子どもの高校進学を控え、「学費がどれくらいかかるのか不安」という方も多いのではないでしょうか。そんな中、知っておきたいのが「高校無償化制度」です。正式には「高等学校等就学支援金制度」といい、一定の要件を満たす家庭であれば授業料の支援を受けられます。
 
2025・2026年度には制度改正が行われ、これまで対象外だった世帯にもチャンスが広がります。ただし、制度は「申請しなければ受け取れない」しくみであり、正しく理解していないと損をしてしまうことも。この記事では、ファイナンシャルプランナーの辻田陽子さん監修のもと、高校無償化制度の内容から、支給額、手続きの流れや注意点までをわかりやすく解説します。

この記事の監修者

画像: 【申請必須】高校無償化とは?手続きや支給額をわかりやすく解説!

辻田 陽子(つじた ようこ)

FPサテライト株式会社所属 1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
税理士事務所、金融機関での経験を経て、「好きなときに好きな場所で好きなことをする」ため房総半島へ移住。現在は地方で移住相談や空き家活用に取り組みながら、ファイナンシャルプランナーとして活動中。

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高校無償化制度とは?

画像: 画像:iStock.com/years

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そもそも、高校無償化制度とはどのような制度なのでしょうか。ここでは、制度の概要や対象となる費用について解説します。

高校無償化制度は、授業料が無償化される制度のこと

「高校無償化制度」とは、家庭の経済状況に応じて、高校にかかる授業料を支援してくれる制度です。正式名称は「高等学校等就学支援金制度」といい、国が実施しています1)。対象となるのは、公立・私立問わず、一定の要件を満たす高等学校や高等専門学校、専修学校の高等課程などです。

この制度の目的は、すべての子どもが家庭の経済的な理由に左右されることなく、安心して高校教育を受けられるようにすることです。世帯年収に応じて支援金が支給され、学びの機会を広げる大切な役割を担っています。

2025年度以降は制度がさらに拡充され、より多くの世帯が支援対象となる見込みです。

「実質無償化」とはどういう意味?

「高校無償化」と聞くと、「高校にかかるお金がすべて無料になる」と誤解されがちですが、実際には「授業料に相当する部分のみが国から支援される」制度です。そこで使われるのが「実質無償化」という表現です。

具体的には、就学支援金が授業料に充てられ、家庭が直接負担する授業料が実質的ゼロになることもあるため「実質無償化」と呼ばれています。

ただし、就学支援金には上限が設けられており、特に私立高校では授業料の全額をカバーしきれない場合もあります。その場合、差額分は自己負担しなければなりません。

授業料以外の費用は別途必要になる

高校無償化制度の支給対象は授業料のみであり、高校生活に必要なそのほかの費用は自己負担です。文部科学省の学習費調査によると、入学準備や学校生活においては、つぎのような費用が別途かかります2)

〈表〉主な自己負担費用の例

項目公立(全日制)私立(全日制)
入学金等1万8,062円7万9,056円
修学旅行費等3万6,452円5万9,293円
学校納金等3万5,635円11万2,256円
図書・学用品等6万2,292円7万4,565円
教科外活動費4万9,371円5万6,800円
通学関係費9万7,738円14万2,670円
合計29万9,550円52万4,640円

このように、授業料が軽減されても高校にかかる費用すべてが「無償」になるわけではない点には注意が必要です。特に私立高校を志望する場合には、授業料以外の支出が多くなる傾向があります。就学支援金だけではまかないきれない費用を見越して教育資金の計画を立てることが大切です。

【2025・2026年度改正】高校無償化制度の支給条件とは?

画像: 画像:iStock.com/coffeekai

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高校無償化制度は、支給対象となる学校と、保護者の所得状況によって支援の有無や金額が決まります。2025年度からは一部の条件が見直され、2026年度にはさらに支援の拡充が予定されています。

ここでは、制度の対象となる学校の種類と、支給を受けるための所得要件について詳しく解説します。

支給対象となる学校

就学支援金の支給対象となるのは、以下の学校に在籍する生徒です3)

就学支援金の対象となる学校

・国公私立の高等学校(全日制、定時制、通信制)
・中等教育学校の後期課程
・特別支援学校の高等部
・高等専門学校(1~3学年)
・専修学校(高等課程)
・専修学校の一般課程や各種学校のうち国家資格者養成課程に指定されている学校
・各種学校のうち一定の要件を満たす外国人学校

ただし、以下の方は対象とはなりません。

  • 高校等をすでに卒業した生徒や3年(定時制・通信制は4年)を超えて在学している生徒
  • 専攻科、別科の生徒や、科目履修生、聴講生(専攻科については別に授業料等に対する支援があります)
  • 一定の基準を超える収入がある世帯の生徒

