医療費控除を申告する際、「支払った医療費よりも保険金のほうが多かったら控除はできないのでは?」と迷う人もいるかもしれません。
 
医療費控除は、実際に支払った医療費から保険金などで補てんされた金額を差し引いて計算します。ただし、保険金はあくまでその対象となった医療費を限度として差し引けばよく、ほかのケガや病気の治療費まで差し引く必要はありません。
 
つまり、保険金が医療費を上回った場合でも、対象外の医療費があれば控除できる可能性があります。
 
この記事では、ファイナンシャル・プランナー原絢子さんの監修のもと、保険金が医療費より多い場合の考え方や、ケースごとの計算方法、e-Taxで申告する際のポイントについて、わかりやすく解説します。

この記事の監修者

画像: 保険金のほうが多い時の医療費控除について解説!申告しなくていいって本当?

原 絢子(はら あやこ)

FPサテライト株式会社 所属FP。大学卒業後、翻訳・編集業務に従事。金融とは無縁のキャリアを積んできたが、結婚・出産を機にお金の知識を身につけることの大切さを実感。以来、ファイナンシャル・プランナーとして活動を始める。モットーは「自分のお金を他人任せにしない」。自分の人生を自分でコントロールするためには、お金について学ぶことが必要との思いから、執筆・監修、セミナー講師などを通して、マネーリテラシーの重要性を精力的に発信している。

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医療費控除の基本と、保険金を受け取った場合の注意点

画像: 画像:iStock.com/MicroStockHub

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まずは、医療費控除の基本と、保険金を受け取った場合の注意点について理解しましょう。

医療費控除とは?どんな費用が対象になる?

医療費控除は所得控除の1つで、1年間(1月1日~12月31日)に支払った医療費の合計額が10万円(または所得金額の5%)を超えた場合に、税負担が軽減される制度です1)。確定申告をすることで、納めた税金の一部が戻ってきます。

ただし、すべての医療関連費用が医療費控除の対象になるわけではありません。以下に、医療費控除の対象となる費用対象とならない費用の例をまとめます2)

【対象となる費用の例】

  • 医師や歯科医師による診療・治療費用
  • 治療目的の医薬品費用
  • 通常の入院費用(寝巻きや洗面具などの身の回り品の購入費用は対象外)
  • 通院のための公共交通機関費用(公共交通機関を利用できない場合のタクシー代も対象)
  • 子どもの歯列矯正費用

【対象とならない費用の例】

  • 健康診断や人間ドックの費用(治療に至らない場合)
  • 健康増進目的のサプリメントの購入費用
  • 入院時の差額ベッド代
  • 通院のための自家用車のガソリン代・駐車場代
  • 容ぼうを美化する目的の歯列矯正費用や美容整形費用

【関連記事】医療費控除について、詳しくはコチラ

保険金を受け取った時は、対象となる医療費から差し引く必要がある

医療費控除の計算は、あくまで「実際に自己負担した金額」が基準となります。

そのため、健康保険などから支給される高額療養費や、民間保険の入院給付金などを受け取った場合には、その金額を医療費から差し引いて控除額を計算する必要があります1)

【医療費控除額の計算式】

医療費控除額=(実際に支払った医療費の合計額-受け取った保険金などの金額)-10万円(所得金額200万円未満の場合は所得金額の5%)

差し引くべき保険金・給付金、差し引かなくていい保険金・給付金

医療費控除を計算する際に、受け取ったすべての保険金や給付金を差し引く必要はありません。

差し引く必要があるのは、医療費の補てんを目的として支給される保険金や給付金です1)。ただし、出産手当金や傷病手当金、民間保険のがん診断給付金などは、医療費の補てんを目的として支給されるものではないため、差し引く必要がありません。

〈表〉保険金・給付金の差し引き要、不要(一例)

保険金などの名称差し引く必要性説明
入院給付金・手術給付金・通院給付金入院・手術などの費用を補てんする目的で支給される
高額療養費(健康保険)医療費が高額になった場合に、医療費を補てんする目的で支給される
出産育児一時金(健康保険)出産にかかる医療費を補てんする目的で支給される
就業不能保険病気・ケガで働けなくなった時の生活保障。医療費の補てんとはみなされない
所得補償保険病気・ケガで働けなくなった時の生活保障。医療費の補てんとはみなされない
がん診断給付金がんと診断された時に支給されるため、直接的な医療費の補てんとはみなされない
会社や知人から受ける見舞金や祝い金慣例的に受ける入院見舞金や出産祝い金は医療費の補てんとみなされない3)
特定疾病保険金(三大疾病の一時金など)
(給付内容による)
入院・治療などを条件に支給される場合は差し引く。診断確定を条件に支給されるものは差し引かなくてよい
損害賠償金
(給付内容による)
治療費として受け取ったものは差し引く
互助組織(職場の互助会など)からの給付金
(給付内容による)
医療費の補てんを目的とする場合は差し引く。慣例的に受ける見舞金や祝い金は差し引かなくてよい

