この記事では、ファイナンシャル・プランナーのタケイ啓子さんの監修のもと、個人事業主がもらえる年金について解説します。また、年金額を増やす方法や年金保険料を抑えるコツなども説明します。
この記事の監修者
タケイ 啓子(たけい けいこ)
ファイナンシャル・プランナー(AFP)。36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。
個人事業主だと年金はいくらもらえる?
国民年金の場合、厚生労働省の発表によれば、令和6年度の国民年金(老齢基礎年金)の金額は月額6万8,000円です1)。なお、令和5年度は6万6,250円でした。20歳からずっと国民年金の場合は、国民年金が受け取れます。仮に令和6年度の平均月額で65歳から90歳まで年金をもらうとすると、25年間の受給額は2,040万円になります。
ただし、年金額は、物価変動率や名目手取り賃金変動率に応じて、毎年度改定を行うしくみとなっています2)。そのため、将来的にいくらもらえるかはその年によって異なります。
なお、18歳から現在までに厚生年金の加入履歴があれば、国民年金に老齢厚生年金が上乗せされます。老齢厚生年金の金額は給与や加入期間によって異なるため、気になる人はねんきん定期便やねんきんネットで確認してみましょう。
公的年金のしくみ
ここで、改めて公的年金のしくみについておさらいしておきましょう。公的年金には、「国民年金」と「厚生年金保険(以下、厚生年金と表記)」の2種類があります。すべての人が対象になる国民年金に、会社員や公務員が対象になる厚生年金が上乗せされる2階建て構造になっています。
〈図〉公的年金の構造
国民年金は、日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の国民であれば加入する義務がある制度です。原則65歳から支給されます。
加入区分は職業などによって3つに分かれています。個人事業主やフリーランスなどの自営業者の場合は第1号被保険者となり、自身で毎月保険料を支払います。なお、保険料は毎年見直されるもので、令和6年度の国民年金の保険料は月額1万6,980円です3)。
年金制度についてもっと知りたい人は、以下の記事で詳しく説明しているので併せてご覧ください。
【関連記事】年金制度とは?公的年金と私的年金の種類やしくみ、保険料などをわかりやすく解説
参考資料
年金には公的年金と私的年金の2種類がある
年金の制度を大きく分けると、法律によって加入が義務付けられている「公的年金」と、企業や個人が任意で加入できる「私的年金」があります。
〈図〉公的年金と私的年金の種類
私的年金は大別すると、企業に勤める人が加入できる「企業年金」と、個人で加入する「個人年金」の2種類があります。老後にもらえる年金の額を増やす方法はいくつかありますが、私的年金に加入するのが最も一般的な手段といえるでしょう。
個人事業主が年金を増やす方法3つ
前述のように年金を増やす手段の1つが、私的年金です。ここでは個人事業主が利用できる私的年金3つについて詳しく説明します。
なお、私的年金への加入以外の年金を増やす方法について知りたい人は、以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。
【関連記事】年金はいくらもらえる?計算方法や老後資金の増やし方も徹底解説
①国民年金基金
国民年金基金とは、掛金を支払うことで国民年金の受給額を上乗せする制度です4)。住所や業種を問わない「全国国民年金基金」と、定められた事業または業務に従事している人向けの「職能型国民年金基金」があります。加入できるのは、国民年金保険料納付の免除や猶予を受けていない第1号被保険者です。
〈図〉国民年金基金のタイプ
国民年金基金は自分でプランを選んで、その選んだプランに応じた掛金を支払う「口数制」で、プランは全部で7種類のタイプがあります。1口目は65歳から支給される終身年金A型かB型の2種類から選びます。2口目以降は、保証期間と支給年齢が異なる5種類の確定年金を含め、全7種類から自由に選んで組み合わせることができます。
掛金額と受け取る年金額は、加入時の年齢や性別、年金のタイプによって異なります。ただし、掛金の上限額は月額6万8,000円です。この金額は付加年金とiDeCoとの合算枠であるため、これらに加入している場合はその掛金分、国民年金基金への掛金は減ります。
国民年金基金はライフプランに合わせて給付の型や加入口数を選ぶことができるのがメリットです。ただし、国民年金基金は一度加入すると、自分の都合でやめることはできません。さらに、2口目以降の口数を減らしたり、払い込みの一時中断をしたりすることは可能ですが、その場合、将来受け取る年金額が減額される点に注意しましょう。
国民年金基金について、もっと知りたい人は以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。
