そこで今回は、ファイナンシャルプランナーの荒木千秋さん監修のもと、医療費控除でお金がいくら戻るのか、対象となる費用や計算方法、申請方法を徹底解説します。また、所得金額別に還付金額をシミュレーションし、医療費控除を利用する際の注意点もご紹介。
この記事を読めば、医療費控除への理解を深められるでしょう。医療費控除でお金がいくら戻るのか気になっている人は、ぜひ最後までご覧ください。
医療費控除とは? 納め過ぎた税金の一部が戻ってくる制度
医療費控除1)とは、1年間に支払った医療費が一定の金額を超えた場合、確定申告をすることで、納めた所得税の一部が「還付金」として戻ってくる「所得控除」の制度です。
原則として医療費控除の申請は、医療費を支払った翌年の確定申告の期間内に行わなければいけません。これは、医療費控除の申請が確定申告の一部に含まれるためです。
ただし、会社員のように本来確定申告をしなくてもよい人であれば、確定申告期間より前でも申告することができます。また、申告を忘れてしまっても5年前までさかのぼることが可能です。
ちなみに所得控除とは、所得税額を計算する時に個人の事情を加味する制度です。状況に合わせて活用すれば納税時の負担を減らすことができ、払い過ぎた税金があった場合に還付金を受け取れます。
控除額は支払った医療費をもとに算出します。医療費控除で実際にいくら還付されるかは、所得金額や保険金などで補填される金額によっても変わります。
Column「そもそも『控除』とは」
「控除」とは所得税のしくみの中でどういった意味で使われる言葉なのか、補足として簡単に解説します。
所得税とは、「所得」に対して課せられる税金のことをいいます。ここで注意しておきたいのが、「収入」「所得」「課税所得」の違いです。受け取ったすべての収入額に対し、収入を得るためにかかった経費を差し引いたものが「所得」となり、この「所得」からさらに差し引く額のことを「控除(所得控除)」と呼びます。所得税は、この金額を差し引いた「課税所得」をもとに計算されます。
〈図〉収入と所得、課税所得の関係
医療費を対象とした「医療費控除」のほか、保険料を対象とした「生命保険料控除」や扶養親族となる人がいる場合の「扶養控除」など、15種類の所得控除があります。
つまり、控除できる金額が大きいほど課税の対象になる所得額が下がるため、税金が減るわけです。
参考資料
医療費控除の対象になる費用
一定額以上の医療費を支払った際に適用される医療費控除ですが、対象となる費用にも決まりがあります。医療費控除の対象となる費用は、主に以下のとおりです。
〈表〉医療費控除の対象となる費用2)
● 医師または歯科医師による診察・治療の料金 ● 治療・療養に必要な医薬品の購入代金 ● 病院や診療所、介護施設や助産所に収容される際の人件費 ● あん摩マッサージ指圧師、はり師やきゅう師、柔道整復師による治療のための施術の料金 ● 保健師、看護師または准看護師、特に依頼した人※による療養の料金 ● 助産師による分娩介助の料金 ● 介護保険などの制度で提供された施設・居宅サービスの自己負担額 ● 診療を受けるために必要な通院費や送迎費、入院時の部屋代や食事代、医療用器具購入費 ● 診療や治療を受けるために必要となる義手や義足、松葉杖や補聴器、義歯や眼鏡の購入代金 |
自分自身、または自分と生計が同じである配偶者や親族のために医療費を支払った場合は、医療費控除の対象となります。診察・治療費や医薬品購入代金などはもちろん、通院費や医師などの送迎費も計上できます。
交通費の扱いに関して詳しく知りたい人は、下記の記事も併せてご覧ください。医療費控除の対象となる交通費を詳しく解説しています。
【関連記事】交通費は医療費控除の対象になる? 対象となる条件など詳しくはコチラ
参考資料
※「特に依頼した人」とは、家政婦に付き添いを依頼した場合などが含まれます。
医療費控除の対象にならない費用
一方で、医療費控除を活用する際には対象とならない費用も把握しておくとよいでしょう。医療費控除の対象とならない費用は、主に以下のとおりです。
〈表〉医療費控除の対象とならない費用2)
● 健康診断の費用 ● 医師などに対する謝礼金 ● 病気の予防や健康増進を目的として使われる医薬品の購入代金(ビタミン剤など) ● リラクゼーション目的の施術料金 ● 家族や親類縁者に病人の付き添いを頼んだ際の付添料金 ● 自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車場代 ● 通院時のタクシー代(公共交通機関が利用できない場合は医療費控除の対象) |
