「海外赴任でも住民税は徴収されるの?」
などと疑問に思っている人は多いでしょう。
この記事では、ファイナンシャルプランナーの氏家祥美さん監修のもと、単身赴任中の住民税の納付先をわかりやすく解説します。納税方法や納税時の注意点、単身赴任中の税金控除制度も紹介するので、この記事を読めば住民税の納付に迷うことはなくなるでしょう。ぜひ最後まで目を通して、単身赴任中の生活に役立ててください。
この記事の監修者
氏家 祥美(うじいえ よしみ)
ハートマネー代表。ファイナンシャルプランナー・キャリアコンサルタント。子育て世帯、共働き夫婦の家計相談に豊富な実績を持ち、「幸福度の高い家計づくり」を総合的にサポートしている。オンラインでの家計相談やマネー研修も実施中。
単身赴任中の住民税の納付先は1月1日時点で住んでいる市区町村
単身赴任中の住民税は、住民票のある場所にかかわらず、その年の1月1日時点で住んでいる市区町村に納付します1)。
たとえば、1月1日時点で家族とA市に住んでいた人が、4月1日より単身赴任でB市に引っ越しをした場合、その年の住民税はA市に納めます。また、翌年の1月1日時点でそのままB市に住み続けていた場合、翌年の住民税はB市に納めます。
ただし、住民票を移したとしても、赴任前の住所にマイホームを所有している場合はその自治体から何らかの行政サービスを受けているとして家屋敷課税2)の対象となる場合があります。この場合、住民税の均等割額(5,000~6,000円程度。自治体によって異なる)を支払うことになります。
単身赴任中に住民税を納める時の4つの注意点
単身赴任中に住民税を納付する際は、以下の4点に注意するようにしましょう。
それぞれ詳しく解説します。
①単身赴任先と家族の居住地で二重課税はされない
単身赴任先と家族の居住地で、二重課税はされません。単身赴任先で住民税が課税される場合、その市区町村から家族の居住地のある市区町村に、その旨が通知されます。
2つの市区町村から住民税の請求が来た場合、市区町村の窓口に問い合わせれば片方の課税が取り消しになります3)。ただし、マイホームのある市区町村には前述の家屋敷課税、つまり住民税の均等割を支払わなければなりません。この場合、単身赴任先とマイホームのある市区町村の2カ所から請求があります。
②赴任前の市区町村に納税する場合もある
前述のとおり、住民税の納付先はその年の1月1日時点で居住していた市区町村ですが、以下のような場合には元の居住地に納税することになります。
赴任前の市区町村に納税する例
単身赴任とはいっても、月~金曜日は単身赴任先で過ごし、週末は家族が住んでいる居住地で過ごす人もいるでしょう。このような場合には、生活の拠点は家族のもとにあると判断され、住民票を移す必要はありません。そして、住民税の納付は週末を家族と共に過ごす赴任前の市区町村となります。
③海外赴任の場合は1月1日時点で日本に拠点がなければ非課税
〈図〉2022年3月から海外赴任した場合
海外赴任時の場合、1月1日時点で日本に拠点がなければ住民税は非課税になります4)。
たとえば、2022年3月から海外赴任をしたとしましょう。住民税は前年の所得に基づいて、翌年1月1日時点の居住地で課税されるので、この場合、2021年分の住民税は、2022年1月1日の居住地に納税することになります。
そして、2022年分の住民税については、2023年1月1日時点で海外赴任が継続していて日本国内に住所がない場合には課税されません。
ただし、国内にマイホームなどの住居を所有している時は、住民税の均等割(家屋敷課税)が課税されることがあります。
④ふるさと納税をする場合は、申し込み時に住民税を納付している住所の入力が必要
ふるさと納税は自分で選んだ自治体に寄附をし、その分の控除を住民税から引くことができる制度です。そのため、単身赴任をしていてふるさと納税をする場合には、申し込み時に住民税を納付している住所を入力する必要があります5)。
