円の普通預金や定期預金と同じくらいわかりやすく、しかも株式の複雑なしくみと比べると知識や経験がそこまでいらないのが、外貨預金の大きなメリット。初心者向けの外貨預金の始め方や、リスクを軽減するためにおぼえておきたいポイントについて、ファイナンシャルプランナーの荒木千秋が解説します。
外貨預金って、そもそもどんなもの?
いわゆる「外貨預金」とは、「日本円を外国の通貨に両替して行う資産運用」のことです。私たちが利用している「銀行預金」を「外国の通貨で行う」、と考えれば難しくありませんよね?
現在、日本国内で利用できる外貨預金の通貨は、アメリカドル(米ドル)・ユーロ・オーストラリアドル(豪ドル)・ニュージーランドドル(NZドル)が主流です。
メガバンクはもちろん、地方銀行やネット銀行など、様々な金融機関で取り扱いがあります。これらの通貨以外にも、一部の金融機関では新興国の通貨の取り扱いが行われています。
日本円で行う通常の預金と同様に、外貨預金にも、普通預金(いつでも出し入れできる)と定期預金(基本的には満期日が来るまで解約できない)があります。
金利だけを考えれば、普通預金よりも定期預金のほうが高金利です。ただし、満期日の前に解約すると、予定されていたよりも受け取る利息が減ってしまう場合もあります。
また、預金と名前がついていますが、金融機関が破綻した場合の救済措置、預金保険制度の対象外になる点にも注意が必要でしょう。それらの注意点を踏まえたうえで、普通預金を選ぶか、定期預金を選ぶかを決めましょう。
外貨預金のしくみを解説!
外貨預金が初心者向けの投資といえる理由のひとつは、基本的に「為替レート」と「金利」という、2つのポイントを押さえるだけでよい点にあります。
ポイント1:為替レートの変動で利益が生まれる
1つめのポイントである「為替レート」とは、外国為替市場において異なる通貨が交換(売買)される際の交換比率のことです。為替相場とも呼ばれます。
たとえば、日本円で1,000円を米ドルに両替した場合を考えてみましょう。
1ドル100円の時点で両替をすれば、単純計算では1,000円を10ドルに両替することができます。外貨預金の場合でも同様に、1ドル100円の時点で預け入れをすれば、10ドルの預金額となるわけです。
しかし、ニュースを見ればわかるように為替レートは毎日変動します。では、預けた時点では1ドル100円だったレートが、引き出す際に1ドル110円になっていた場合はどうなるでしょう?
10ドルを引き出すとすれば、円に戻した場合は「10ドル×110円」で、日本円だと1,100円となります。預けた時には1,000円でしたから、差し引き100円の利益が出たことになりますね。このように、両替する際に出た利益を「為替差益」と呼びます。
〈図〉為替差益の例
もちろん、いつでも利益が出るとは限りません。同じ10ドルを引き出すのでも、1ドル90円の時点だと、「10ドル×90円」で、日本円では900円。つまり、100円の損になってしまいます。このように、両替した際に出た損益を「為替差損」と呼びます。
〈図〉為替差損の例
つまり、為替レートに応じて「為替差益」や「為替差損」のように、利益が出たり損したりするのが外貨預金の基本的なしくみというわけです。
ポイント2:日本円より高い金利の外貨預金もある
2つめのポイントは「金利」です。銀行に預ける預金ですから、外貨預金の場合も、日本円の預金と同様に利息がつきます。しかし、日本円での預金とは違い、外貨預金の場合は、両替した通貨を発行する国の金利が適用されます。
たとえば、米ドルに両替したなら、アメリカの金利が適用されて、米ドルで利息を受け取ります。豪ドルに両替したなら、オーストラリアの金利が適用されます。つまり、日本よりも高い金利の国の通貨に両替すれば、より多くの利息が期待できるというわけですね。
〈表〉外貨預金/円預金金利の目安
通貨名 | 普通預金金利 | 定期預金金利 |
---|---|---|
米ドル | 0.010% | 0.010% |
英ポンド | 0.010% | 0.010% |
