この記事では、ファイナンシャルプランナー・佐々木裕平さんの監修のもと、年代別や目的別に新NISAとiDeCoのどちらを選べばいいのかを解説します。
※:この記事では便宜上、2023年までのNISAを「旧NISA」、2024年からの新制度を「新NISA」と呼びます。
シミュレーションの結果は、将来の運用成果を予測したものであり、保証するものではありません。
この記事の監修者
佐々木裕平(ささき ゆうへい)
ファイナンシャルプランナー。金融教育研究所代表。著書に『お金と僕らの物語』(GAKKEN)、『FPの先生!小学生の私でもわかるように、お金の増やし方教えてえや』(文響社)、『学校では教えない! お金を増やす授業」(ぱる出版)など多数。1級FP技能士。中立・公正な立場からの金融教育を行う。
まずは新NISAとiDeCoの特徴を把握しよう
新NISAとiDeCoを選ぶ前に、それぞれの特徴を知っておくことが大切です。また、条件やしくみの違いを把握することで、どちらの制度が自分に向いているのかの判断材料にもなります。ここでは、新NISAとiDeCoの特徴や違いを、わかりやすく解説していきます。
そもそも新NISAとは
そもそもNISAとは、イギリスのISA(Individual Savings Account〈個人貯蓄口座〉)をモデルにした少額投資非課税制度で、2014年1月にスタートしました。新NISAとは、NISAの抜本的拡充・恒久化を図るために、それまでのNISA(以降、旧NISA)に代わり、2024年1月から導入された制度です。以下が新NISAの特徴です1)2)。
【新NISAの特徴】
- 少額から投資ができる
- 運用益(売却益、配当・分配金)が非課税
- 投資の対象は投資信託、国内/海外の個別株式、ETF(上場投資信託)など
- 銀行・証券会社などのNISA口座で取引を行う
- 「つみたて投資枠」と「成長投資枠」がある
旧NISAに比べ、非課税保有期間の無期限化や年間投資枠の拡大など、新NISAには安定的な資産形成を達成しやすいような変更が加えられています。
そもそもiDeCoとは
一方、iDeCoとは、国が定めた「私的年金制度」です。基本的に加入対象者は、20歳以上60歳未満の公的年金の被保険者3)です。
【iDeCoの加入条件】
- 第1号被保険者(自営業者とその家族、学生など)
- 第2号被保険者(厚生年金の被保険者)
- 第3号被保険者(厚生年金の被保険者に扶養されている配偶者)
- 任意加入被保険者(国民年金に任意加入している人)
以下がiDeCoの特徴です。
【iDeCoの特徴】
- 加入の条件は公的年金の被保険者であること
- 原則、60歳まで引き出すことができない
- 投資の対象は、投資信託、定額預金、保険商品など
- 掛金は月額5,000円から。上限額は働き方や年金制度によって異なる
- 「積立時」「運用時」「受取時」の3つのタイミングで税制優遇を受けられる
iDeCoに加入するためには、iDeCoを取り扱っている金融機関で加入手続きをする必要があります。公的年金と異なり、自分自身で金融機関を選び、掛金を運用しなくてはいけません。
なお、iDeCoの運用商品は大きく2つに分かれ、元本と利息の支払いが確約された「元本確保商品(定期預金や保険商品など)」と、運用によって利益が変わる「投資信託」です。
【関連記事】iDeCoの税控除ついて詳しく知りたい方は、コチラ
参考資料
新NISAとiDeCoの違い
続いて、新NISAとiDeCoの違いを表で比べてみましょう。
〈表〉新NISAとiDeCoの特徴1)2)3)4)
新NISA | iDeCo | |
---|---|---|
投資できる人 | 日本在住の18歳以上の人 | ・20歳以上60歳未満の国民年金の被保険者(※2) ・厚生年金の被保険者と扶養されている配偶者 |
投資できる期間 | 無期限 | 加入時から60歳まで(※2) |
投資できる主な金融商品 | ・金融庁の基準を満たした投資信託 ・整理・管理銘柄などを除外した上場株式 | 運営管理機関が選定する投資信託、定期預金、保険商品など |