なお、返礼品の送付先は、住民税の納付地に限らず自由に設定することができます。単身赴任先にすることはもちろん、実家や友人宅などを指定して贈答品とすることもできるので、住民税を納付している住所以外に返礼品を送りたい場合には、その旨を寄附先の自治体に申し出ましょう。
住民税を納付している住所と、住民票の住所が異なる場合には、納税先の自治体から住民票所在地の自治体に確認が入る可能性があります。追加で手続きが必要になる場合もあるので、詳しくは納税先の自治体に確認するようにしましょう。
単身赴任中の住民税の納付方法
単身赴任中の住民税の納付方法は、単身赴任先が国内か海外かで以下のように異なります。それぞれ詳しく解説します。
国内での単身赴任の場合
国内での単身赴任の場合、住民税の納付方法は以下の2種類です。
- 特別徴収:毎月の給与から天引きし、会社が納付する
- 普通徴収:住民税の納付書が自宅に届き、自分で支払う
会社に所属している人は、特別徴収が原則6)です。給与が少なく特別徴収できない場合や、ほかの会社で特別徴収をしている場合などを除き、基本的には従業員が希望しても普通徴収は選択できません。
個人事業主や退職して年末調整を受けられなかった人は、普通徴収で納付します。6月頃に納付書が届くので、記載された金額を金融機関などから納付しましょう。
海外での単身赴任の場合
特別徴収により、給与からの天引きで住民税を納めていた人が海外に単身赴任する場合には、その年の残りの住民税を会社が一括で納付する「一括徴収」という方法があります7)。
給与から一括徴収できない場合には、出国前に全額を納付するか、国内に住んでいる家族などを「納税管理人(納税義務者に代わって税金を納付する人)」として、住んでいる市区町村に届け出ることになります。帰国後は納税管理人を解除するための届け出も必要です。
なお、特別徴収で納付していた人が海外赴任中に退職すると、普通徴収に切り替わり、その年の残りの住民税を自分で全額納付することになります。
普通徴収で住民税を納付していた場合も、“給与から一括徴収できない場合”と同じく、出国前に全額を納付するか、納税管理人をたてることになります。
住民税の計算方法
つぎに、住民税の計算方法について紹介します。住民税は、世帯の前年の所得に応じて計算される「所得割」と、所得に関係なく一律に支払う「均等割」の合計からなっており、以下の4ステップで計算できます8)。
①収入金額 − 必要経費 = 所得金額
②所得金額 − 所得控除額 = 課税所得金額
③課税所得金額 × 税率 − 税額控除額 = 所得割額
④所得割額 + 均等割額 = 住民税
上記の計算を見てわかるとおり、控除額が大きいほど、住民税は減額されることになります。所得控除や税額控除には以下のようなものがあります。
〈表〉主な控除の例9)
所得控除 | 税額控除 |
---|---|
基礎控除 配偶者控除 扶養控除 医療費控除 社会保険料控除 各種保険料控除 | 配当控除 住宅借入金等特別控除 住宅耐震改修特別控除 住宅特定改修特別税額控除 認定住宅新築等特別税額控除 |
住民税の税率は全国一律で10%(区市町村民税6% + 道府県民税・都民税4%)です。均等割額は通常5,000円ですが、市区町村によって異なります10)。
参考資料
住民税以外の単身赴任中の3つの注意点
単身赴任中は住民税以外にも、注意すべきポイントがあります。
主な注意点は以下の3つです。
①住宅ローン減税は単身赴任中も継続できる
住宅ローン減税は単身赴任中も継続して適用されます。住宅ローン減税は、年末の住宅ローンの残高に応じて所得税が減税される制度です。所得税から差し引けなかった分は、一定の範囲で住民税からも減税が受けられます。
「住宅の取得日から6カ月以内にローン契約者が居住していること」が適用のための要件に入っており、控除を利用する人が住んでいることが第一条件です11)。
ただし、単身赴任の場合は家族が住み続けることで、控除の利用者が居住していると認められます。海外赴任の場合は、2016年4月1日以後に住宅取得した人に限られる12)ので注意してください。