豪ドル | 0.050% | 0.050% |
日本円 | 0.001% | 0.002% |
このように「為替レート」と「金利」の2つに注目することで、日本円での預金に比べより多くの利益が期待できる点が、外貨預金の魅力といえるでしょう。
外貨預金が必要とされる理由
外貨預金に魅力があると聞いても、中には「ずっと日本で暮らしているから、外貨は自分に関係ない」と思う人がいるかもしれません。
しかし、投資をしたい人はもちろん、資産運用を考えていない人でも、以下の理由によって、外貨預金を資産に組み込むことのメリットがあると考えます。
(1)将来に向けた資産形成
外貨預金が必要な理由のひとつとして、円預金だけでは長期の資産形成が難しい点があります。かつて、日本の経済成長期には金利が高く、円だけを持っていても効率的に資産を増やすことができました。
しかし、現在は日本円で預金しても金利が低いので、いつまでたっても増えてくれません。
一方で、日本以外に目を向けると金利が高い国がたくさんあります。将来に向けて資産を形成するためには、日本と比べて金利や経済の成長性が高い国々の外貨預金が効果的なのです。
(2)日本政府のインフレ政策対策
外貨預金の効果は、単に利益が期待できるだけではありません。場合によっては、自分の財産の実質的な目減りを防ぐ、守りの要素もあります。
たとえば外貨預金は、インフレ対策に有効といわれています。インフレとは簡単にいえば、物やサービスの価格が上がること。たとえば、これまで100円で買えたものが110円に値上がりした場合、相対的には100円自体の価値が下がっていると考えられます。つまり、お金が目減りしている状態です。
日本ではデフレの傾向が続いていたため、物やサービス自体の価格が上がり続けることを想像しづらいかもしれません。しかし、日本政府は適度なインフレが経済成長につながっていくとして、現在はインフレを推進しています。
もしインフレが継続して実現すれば、資産の目減りを防ぐための自衛策が必要になるでしょう。インフレ政策で円の価値が下がった場合、逆に外貨の価値は上がることになるので、外貨預金をしておけば資産の目減りは防ぐことができます。
(3)為替レート変動のリスク軽減
さらに、外貨預金は為替レート変動のリスクに備えるためにも必要です。
為替レートの変動によって企業の業績が影響するように、円の価値が個人の生活にも大きく影響します。例えば海外旅行や海外留学をすれば、外貨を実際に手にして使いますよね。
旅行直前に円安が進んでいると、「換金できた外貨が少ない…」と感じたことがある人は多いでしょう。一部の金融機関では外貨預金を現地のATMで引き出せる機能があるため、あらかじめ円高の時に預金しておけば、円安のリスクを軽減できるのです。
〈表〉外貨預金が必要とされる理由
(1)将来に向けた資産形成には超低金利の日本円よりも有効であるため
(2)日本政府が目指すインフレ推進政策で、円の価値が下がった場合に、相対的に外貨の価値が上がり、資産全体の目減りを防げるため
(3)海外旅行や現地の買い物の直前の為替レートが円安となった時の負担増を軽減できるため
外貨預金に向いている人・向いていない人
このように外貨預金の必要性は高まっていますが、誰にでも絶対おすすめというわけではありません。実際に始める前に、自分が外貨預金に向いているのかどうかを確認しておきましょう。
外貨預金に向いている人とは?
まず、海外に行く機会が多い人ほど、資産の一部を、よく行く国の通貨で外貨預金しておくメリットは大きいといえます。為替レートの変動に左右されず、外貨を利用しやすい環境が得られるからです。
多くの場合、外貨預金は少額から取引ができますし、国内でも手数料を払えば直接外貨で引き出すことができる銀行もあります。ちなみに外貨普通預金なら、米ドルは1ドル、ユーロは1ユーロから手軽に始めるこことも可能です。その点でいえば外貨預金は、少ない金額で投資を体験してみたいという人にも向いている、といえるでしょう。
外貨預金に向いていない人とは?