最低拠出額 | 月額100〜1,000円(金融機関による) | 月額5,000円 |
掛金額の変更 | いつでも可能 | 1年間に1回変更可 |
掛金上限額(年間) | ・つみたて投資枠:120万円 ・成長投資枠:240万円(※1) | 14万4,000〜81万6,000円(※3) |
非課税保有限度額 | あり 1,800万円 | なし |
資産の受け取り | いつでも可能 | ・受け取りは原則60歳以降75歳まで ・一時金として一括で受け取るか、5年以上20年以下の有期年金として受け取る |
税制優遇 | 【拠出時】 なし 【運用時】 運用益が非課税 【受取時】 なし | 【拠出時】 掛金が全額所得控除の対象 【運用時】 運用益が非課税 【受取時】 退職所得控除や公的年金等控除の対象 |
新NISAもiDeCoも基本的に「毎月積み立てる」「税制面で優遇を受けられる」という点は同じですが、それ以外の部分は異なります。
以下ではそれぞれの項目について解説していきます。
①投資できる人
新NISAの場合は日本の居住者であることが投資できる条件です。転勤などで海外在住になる場合、5年以内であれば届出を出すことでNISA口座を保持することができます。ただし、この期間は新しく買付をすることができません5)。
一方、iDeCoは公的年金の被保険者であることが条件です。任意被保険者も加入できますが、国民年金の保険料を免除されている人や農業者年金の被保険者は加入することができません。また厚生年金の被保険者は、以下の条件に当てはまる場合は加入できないので確認しましょう3)。
【iDeCoに加入できない人】
・勤務先で加入している企業型DCの事業主掛金が拠出限度額の範囲内での各月拠出となっていない人
・マッチング拠出を導入している企業型DCの加入者で企業型DCのマッチング拠出を選択している人
②投資できる期間
投資できる人が「18歳以上」の新NISAは、運用にも年齢の上限がありません。たとえば70歳以上の人でも口座を開設すること、投資することが可能です。
一方、iDeCoは加入できる人が「20歳以上60歳未満の公的年金の被保険者」であるため、口座開設も投資も60歳までしか行うことができません。ただし、国民年金の任意加入被保険者は65歳まで加入も投資も可能です。
③投資できる主な金融商品
新NISAのつみたて投資枠で対象となるのは、「証券取引所に上場しているETFや、公募により発行された株式投資信託のうち長期の積立・分散投資に適した一定の商品性を有するもの」という金融庁の基準を満たした投資信託です5)。
成長投資枠ではこれらの投資信託のほか、証券取引所に上場している株式やREIT(不動産投資信託)なども投資対象です。ただし、整理銘柄・監理銘柄に指定されている株式や、信託期間が20年未満の投資信託、高レバレッジ型の投資信託、毎月分配型の投資信託などは対象から除外されています。
iDeCoの運用商品は、大きく分けて「元本確保商品」と「投資信託」の2種類あります。元本確保商品の代表例は、所定の利息が上乗せされた定期預金と保険商品です。投資信託は「国内債券型」「外国債券型」「国内株式型」「外国株式型」が主な4種類です。
④最低拠出額
新NISAの最低拠出額は金融機関によって異なりますが、100〜1,000円が一般的です。iDeCoの最低拠出額は月額5,000円で、1,000円単位で設定することができます。
⑤掛金額の変更
新NISAの掛金額はいつでも変更可能です。一方、iDeCoの掛金額は、1年間で1回(12月分の出金から翌年11月分の掛金の間)だけ変えることができます。
⑥掛金上限額
前述のように、新NISAには「つみたて投資枠」と「成長投資枠」があります。投資の上限額は、つみたて投資枠は年間120万円、成長投資枠は年間240万円です。また、総枠での非課税保有限度額があり、1,800万円です。ただし、これは金融商品を売却すれば、翌年にその元本分の金額分を再利用することが可能です。
iDeCoは国民年金の加入区分などに応じて、上限額(拠出限度額)が異なります4)。
〈表〉iDeCoの上限額(拠出限度額)
加入資格 | 拠出限度額(月額) | |