支給を受けられる所得要件

高校無償化制度では、これまで世帯の所得によって支援の有無や金額が決まっていました。しかし、2025年度からは公立・私立ともに、所得に関係なく年間11万8,800円(月額9,900円)4)の授業料支援が受けられます。

また、私立高校に通う生徒には、授業料が高い実情を踏まえ、追加の支援(私立高校等の加算支援)が行われています。世帯年収およそ590万円未満の場合は、年間最大39万6,000円の加算支援5)が受けられます。さらに、2026年度からは、支援額が年間最大45万7,000円に引き上げられる6)とともに、所得制限が撤廃され、すべての世帯が対象になる予定です。

この改正によって、従来は支援の対象にならなかった中・高所得層の家庭でも、子どもを私立高校に通わせやすくなる環境が整っていくでしょう。

【公立・私立別】授業料無償化の支給金額はいくら?

高校無償化制度では、通う学校の種別(公立・私立)や通学形態(全日制・定時制・通信制)に応じて、支給される金額が異なります。

〈図〉支給額のイメージ

画像: 【公立・私立別】授業料無償化の支給金額はいくら?

公立高校の支給額

公立高校では、授業料の年額は最大11万8,000円(月額9,900円)に設定されています。全日制以外の定時制や通信制は授業料が異なるため、支給限度額もつぎのようになります7)

〈表〉公立高校の支給限度額

過程月額
公立高校全日制9,900円
公立高校定時制2,700円
公立高校通信制520円

私立高校の支給額

私立高校では、全日制・定時制・通信制ともに年間最大11万8,000円(月額9,900円)が支給
され、さらに「加算支給」が設けられています5)

支給の対象となるかどうかは、つぎの計算式により判定されます5)

計算式

市町村民税の課税標準額×6%−市町村民税の調整控除の額

上記による算出額が、

15万4,500円未満の場合、支給額は最大39万6,000円
15万4,500円以上30万4,200円未満の場合、支給額は11万8,800円

となります。

以下で、私立高校(全日制)の支給対象となる世帯年収の目安をご紹介します。

〈表〉両親のうち一方が働いている場合の世帯年収の目安5)

子どもの人数11万8,800円の支給39万6,000円の支給
子ども2人(高校生・高校生)〜約950万円〜約640万円
子ども2人(大学生・高校生)〜約960万円〜約650万円

〈表〉両親共働きの場合の世帯年収の目安5)

子どもの人数11万8,800円の支給39万6,000円の支給
子ども2人(高校生・中学生以下)〜約1,030万円〜約660万円
子ども2人(高校生・高校生)〜約1,070万円〜約720万円
子ども2人(大学生・高校生)〜約1,090万円〜約740万円
※子どもについて、中学生以下は15歳以下、高校生は16〜18歳、大学生は19〜22歳の場合
※給与所得以外の収入はないものとし、両親共働きの場合、両親の収入は同額として計算した場合

自治体独自の支援も

国の就学支援金とは別に、都道府県や市区町村が独自に実施している授業料支援制度も存在します。これらを活用することで、私立高校でも自己負担ゼロを実現することが可能になるケースもあります。

東京都:「私立高等学校授業料軽減助成金制度」

東京都では、生徒と保護者が都内に在住している場合、私立高等学校等に通う生徒の保護者に対し、授業料軽減の助成制度を実施しています。所得制限はなく、国の就学支援金と合わせると約49万円まで助成されます。助成を受けるには、授業料軽減助成金と就学支援金の両方に申請する必要があります8)

大阪府:「私立高等学校授業料支援補助金制度」

大阪府では、生徒と保護者が大阪府内に在住し、「就学支援推進校」の指定を受けた大阪府内の私立高等学校に在学の場合に、「授業料支援補助金」の対象となります。2024年度の高校3年生から段階的に適用され、2026年度には高校の全学年で授業料が無償化される予定です9)

このように、地域ごとに支援制度の充実度には差があります。お住まいの地域で、どのような支援策があるかを事前に調べておくことで、教育費の見通しを立てやすくなるでしょう。

高校無償化の申請手続きの流れ

画像: 画像:iStock.com/takasuu

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高校無償化の支援を受けるには、所定の手続きが必要です。条件を満たしていても自動的に支給されるわけではないため注意が必要です。

ここでは、申請のタイミングや必要書類、紙とオンラインそれぞれの手続き方法についてわかりやすく説明します。

申請は高校入学後(4月)から

就学支援金の申請は、高校に入学してから行います。中学校卒業時点では申請はできないため、4月に高校から配布される案内に従って、必要書類を提出する形となります。

手続きは基本的に、高校側を通じて行われます。申請漏れがあると支援が受けられないため、学校からの配布物や案内を必ず確認しましょう。なお、申込の締切日は学校ごとに異なるため、指定された期日を見逃さないよう注意が必要です。

