この記事では、税理士の植野正子さん監修のもと、還付金がいつ戻ってくるのかを解説。併せて還付申告の方法や支払われない場合の対処法を解説します。
この記事の監修者
植野 正子(うえの まさこ)
税理士。植野正子 税理士事務所代表。税理士業と並行して執筆活動も活発に行なっており、著書に『個人事業の始め方 手順と届出・経理』『これだけは知っておきたい「副業」の基本と常識』(ともにぱる出版)など多数。
還付金はいつ戻ってくる?
還付金とは、所得税の納めすぎなどの理由により、納税者へ返還されるお金のことをいいます。源泉徴収された所得税額、または予定納税を行った所得税額が、年間の所得額から計算した所得税額よりも多い場合に、確定申告を行うことで納めすぎた金額分が還付金として返還されます。
では、還付金はいつ戻ってくるのでしょうか。結論からいうと、還付金が戻ってくるタイミングは、確定申告書の提出の仕方によって異なります。
まず、郵送や税務署の窓口で確定申告した場合は、提出から還付金の振り込みまでに1カ月~2カ月程度かかります。一方、e-Tax(国税電子申告・納税システム)で確定申告を行った場合は、もう少し早くなり、提出から2〜3週間程度で振り込まれます1)。
なお、確定申告をしないとどうなるかについては、以下の記事でご紹介しています。気になる人は、併せて確認してみてください。
参考資料
訂正申告を行うと還付金の受け取り時期が遅くなる
「訂正申告」とは、1度提出した確定申告書に誤りがあった際に、申告期限内に再度確定申告書を提出することです。訂正申告を行った場合は、還付金の振り込みが遅れる可能性があります。確定申告書を作成する際は、ミスがないよう注意しましょう。
なお、確定申告がいくらから必要かについて、以下の記事でご紹介しています。興味がある人は確認してみてください。
確定申告における還付額の計算方法
還付金は、以下の計算式で算出することができます2)。
〈表〉還付金の計算手順
STEP1 | 収入額を求める | 1月から12月までの収入の合計(源泉徴収票の支払額) |
---|---|---|
STEP2 | 合計所得を求める | 収入額 − (給与所得控除額 + 経費) |
STEP3 | 課税所得額を求める | 合計所得額 − 所得控除額 |
STEP4 | 課税所得額に対応する税率と控除額を調べる | 国税庁のウェブサイトで確認する |
STEP5 | 所得税額を求める | ①所得税額 = (課税所得額 × 税率 − 控除額) × 1.021 ②復興特別所得税額 = 所得税額 × 2.1% ③所得税額 = (① + ②) |
STEP6 | 還付金を求める | 源泉徴収額 − 所得税額 |
会社員の場合、上記のような手続きは年末調整で会社が行うのが一般的です。しかし、以下の所得控除があるような場合は、自分で確定申告をしなければいけません3)。
①会社員で年収が2,000万円以上ある場合
②副業所得が年20万円以上ある場合
③医療費控除や住宅ローン控除などを受ける場合
④個人事業主で年48万円以上の所得がある場合
実際に還付金をシミュレーションしてみよう
例として、以下の個人事業主の場合の還付額を計算してみましょう。
- 年間の所得額が400万円
- 災害減免額と源泉徴収税額へ明記する必要がない
- 予定納税額は40万円
本来の所得税額を求め、予定納税額から引いた金額が還付額です。具体的な計算方法は、以下のとおりです。
〈表〉還付金の計算手順
STEP1 | 収入額を求める | - |
---|---|---|
STEP2 | 合計所得を求める | 400万円 |
STEP3 | 課税所得額を求める | 278万円 = 400万円 − 122万円 |
STEP4 | 課税所得額に対応する税率と控除額を調べる | 税率:10% 控除額:9万7,500円 |
STEP5 | 所得税額を求める | ①30万2,500円 = 400万円 × 10% − 9万7,500円 ②6,252円 = 30万2,500円 × 2.1% ③30万8,752円 = 30万2,500円 + 6,252円 |
STEP6 | 還付金を求める | 9万1,248円 = 40万円(予定納税額) − 30万8,752円 |
なお、上記のように計算する方法もありますが、会計ソフトを使えば、簡単に所得税額や還付額を求めることもできます。
参考資料
還付金を受け取る方法は2つ
還付金を受け取る方法は、以下のどちらかを指定しなければなりません。
それぞれについて詳しく解説します。
①口座振り込み
還付金は指定の口座に振り込んでもらえます。手続き方法は、確定申告の際に「還付される税金の受け取り場所」の欄に希望の口座を記入するだけです4)。日本にあるほぼすべての金融機関が利用できます。
ただし、振り込み先に指定できるのは、申請している本人名義の口座のみです。また、一部のインターネット専用銀行は指定できないため、注意しましょう。
ほかにも、通帳の名義に事務所名や店名などの屋号が含まれている場合は、振り込みできない場合があります。
②ゆうちょ銀行の窓口
還付金は、ゆうちょ銀行の窓口でも受け取れます。手続き方法は「還付される税金の受け取り場所」に、ゆうちょ銀行の店舗名を記入するだけです5)。