---|---|---|
第1号被保険者・任意加入被保険者 | 6万8,000円(※1) | |
第2号被保険者 | 勤務先に企業年金がない人 | 2万3,000円 |
企業型DCのみに加入している人 | 2万円 | |
DB(※2) と企業型DCに加入している人 | 1万2,000円 | |
DB(※2) のみに加入している人 | 1万2,000円 | |
公務員 | ||
第3号被保険者 | 2万3,000円 |
⑦非課税保有限度額
⑥でも少し触れましたが、非課税保有限度額の有無も新NISAとiDeCoの違いのひとつです。新NISAは、総枠での非課税保有限度額が1,800万円までと決まっています。一方、iDeCoは非課税保有限度額がありません。
⑧資産の受け取り
NISA口座を通じて購入した金融商品は、いつでも売却し、その売却益を受け取ることができます5)。
iDeCoは私的年金である性質上、前述のように、原則60歳まで受け取ることができません3)。受け取り方法は、一時金として一括で受け取るか、5年以上20年以下の有期年金(※)として受け取るかを選択することができます。運営機関によってはその両方を組み合わせることも可能です。
なお、iDeCoを始めてから60歳までに、通算加入者期間が10年間に満たない場合は、受給開始となる年齢があとにずれていきます。最長で75歳まで繰り下げることができます。
※:支給される期間が定められている年金。
⑨税制優遇
株式や投資信託などの金融商品に投資をする場合、売却をして得た利益や受け取った配当金に対して、原則、20.315%の税金がかかります。しかし、NISA口座で得た利益(運用益)にはこの税金がかかりません1)。またiDeCoも同様に運用益に税金がかかりません7)。
新NISAとiDeCoはどっちがいい?メリット・デメリットを知っておこう
前述のように、新NISAとiDeCoは全く異なる制度で、それぞれにメリットとデメリットがあります。
【新NISAのメリット】
- いつでも現金化して引き出せる
- 運用益が非課税で運用できる
- 最大1,800万円まで非課税で保有・再利用できる
- 日本在住の18歳以上であれば誰でも口座を開設できる
- 少額からスタートできる
【新NISAのデメリット】
- 非課税でNISA口座に保有できる金融商品に限度額がある
- ほかの課税口座と損益通算(同じ年の利益と損失を相殺すること)や繰越控除ができない
新NISA最大のメリットは、運用益が非課税であることです。また、口座を開設するのに年齢制限がない点もiDeCoにはない特徴です。ただし、ほかの課税口座と損益通算や繰越控除ができない点がデメリットになります。
【iDeCoのメリット】
- 「積立時」「運用時」「受取時」の3つのタイミングで税制優遇を受けられる
- 原則60歳まで引き出せないので、長期運用がしやすい
【iDeCoのデメリット】
- 原則、60歳まで引き出すことができない
- 掛金額の変更が年1回しかできない
- 64歳までしか加入も運用もできない
iDeCoは税制優遇が受けられるのが大きなメリットでしょう。「原則60歳まで引き出せない」ことはメリットでもデメリットでもあります。自由に引き出せないことは、急な出費に対応できないということでもあるためです。ただし、掛金額の変更が年1回であることを踏まえても、新NISAよりも流動性が低い分、長期での資産形成には向いている制度といえそうです。
新NISAには保有できる上限額があり、iDeCoには運用と加入に年齢制限の上限があることを考えると、資産形成の目的にもよりますが、少額ずつ、片方だけではなく、併用するのが好ましいでしょう。
以下では、どのようにiDeCoと新NISAを運用すべきかを年齢別で提案します。
※:以下で紹介するシミュレーションは、手数料や税金などは考慮しておらず、実際値とは異なる可能性があります。
なお、iDeCoのデメリットについては以下の記事で詳しく解説しています。興味のある人は併せてご確認ください。
【関連記事】iDeCo(イデコ)のデメリット10個と理由を解説!おすすめしない人とは?