一方で外貨預金は、他の外貨建ての金融商品と比べると運用に必要なコストが割高になる特徴があります。最近はネットでの取引で為替手数料を0円にするなど、手数料を割安にする金融機関も一部ありますが、都市銀行では取引のたびに手数料がかかるのが基本です。
そのため、手数料が気になる人にはあまり向いていない金融商品といえるかもしれません。
また、大きな金利収入を期待している人にも向いていません。リーマンショック以降、世界的に金利が低くなってきており、金利収入だけでは大きな利益を得にくい通貨が多いからです。
このほか、為替レートは株価と比較した場合、1日に動く値幅が小さいため、短期的な利益を追求したい人にも向いていません。
〈表〉外貨預金に向いている人・向いていない人
○外貨預金に向いている人 |
---|
海外によく行く人 |
資産運用に初めてチャレンジしたい人 |
為替レートを自己責任で確認できる人 |
△外貨預金に向いていない人 |
運用手数料を気にする人 |
大きな金利収入を期待している人 |
短期的に利益を求める人 |
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外貨預金のリスクを最小限に抑えるには
外貨預金は為替差益と利息が魅力ですが、もちろん、損をする可能性もあります。ここで外貨預金のリスクを、なるべく低く抑えるためにおぼえておきたい知識について解説しておきましょう。
預け入れと払い戻しの為替レートの差
1ドル100円の時に預け入れた後、120円の時に円に戻したとします。この場合、円安により20円の利益になります。逆に、80円で円に戻した場合、円高により20円の損が発生します。
〈図〉払い戻し時の為替レートと損益の関係
このように外貨預金は、為替レートによって損益が左右されます。相場を正確に予測するのは難しいため、リスクを軽減する工夫が大切です。
リスクを抑える方法はある?
外貨預金のリスクを抑えるためのポイントは、毎月の額を決めて継続的に貯めていく「積み立て」と、預金によってできた利息にまた利息が付く「複利」の効果です。
外貨預金の特徴のひとつは、為替レートが変動することです。一番安い値段で買って、一番高い値段で戻せるといいのですが、そう簡単にはいかないですよね。
為替レートの影響を抑える方法として、購入時期の分散があります。時期をずらして購入すれば、予測できない為替レートの変動による影響を軽減できます。
代表的な方法は、「外貨をひと月5,000円分ずつ」などと日本円で一定額を決めて積み立てる「ドルコスト平均法」です。
外貨預金や株式のような売買価格が変動するものに投資する時に使われる手法で、結果的に安い時に買い損ねたり、高い時に買いすぎたりすることを避けられるため、大きな損失を防ぐ効果があります。
また、10年のような長いスパンの運用を考えているのであれば、複利の効果も味方につけましょう。複利の効果とは、1回目の満期には元本に利息がつくと、2回目の満期以降には「元本+利息」に利息がつき、利息が利息を生むことを指します。外貨預金の利息の受け取り方法には、元本しか利息が付かない「単利」の場合もあるので、どちらになっているかしっかり理解して選びましょう。
外貨預金のコストにも要注意!
