この記事では、ファイナンシャルプランナーの柳澤美由紀さん監修のもと、親への仕送りの実態や「きつい」と感じた時の対応、困窮している親への支援の方法などを紹介します。
この記事の監修者
柳澤 美由紀(やなぎさわ みゆき)
家計アイデア工房代表。株式会社FPフローリスト 取締役。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。CFP®。「専門知識と真心で、日本の家計を元気にする」を使命に活動し、個人向けFP相談、マネーセミナーのほか、新聞や雑誌など多くのメディアで活躍中。著書に『老後のお金の「どうしよう?」が解決できる本』(講談社)など。ほか多数。
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統計から見る、みんなの親への仕送り事情
親への仕送りをしている人は、どのくらいいるのでしょうか? また、仕送り額はどれくらいが相場なのか気になりますよね。まずは、親への仕送りに関する統計データを見ていきましょう。
親へ仕送りをしている人は、2.1%
「国民生活基礎調査」(2019年版)1)によると、親へ仕送りをしている世帯は2.12%。50世帯に1世帯程度ということになりますが、年代別のデータでないため、まだ親世代が健康で収入も多い20代〜30代の人であればさらに少ないと予想できます。
意外と多い? 親への仕送りの平均額は5万4,000円
それでは、親へ仕送りはどれくらいの金額でされているのでしょうか。「国民生活基礎調査」(2019年版)2)によると、仕送りをしている世帯の仕送りの平均額は1カ月5万4,000円となっています。
〈表〉親のみに仕送りを行なっている世帯1世帯あたりの仕送り額
総数 | 割合 |
---|---|
2万円未満 | 11% |
2~4万円 | 33% |
4~6万円 | 21% |
6~8万円 | 5% |
8~10万円 | 4% |
10万円以上 | 17% |
不詳 | 9% |
平均仕送り額 | 5万4,000円 |
平均額が高いと感じられるかもしれませんが、ボリュームゾーンは「2〜4万円」。無理なく続けられる金額を送っている人が多いことがわかります。
親への仕送りをする前に、自分の経済状況を見直そう
前述したように、子どもが親へ仕送りをしているケースはあまり多くはありません。もちろん、子どもの収入が多く、親孝行として仕送りをしているケースもありますが、若い世代であれば特に、親世代よりも経済的に苦しい状態であることが多いでしょう。
親への仕送りを検討する際は、まずは自分の経済状況を見直しましょう。その上で、無理なく仕送りができるかを判断することが大切です。
無理をしてしまうと、親への仕送りを捻出するために貯金が減ってしまい、自分の資産形成ができなくなる恐れがあります。結婚していたり子どもがいたりすると、家族とのトラブルの元になる可能性もあるでしょう。
親を支えたい気持ちは尊いものですが、自分自身や家族が不自由なく生活できることが前提です。あくまで無理なくできる範囲ということを心がけましょう。それでもどうにかしなければならない場合は、後述する対応策を参考に、お金を渡すのとは違った形で親を支援することを検討してください。
親への仕送りは贈与税の対象になる?
