この記事では、ファイナンシャルプランナーのタケイ啓子さん監修のもと、遺族年金がもらえないケースを徹底解説します。また、遺族年金の受給要件や支給される年金の計算方法、遺族年金の申請の方法もご紹介。併せて、遺族年金と老齢年金の関係や、遺族年金がもらえなかった時に利用できる給付金制度も解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
この記事の監修者

タケイ 啓子(たけい けいこ)
ファイナンシャルプランナー(AFP)。36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。
遺族年金がもらえない2つのケース

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はじめに、日本の公的年金制度は、「2階建て」といわれますが、遺族年金も同様です。1階部分となる国民年金に属する「遺族基礎年金」と2階部分となる厚生年金に属する「遺族厚生年金」の2種類で構成されています。
〈図〉遺族年金の種類

遺族基礎年金とは、国民年金の被保険者または老齢基礎年金の受給資格を満たしている人が亡くなられた時に支給されるもので、会社員や公務員、または個人事業主などが支給される遺族年金です。
一方、遺族厚生年金は、遺族年金の2階部分にあたる年金で、会社員や公務員、もしくは過去に会社員や公務員であった人で一定要件を満たしている場合に支給されます。また、亡くなられた人が1級または2級の障害厚生年金を受給していた場合も対象となります。
では、遺族年金はどんな時に受給できないのでしょうか。遺族基礎年金と遺族厚生年金共通で受給できないのは、以下の2つに該当する場合です。
それぞれのケースを詳しく解説します。
亡くなられた人と生計をともにしていなかった
前提として、遺族基礎年金と遺族厚生年金のどちらも、亡くなられた人によって生計を維持されていた遺族が受け取ることができます1)。具体的には、遺族が以下の2つの受給要件を満たす必要があります。
①前年の年収が850万円未満、あるいは前年所得が655万5,000円未満
②亡くなられた人と生計をともにしていた
①のように遺族に十分な収入があると判断される場合は、亡くなられた人によって生計を維持されていたとは見なされません。また②については、別居中であっても仕送りをしていたり、健康保険の扶養家族に入っていたりする場合は、生計を同じにしていたと認められます2)。
参考資料
亡くなられた人が一定期間以上、保険料を納めていなかった
遺族年金を受け取るには、亡くなられた人が一定期間以上保険料を納付している必要があります。具体的には、以下3つの受給要件のうちいずれかを満たさなければなりません3)。
〈表〉遺族年金の納付要件
亡くなられた人の要件 | 保険料の納付要件 |
---|---|
国民年金または厚生年金の被保険者が亡くなられた。 | 亡くなられた人が納付期間(20歳から亡くなられた日まで)において2/3以上保険料を納めている。 |
国民年金または厚生年金の被保険者だが、以下の要件を満たしていない。 (亡くなられた日が令和8年3月末日まで、亡くなられた人が65歳未満) | 亡くなられた日の前々月まで過去1年間、保険料を支払っている。 |
亡くなられた人が老齢年金の受給権者である。 | 保険料の納付済期間や免除期間、合算対象期間の合計が25年以上である。 |
なお、国民年金は過去2年間にさかのぼって追納できます。亡くなられた人が保険料を未納・滞納していると遺族年金をもらえないため、注意しましょう。
遺族基礎年金は18歳未満の子どもがいないともらえない

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前提として、遺族基礎年金を受給するには、亡くなられた人の家族に子どもがいなければなりません。子どもとは、以下2つのうちいずれかを意味します。
- 18歳到達年度の3月31日を通過していない人
- 20歳未満かつ障害年金の障害等級が1級または2級である人
配偶者のみ、または子どもがいても18歳以上の場合は遺族基礎年金を受給できません。なお、子どもの年齢が18歳になる年度末を超えた場合は、遺族年金をもらえなくなります3)。
また、遺族基礎年金の受給者が結婚したり、亡くなられたりした場合や、就職によって生計を維持できる状態になった場合も受給できなくなります。その場合は、14日以内に遺族年金失権届を提出しなければなりません4)。
遺族厚生年金は年齢制限を満たしていないともらえない

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一方、遺族厚生年金は、亡くなられた人に生計を維持されていた遺族であれば、夫や父母、祖父母でも受給が可能です。ただし、夫や父母、祖父母は生計を維持していた人が亡くなられた時点で55歳以上であることが受給要件です。また、年齢制限を満たしていても、支給の開始は60歳からになります。
妻には年齢制限がありませんが、30歳未満で子どもがいない場合の受給期間は5年間のみです。子どもは遺族基礎年金と同様で、18歳になる年度末を超えると受給権を失います3)。また、年金を受け取っている人が死亡や結婚した場合は、10日以内に遺族年金失権届を提出しなければなりません。
なお、遺族厚生年金の詳しい受給要件については以下の記事でご紹介しています。併せて参考にしてみてください。
【関連記事】遺族年金とは? もらえる要件や金額の目安を解説、詳しくはコチラ
遺族年金はいくらもらえる? 種類別に考え方を解説

