この時、妊娠や育児の最中ではありますが、失業状態になるため、「妊娠中でも失業手当を受給できるの?」「失業手当の申請方法は?」と、疑問を抱く人もいるでしょう。
そこでこの記事では、ファイナンシャルプランナーの中村賢司さん監修のもと、妊娠中でも失業手当を受給できるのか、各種申請の方法や注意点を解説します。
※この記事は2022年10月7日に公開した内容を最新情報に更新しています。
妊娠中は失業保険を受給できない
そもそも、失業保険は正式には雇用保険といい、雇用保険法にもとづく保険制度です。この雇用保険に加入している人が、失業や自己都合退職などの“特定の条件下”で受給できるお金を、失業手当(正確には基本手当)といいます。失業手当は、現職を離れ、つぎの就職先が見つかるまでの期間の生活を保障することを目的としています。
その上で、結論からいうと、妊娠を理由に退職した場合は失業手当を受給できません。妊娠中はすぐには再就職が難しく、産後すぐに就職できる状態とも限りません。失業保険の本来の目的と異なるため、妊娠中の人は受給対象から外れてしまうのです。
しかし、受給資格を失ったわけではなく、受給期間の延長申請を行えば、失業手当を受給することができるのでご安心ください。詳しくは後述しますが、出産後に失業手当を受給しながら、再就職活動が可能となります。
なお、失業保険の詳しい受給条件は、以下の記事で解説しています。退職を考えている人は、併せてご確認ください。
妊娠が理由の退職は、失業保険の延長申請をしよう
妊娠を理由に退職した場合には、失業手当の受給期間の延長申請をすることをおすすめします。延長申請1)とは、その名のとおり、失業手当の受給期間を延長する手続きのことです。
以下では、延長申請のしくみや、申請に必要な書類を解説します。早速、みていきましょう。
受給期間は、最長4年まで延長できる
失業手当の受給期間は、原則、離職日の翌日から1年間と定められています。そのため、妊娠によって1年間就業できない状態が続くと、失業手当を受給できなくなってしまいます。
そこで、受給期間の延長が必要になります。受給期間は最長4年まで延長でき、出産後に落ち着いてから受給を開始しても失業手当を満額受給することができます。
なお、延長申請を行えるようになる条件は「離職日の翌日から1年間のうち、出産や育児により30日間以上就業できない期間が続くこと」です。
受給期間の延長申請に必要なものは4つ
妊娠を理由に受給期間の延長申請を行うには、以下の4つが必要です2)。申請する前に用意しておきましょう。
①受給期間延長申請書
②雇用保険被保険者離職票
③延長理由を確認できる書類
④印鑑
なお、すでに失業手当の受給手続き済んでいる場合は以下になります。
①雇用保険受給資格者証(または雇用保険受給資格通知)
②受給期間延長申請書(印鑑が必要な場合あり)
③延長理由を確認できる書類
受給期間延長申請書は、住所地を管轄するハローワークで直接受け取って書き込んだり、ウェブサイトから作成・ダウンロードしたりすることが可能です。
離職票は離職日から約2週間以内に、退職した会社から送付されます。なお、会社によっては、本人から希望がない限り離職票を発行しないところもあります。トラブル防止のためにも、事前に離職票を送ってもらうよう依頼しておくと安心です。
また、延長理由を確認できる書類は、母子手帳がおすすめです3)。妊娠中の人なら常に携帯しているはずなので、用意には困らないでしょう。
上記の必要書類を一式揃えたら、住所地を管轄するハローワークに提出します。延長申請が承認されると、通知書が送付されます。
出産後に失業保険を利用する場合にいくら受給できる?