申請は紙またはオンラインで行う

申請は、学校の方針により紙またはオンラインのいずれかで行います。どちらの場合でも、最初に高校から手続き案内が配布されるので、それに従って準備しましょう。

【紙で申請する場合】

紙の申請では、以下の2点の書類を提出する必要があります。

1.受給資格認定申請書(学校を通じて配布されます)
2.マイナンバーの写し等

以下に、申請書の記入例を紹介します。

〈図〉高等学校等就学支援金申請申込書

画像1: 申請は紙またはオンラインで行う
画像2: 申請は紙またはオンラインで行う

※1:記入日を記載します。
※2:初回時または2回目以降のいずれかにチェックを入れます。
※3:収入状況届出書の場合は記載は不要です。
※4:過去に就学支援金を受給したことがある方は、支援金の過去の履修単位数を記入します。
※5:①~⑦のいずれかにチェックを入れます。

【オンラインで申請する場合】

オンラインでの申請は、文部科学省が運用する「e-Shien(イーシエン)」という申請システムを通じて行います10)

1.学校から配布されるID・パスワードを入力
2.必要事項を入力し、本人確認書類をアップロード
3.マイナンバー情報なども入力するため、事前に準備をしておく

手続きの注意点とよくあるミス

高校無償化の申請は、多くの家庭にとってはじめての手続きです。そのため、ちょっとした見落としや誤解で支援が受けられないことも。ここでは、特に注意すべきポイントや、申請時によくあるミスをまとめました。

「申請しないと受け取れない」点に注意

制度の対象になる世帯であっても、申請をしなければ支援は一切受け取れません。「所得要件はクリアしているから大丈夫」と安心していても、手続きを忘れると対象外になってしまいます。特に高校入学時は手続きが重なる時期なので、学校から配布される「就学支援金申請書」や関連資料は見落とさないようにしましょう。

入学前納付分は一時的に自己負担が必要な場合あり

就学支援金は、申請後に認定されてから学校へ直接支払われる後払い方式です。そのため、一部の高校では入学前の授業料や初期費用を一度自己負担で納付するよう保護者に求めるケースがあります11)

特に私立高校では、入学金や前期授業料、設備費などをまとめて支払う必要があることも。こうした費用については、学校からの案内をしっかり確認して、必要であれば事前に分納や相談の対応を検討しましょう。

「高校無償化制度」のよくある質問

Q1.ギリギリ所得制限を超えそうな時はどうすればいい?

所得が支援の上限に近い場合、扶養家族の数や所得控除の内容により支給対象となる可能性があります。

就学支援金制度では、課税標準額を基準に判断されますが、課税標準額は年収から各種控除(扶養控除や社会保険料控除など)を差し引いた金額です。年収が高くても、扶養家族が多い場合などは対象となるケースがあります。そのため、見かけの年収だけでは判断が難しいことも。

正確な判断のためには、市区町村が発行する「課税証明書」「所得証明書」などを確認しましょう。迷った場合は、学校や自治体の相談窓口に問い合わせるのが確実です。

Q2.一度申請すれば毎年更新しなくてもいい?

就学支援金の申請は毎年の更新が必要です。

支援額は前年の所得情報を基に決定されるため、たとえ1年目に認定されたとしても、2年目以降も再申請をしないと支援を受け続けることはできません。高校では、毎年春ごろに更新申請の案内が配布されるのが一般的なので、案内が届いたら必ず期限内に手続きを行いましょう。

Q3.兄弟がいる場合はどうなるの?

就学支援金の対象かどうかは、世帯の課税標準額に基づいて判断されます。兄弟姉妹が複数いる場合でも、それぞれの通学状況ではなく、家計を共にする世帯全体での所得や扶養人数が審査の基準です。

扶養人数が多い家庭では、その分所得制限の基準が緩和されることがあります。兄弟が多いことで支援対象になる可能性もあるため、所得に対して不安がある場合は必ず申請して確認するようにしましょう。

高校無償化制度の活用でチャンスを広げよう

画像: 画像:iStock.com/urbancow

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高校無償化制度をうまく活用することで、経済的な不安を軽減しながら、子どもの進学や将来の選択肢を広げることができます。2025・2026年度の改正により、私立高校の授業料支援の拡充や所得制限の撤廃など、さらに多くの家庭が恩恵を受けやすくなるでしょう。

教育費の不安を減らし、子どもの「学びたい」を支える環境を整えるために、制度の内容を正しく理解し、うまく活用していきましょう。

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