還付金を受け取りに行くタイミングは、税務署から振り込み日が記載されたハガキが届いてからです。受け取りの際には、運転免許証やマイナンバーカード、健康保険証など、本人確認ができる書類を必ず持参しましょう。
参考資料
還付金が振り込まれない時に確認するべきこと
確定申告後、なかなか還付金が振り込まれないと不安になるかもしれません。所得税の還付金はすぐに納税者に還付されるものではなく、ある程度時間がかかるものです。特に、確認に時間がかかる書面で提出した場合や、確定申告をする人が集中する3月などは、通常より還付処理に時間がかかり入金が遅れることもあります。
まずは、還付金が入金されるまでのだいたいの目安(前述)を確認して、目安の範囲内であれば、まだ手続き中と考えて少し様子を見ておきましょう。
目安をすぎても還付金が振り込まれない場合は、手続きが滞っている、または見落とされているなど、様々な状況が考えられます。2カ月以上経っても還付金が振り込まれない場合は、状況を確認するためにも、一度管轄の税務署(確定申告書を提出した税務署)に問い合わせることをおすすめします。
確定申告の還付金が発生する5つのケース
ここまで還付金の振り込み時期や計算方法をご紹介しましたが、改めて確定申告で還付金が発生するケースを確認しておきましょう。主に以下の5つが考えられます。
それぞれ詳しくご紹介します。
①予定納税で本来よりも多く所得税を納めていた場合
予定納税とは、前年の所得額をもとに計算した予定納税基準額が15万円以上の場合に納める税金です6)。つぎの確定申告までに、所得税を7月と11月に前払いで支払わなければなりません。
年末の確定申告で実際の所得税を計算し、予定納税を含めた1年間の税額が本来の所得税額よりも多かった場合は、還付金の申請をしましょう。主に個人事業主に該当者が多い傾向があります。
参考資料
②源泉徴収額が本来の納税額を超えている場合
源泉徴収額が本来の納税額を超えている場合も、還付金が振り込まれます。源泉徴収は、会社員や年金受給者だけでなく、事業所得を得ている人が対象です。
源泉徴収とは、簡単にいうと所得税の前払いのことです。正確な所得税額は1年が終わらないとわからないため、ほとんどの場合で源泉徴収額と実際の所得税額に差が出ます。
ただし、株式の配当金や預貯金による利子所得などは分離課税の対象となるため、源泉徴収からは除きます。
③青色欠損金の繰戻しをする場合
個人事業主で青色申告を行っている場合、欠損金(※1)の繰戻しで還付金が受け取れる可能性があります。「繰戻し還付」と呼ばれる、今年度の純損失を前年度に発生しているものとして、所得税の還付金を受け取れる制度です。
繰戻し還付をすると、前年度に納めた税金が還付金として本年度に払い戻されます。純損失は翌年以降の3年間にわたって繰越すことが一般的ですが、経営の資金繰りが厳しい場合は利用する価値のある制度です。
※1:税法上の赤字であり「益金 - 損金」の計算結果がマイナスとなった場合の金額のこと。
④医療費を基準より多く支払った場合
1年間で多額の医療費を支払った場合は、医療費控除が適用され還付金を受け取れる可能性があります。
医療費控除が適用されるのは、多くの場合、支払った医療費の合計が10万円を超えた場合です7)。医療費控除が適用される年には、健康保険組合から「医療費通知」が届きます。通知書には1年間で支払った医療費が明記されています。なお、もしも医療費に対する民間保険の保険金が下りている場合、該当する医療費から差し引くことになります。
さらに、医療費控除は、通院にかかった交通費も対象(ただし、自家用車のガソリン代は対象には含まれない)です8)。医療費が10万円を超えていない場合でも、交通費を合わせて10万円を超えていれば控除申請が可能です。交通費の明細は必ず保管しておきましょう。
なお、民間の保険に加入している場合、保険料控除を受けることができます。以下の記事でご紹介しているので、併せて確認してみてください。
⑤住宅ローン控除を受ける場合
1年間のうちに、マンションや戸建て住宅に関する以下の項目に該当する人は、住宅ローン控除の対象となる場合があります9)10)。
- マイホームを住宅ローンで購入した人:住宅借入金特別控除
- 自宅の省エネ改修工事をローンで行った人:特定増改築等住宅借入金等特別控除
住宅関係の控除を受ける際は、ローンを組んだ1年目のみ確定申告が必要です。2年目以降は、年末調整の前に税務署から「給与所得者の(特定増改築)住宅借入金特別控除計算書」が送付されます。保険の控除ハガキなどと同じように、この明細書の該当年分と金融機関から届く「年末残高証明書」を職場に提出すれば手続きは完了します。
なお、確定申告と住宅ローン控除ついては、以下の記事で詳しくご紹介しています。興味のある人は、併せて確認してみてください。
【関連記事】確定申告と住宅ローン控除について、詳しくはコチラ
状況別の確定申告の要否や、申請時に注意するポイントなどについては以下の記事をご覧ください。
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確定申告や年末調整をきちんと行って還付金を受け取ろう
確定申告をし忘れてしまうと罰則がある上、還付金も受け取れません。手間に感じることもあるかもしれませんが、納めすぎてしまった税金が戻ってくる重要な手続きのため、必ず確定申告をするようにしましょう。