20代で始めるなら、iDeCo優先がおすすめ
長期間の運用で複利効果を最大限に活かせることが20代でiDeCoを始めるメリットです。掛金が少額でも早めに始めるのがおすすめです。掛金が高いほうがより大きな節税効果を得ることができますが、iDeCoの掛金は年1回しか変更できないので、生活費を圧迫しない金額で始めましょう。
仮に年収350万円で企業年金がない企業に勤める会社員Aさん(22歳)が運用利率3%のiDeCoを43年間続けた場合、積立運用額(積立総額+運用益)は以下になります。
〈表〉会社員AさんのiDeCo積立運用額(運用率3%)
掛金額(月額) | 5,000円 | 1万円 | 1万5,000円 | 2万円 |
---|---|---|---|---|
積立運用額 | 525万3,886円 | 1,050万7,773円 | 1,576万1,659円 | 2,101万5,545円 |
積立時節税額(総額) | 38万7,000円 | 77万4,000円 | 116万1,000円 | 154万8,000円 |
毎月2万円を積み立てていれば、Aさんが65歳になった時には、後述の老後資金(夫婦・独身)よりも多い2,101万5,545円を、老後資金として準備することができます。また積立時節税額を貯金したりNISAで運用したりすれば、より老後資金に余裕ができるでしょう。
なお、これから結婚、出産、住宅購入など、お金を使う様々なライフイベントが控えている20代は、いつでも売却し運用益を受け取れる新NISAも併用するのが賢明です。
たとえば、iDeCoは5,000円で始めて、余剰金を新NISAで運用するというのもひとつの方法です。その上で、新NISAの非課税枠(元本)が1,000万円に到達したら、iDeCoへの配分を増やしましょう。
以下は、会社員Aさん(22歳)が運用利率3%の新NISAを始めた場合の積立運用額(積立総額+運用益)です。年齢別に算出していますので、ご自身のライフプランと照らし合わせて確認してみましょう。
〈表〉会社員Aさんの新NISA最終積立金額(年利3%)
積立期間 | 掛金額(月額) 5,000円の場合 | 掛金額(月額) 1万円の場合 | 掛金額(月額) 2万円の場合 |
---|---|---|---|
8年(30歳) | 54万1,737円 | 108万3,474円 | 216万6,948円 |
18年(40歳) | 142万9,702円 | 285万9,403円 | 571万8,807円 |
28年(50歳) | 262万7,880円 | 525万5,760円 | 1,051万1,521円 |
38年(60歳) | 424万4,647円 | 848万9,293円 | 1,697万8,586円 |
詳しくは後述しますが、たとえば将来住宅購入を考えている場合、40歳まで新NISAで毎月2万円を積み立てていれば、住宅購入時に571万8,807円を自己資金に充てられる可能性があります。
このように、20代で資産形成を始めるのであれば、iDeCoと新NISAを併用して、それぞれのメリットを活かしましょう。
30代で始めるなら、iDeCoは拠出限度額か最低拠出額の2択
20代に比べ、収入に余裕がある一方、ライフイベントで使うお金が多いのが30代です。iDeCoと新NISAを使った資産形成を始めるのであれば、節税効果を期待して拠出限度額までiDeCoで運用しましょう。結婚・出産や住宅購入など、ライフイベントでお金を費やす機会が多い場合は、iDeCoは最低拠出額に留め、切り崩しやすい新NISAを多めに運用するのがおすすめです。
たとえば、年収450万円で企業年金がない企業に勤める会社員Bさん(30歳)の拠出限度額は2万3,000円です。Bさんが運用利率3%のiDeCoを35年間続けた場合、積立運用額(積立総額+運用益)は以下になります。
〈表〉会社員BさんのiDeCo積立運用額(運用率3%)
掛金額(月額) | 1万円 | 1万5,000円 | 2万円 | 2万3,000円 |
---|---|---|---|---|
積立運用額 | 741万5,637円 | 1,112万3,455円 | 1,483万1,273円 | 1,705万5,964円 |
積立時節税額(総額) | 84万円 | 126万円 | 168万円 | 193万2,000円 |