病気の直接的な診療や治療でない場合、医療費控除の対象とはならない傾向にあります。また、通院時にかかる費用であっても、自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車場代は対象外なので注意が必要です。
なお、付添人の費用については付き添いが必要な場合に限り、交通費のみ対象となります。詳しくは以下の記事で紹介しているので、併せてご覧ください。
【関連記事】医療費控除の対象となる交通費について詳しくはコチラ
医療費控除の計算方法を4ステップで解説
医療費控除の還付金額の計算方法は以下の4ステップです。
計算の流れ
【STEP1】1年間に支払った医療費を計算する
【STEP2】医療費控除対象額を計算する
【STEP3】所得税率を確認する
【STEP4】医療費控除対象額に所得税率をかける
それぞれ詳しく解説します。
【STEP1】1年間に支払った医療費を計算する
最初にすることは、1年間に支払った医療費の計算です。医療費控除の対象とはならない費用に注意しつつ、対象となる費用が合計でいくらになるのか計算しましょう。
毎年1〜2月に会社から渡される、もしくは自宅に届く「医療費のお知らせ」という通知書を見れば、明細を含めた医療費の確認ができます。なお、1年間とは所得税の対象期間などと同様に、その年の1月1日から12月31日までを指します。
【STEP2】医療費控除対象額を計算する
医療費の合計がわかったら、医療費控除の対象となる金額を計算しましょう。以下の計算式で求められます。
〈図〉医療費控除対象額の計算式
所得の合計額が200万円未満の人と、それ以外の人では計算方法が異なります。いずれの場合も、医療費控除対象額の上限は200万円なので注意しましょう。
医療費から差し引かれる保険金や給付金には、民間の医療保険の入院給付金や手術給付金、公的な医療保険の高額療養費制度の払戻金、出産育児一時金などが含まれます。産休・育休中に受け取る出産手当金などは、医療費ではなく給料の代わりであるため含まれません。
【関連記事】妊娠・出産時の医療費控除について、詳しくはコチラ
また、支払った医療費が10万円以下になる可能性がある人は、下記の記事も併せてご覧ください。10万円以下でも医療費控除の申請ができる場合や、申請方法などについて詳しく解説しています。
【関連記事】医療費が10万円以下でも医療費控除の対象になる? 詳しくはコチラ
【STEP3】所得税率を確認する
医療費控除対象額が計算できたら、つぎに所得税率を確認しましょう。所得税率は課税される所得金額に応じて変わります。
会社員や公務員の人は、源泉徴収票を見れば、課税される所得金額がわかります。「給与所得控除後の金額」から「所得控除の合計額」を差し引いた金額が課税所得金額です。
〈表〉課税所得金額の算出方法
課税所得金額 = 給与所得控除後の金額 − 所得控除の合計額 |
課税される所得金額がわかったら、つぎの表に当てはめてみましょう。所得税率がわかります。
〈表〉所得税率表(平成27年分以降)3)
課税される所得金額※ | 税率 |
---|---|
1,000円〜194万9,000円 | 5% |
195万円〜329万9,000円 | 10% |
330万円〜694万9,000円 | 20% |
695万円〜899万9,000円 | 23% |
900万円〜1,799万9,000円 | 33% |
1,800万円〜3,999万9,000円 | 40% |
4,000万円〜 | 45% |
所得金額が増えるほど所得税率は高くなります。つまり、控除によって所得金額を下げることで、所得税率が下がる可能性もあるわけです。
参考資料
【STEP4】医療費控除対象額に所得税率をかける
医療費控除で戻ってくる金額は、「医療費控除対象額×所得税率」で計算できます。
〈図〉還付金の計算式
実際に還付される金額は、給与からの天引きなどによりすでに納めている税金額と、実際に納めなければならない税金額との差額です。源泉徴収税を納めていない個人事業主や自営業などの場合は、必ずしも還付金が受け取れるわけではないので、注意しましょう。
所得金額別の還付金額のシミュレーション
医療費控除によって、実際にどれほどの還付金が受け取れるのか気になる人もいるでしょう。医療費控除対象額や還付金額は、課税される所得金額によって異なります。以下では、課税される所得金額が150万円・450万円・800万円の場合に分けて、還付金額をシミュレーションします。なお、ここでは保険金や給付金はないものとして計算しています。