②児童手当は単身赴任先の市区町村に申請する
児童手当は単身赴任先の市区町村へ申請する必要があります13)。児童手当は受給者の生活する市区町村が給付するためです。
申請期限は転出届で届け出た「転出予定日」のつぎの日から15日以内。児童手当は申請した翌月からの支給が原則ですが、期限内であれば申請した当月から受け取りが可能です。期限を過ぎると、遅れた月分の児童手当は受給できなくなります。受給者が海外赴任する場合は、新しい受給者の届け出が必要です。
参考資料
13)内閣府「児童手当Q&A」
③所得税が上がる可能性がある
単身赴任時には、単身赴任手当や帰省旅費手当などの手当を支給されることがありますが、これにより所得税が上がる可能性があります。これらの手当は定額支給や実費精算にかかわらず、給与収入に該当して課税対象になるからです。
しかし、会議などの職務上の理由からの帰省旅費は非課税となります14)。非課税になるには、以下の2つの条件を満たさなければなりません。
- 月1回など定量的に執り行われる会議ではないこと
- 必要以上に長い帰省や、遠回りして帰省するなど不自然な点がないこと
帰省目的が職務以外と判断されると課税対象になるので、注意しましょう。
【関連記事】単身赴任時に受け取れる手当にはどんなものがある? 種類や相場など詳しくはコチラ
単身赴任者も利用できる可能性のある「特定支出控除」
特定支出控除とは、特定支出の合計額が給与所得控除額の2分の1を超えた場合、確定申告をすることで税金の負担を軽くできる制度です。特定支出には、以下7つが該当します15)。
- 通勤費
- 職務上の旅費
- 転居費
- 研修費
- 資格取得費
- 帰宅旅費
- 勤務必要経費(図書費や衣服費、交際費など)
いずれも勤務先が認めた場合に特定支出として扱うことができます。なお、どの費用も会社から支給される手当などを差し引いて、合計額を計算します。通勤費や帰宅旅費などの負担が大きく、会社からの手当や補助がわずかな場合には、ぜひ利用を検討したい制度です。以下の記事では単身赴任中の生活費について解説しているので、興味のある人は併せてご覧ください。
特定支出控除の計算方法
特定支出控除額の計算方法は以下のとおりです。
特定支出額の合計 −(給与所得控除額 × 1/2)
給与所得控除額を計算する際は、以下の表を参考にしてください。
〈表〉給与収入に対する給与所得控除額16)
給与収入 | 給与所得控除額 |
---|---|
〜1,625,000円 | 550,000円 |
1,625,001円~1,800,000円 | 収入 × 40% − 100,000円 |
1,800,001円~3,600,000円 | 収入 × 30% + 80,000円 |
3,600,001円~6,600,000円 | 収入 × 20% + 440,000円 |
6,600,001円~8,500,000円 | 収入 × 10% + 1,100,000円 |
8,500,001円〜 | 1,950,000円(上限) |
上記の計算結果がマイナスになる場合は、特定支出控除を受けられません。
特定支出控除の申請方法
特定支出控除の適用を受けるには、確定申告をしなければなりません。
確定申告書には、適用を受ける旨と特定支出額の合計額を記載します。また、以下の3つの書類も必要です15)。
- 特定支出に関する明細書
- 給与等の支払者の証明書
- 特定支出に関する領収書
特定支出に関する明細書は、国税庁のウェブサイトよりダウンロードできます。また、税務署でも入手が可能です。
参考資料
単身赴任中の住民税は正しく納付しよう
単身赴任時の住民税の納付先は、原則的に生活拠点のある市区町村です。また、海外赴任時も1月1日時点で日本に拠点があれば、住民税が課税されます。海外赴任が決まったら、余裕を持って手続きをしましょう。
住民税以外でも、児童手当の申請や特定支出控除の申請など、単身赴任の際には多くの手続きが必要な場合があります。引っ越しなどで忙しくなる前に、しなければならない手続きを確認しておきましょう。