毎月2万3,000円を積み立てていれば、Bさんが65歳になった時には、1,705万5,964円を老後資金として準備することができます。また積立時節税額を貯金したりNISAで運用したりすれば、後述の老後資金(夫婦・独身)よりも多少余裕が生まれます。
なお、30代の人で、ライフイベントを控えている場合は、新NISAを活用するのが賢明です。以下は、年齢別に算出した新NISAの積立運用額です。ご自身のライフイベントと照らし合わせて参考にしてみてください。
〈表〉会社員Bさんの新NISA最終積立金額(年利3%)
積立期間 | 掛金額(月額) 5,000円の場合 | 掛金額(月額) 1万円の場合 | 掛金額(月額) 2万円の場合 |
---|---|---|---|
10年(40歳) | 69万8,707円 | 139万7,414円 | 279万4,828円 |
20年(50歳) | 164万1,510円 | 328万3,020円 | 656万6,040円 |
30年(60歳) | 291万3,684円 | 582万7,369円 | 1,165万4,738円 |
40年(70歳) | 463万298円 | 926万595円 | 1,852万1,190円 |
詳しくは後述しますが、たとえば住宅購入を予定している場合、40歳まで新NISAで毎月2万円を積み立てていれば、住宅購入時に279万4,828円を自己資金に充てられる可能性があります。
このように、30代で資産形成を始めるのであれば、予定しているライフイベントを踏まえた上で、iDeCoと新NISAの積立運用額を決めましょう。
40代で始めるなら、選択は預貯金額次第
40代になると、30代からさらに収入が増え、人によってはある程度の預貯金があるのではないでしょうか。たとえば、冠婚葬祭や引っ越しなど、急な出費に対応できるだけ預貯金に余裕があれば、60歳まで引き出せないiDeCoに拠出限度額まで投入し、預貯金を除いた余裕資金を新NISAにまわしましょう。預貯金がない場合は、流動性の高い新NISAを優先したほうが安心です。
たとえば、年収500万円で企業年金がない企業に勤める会社員Cさん(40歳)の拠出限度額は2万3,000円です。Cさんが運用利率3%のiDeCoを25年間続けた場合、積立運用額(積立総額+運用益)は以下になります。
〈表〉会社員CさんのiDeCo積立運用額(運用率3%)
掛金額(月額) | 1万円 | 1万5,000円 | 2万円 | 2万3,000円 |
---|---|---|---|---|
積立運用額 | 446万78円 | 669万117円 | 892万156円 | 1,025万8,180円 |
積立時節税額(総額) | 60万円 | 90万円 | 120万円 | 138万円 |
毎月2万3,000円を積み立てていれば、Cさんが65歳になった時には、預貯金にプラスして1,025万8,180円を老後資金として準備することができます。さらに、積立時節税額を貯金したりNISAで運用したりすれば、より余裕が生まれるでしょう。
なお、預貯金に余裕がない場合は、自由に切り崩せる新NISAを優先しましょう。以下は、年齢別に算出した新NISAの積立運用額です。
〈表〉会社員Cさんの新NISA最終積立金額(運用率3%)
積立期間 | 掛金額(月額) 5,000円の場合 | 掛金額(月額) 1万円の場合 | 掛金額(月額) 2万円の場合 |
---|---|---|---|
10年(50歳) | 69万8,707円 | 139万7,414円 | 279万4,828円 |
20年(60歳) | 164万1,510円 | 328万3,020円 | 656万6,040円 |
30年(70歳) | 291万3,684円 | 582万7,369円 | 1,165万4,738円 |
35年(75歳) | 370万7,818円 | 741万5,637円 | 1,483万1,273円 |
新NISAで10年間2万円を積み立てていれば、積立運用額は279万4,828円になります。突然の入院や引っ越しなど、まとまったお金が必要な時に、いつでも切り崩せる新NISAは心強い存在です。またそういった出費がなければ、老後資金にまわすこともできます。
このように、40代で資産形成を始めるのであれば、預貯金が十分かどうかで、iDeCoと新NISAの優先度を決めるといいでしょう。
50代で始めるなら、新NISA優先で非課税枠を使い切る