①所得金額が150万円の場合
所得金額が150万円の場合、医療費控除対象額と還付金額は以下のとおりです。
〈表〉所得金額が150万円の場合の、医療費控除対象額と還付金額
支払った医療費 | 医療費控除対象額 | 還付金額 |
---|---|---|
10万円 | 2万5,000円 | 1,250円 |
30万円 | 22万5,000円 | 1万1,250円 |
50万円 | 42万5,000円 | 2万1,250円 |
100万円 | 92万5,000円 | 4万6,250円 |
所得金額が200万円未満なので、医療費控除対象額は〈1年間で支払った医療費の合計〉−〈所得金額の5%〉です。すなわち、150万円の5%である7万5,000円を支払った医療費から差し引くことになります。
また、所得税率は5%なので、還付金額は〈医療費控除対象額〉×〈5%〉で計算できます。ただし、これらの数値はそのほかの控除や給付金などを考慮しない概算値です。実際の金額は個人差があるので、目安程度と考えましょう。
②所得金額が450万円の場合
所得金額が450万円の場合、医療費控除対象額と還付金額は以下のとおりです。
〈表〉所得金額が450万円の場合の、医療費控除対象額と還付金額
支払った医療費 | 医療費控除対象額 | 還付金額 |
---|---|---|
10万円 | 0円 | 0円 |
30万円 | 20万円 | 4万円 |
50万円 | 40万円 | 8万円 |
100万円 | 90万円 | 18万円 |
所得金額が450万円の場合、医療費控除対象額は〈1年間で支払った医療費の合計〉−〈10万円〉です。また、所得税率は20%なので、還付金額は〈医療費控除対象額〉×〈20%〉で求められます。医療費が10万円以下の場合は、医療費控除対象額の算出時に打ち消されてしまうので、還付金も0円です。
③所得金額が800万円の場合
所得金額が800万円の場合、医療費控除対象額と還付金額は以下のとおりです。
〈表〉所得金額が800万円の場合の、医療費控除対象額と還付金額
支払った医療費 | 医療費控除対象額 | 還付金額 |
---|---|---|
10万円 | 0円 | 0円 |
30万円 | 20万円 | 4万6,000円 |
50万円 | 40万円 | 9万2,000円 |
100万円 | 90万円 | 20万7,000円 |
所得金額が800万円の場合も、400万円の場合と同様に〈1年間で支払った医療費の合計〉−〈10万円〉で医療費控除対象額を求められます。所得税率は23%であるため、還付金額の計算式は〈医療費控除対象額〉×〈23%〉です。
450万円のパターンと比べると、所得税率が高い分、医療費が同じでも還付金額は多い傾向にあります。
医療費控除を利用する際の3つの注意点
医療費控除を利用する際は、以下の3点に注意する必要があります。
①領収書は捨てずに保管しておく
②医療費控除対象額を計算する時は保険金や給付金を差し引く
③ふるさと納税も併せて確定申告が必要
それぞれ詳しく解説します。
①領収書は捨てずに保管しておく
平成29年分の確定申告から、医療費控除の適用を受けるためには「医療費控除の明細書」が必要になりました。それに伴い、申告時に医療費の領収書の添付が不要になりました。
ただし、医療費控除の明細書に書かれた内容を確認するため、税務署から領収書の提示や提出を求められる場合があります。そのため、確定申告期限から5年間は領収書を捨てずに保管しておかなければなりません。明細書を提出することで領収書の保管を忘れてしまうことも少なくないので、注意しましょう。
②医療費控除対象額を計算する時は保険金や給付金を差し引く
繰り返しになりますが、医療費控除対象額を計算する際は、あらかじめ保険金や給付金を差し引く必要があります。医療費から差し引かなければならない金額は、以下の費用などが対象です。
- 生命保険により支給される入院費給付金
- 健康保険により支給される高額療養費や家族療養費、出産育児一時金
なお、上記の費用を差し引く際、対象はあくまで給付の目的となった医療費のみです。引ききれない金額があっても、ほかの医療費から差し引く必要はありません。自分が加入している民間の保険などを一度確かめておくとよいでしょう。
③ふるさと納税も併せて確定申告が必要
医療費控除の対象となる年にふるさと納税を行った場合、併せて確定申告をする必要があります。ふるさと納税には、確定申告が不要の「ふるさと納税ワンストップ特例」があります。ふるさと納税先の自治体数が5団体以内、かつ各自治体に申請した場合に適用される制度です4)。