「申告しない」「書かない」はアリ?保険金が医療費より多い時の医療費控除

画像: 画像:iStock.com/nicomenijes

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受け取った保険金が実際に支払った医療費を上回った場合、「医療費控除は申告しなくてもいいのでは?」と考える人も少なくありません。

しかし、保険金の対象外となる医療費があれば控除を受けられるケースもあり、一方で保険金を申告しないまま控除額を増やすのはリスクがあります

ここでは、保険金を受け取った時の確定申告の要否と、「申告しない」場合や「書かない」場合に生じるリスクについて解説します。

そもそも保険金を受け取っただけで確定申告は必要?

まず確認しておきたいのは、入院給付金など医療保険の保険金を受け取ったことで確定申告が必要になることはない、という点です。

基本的に、病気やケガによって受け取ることのできる保険金・給付金は非課税です。そのため、保険金を受け取っただけで確定申告が必要になることはありません。

一方で、医療費控除を受けたい場合には、確定申告が必要です。

つまり、保険金を受け取ったから確定申告が必要というわけではなく、医療費控除を利用するかどうかによって、確定申告の必要性が変わることになります。

保険金の対象外の医療費は、医療費控除できる可能性がある

「保険金が医療費より多かったから、医療費控除は利用できない」と考えている人もいますが、そうとは限らないケースもあります。

受け取った保険金は、その給付の目的となった医療費を限度として差し引けばよいことになっています。そのため、実際に支払った医療費より保険金が多かったとしても、ほかの医療費からその分を差し引く必要はありません1)。保険金の対象になっていない医療費が一定の額を超えていれば、医療費控除を受けられる可能性があります。

まずは、1年間に支払った医療費と、受け取った保険金を整理してみましょう。そうすることで、実際には控除できる医療費を見落とすおそれが少なくなります。

保険金を「申告しない」「書かない」ことで起こるリスクとは?

医療費控除を申告する際、受け取った保険金を申告しなければ医療費控除額が増え、戻ってくる税金も多くなるわけですが、保険金を申告しないことは「脱税行為」です発覚した場合、相応のペナルティが科され、悪質な場合は刑事罰が科されることもあります。

また、故意ではなく計算ミスや申告漏れがあった場合も、延滞税などのペナルティを科されるおそれがあります。受け取った保険金は正確に把握し、正しく申告するようにしましょう。

【ケース別】保険金がある時の医療費控除の計算方法

画像: 画像:iStock.com/Liudmila Chernetska

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ここからは、保険金を受け取った時の医療費控除の計算方法を、具体例を挙げて解説します。ご自身の状況に照らし合わせてみてみましょう。

まずは、医療費控除の計算式をもう一度確認しておきます。

【医療費控除額の計算式】

医療費控除額=(実際に支払った医療費の合計額-受け取った保険金などの金額)-10万円(所得金額200万円未満の場合は所得金額の5%)

※以下の具体例では、所得金額は200万円以上として計算します。

ケース①:保険金が医療費と同額 or 多かった場合

【保険金=医療費の場合】

入院費用を20万円支払い、これに対する入院給付金を20万円受け取った

【保険金>医療費の場合】

入院費用を20万円支払い、これに対する入院給付金を25万円受け取った

いずれの場合も、実際に自己負担した金額はゼロのため、医療費控除は受けられません。

ケース②:保険金ありの医療費と、なしの医療費が混在する場合

  • 入院費用を20万円支払い、これに対する入院給付金を25万円受け取った
  • 歯の治療による医療費を15万円支払い、これに対しては保険金なし

入院費用から引ききれなかった保険金を、歯の治療による医療費から差し引く必要はありません。したがって、このケースでは、医療費控除の計算は以下のとおりとなります。

入院費用→実際に自己負担した金額はゼロ
医療費控除額=15万円(歯の治療による医療費)-10万円=5万円

ケース③:保険金の受け取りが翌年になった場合

入院費用を30万円支払い、これに対する入院給付金15万円を翌年受け取った

保険金の受け取りが、年をまたいで翌年になるということもあるでしょう。その場合、確定申告の時までに保険金の額が確定していれば、その金額を医療費から差し引きます。

医療費控除額(30万円-15万円)-10万円=5万円

もし、確定申告の時までに保険金の額が確定していない場合は、見積額を医療費から差し引きます。後日、確定した保険金が見積額と異なっていたら、さかのぼってその年分の医療費控除額を訂正することになります4)