外貨預金のコストには両替の際に発生する「為替手数料」だけでなく、利益が出た時に発生する「税金」があります。利益は所得の扱いとなるため、所得税や住民税の対象となります。
これらのコストが利回りに影響するわけです。税金は避けられませんが、為替手数料に関しては知識があれば、利回りアップを期待することができます。
(1)外貨預金の手数料
外貨預金の為替レートは、手数料込みで表示されているのが一般的です。おぼえておきたいのは、同じ金融機関で同じ通貨の取引でも、窓口で申し込むより、インターネットを利用して申し込んだ方が為替手数料は安くなるケースがあることです。
たとえば、同じ銀行でも窓口で両替すると「1ドルにつき1円」である一方、ネット上では「1ドルにつき25銭」の手数料で両替できるケースもあります。同様に、実店舗のある銀行よりもネット銀行のほうが、手数料を低く設定している場合が多いようです。
また、利用する通貨によって、為替手数料が異なる点にも注意が必要です。
一般的に米ドルの為替手数料は安く、マイナーな通貨になるほど為替手数料は高くなりがちです。そのため、外貨預金は手数料と金利を考慮して選ぶ必要があります。
とはいえ、手数料の安さに惑わされてはいけません。
たとえば「金利1.3%で為替手数料25銭のアメリカ通貨・ドル」と、「金利6.5%で為替手数料25銭の南アフリカ通貨・ランド」だと、どちらの通貨に魅力を感じるでしょうか?
もしかすると、「同じ為替手数料なら金利が高いランドがいい」と思った人がいるかもしれません。しかし、それだけでは判断できません。
仮に、この時の為替レートが「1ドルが100円、1ランドが10円」だとしましょう。すると、為替手数料は以下のようになります。
〈表〉実質手数料の計算例
為替 レート | 100万円両替時の 実質手数料 | |
---|---|---|
ドル(アメリカ) 金利1.3% 為替手数料25銭 | 1ドル =100円 | 100万円÷100円×25銭 =2,500円 |
ランド(南アフリカ) 金利6.5% 為替手数料25銭 | 1ランド =10円 | 100万円÷10円×25銭 =25,000円 |
一見同じような手数料に見えても、為替レートも含めた総合的な判断が必要です。表面上の数字だけで判断しないよう気をつけてくださいね。
(2)税金
外貨預金の「利息」と「為替差益」は、それぞれ、税金の計算方法が違うので注意が必要です。まず、利息は利子所得となり、かかる税金は「利息×20.315%」1)が、源泉分離課税されます。利息の税金は、金融機関が代わりに税金を計算して、納付してくれます。
為替差益が生じた場合は、雑所得として確定申告が必要になります。ただし、年収2,000万円以下の給与所得者で、給与所得や退職所得以外の所得が、為替差益を含めて年間20万円以下であれば、申告は不要です。
1)2013年1月1日から2037年12月31日までは、復興特別所得税が付加されています。
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外貨預金の「金利」と「為替手数料」の最新傾向は?
最後に、これから外貨預金に挑戦する人のために、「金利」と「為替手数料」の最新傾向を簡単にまとめておきましょう。
金利が低い通貨と高い通貨
金利の上げ下げは、各国の中央銀行が経済情勢に応じて決定しています。2020年5月現在、新型コロナウイルスの影響で世界中の経済が落ち込んでいます。その対策として、世界的に金利を下げる対策をしているため、金利が変動しやすい環境です。2)
先進国通貨は、低成長・低インフレ(物価が低水準でほぼ安定している状況)が続いているため、金利が低い傾向があります。メガバンクの外貨定期預金金利(1年物)で、ユーロは0.001%、米ドルは0.01%、豪ドルは0.05%です。
一方、ネット銀行で取り扱う新興国通貨では、南アフリカのランドのように3%を超える金利があります。ただし、新興国通貨は、基軸通貨の米ドルと比較すると流通量が少なくて変動幅が大きく、政治の情勢の不安定さなどのカントリーリスクに注意が必要です。
2)金利と手数料の動向は、2020年5月8日現在の情報です。
為替手数料が安い通貨と高い通貨
基軸通貨の米ドルは他の通貨と比較して安い傾向があります。一般的に、先進国より新興国の通貨の手数料が高くなります。
また、金利や手数料は、時期や預け入れる金額・金融機関によって異なります。詳しい内容は、取引する金融機関で個別に確認してみたり、複数の金融機関を比べて検討したりするのがポイントです。
外貨預金は、初心者でも理解しやすい金融商品です。「投資を始めてみたい」と考えている人は、外貨預金を資産として組み合わせることも検討し
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