しかし、医療費控除を受けるために確定申告をする場合は、ワンストップ特例制度が適用されません。すでに申請済みの場合でも適用外となり、ふるさと納税利用分すべての確定申告が必要になります。もし忘れた場合は申告漏れとなってしまうので、注意しましょう。
医療費控除の申請方法を4ステップで解説
医療費控除を申請するためには、確定申告の手続きが必要です。では、確定申告で具体的にどのように手続きをすれば、医療費控除を受けられるのか、詳しくご紹介します。
医療費控除申請の流れ
まずは、医療費控除を申請するために、確定申告の全体の流れを把握しておきましょう。確定申告から口座への入金までの流れは以下のようになります。順に解説していきます。
医療費控除を行うための確定申告の流れ
【STEP1】確定申告に必要な書類を準備する
【STEP2】確定申告書、医療費控除の明細書を作成する
【STEP3】書類ができたら、税務署に提出する
【STEP4】口座への入金を確認する
【STEP1】確定申告に必要な書類を準備する
確定申告で医療費控除を申請するために必要な書類はつぎのとおりです。
- 確定申告書
- 医療費控除の明細書
- マイナンバーカード
(持っていない場合は通知カードと本人確認書類) - 医療費の領収書(※保管しておくことを忘れずに)
確定申告書の原紙は国税局のウェブサイトから印刷するか、自治体の役所や税務署でもらいましょう。マイナンバーカードや本人確認書類も準備しておきます。
【STEP2】確定申告書、医療費控除の明細書を作成する
必要な書類が準備できたら、明細書を作成します。明細書の書き方は少し細かい作業なので後述します。なお、健康保険組合などが発行する「医療費のお知らせ」があれば、代わりに添付することで明細書の記入が省略できます。
【STEP3】書類ができたら、税務署に提出する
税務署への提出方法は3つあります。
(1)所轄の税務署に持参する
(2)所轄の税務署に郵送する
(3)国税庁のウェブサイトで作成した確定申告書をe-Tax(インターネット)で送信する
確定申告で使用した領収書類は、5年間の保管義務があるので、捨てずに必ず保管しましょう。紙面で記入した場合は税務署に持参するほか、郵送も可能です。
マイナンバーカードを持っている人は、国税電子申告・納税システム(e-Tax)のウェブサイトから送信が可能です。会計サービスとe-Taxを併用すると、オンラインで確定申告が完結できるので便利です。
【STEP4】口座への入金を確認する
口座振り込みをお知らせするハガキが届きます。内容に間違いがないか念のため確認しましょう。還付金の振り込みは確定申告後、1カ月から1カ月半程度かかると想定しておきましょう。
医療費控除の明細書の書き方
明細書は、国税庁のウェブサイトで取得できます。明細書は、「医療を受けた人」と「支払先」を分けて、それぞれ合計した金額を記入しています。
医療費通知を利用する場合は、明細書の「1 医療費通知に記載された事項」に転記します。領収書やレシートを利用する場合は、「2 医療費(上記1以外)の明細」の欄に記入していきます。事前に領収書を仕分けしておくとスムーズに記入できます。
医療費の明細の記入が終われば、控除額の計算をして終了です。
〈図〉領収書やレシートを利用する場合の医療費控除の明細書(内訳書)
〈表〉明細書に記載する項目
医療費の領収書が多い場合は、医療費集計フォームも活用してみてください。
医療費控除の申請期間を詳しく知りたい人は、下記の記事も併せてご覧ください。
医療費控除を活用しよう
医療費控除の対象となる費用や計算方法、注意点などを詳しく解説しました。所得金額別の還付金額シミュレーションでは、実際にどのくらい還付されるかイメージできたのではないでしょうか。
医療費控除は、税金の納め過ぎを防げる制度です。1年間で高額の医療費を支払ったと思う場合は、合計額を計算して医療費控除が適用されるかどうかを確認しましょう。支払った医療費の合計や所得税率によっては、相当な金額を還付される可能性もあります。医療費控除を積極的に活用し、自分が納めている税金について見直ししてみましょう。
医療費の負担が心配……そんな時はお金のプロに相談しませんか?
医療費控除の制度を利用すれば、自己負担額をある程度抑えることができますが、とはいえ医療費の負担が少ない訳ではありません。もしもの時のために、普段から貯蓄や保険を意識して備えることが大切です。
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