失業保険の受給額は、基本手当日額(雇用保険で受給できる1日当たりの金額)と給付日数により決定され、以下のような流れで算出できます。
①賃金日額を計算する
②基本手当日額を計算する
③給付日数から支給総額を計算する
①の賃金日額は「退職する前の6カ月分の賃金額合計(賞与は除く)÷180日」で計算できます。②の基本手当日額は、賃金日額のおおよそ50~80%になります(60~64歳は45~80%)。賃金日額と給付率の関係は、年齢と収入によって異なります。計算方法をきちんと知りたい人は、以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。
【関連記事】失業手当の受給額を計算する方法は? 詳しくはコチラ
出産後、失業保険を利用する場合に気をつけたい4つの注意点
失業手当を受給する際は、以下の4つのことに注意しましょう。
それぞれ詳しく解説します。
①失業保険受給中は扶養から外れることがある
失業手当を受給している期間は、基本的に配偶者の健康保険の扶養に入れます。ただし、扶養に入るためには、年収が130万円未満でなければなりません。
「税法上の扶養」の条件と異なり、「社会保険上の扶養」において失業手当は収入とみなされるため、給付金を含めた年収が130万円を超えると扶養から外れてしまいます。
失業手当を1年間受給していた場合に、基本手当日額が3,612円以上の人は要注意です。年間収入が130万円に達してしまうため、扶養から外れる可能性があります。扶養に入れるルールや条件は健康保険組合によって異なるため、事前に確認しましょう。
失業保険を考える上での「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」の違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。気になる人はチェックしてみましょう。
【関連記事】失業保険の受給と扶養はどう選んだほうがいい? 詳しくはコチラ
【関連記事】失業保険の受給中に扶養に入るメリットは? 詳しくはコチラ
②延長申請が遅れると受給期間が短くなることがある
前述したように、妊娠が理由で退職した場合は、失業手当の受給期間の延長申請をするといいでしょう。その際、注意したいのが、受給期間は離職日から最長4年間だということです。
産後の落ち着いた時期に延長申請を行っても問題ありませんが、延長の申請が遅れ何年もあとになってしまうと、本来受け取れるはずの失業手当が受給できなくなる可能性があります。
延長申請は離職日当日から可能なので、産前の余裕がある時期に申請を済ませると、産後もスムーズに求職活動を行えるでしょう。
③すぐに失業保険が給付されるわけではない
妊娠中の人なら、失業手当をすぐに受給できないことを覚えておく必要があります。主に、以下の2つの場合に「すぐに受給できない」可能性があります。
- 妊娠中の人はそもそも受給資格を満たしていないので、条件を満たすまで待つ必要がある
- 自己都合による退職の場合は、初回の受給までに2カ月間の待機期間(※)がある
働けず収入が減ってしまう妊娠中に、何らかの給付金が必要な人は、失業保険以外の支援制度を活用するといいでしょう。たとえば、「育児休業給付金」4)や「出産手当金」5)など、行政や健康保険組合が設けている制度があります。失業保険と併せて、これらの給付金制度を活用することもおすすめです。
なお、産休・育休中に受け取れるお金については、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひ併せて読んでみてください。
【関連記事】産休・育休中に給与はもらえる? 給付金・手当金について詳しくはコチラ
※:ハローワークでは「待期期間」といいます。記事内では待機期間と記載します。
④産前6週間・産後8週間は、就業が禁止されている
労働基準法第65条には「産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)(いずれも女性が請求した場合に限る)、産後は8週間女性を就業させることはできません」と記述されています6)。
つまり、出産前後の就業は法律で禁止されており、いかなる理由でも仕事に就くことはできません。
法律によって産前・産後は就業が制限されているため、失業中以外の正社員やパートなどで働いている人も産休に入らなければなりません。妊娠中は失業手当を受給できないために自宅で内職をしたいと考える人もいるかもしれませんが、内職を行うことも制限されていますので、注意しましょう。
失業保険の申請方法と受給までの流れ
最後に、失業保険の申請方法や受給までの流れを紹介します。まずは手続きに必要なものを確認しましょう。
失業保険の受給手続きに必要なもの
失業手当の申請を行う際、ハローワークに持っていく必要があるものは以下のとおりです7)。
〈表〉失業手当の受給手続きに必要なものリスト
- 雇用保険被保険者離職票
- 個人番号確認書類(マイナンバーカード、通知カード、住民票のいずれか)
- 身元確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
- 証明写真2枚(縦3.0cm×横2.4cm)
- 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード
申請から受給までの流れ
必要な書類を準備できたら、失業手当を受給するための手続きをしましょう。
