、年齢や年収によって細かく変わります。詳しく知りたい場合は、税理士などの専門家にご相談ください。

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額面と手取り額の関係を理解し、今後のライフプランに役立てよう

ご紹介したように、額面と手取り額には大きな差があります。転職サイトなどに記載されている給与は、多くの場合額面になっているため、その金額を手取り額と考えて試算してしまうと、ライフプランにも影響が出てしまいます。額面と手取り額の違いを理解すれば、より明確なライフプランが立てられるでしょう。

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