50代になると、資金を必要とするライフイベントもある程度落ち着き、収入・預貯金ともにある程度の余裕がある人も少なくないのではないでしょうか。預貯金が2,000万円以上ある場合には、まずは新NISAの非課税保有限度額1,800万円を5年間で使い切りましょう。さらに余裕があるようであれば、iDeCoも拠出限度額まで投入するのがおすすめです。
たとえば、年収600万円で企業年金がない企業に勤める会社員Dさん(50歳)の拠出限度額は2万3,000円です。Dさんが運用利率3%のiDeCoを15年間続けた場合、積立運用額(積立総額+運用益)は以下になります。
〈表〉会社員DさんのiDeCo積立運用額(運用率3%)
掛金額(月額) | 1万円 | 1万5,000円 | 2万円 | 2万3,000円 |
---|---|---|---|---|
積立運用額 | 226万9,727円 | 340万4,590円 | 453万9,454円 | 522万372円 |
積立時節税額(総額) | 36万円 | 54万円 | 72万円 | 82万8,000円 |
毎月2万3,000円を積み立てていれば、Dさんが65歳になった時には、預貯金にプラスして522万372円を老後資金として準備することができます。さらに、積立時節税額を貯金したりNISAで運用したりすれば、より余裕が生まれるでしょう。
なお、新NISAで非課税保有限度額1,800万円を使い切る場合は、以下を参考にしてみてください。積立期間10年、月額15万円で年利3%の積立投資をする場合のシミュレーションです。
〈表〉会社員Dさんの新NISA最終積立金額(年利3%)
期間 | 年齢 | 投資元本 | 運用益 | 最終積立金額 |
---|---|---|---|---|
開始時 | 50歳 | |||
1年目 | 51歳 | 180万円 | 2万4,957円 | 182万4,957円 |
5年目 | 55歳 | 900万円 | 69万7,007円 | 969万7,007円 |
10年目 | 60歳 | 1,800万円 | 296万1,213円 | 2,096万1,213円 |
非課税保有限度額1,800万円を使い切ったあと | ||||
20年目 | 70歳 | 1,800万円 | 1,028万2,451円 | 2,828万2,451円 |
新NISAの非課税保有限度額を使い切ったあとの運用期間が長いほど、メリットが大きいため、余裕がある場合は早めに非課税保有限度額を使い切ることも検討してみましょう。
なお、預貯金に余裕がない場合は、iDeCoを最低拠出額の5,000円で始めて、新NISAで余剰金を運用するようにしましょう。iDeCoで老後資金に備えつつ、新NISAでは出費に備えた資金を運用するのが得策です。
【関連記事】ほったらかしでOK!新NISAの非課税枠1,800万円を使い切る場合の運用益は?
【目的別】iDeCoと新NISAを選ぶならどっち?
どのような目的で資産形成したいかによっても、iDeCoと新NISAのどっちが適しているかは異なります。
上記5つの目的の場合について、解説します。
①老後資金に備えるならiDeCo
これから老後資金を備えるのが目的であれば、iDeCoが適切な選択肢でしょう。原則、60歳まで運用資産を引き出せないからこそ、複利効果を活かした長期的な運用が可能です。
参考までに総務省が公表しているアンケート調査「家計調査報告」などを参考に算出した老後に必要な資金を紹介します。
〈表〉高齢者世帯の老後資金7)8)9)
【夫婦(高齢夫婦無職世帯)の老後資金】(※)
・生活費(夫婦2人):約1,364万円
・介護費(夫婦2人):約1,162万円
・葬儀費(夫婦2人):約196万円
合計:約2,722万円
【独身(高齢単身無職世帯)】(※)
・生活費:約1,107万円
・介護費:約581万円
・葬儀費:約98万円
合計:約1,786万円
※:65~95歳の「老後」30年間を暮らすために必要と考えられる、年金収入以外の資金を試算。持ち家で住宅ローンの返済が完了後の場合。
老後資金を目的にiDeCoを始める場合は、上記を参考に目標額を設定してみましょう。
②住宅購入に備えるなら併用
住宅購入に備えて資産形成をするのであれば、頭金のために新NISAを運用しつつ、iDeCoも少額で併用し、引き出せるタイミングになったら住宅ローンに充てるというのもいいでしょう。参考までに、国土交通省の「住宅市場動向調査」によると、住宅やマンションを購入する場合、購入資金の平均額は以下になります。