【関連記事】付加年金と国民年金基金、どっちが得?違いもわかりやすく解説
参考資料
②iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoが公的年金と異なるのは、「掛金として振り込める額」と「掛金の運用方法」を自分で決める点です。自分自身で金融機関と金融商品を選んで運用しなくてはいけないため、ある程度、投資に関する知識が求められます。以下がiDeCoの特徴です5)。
【iDeCoの特徴】
- 加入の条件は国民年金の被保険者であること
- 原則、60歳まで引き出すことができない
- 投資の対象は、投資信託、定期預金、保険商品など
- 掛金は月額5,000円から。上限額は働き方や年金制度によって異なる
- 「積立時」「運用時」「受取時」の3つのタイミングで税制優遇を受けられる
iDeCoは国民年金の被保険者であれば誰でも加入できますが、加入区分などによって掛金の上限額(拠出限度額)が異なります。第1号被保険者である個人事業主の拠出限度額は月額6万8,000円です。ただし、この金額は付加年金と国民年金基金との合算枠です。
iDeCoの最大のメリットは「積立時」「運用時」「受取時」の3つのタイミングで税制優遇を受けられる点です。iDeCoも国民年金基金同様に途中脱退することはできませんが、掛金の支払いを停止することは可能です。運用商品に元本確保型と元本変動型の2種類があるため、リスク許容度が変わった時に調整できるのもメリットです。
iDeCoの特徴、加入するメリットとデメリットなどをもっと知りたい人は、以下の記事で詳しく説明しているので併せてご覧ください。
【関連記事】iDeCo(イデコ)のデメリット10個と理由を解説!おすすめしない人とは?
参考資料
③個人年金保険
個人年金保険とは、自分自身で老後の準備をするための民間の保険です。契約時に決めた年齢に達するまで保険料を払込み、そのあとは保険料に応じた年金を受け取ることができるのが特徴です。
保険会社にもよりますが、個人年金保険の種類は「確定年金」が一般的です。確定年金とは、契約時に定めた一定期間(5年や10年など、期間を個人で設定)、年金を受け取ることができる個人年金保険のことをいいます。
期間中は被保険者の生死にかかわらず年金を受け取ることができます。もし、契約期間中に被保険者が死亡した場合は、残存期間に対応する年金、または一時金を遺族が受け取ることができます。
なお、保険会社によっては契約時に定めた年齢から被保険者が死亡するまでの間、年金を受け取ることができる「終身年金」というものもあります。生存している限り年金を受け取ることができる一方で、保険料が高い傾向があります。
個人年金保険について、もっと知りたい人は以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。
【関連記事】個人年金保険とは?しくみやメリット・デメリットをFPが解説
【番外編】付加年金
付加年金とは、国民年金の定額保険料に加えて、月額400円の付加保険料を支払うことで、将来の国民年金の受給額を上乗せできる制度です6)。
加入できるのは、国民年金保険料納付の免除や猶予を受けていない第1号被保険者(65歳未満の任意加入被保険者を含む)で、前述した国民年金基金との併用はできません。
付加年金でもらえる年金額は、200円×付加保険料納付月数です。この金額が年金の年額に上乗せされます。仮に20歳から60歳まで付加保険料を支払った場合は以下のようになります7)。
【20歳から60歳まで付加保険料を支払った場合】
200円 × 納付月数480カ月=9万6,000円
81万6,000円(※)+ 9万6,000円=91万2,000円
※:毎月の定額保険料(令和6年度は1万6,980円2))を40年間納めた場合、67歳以下の人が受け取る老齢基礎年金額。
付加年金のメリットは、保険料が低額なことです。途中でやめることも可能ですし、加入2年間で納付した保険料が付加年金として回収できるのも魅力です。
さらに詳しく付加年金について知りたい人は、以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。
【関連記事】月額400円で将来の年金が増える「付加年金」とは? メリット・デメリットや注意点を解説
参考資料
【注意】厚生年金の加入期間がある場合は、記載漏れがないか確認をしよう
企業に勤めた期間がある人で、厚生年金に加入していた場合、国民年金に厚生年金が上乗せされます。ねんきん定期便などで厚生年金の加入期間が記載漏れしていないか、確認しておきましょう。
以下の記事では厚生年金やねんきん定期便の見方について詳しく説明しています。興味がある人は併せてご覧ください。
【関連記事】厚生年金はいくらもらえる?加入期間・収入別に平均受給額を紹介
【関連記事】【5分でわかる】「ねんきん定期便」の見方とは?最低限見るべきポイントや用語も徹底解説
国民年金の保険料を抑える方法は?