親へ仕送りをする際に知っておきたいのが、贈与税についてです。財産を無償でもらったり、経済的利益を受けたりすると贈与税の対象になります。仕送りは、贈与税に該当するのでしょうか。
生活支援のためなら、基本的には贈与税はかからない
国税庁サイトのコラム3)に、贈与税が非課税となるケースとして、下記の記述があります。
夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの
つまり、親子や兄弟、夫婦といったいわゆる「家族」が生活費や教育費などの生活に必要なお金を仕送りすることは、贈与とはみなされません。
生活費とは、日常生活に必要な費用のことで、水道光熱費や家賃などが含まれます。教育費には学費をはじめ、教材費や文具費などが含まれます。たとえば、孫の塾代を祖父母が支払うことは贈与になりません。
親に仕送りをする場合は「生活に必要なお金」が引き落とされる口座に直接振り込みましょう。親の生活を支えるための贈与であることがより明確となります。
参考資料
贈与税がかかるのは、仕送りしたお金が生活費や教育費に使われない場合
では、どんなケースに贈与税がかかるのでしょうか。そもそも贈与税の課税対象になるのは、1年間で110万円を超えたお金を贈与した場合です。そのため、まず年間110万円以下の仕送りであれば贈与税はかかりません。
それ以上の額になると贈与税がかかりますが、前述したように生活費や教育費のための仕送りなら贈与税はかかりません。逆に対象になるのは、仕送りで受け取ったお金を貯金したり、株式など財産になるものを買ったりしている場合です。生活に必要なお金の範囲を超える高額な仕送り額だと、贈与税の対象と判断されることもあるので気をつけましょう。
資産も収入も十分にあり、老後生活に不自由がないという親への仕送りは、「生活費」とは通常認められません。あくまでも生活費、教育費以外の贈与には贈与税がかかるとされているので、高額な仕送り、必要以上の仕送りには注意が必要です。
親への仕送りがきつい…と思ったら。悩み解決のための4つのステップ
自分の生活がギリギリの状態で親への仕送りをしてしまっていると、親と自分が共倒れしてしまう可能性もあります。
ここからは、親から仕送りの要請を受けたらどのように対応するべきか、きついと感じた際にどのような対処をするべきかを4つのステップで解説します。
ステップ1:まずは原因を究明する
自分の家計に余裕があり、自発的に仕送りするケース以外は、親から仕送りの要請があってから仕送りをすることがほとんどではないでしょうか。親から仕送りを頼まれたら、まずは状況把握のために「なぜ仕送りが必要なの?」と聞きましょう。
仕送りが必要なほどお金に困っている場合、親は「病気・介護」「キャッシング・ローン」といった問題を抱えていることが多くあります。これらの問題は、自分の家計に響かない少額の仕送りをしても、解決しないことがほとんどです。
そういった状態なら、生活を立て直すためには根本を改善することが必要です。「困っているからお金を送って」と言われて、経済状況がわかっていない状態でお金を渡しても、解決にはつながりません。
まずは原因を探し、家計の状況を知った上で対策、支援をするようにしましょう。そして、お金を渡すのは、生活を立て直すために必要なお金や、公的制度が使えるまでのつなぎだけにすると決めておくことが大切です。
以下が、よくある原因2つです。対策方法も併せて確認していきましょう。
原因①病気・介護
原因のひとつにあげられるのが、病気や介護に高額な費用がかかったり、働けなくなって一時的に収入が減ってしまったりしている場合です。
まず、病気やケガで医療費が高額になっている時は「高額療養費制度の限度額適用認定証」を取得しましょう。
高額療養費制度とは、医療機関などに支払う医療費が一定額(自己負担限度額)を上回る場合に、超過分の払い戻しが受けられる制度です。年齢や所得によって自己負担の金額が異なり、収入が低いほど上限額が低く設けられています。限度額適用認定証を取得し、医療機関の窓口に提示すれば、自己負担限度額分を窓口に払えばよいことになります。
子どもが生計を一(いつ)にする(=同じ家計で生活している)親の入院費などの医療費を負担するなら、「医療費控除」が受けられます4)。子どもの口座やクレジットカードを使うことで、子どもが医療費を払ったという事実が残せます。
親に介護が必要になったら、親が住んでいる場所の地域包括支援センターにまず相談しましょう。介護保険や地域の福祉制度などについてアドバイスがもらえます。また、どのように介護していくか、どんな公的介護サービスがあるかといった相談にも乗ってもらえます。介護は何年かかるか先が見えません。親のお金の範囲で可能な介護をすることをおすすめします。