〈表〉購入資金の平均額10)
- 注文住宅(土地を含む) 平均5,436万円
- 注文住宅(建て替え) 平均4,487万円
- 分譲戸建住宅 平均4,214万円
- 分譲マンション 平均5,279万円
- 中古戸建住宅 平均3,340万円
- 中古マンション 平均2,941万円
注文住宅の購入資金は全国平均で5,436万円です。そのうち、住宅ローン以外に自己資金として平均1,665万円を、預金や有価証券の売却代金、退職金などで用意する人が多いです。新NISAを運用していれば、住宅購入時に、積立運用額をそれに充てることができます。
参考資料
③節税効果を狙うならiDeCo
資金づくりをしながら節税もしたい人には、前述のように、「積立時」「運用時」「受取時」の3つのタイミングで税制優遇を受けられるiDeCoがおすすめです。ただし、住民ローン減税やふるさと納税をしていると、積立時の節税効果が減じる可能性がある点に注意しましょう。
④投資を経験したいなら新NISA
とりあえず投資を始めたいという人には、少額から始められる新NISAがおすすめです。通常の口座で投資を行うと、運用益に20.315%の税金がかかりますが、NISA口座の運用益にはこの税金がかかりません。いつでも資産を引き出すことができるのもメリットでしょう。
⑤教育資金はどちらもおすすめしない
まずiDeCoは原則60歳まで引き出すことができないので、教育資金づくりの手段には向いていません。一方、新NISAは投資信託や株式を運用する制度のため、元本割れするリスクがあり、使う時期と金額が決まった資金を用意する手段としては不安が残ります。減るリスクがない預貯金や、契約者である親が亡くなった際の保障がある学資保険のほうが教育資金づくりには適した方法でしょう。
iDeCoとNISAを選ぶ時によくある質問
Q1. 専業主婦(夫)はiDeCoと新NISAどっちがいい?
投資の目的や資金額によってどっちがいいかは異なります。老後資金を貯めるのであれば、iDeCoが適切です。自分名義の厚生年金や退職金がないからこそ、自分個人の老後資金を用意したい専業主婦(夫)の人もいるのではないでしょうか。一方、自由に使えるお金を増やしたい、ということであれば、少額から投資ができ、いつでも運用資産を引き出せる新NISAが妥当といえます。
なお、専業主婦(夫)が投資を行う場合、贈与税に注意する必要があります。配偶者にもらったお金が1年間で110万円を超えると、贈与税が課されます。つまりiDeCoは拠出限度額まで利用できるものの、新NISAで投資できる金額は制度上の限度額を下回ることになります。
また、専業主婦(夫)は所得税や住民税を納めていないため、iDeCoを運用しても所得控除の恩恵を受けることはできません。夫婦でどちらかが、iDeCoを始める場合には、収入がある配偶者が行ったほうが節税効果は高くなる可能性がある点に注意しましょう。
Q2. 40代独身はiDeCoと新NISAどっちがいい?
併用するのがベストですが、前述のように、どちらを優先するかは資産形成の目的と預貯金額にもよります。運用資金に余裕があるのであれば、iDeCoに拠出限度額まで投入し、残りの余裕資金を新NISAにまわしましょう。預貯金がない場合は、流動性の高い新NISAを優先したほうが安心です。
Q3. 50代独身はiDeCoと新NISAどっちがいい?
50代の場合も併用するのがベストですが、前述のように、まずは新NISA優先で1,800万円の非課税枠を使い切り、さらに余裕があるようであれば、iDeCoも拠出限度額まで投入しましょう。ただし、退職金がない自営業の場合は、会社員や公務員よりも拠出限度額が大きい(6万8,000円)ので、老後資金に不安がある場合はiDeCoを優先するのがおすすめです。50歳からでも拠出限度額まで投資した場合を試算すると、15年間で1,543万4,143円の積み立てが可能です。また所得に応じ、節税効果も期待できます。
iDeCoと新NISAは人生のステージと目的によって上手く使い分けよう
iDeCoと新NISAは、ともに資産形成を目的とした制度です。ただし、それぞれに違いがあるため、年代や目的によって使い分けることが大切です。自分にあった制度を選び、効率よく資産形成に活用しましょう。