しかしながら、それでも投資に踏み込む決断ができない筆者。そこで今回は、どうしても始められない筆者のわだかまりをぶつけてみました。
お話を聞いた人
山口京子さん
大学時代からテレビ・ラジオに出演。2000年、「これからはお金を紹介する人になろう!」とFP資格を取得。その後、「ミヤネ屋」「バイキング」などに出演。近著に『なまけものが得をするワンコインつみたて投資術』などがある。
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コロナは投資を始めるチャンスだった!?
小野さん、さっそくですがクイズです。今回のコロナの影響で、投資を始める人は増えたでしょうか? 減ったでしょうか?
えっと、やっぱり減ったんじゃないでしょうか?
不正解です。今回のコロナ禍で株価は下落し、不安定な状況となりました。しかし、特にネット証券会社では新規の口座開設数が激増したと発表しており、某証券会社では株価が暴落した2020年3月に過去最高の口座開設数を記録したそうです。
そうだったんですか! 投資初心者が一気に始めたというわけですね?
そうです。口座開設者の7割が投資初心者だった、と発表をした会社もあります。さらに始める方が増えただけでなく、積立投資を増やした方も多かったんですよ。
僕も始めておくべきでしたかね…。
前回、「りんごが安い時(=株価が下落した時)はチャンス」とお伝えしましたが、小野さんは始めるチャンスを失ってしまっていましたね(笑)。
なんと…そうだったんですね。
?? …あまり悔しそうじゃないですね?
正直に言うと、チャンスだって言われても、まだピンと来ないんです…。
なるほど。では、今日は小野さんが投資をやる気になるようなお話をしていきましょう。
まずは「将来の自分」をイメージしよう
前回までで投資に対し抱いていた不安や疑問はなくなりました。だけど、すぐに始めなきゃ!という危機感がどうしても生まれないんですよね。
「どうしても投資を始めなければならない」ということではありません。ただ、コロナ禍で小野さんの周りでお給料がカットされた方、もしくは入らなかった方はいませんでしたか?
給料が20%カットされた友達がいましたね。
ですよね。会社の業績が悪くなるだけでなく、地震や豪雨などの天災によって、急に収入がなくなることは人生において十分あり得ることです。だからこそ、貯金や投資は大切なんです。「お金は人生のエアバッグ」とでも言っておきましょうか。
人生、何が起こるかわかりませんね…。
例えば、小野さんはいま、順調に働いていますよね? 70歳になっても今と同じように働けると思いますか?
厳しいでしょうね…。頭も身体も今よりは衰えているでしょうから。
そうですよね。ずっと同じペースで仕事ができないということは、当然お給料も変わりますよね?
たしかに。でも、65歳からは年金が受け取れますよね?
鋭いですね〜。では、ここで小野さんの老後をシミュレーションしてみましょうか?
〈図〉ライフプランのシミュレーション例
定年後、小野さんは厚生年金を毎月約17万円もらい、貯蓄額は100万円だったとします。どうですか? 70歳で貯蓄が尽きていますよ?
本当だ!そんなに早くなくなるとは…!
なお、厚生年金を前提として約17万円と計算しましたが、少子高齢化などに伴って社会保険制度が今後変わっていく可能性もありますので、小野さんが年金を受け取る時には受給額がいくらになっているかはわかりません。くわえて今後、小野さんがフリーランスになった場合、国民年金のみになるため、老後の受給額は確実に減ります。例えば月々10万円で悠々自適な老後は送れそうですか?
う〜ん。都内で暮らしていくのは難しいかもしれませんね。
そうですか。いま、将来必要だと思う金額が年金でまかなえないと思うのであれば、その差額を今から貯めておく必要がありますよね。さらに、インフレの可能性だってあります。しかし、繰り返しになりますが、仮にインフレで物価が2倍に上がったとしても、年金受給額も2倍に上がるとは限りません。そうなった場合、買いたい物が買えない、病院に行くのも我慢するような生活になるかもしれませんよ?
〈図〉消費者物価指数の推移
こちらは、ここ50年の消費者物価指数のグラフです。ここ20年もほぼ横ばいですが、いろんなものが値上がりしていますよ。官製はがきは、50円から63円へ23%値上げ。国立大学の授業料は、478,800円から535,800円へ11%の値上げ。もちろん将来どうなるかは誰にもわかりませんが、わからないことに不安を覚えるなら、最低限、自分で備えなきゃいけないんです。
そうですね…。
そして、第1回でお伝えしたように、貯金は基本的に元本割れリスクはありませんが、利息はほとんどつかないため、インフレが起こると、自然とお金の価値が下がってしまいます。それに対して、株価というのはコロナ禍や震災、リーマンショックなどの影響で上がったり下がったりしますが、経済というのは長い目で見ると右肩上がりにゆっくりと成長していくものなんです。そのため、長期・分散・積立という3原則を押さえて投資していけば、最終的にお金が増えている可能性が非常に高いんです。
もしお金がなくなったら…僕らの生活はどうなるの?
ちなみに、老後にお金が底をついてしまった場合、どのような生活になるんでしょうか?
1つは、自分の子どもに頼るケース。ただ、今の日本では4人も5人も子どもがいる家庭は珍しく、むしろ1人、もしくはいない家庭も多いです。そもそも結婚をしていない方もたくさんいます。そうなると、自分で自分の老後を支えなければなりません。
それは怖いですね。
もう1つは生活保護を受けるケース。最低限の生活は保証されますが、小野さんが老後の生活を送る時にどの程度、支えてもらえるかは予測が難しいところです。
だから、今から準備しなきゃいけないわけですね?