【合わせて読みたい記事】高額療養費制度について知りたい方はコチラ
原因②キャッシングやローン、浪費
キャッシングやリボ払い、ローンがあり、親の収入でやりくりできなくなった場合は、「債務整理」をしましょう。手続きには任意整理、民事再生、自己破産などがあり、どの方法を利用するのがいいかも含めて司法書士や弁護士に相談できます。
これにより無理のない返済プランを組めたり、借金の整理ができたりします。特にこういった場合は、安易に仕送りをせず、債務整理の手伝いや司法書士への相談費用の負担といった形で親を支援するのがいいでしょう。
借金がなくても、現役時代より減った収入に合った生活ができていなかったり、老後のための資産作りをしてこなかったりといった理由で、日々の生活のお金が足りなくなっている場合もあります。この場合は特に、後述する家計の見直しを行なって、身の丈にあった生活を目指すことが大切です。
持ち家がある場合、「リバースモーゲージ」で資金調達することもできます。これは、自宅に住みながらのその家を担保に老後資金を借りるもので、借入人が死亡した時などに不動産を処分し、借入金を返済するしくみです。自宅を残す必要がないのなら、この方法を検討してもいいでしょう。
ステップ2:親の家計の見直しを行う
親が困窮している原因を探りながら、並行して親の家計の見直しも行いましょう。親がなぜ困窮しているか原因がわからない場合、家計を調査することで判明することもあります。
使っていないサービスにお金をかけていないか、不要なプランの保険に加入していないかなど、収支を確認して無駄な支出を減らしましょう。家計のやりくりができていない状態なら、前述した対策を行なっても、またお金が足りない生活にリバウンドしてしまう危険性があります。
「親にお金のことを聞きづらい」といった場合は、ファイナンシャルプランナーなど第三者への相談も検討しましょう。
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ステップ3:扶養控除の活用を検討する
ステップ1、2を経て仕送りをすることになったら、少しでも自分の負担を減らすようにしましょう。仕送り相手である親の収入が一定の範囲内であるなどの条件を満たせば、「扶養控除」で一定金額の所得控除が受けられます。
扶養控除を利用するには条件があります。ひとつめは、扶養に入る親の年間の総所得(額面)が48万円以下であることです。もうひとつは、納税者と生計を一にしていることです。同居していなくても、生活費や医療費などを負担している場合は生計を一にしていると言えるため、仕送りをしていれば条件に当てはまります。その他、条件の詳細は国税庁のウェブサイト5)で確認してください。
注意したいのが、扶養控除を受けられるのは一人だけということです。たとえば兄弟でそれぞれ支援をしていても、扶養控除が受けられるのは一人だけなので、事前に相談しておく必要があります。
扶養控除にデメリットはありません。条件がクリアできるなら、ぜひ活用しましょう。
ステップ4:生活支援制度を利用する
ここまでの対応を行なった上でそれでも生活がままならないのであれば、親が住んでいる自治体の福祉事務所へ相談に行きましょう。
生活支援制度で何か利用できるものはないか、どんな支援が必要か、相談員が支援プランを考えてくれます。親の収入が少なかったり、働くことができなかったりする場合は、親が生活保護6)を受けることも視野に入ってきます。
支援を必要としている親と一緒に福祉事務所を訪ねるのがベストですが、難しい場合は、状況を把握した上で、子どもだけで相談することも可能です。
参考資料
仕送りは無理ない金額でするのが鉄則。代わりに「足を使った支援」を
親の生活を支える方法は、お金を渡すだけではありません。実際、お金に困っている状況なら、月々少額の仕送りをしても解決しないこともあるでしょう。
公的な制度を教えたり、申請の手続きを手伝ったりと親の代わりに情報を集め、制度を活用できるようにするなど「足を使った支援」が、根本的な解決につながる行動になる場合もあります。
誰かを救いたいと思う気持ちは尊重されるべきだと思います。しかし、親をはじめ、誰かを支えるということは、結果的に結婚や出産を含めた自分の選択肢を狭める可能性があるのです。「子どもだから親を金銭的に支えるのは当然」と考えずに、まずは冷静に原因究明から始めましょう。無理な仕送りは、共倒れの危険もあります。また、自分も老後資金が準備できずに子どもに負担を強いてしまう、貧困の連鎖に陥ってしまう可能性もあるのです。
親への支援は、自分の生活に無理のない範囲ですることが鉄則と心得ましょう。