【関連記事】さかのぼって医療費控除を受ける場合の手続きについて、詳しくはコチラ

ケース④:治療が年をまたぎ、保険金をまとめて受け取った場合

入院費用を2025年12月に20万円【A】、2026年1月に10万円【B】支払った

【A】【B】に対する入院給付金12万円を2026年2月にまとめて受け取った

医療費控除は、その年に実際に支払った医療費を対象とします1)。そのため、【A】は2025年、【B】は2026年の医療費控除の対象になります。そして、まとめて受け取った保険金は原則として、支払った医療費に応じて各年分にあん分(※)します5)

【A】に対応する保険金:12万円×(20万円÷30万円)=8万円
【B】に対応する保険金:12万円×(10万円÷30万円)=4万

2025年の医療費控除額=(20万円-8万円)-10万円=2万円
2026年の医療費控除額=(10万円-4万円)-10万円→ゼロ

※:基準となる数量に比例した割合で物を割り振ること

ケース⑤:家族の医療費をまとめて申告する場合

夫:入院費用を20万円支払い、夫の医療保険からこれに対する入院給付金を25万円受け取った

妻:手術費用を30万円支払い、妻の医療保険からこれに対する手術給付金を20万円受け取った

子:歯の矯正費用を40万円支払った

医療費控除の計算では、自分自身の医療費だけでなく、生計を一にする家族のために支払った医療費も含めることができます1)。したがって、このケースでは、家族の医療費をまとめて申告することができます。

夫の医療費→実際に自己負担した金額はゼロ
妻の医療費→30万円-20万円=10万円
子の医療費→40万円
医療費控除額=(10万円+40万円)ー10万円=40万円

なお、妻の手術給付金は妻が医療保険から受け取ったもので、医療費の支払者である夫が受け取ったものではありませんが、夫が負担した医療費から差し引く必要があります6)

また、医療費控除は、年収の高い人が申告したほうが所得税の還付額が多くなります。そのため、共働き家庭の場合は、年収の高いほうがまとめて申告するようにすると節税につながります。

e-Taxで申告する時のポイント

画像: 画像:iStock.com/mapo

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「医療費控除の明細書」の作成

医療費控除を受けるためには、確定申告書に「医療費控除の明細書」を添付する必要があります7)

医療費控除の明細書は、国税庁「確定申告書等作成コーナー」の医療費控除の入力画面で作成することができます。医療費を入力すると、自動的に明細書が作成され、申告書とともにe-Taxで送信されます。

医療費の入力方法はいくつかありますが、件数が多い場合は、事前に「医療費集計フォーム」に入力しておくと便利です。医療費集計フォームは「確定申告書等作成コーナー」のトップページからダウンロードが可能です。

【医療費集計フォームの入力例】

画像: 参考:国税庁「 確定申告書等作成コーナー」

参考:国税庁「 確定申告書等作成コーナー」

①医療を受けた人(本人・配偶者・子ども等)の氏名を記入
②診療を受けた病院や医薬品を購入した薬局などの名称を記入
③医療費の内容として該当するものをすべてチェック
④支払った医療費の金額を記入
⑤④に対して支給された保険金の金額を記入

医療費を入力する際の注意点

医療費を入力する際は以下の点に注意しましょう。

・「医療を受けた人」や「支払先」ごとにまとめて入力

医療費は領収書1枚ごとではなく、医療を受けた人や支払先の病院・薬局ごとに金額をまとめて入力することもできます。受け取った保険金がある場合は、どの医療費に対するものか間違えないように入力しましょう。

・領収書の提出は不要

医療費の領収書の添付や提示は必要ありません7)。ただし、税務署から問い合わせがあった場合に備えて、5年間は保管しておいてください。

保険金のほうが多い時でも、まずは正しく計算を

医療費控除を計算する時は、実際に支払った医療費から、保険金などで補てんされた分を引くことになります。しかし、その金額を全部引ききれなかったとしても、ほかの医療費から差し引く必要はありません。そのため、ある医療費では保険金のほうが多くても、全体として見れば医療費控除を受けられるケースもあります。

医療費控除のしくみや計算ルールを正しく理解して、安心して申告し、上手に節税につなげましょう。

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