そうです。50代の夫婦でも貯金が全くないという方も多くいます。すでに老後へのカウントダウンは始まっているなかで、いきなり月々50万円ずつ貯められますかと言われても無理なわけですよ。でも、20代の時からやっておけば、少しずつでいいのです。
夏休みの宿題みたいですね。案の定、僕は8月31日に終わらせるタイプでしたが……。
その頃から問題を先送りしているんですね(笑)。同じような理屈ですが、夏休みの宿題で辛いのは1日だけですが、老後となったら毎日ですからもっと深刻じゃないですか? しかも、宿題は時間に追われる切羽詰まったイメージですが、投資はお金を増やすことですからね。ここを勘違いしてはいけませんよ。
全体を見据えた計画性のある友達は、夏休みが始まる前から気付いてたな〜。
でも、どんなエグゼクティブでも意外と知らない方っているんですよ。投資に収入、社会的地位、学歴は全く関係ありません。価値を見出せるかが大切なんです。最低限の生活で十分と今は思っていても、実際にそうなった時にもそう思えるかって予測ができないんですよ。お金を持ちつつ、最低限の生活を送ってもいいじゃないですか? まずは老後に備えて、選択肢を増やしておきましょう。
最後のハードルは「面倒くさい」という感覚
老後のために貯金だけでなく、投資をする必要性は十分にわかりました。とはいえ、65歳までとなると遠すぎて、あまりピンときていないんですよね。
まだ、現実的に考えられませんか…。多分、単純に面倒くさいだけなのだと思います(笑)。でも、この面倒くさいという感覚を崩すのはかなり難しいんです。これまでやったことのないこと、習慣化されていないことを行うわけですから。
すみません。
いえ。じつは、産業心理学・組織心理学の権威であるピアーズ・スティール教授によれば、95%の人はものごとを先延ばしすることがあることを自覚しているそうです。このピアーズ教授は3つの先延ばしタイプを提示しているのですが、小野さんは投資においては、どのタイプだと思いますか?
〈表〉先延ばしする人の3タイプ
①どうせ失敗すると決めつけるタイプ ②課題が退屈でたまらないタイプ ③目の前の誘惑に勝てないタイプ |
①と②は思わないので、③目の前の誘惑に勝てないタイプですね…。
なるほど。やはり、お金の優先順位が低いわけですね。そしたら、「投資は娯楽である」と認識してみるのはどうでしょうか?
娯楽…ですか?
投資は何も老後の生活のためだけにするのではなく、近い将来に「これがしたい」という目標のために始めても良いんです。むしろ、まずはそうした小さな目標額を達成して、成功体験を味わうことが重要だと思います。小野さんにとって、楽しいことはなんですか?
旅行とかですかね。
良いですね。例えば、毎月30,000円を積み立てて、3年後にプラスが出たら、その分だけ使ったっていいじゃないですか? そのプラスによっては、当初は国内で考えていた旅行先をハワイやヨーロッパに変更できるかもしれない。これが目先のお金のみで生活する自転車操業だったら、こうした選択肢は生まれないわけです。
え、途中でお金を引き出してもいいんですか?
もちろんです。必要になったら引き出す方もいれば、65歳まできっちりと積立投資をする方もいます。さらには、その利益で新たに株や投資信託を買い増す方もいます。使い方は人それぞれですよ。
なるほど。お金が増えた分だけ使うのは良さそうですね!
10年もあれば、恋人の分の旅行代を出してあげられるくらい増えているかもしれない。いや、もしかしたら両親を連れていってあげられる可能性だってありますよ?
それは楽しみですね! ワクワクしてきました!
お金があるということは、選択肢の幅が広がるということです。結婚した時には住居も選べますし、新婚旅行先も選べます。先ほどの老後もそのひとつなんです。家庭菜園だけで暮らしていくのか、家庭菜園にくわえて、ちょっと珍しいお野菜を八百屋で買うこともできるのかも選べるわけです。
確かに、「老後の不安」といった漠然とした将来のことよりも、僕の場合は「投資は娯楽」ととらえる方が向いていそうです。やる気が上がってきました!
結局は価値の見出し方なんです。本当にお金が必要だと思わないと人は貯められないんですよね。
僕は山口さんのおかげで投資に価値を見出せそうですが、他のみなさんはどうやってそれに気づくのでしょうか?
冒頭でお伝えした、「老後の危機感」から投資を始める方もいれば、「お金のリテラシーを高めて賢くなること」に価値を見出す方、小野さんのように「自分にとって優先順位が高い何か」に結びつけることで価値を見出す方もいます。いずれにしても、面倒くさいと思っている方には投資に対する意識を変えてもらうのが有効ですね。
なるほど。おかげさまで意識は改まりました。
お、やる気になりましたね? ちなみに、小野さんには積立投資をオススメしてきましたよね? これって銀行はもちろん、農協や証券会社、保険会社でもやっているんです。例えば、終身保険や定期保険で保障を確保しながら、積立投資を行うという選択肢もありますよ。
保険と積立投資がセットになっているということですか?
そうです。例えば、ドルなどの外貨でお金を積み立てていくものや投資信託のようなファンドで運用するものもあるんです。もちろん保険ですから、死亡保障もあります。満期を迎える前に亡くなった場合、その時の運用成績がマイナスになっていたとしても、死亡保険金は必ず受け取れるんです。
なるほど! それなら抵抗感なくやっていけそうです。やっと、心からやりたいと思えました。ありがとうございます!
これでまた老後難民を1人救えました!
参考文献
1)ピアーズ・スティール著『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』(CCCメディアハウス)
撮影/小島マサヒロ
この記事の著者
小野洋平
1991年生まれ埼玉県育ち。編集プロダクション「やじろべえ」所属。服飾大学を出るも服が作れず、ライター・編集者を志す。お札を折りたくないので長財布派ですが、お札はあまり持っていません。
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