〈図〉申請から受給までの流れ
①離職票を受け取る
まずは、退職した会社から離職票を受け取りましょう。大抵の場合は、事前に離職票が欲しい旨を伝えておけば、退職から2週間程度で郵送されます。しかし、会社によっては発行に時間がかかるので、なるべく早めに手続きをお願いするほうが得策です。
②ハローワークへ行く
離職票を受け取ることができたら、前述の失業手当の受給手続きに必要なものリストで紹介したものを持ってハローワークに行きましょう。雇用保険被保険者証、離職票をもとにハローワークで条件を満たしていることが判断され、受給資格が決定されます。また、この時に初回の説明会の日程と会場も決まります(説明会については④で説明します)。
③待機する(7日 or 7日+2カ月間)
受給資格の決定から初回説明会までの間には、待機期間が7日間8)あります。この期間は、失業状態の確認を行うことが趣旨となります。
つまり待機期間は、アルバイトであっても働くことができません。
求職活動をすることは可能ですが、この期間中は求職活動の実績としてカウントされないので注意してください。
④受給説明会に参加する
②で示した初回の説明会に参加します。初回の説明会では、失業手当の受給やハローワークの使い方などについて詳しい説明が行われます。説明会に参加すると、「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」の2種類の書類が配布されます。
⑤求職活動をする
ハローワークの窓口で職業相談や職業紹介を受けるなど、求職活動をスタートさせます。失業手当はつぎの職を探す人に給付されるものであるため、28日間ごとに失業状態であることを認めるための認定日が設定されています。基本的には、この28日間で最低でも2回以上は求職活動をする必要があります8)。
⑥失業の認定を受ける
失業手当の給付を受けるためには、前述のように原則として28日間に1度、失業の認定を受ける必要があります。「失業認定申告書」に求職活動の状況などを記入し、「雇用保険受給資格者証」とともに、指定された認定日にハローワークに行って提出しましょう。
⑦失業手当が口座に振り込まれる
失業が認定されたら、約1週間後に28日分の失業手当が振り込まれます。なお、退職理由によって初回の受給日が異なります。自己都合による退職の場合は7日間の待機期間に加え、2カ月間の給付制限が設けられるので、初回の失業手当は約2カ月半後です。一方で、会社都合による退職の場合は、待機期間が終了した直後から受給を開始できます9)。
手続きや受給期間中の注意点についてもっと知りたい人は、以下の記事で詳しく紹介しているので、併せてご覧ください。
【関連記事】失業手当の手続きや受給期間の注意点は? 詳しくはコチラ
妊娠中の失業保険にまつわる「よくある質問」
ここでは、妊娠中に失業手当を申請するにあたり、よくある質問について回答していきます。
Q1. 求職活動をしても就職できない場合には、妊娠中でも失業保険が受け取れる?
厚生労働省によると2)、失業保険を受け取ることができる「失業の状態」とは以下の3つの条件を満たした状態です。
〈表〉失業の状態
①積極的に就職しようとする意思がある
②いつでも就職できる能力(健康状態・環境など)がある
③積極的に仕事を探しているにもかかわらず、現在職業に就いていない
妊娠中の場合、①や③を満たしても、②のいつでも就職できる状態を満たすことができないため、失業保険の受給対象外となっています。
Q2. 妊娠中に会社都合での退職が発生した場合、失業保険はどうなる?
会社都合での退職の場合、理由にもよりますが、特定受給資格者となり、以下の要件を満たせば失業手当を受け取ることができます。
〈表〉基本手当の受給要件(特定受給資格者の場合)
①就職しようとする積極的な意思と能力があり、努力していても職業に就くことができない「失業の状態」にある
②離職の日以前1年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して6カ月以上ある
ただし、原則として、求職活動をしても「いつでも就職できる状態」ではない妊娠中は失業手当を受け取ることはできません。仮に現在が妊娠初期で求職活動をすることができても、前述のように日本の法律では産前6週間・産後8週間は働くことが認められていない以上、雇用先が見つかってもすぐに就職することも難しいでしょう。前述のように受給資格の延長申請をするのが得策と考えられます。
Q3. 失業保険申請中に妊娠したらどうなる?
前述のように、原則として妊娠中は失業手当を受け取ることができません。ハローワークに相談した上で延長申請をするのがおすすめです。
Q4. 妊娠を隠して失業保険を受給したらどうなる?
失業手当の受給は「いつでも就職できる状態」であることが原則です。「いつでも就職できる状態」ではないのに失業手当を受け取っていた場合、ハローワークの判断によっては不正受給とみなされる可能性もあります。やはりハローワークに相談した上で延長申請をするのがよいでしょう。
出産後の生活を考えて、失業保険をうまく活用しよう
今回紹介したように、妊娠中の人は失業手当を受給できませんが、出産後に就業可能な状態に戻った場合は、受給が可能です。そのため、妊娠や出産後に夫婦共働きを検討するのであれば、制度をよく理解し、早めに失業手当の申請を行うことが大切です。ただし、申請期間や受給期間が決められていたり、受給要件があったりするため、しっかり制度を理解して失業手当の受給申請を進めましょう。