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では遺族年金は、いくらもらえるのが一般的なのでしょうか。遺族年金の受給金額は、種類によって異なりそれぞれ以下の特徴があります。
それぞれの受給金額と計算方法を詳しく解説します。
遺族基礎年金は、「77万7,800円+子どもの数に応じた加算額」で算出
遺族基礎年金の年間受給金額は77万7,800円をベースとして、子どもの数に応じて金額が加算されます3)。つまり、子どもの数によってもらえる年間受給金額が決まります。以下の表が、子どもの数による年間受給金額です。
〈表〉遺族基礎年金の年間受給金額
家族構成 | 年間受給金額 |
---|---|
配偶者+子ども1人 | 100万1,600円 |
配偶者+子ども2人 | 122万5,400円 |
配偶者+3人以上の子ども | 122万5,400円+(7万4,600円×3人目以降の子どもの数) |
なお、遺族基礎年金は亡くなられた人の配偶者が受け取ることが多いですが、もし配偶者がいない場合などは、亡くなられた人の子どもが受け取ることになります。子どもが受け取る場合には、「77万7,800円+子どもの数に応じた加算額」を受給できます。子どもの数に応じた加算額は、2人までは22万3,800円、3人目以降の場合は1人当たり7万4,600円です。
遺族厚生年金は、加入期間や過去の報酬によって決まる
一方、遺族厚生年金の受給金額は、亡くなられた人の年金の加入期間や過去の報酬によって決まります。遺族基礎年金とは異なり、子どもの数による加算はありません。計算方法は以下のとおりです4)。
〈表〉遺族厚生年金の受給金額の計算方法
亡くなられた人の老齢厚生年金の報酬比例部分×3/4 |
つまり、亡くなられた人の平均給与が高いほど、受け取れる金額が高くなります。報酬比例部分とは、遺族厚生年金に限らず厚生年金全般の計算の基礎になるものです。報酬比例部分の計算は複雑なのでねんきん定期便やねんきんネットを参考にしてみましょう。また、毎年1回、誕生月にハガキまたは封書形式で届く書類や日本年金機構のウェブサイトを見ると、加入期間や現時点での年金額がわかります。
なお、ねんきん定期便やねんきんネットの見方については、以下の記事でもご紹介しているので、興味のある人は確認してみてください。
【関連記事】ねんきん定期便やねんきんネットの見方について、詳しくはコチラ
遺族基礎年金と遺族厚生年金どちらももらえる?

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遺族基礎年金と遺族厚生年金は、受給要件も金額も、受給期間も異なる別の制度です。よって、要件さえ満たせば、両方とも受給することができます。
たとえば、18歳未満の子どものいる妻が、生計を維持していた会社員の夫に先立たれた場合には、「子どものいる配偶者」なので遺族基礎年金が受け取れます。また、「亡くなった夫が会社員で厚生年金加入者」なので遺族厚生年金も受け取れるというわけです。
では、子どもが18歳の年度末を過ぎたらどうなるのでしょうか。その場合、遺族基礎年金は受け取れなくなりますが、妻が40~65歳であれば、遺族厚生年金に中高齢寡婦加算(※1)が58万3,400円プラスされます。このように手厚い保障が受けられるのが特徴です。
なお、以下の記事では遺族年金の受給金額についてより詳しく解説しているので、併せて確認してみてください。
【関連記事】遺族年金はいくら受け取れる? もらえる金額について、詳しくはコチラ
※1:夫を亡くした40歳以上の妻が、子どもがいない、または末子の年齢が18歳到達年度末日を通過している場合に、遺族厚生年金に加算されるものです。要件を満たしている妻が受給できる金額は、遺族基礎年金の満額の3/4相当です。 年金額改定によって毎年金額が変わります。
参考資料
遺族年金の受給手続きの方法を2ステップで解説

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遺族年金の受給手続きの方法は、大きく以下の2ステップに分けられます。
それぞれ詳細を解説します。
STEP1.請求時の必要書類を揃える
遺族年金を請求する時には、年金請求書が必要です。遺族基礎年金と遺族厚生年金では、年金請求書の様式が異なります。年金請求書は、お住まいの市区町村の窓口や年金事務所、年金相談センターなどで受け取れます。
また、年金請求書に加えて、いくつかの添付書類も必要です。具体的には、以下の書類の提出が求められます6)。
〈表〉遺族年金請求時の必要書類
● 基礎年金番号通知書 ● 戸籍謄本 ● 世帯全員の住民票の写し ● 亡くなった人の住民票の除票(世帯全員の住民票の写しに記載がある場合は不要) ● 請求者の収入を確認できる書類 ● 子どもの収入を確認できる書類 ● 死亡診断書のコピー ● 受取先金融機関の通帳 |
上記の書類以外にも、亡くなった原因や状況によっては、さらに書類が必要なケースもあります。
参考資料
STEP2.加入年金に合わせて遺族年金を請求する