厚生年金の保険料は会社と折半で支払いますが、国民年金の保険料は全額自己負担です。ここでは、少しでも国民年金の保険料を抑える方法をご紹介します8)。
【国民年金の保険料を抑える方法】
- 一定期間の保険料をまとめて前払いする
- 口座振替で支払う
これらを適用した場合の割引は以下のようになります。当月末振替は毎月の国民年金保険料を納付期限よりも1カ月早く支払う方法です。
〈表〉国民年金保険料前納の種類と納付額、割引額
前納の種類 | 2年前納 | 1年前納 | 6カ月前納 | 当月末振替 (早割) | 毎月納付 | |
---|---|---|---|---|---|---|
1回当たりの納付額 | 納付書・クレジットカード払い | 39万8,590円 | 20万140円 | 10万1,050円 | ― | 1万6,980円 |
口座振替 | 39万7,290円 | 19万9,490円 | 10万720円 | 1万6,920円 | 1万6,980円 | |
割引額 | 納付書・クレジットカード払い | 1万5,290円 | 3,620円 | 830円 | ― | ― |
口座振替 | 1万6,590円 | 4,270円 | 1,160円 | 60円 | ― |
※:割引額は納付書で毎月納付した場合と比較した額。1回当たりの納付額は令和6年度の金額。
納付書で前納する場合は専用の納付書を年金事務所に発行してもらう必要があります。クレジットカード払いにする場合は、年金事務所へ届出書を提出します9)。口座振替に変更したい場合は、年金事務所への届出書提出のほか、マイナポータルを経由して「ねんきんネット」から手続きをすることもできます10)。
個人事業主の国民年金保険料は確定申告で控除できる
国民年金の保険料は確定申告で控除を受けることができます。以下では手続き方法について解説します。
国民年金の保険料は社会保険料控除に該当する
国民年金の保険料は、「社会保険料控除」の対象です。2024年時点であれば、納付書毎月払いで保険料を納めている場合、月額1万6,980円×12カ月=20万3,760円が控除対象になります。
なお、社会保険料控除の対象となるのは、その年の1月1日から12月31日までに納付した保険料です11)。未納分がある場合には年内に納付するように注意しましょう。
また、扶養している子どもや配偶者の保険料も控除の対象です。ただし、4月以降に就職する学生の分を支払っている人は、4月以降は厚生年金に切り替わるため3月分までが控除の対象となります。
参考資料
11)国税庁「社会保険料控除」
確定申告に必要な書類と注意点
社会保険料控除は所得税の確定申告時に行います。その際には「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」が必要になります12)。
〈図〉社会保険料(国民年金保険料)控除証明書(ハガキ版)
「社会保険料控除証明書」は、例年10月または11月の1回、もしくは2月の1回、というタイミングで郵送されます。年金の納付状況によっては2回送られてくることがあります。上記様式の(1)には前年1月1日から12月31日までに納付した社会保険料の総額、(2)には12月31日までに納付が見込まれる金額が記されています。
確定申告では(1)の金額を「社会保険料控除」の欄に記入・入力します。家族の分も支払っている場合は、家族の「社会保険料控除証明書」の総額と合算して申告します。
〈図〉社会保険料(国民年金保険料)控除証明書(A4版)
前述のように、13カ月分以上の国民保険料を前納している場合は上記のA4版が届きます。納付した年に全額を控除するか、各年分の保険料に相当する額を各年に控除するか、どちらかを選びます。控除額を計算する過程で生じる端数は、1円未満を切り上げます。ただし、最終年分は残りの金額を控除額とします13)。
なお、2024年10月から51人以上の企業で働くパート・アルバイトも厚生年金に加入できるようになります14)。そのため配偶者の国民年金保険料を支払っていた人は、その保険料の支払いが必要なくなる一方で、控除額が減る点に注意しましょう。
パート・アルバイトの厚生年金についてもっと知りたい人は、以下の記事で説明しているので、併せてご覧ください。
【関連記事】【年収別シミュレーション】パート・アルバイトがもらえる年金はいくら?