画像:iStock.com/takasuu
遺族年金の申請に必要な書類が集まったら、加入している年金に合わせて書類一式を提出します。遺族基礎年金はお住まいの市区町村の窓口に、遺族厚生年金は年金事務所または年金相談センターに提出しましょう。
なお、必要書類の多くはマイナンバーカードがあれば提出不要になります7)。詳しく知りたい人は、年金事務所または年金相談センターに聞いてみることをおすすめします。
(コラム)年金受給者が亡くなられた場合は?
年金受給者が亡くなられた場合は、年金を受け取る権利がなくなるので、受給権者死亡届の提出が必要です。ただし、日本年金機構にマイナンバーが登録されている人は、原則、提出する必要はありません。
死亡届の提出先は、年金事務所または年金相談センターです。提出が遅れて年金を多く受け取った場合は、その金額を返す必要が出てくるので、可能な限り速やかに提出しなければなりません7)。
遺族年金がもらえなかった時の代わりとなる給付金

画像:iStock.com/maruco
遺族年金が受給できるといっても、これまで家計を維持していた人が亡くなられた場合は、当然、家計が受ける影響も小さくないはずです。ここからは、遺族年金以外で利用できる制度を解説します。
家計を維持していた人が亡くなられた場合、遺族年金以外で利用できる制度は以下の3つです。
それぞれについて見ていきましょう。
①死亡一時金
死亡一時金は、亡くなられた人の遺族が受け取れる給付金です。第1号被保険者として3年以上保険料を納めた人が、年金を受給せずに亡くなられた場合に受け取れます。第1号被保険者とは、個人事業主やほかの年金に加入していない配偶者などを指します。
死亡一時金を受け取ることができるのは、亡くなられた人と生計をともに維持されていた遺族です。以下の優先順位で受給の対象となります。また、優先順位が低い人は受給できない場合もあります。
〈表〉死亡一時金を受け取れる遺族
・配偶者 ・子 ・父母 ・孫 ・祖父母 ・兄弟姉妹 |
死亡一時金は、亡くなられた翌日から2年以内に請求可能です。給付額は保険料納付月数により変わります。具体的な給付額を以下の表にまとめました。
〈表〉保険料納付期間と死亡一時金給付額
保険料納付期間 | 死亡一時金給付額 |
---|---|
3年以上15年未満 | 12万円 |
15年以上20年未満 | 14万5,000円 |
20年以上25年未満 | 17万円 |
25年以上30年未満 | 22万円 |
30年以上35年未満 | 27万円 |
35年以上 | 32万円 |
なお、付加保険料(※2)を3年以上納付していた場合は、8,500円が加算されます8)。
※2:国民年金の保険料は定額ですが、このほかに月額400円を納めると、老齢基礎年金に付加年金が上乗せされます。この保険料を付加保険料といいます。
参考資料
②寡婦年金
寡婦年金とは、夫が老齢年金を受給する前に亡くなった場合に、夫が受け取るはずだった年金の一部を受給できる制度です。受け取れる金額は、夫の第1号被保険者期間だけで計算した老齢基礎年金額の3/4です。支給期間は、妻が60歳から65歳になるまでの5年間です。
寡婦年金の受給要件は、亡くなられた人と10年以上継続して婚姻関係にあり、第1号被保険者として10年以上国民年金を納めていることです9)。
死亡一時金と寡婦年金の両方を受け取れる場合は、どちらかを選ぶ必要があります。なお、妻が老齢基礎年金を繰上げ受給した場合は受け取れません。
参考資料
③労災保険による補償

画像:iStock.com/Gyro
配偶者の亡くなられた原因が労災(労働災害)である場合、労災保険による補償が受けられます。労災保険とは、従業員を1人以上雇っている事業者に、加入が義務付けられている保険です。従業員が仕事中や通勤途中の事故などで亡くなられた場合、遺族に対し補償金が支給されます。
労災保険で遺族がもらえる給付金は3種類です。遺族特別給付金は一律300万円、遺族(補償)年金や遺族特別年金は、遺族の数に応じて給付額が決まります10)。
参考資料
10)厚生労働省「労災補償」
あらかじめ遺族年金がもらえるケースを把握しておこう

画像:iStock.com/metamorworks
遺族年金には遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類あり、それぞれもらえる要件が異なります。遺族基礎年金を受給できるかどうかは子どもの有無によって変わります。一方で、遺族厚生年金は子どもがいなくても受給できますが、優先順位や年齢の制限があることが特徴です。
遺族年金は遺された家族の生活を支える重要な制度です。自分が遺族年金をもらえるかどうか、もらえる場合いくら受け取れるのかを理解することで、生活の見通しが立てやすくなるでしょう。
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