個人事業主と年金にまつわる「よくある質問」
最後に個人事業主の年金に関する「よくある質問」に回答します。
Q1.個人事業主が年金保険料を支払わないとどうなりますか?
国民年金の保険料支払いは法律で義務として定められています。保険料不払いは法律違反にあたるため、督促状をもらっても保険料を支払わないままでいると、財産の差し押さえなどが発生する可能性があります。
また、保険料が未納のままだと、受給できる年金額が減ったり、障害年金が受給できなかったりというリスクが生じます。さらには受給資格が10年に満たない場合は年金自体が受給できない可能性もあります15)。
年金保険料を支払わなかった場合のリスクについてもっと知りたい人は、以下の記事で説明しているので併せてご覧ください。
【関連記事】国民年金保険料「もらえないから払わない方がいい」は要注意!未納のリスクを解説
Q2.個人事業主で年金保険料が払えない場合はどうすればいい?
経済的な事情で年金保険料を支払うことが難しい場合、「保険料免除・納付猶予制度」を活用する手があります。前年所得に比べて収入額が一定額以下である場合、保険料の納付が免除になる、あるいは支払い期間に猶予が与えられます。
〈表〉保険料免除・納付猶予の所得の基準
前年の所得額 | |
全額免除 | (扶養親族などの数 + 1)× 35万円 + 32万円 |
3/4免除 | 88万円 + 扶養親族等控除額 + 社会保険料控除額等 |
半額免除 | 128万円 + 扶養親族等控除額 + 社会保険料控除額等 |
1/4免除 | 168万円 + 扶養親族等控除額 + 社会保険料控除額等 |
納付猶予 | (扶養親族等の数 + 1)× 35万円 + 32万円 |
※:扶養親族等控除額と社会保険料控除額等は、確定申告で申告した金額。
※:地方税法に定める障害者、寡婦またはひとり親の場合は基準額が異なる。
保険料免除・納付猶予制度の利用条件は、国民年金の任意加入者ではないことです。また、納付猶予制度に限っては20歳以上50歳未満の人が対象です。手続き方法はマイナポータル経由で電子申請するか、市区町村役場の国民年金担当窓口あるいは年金事務所に紙で申請します。
必要書類は、「国民年金保険料 免除・猶予申請書」と基礎年金番号通知書のコピーあるいは年金手帳の氏名記載ページのコピーです。所得を証明する書類の添付は原則不要ですが、前年または前々年の所得を証明する書類が必要な場合もあります。
Q3.個人事業用の口座に国民年金(老齢基礎年金)が振り込まれた場合はどうする?
個人事業用の口座を国民年金の振込み口座にすること自体は問題ありません。ただし、保険料を社会保険料控除で申請する場合は、確定申告時に金額を把握して申請を行う必要があります。管理をする上で受け取り口座を変更して、事業用の口座と分けておくことがおすすめです。その場合は「年金受給者 受取機関変更届」を年金事務所や年金相談センターなどに提出しましょう16)。
Q4.個人事業主をしながら扶養に入ることは可能?
個人事業主をしながら、厚生年金に加入している配偶者の扶養に入ることは可能です。ただし、扶養に入るということは、年間収入額が130万円未満などの条件があります。
扶養についてもっと知りたい人は以下の記事で説明しているので、併せてご覧ください。
【関連記事】配偶者の扶養に入ると「年金」はどうなる? 保険料支払いや受給額の違い、手続きをまとめて解説
ルールを正しく理解して年金と上手く付き合っていこう
個人事業主がもらえる国民年金の金額は厚生年金と比べると少ないため、老後資金を備えることを考えると、私的年金を活用するのが安全でしょう。公的年金は老後資金のベースになるので、経済的に厳しい時期だとしても保険料を未納のままにしておくのは禁物。そんな時には保険料免除・納付猶予制度を活用するのが得策です。口座振替や前納を行えば、わずかでも保険料を抑えることができます。それでも、将来のお金に不安のある人は、お金のプロにマネープランを立ててもらうのも1つの方法かもしれません。