定年退職後の再雇用や年金制度の改正が進む近年。年金の受給開始時期を65歳以降にしようか、検討している人は多いのではないでしょうか。年金には、受け取る時期を1カ月遅らせるごとに0.7%ずつ受給額が増えていく「繰下げ受給」という制度があります。65歳以降も働くことを考えている人にとって「繰下げ受給」は、もらえる年金を増やせるため、利用したい制度ではありますが、注意点もあります。

この記事では、ファイナンシャル・プランナーのタケイ啓子さんの監修のもと、年金を繰下げ受給し、70歳からもらう場合の受給額や注意点を解説します。

※この記事は、2024年9月13日に公開した内容を最新情報に更新しています。

この記事の監修者

画像: 【シミュレーション】70歳から年金をもらうのが賢い?繰下げ受給した場合の受給額は?

タケイ 啓子(たけい けいこ)

ファイナンシャル・プランナー(AFP)。36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。

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年金を70歳からもらうには「繰下げ受給」をする

画像: 画像:iStock.com/banabana-san

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公的年金(国民年金と厚生年金)のうち、老齢基礎年金と老齢厚生年金(以下「年金」)は、原則として65歳から受給開始となります。しかし、希望すれば受給開始年齢を65歳以降の年齢にすることが可能です。この制度を「繰下げ受給」と呼びます

年金を70歳から受け取るには繰下げ受給を選択する必要があります。以下では、年金を繰下げ受給する際の条件を説明します。また、繰上げ受給についても簡単にご紹介するので、参考にしてみてください。

繰下げ受給とは

繰下げ受給は、以下条件を満たす場合、66歳から75歳までの間で年金の受給タイミングを自由に設定できる制度です。繰下げは最長で75歳まで可能で、1カ月繰下げするごとに0.7%の年金が増額されます1)

繰下げ受給をしたい場合は、年金請求を繰下げたい前月まで保留しておきましょう。老齢年金を受け取らないまま66歳を迎えると「繰下げ見込額のお知らせ」が届きます

「繰下げ見込額のお知らせ」で、繰り下げた場合の年金の見込み額を確認できますので、金額を確認して、今すぐもらい始めるのか、このまま繰下げを続けていくのかを決めましょう。繰下げの期間中であれば、75歳までの間の適切な時期に受け取り始めることができます

繰下げ受給を選択すると、繰下げた期間によって年金額が増額されます。その増額率は一生変わりません2)

また、繰下げ受給は老齢基礎年金と老齢厚生年金とで別々のタイミングで行うことができます。老齢基礎年金だけ65歳から受け取る、ということも可能です。

なお、年金は受給タイミングを65歳以前に早めることもできます。こちらは「繰上げ受給」という制度です。繰上げ受給では最短で60歳から年金を受給できますが、1カ月繰上げするごとに0.4%の年金が減額されます3)

年金の繰下げ受給でいくら増える?

前述のとおり、年金の繰下げ受給を選択すると、1カ月年金受給を遅らせるごとに0.7%ずつ増額され、最大で84%まで増額します1)。年金の受給額は一定の割合で増加します。

以下では、令和7年度の老齢基礎年金の満額受給額である「6万9,308円」と、「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」4)における老齢厚生年金(基礎年金含む)の平均年金月額である「14万6,429円」を参考に、65歳以降に繰下げ受給した場合の受給額を試算しました。

〈表〉繰下げ受給をした場合の老齢基礎年金と老齢厚生年金の受給月額

受給開始年齢65歳66歳67歳68歳69歳70歳
増額率0%8.4%16.8%25.2%33.6%42%
受給月額老齢基礎年金6万9,308円7万5,130円8万952円8万6,774円9万2,595円9万8,417円
老齢厚生年金14万6,429円15万8,729円17万1,029円18万3,329円19万5,629円20万7,929円
※:1円以下は四捨五入。

総務省の「家計調査報告(家計収支編)2024年(令和6年)平均結果の概要」5)によると、65歳以上の無職世帯の場合、1カ月の生活費(消費支出と非消費支出の合計)は、単身世帯で16万1,933円、夫婦のみ世帯で28万6,877円です。

これを鑑みると、1人暮らしの場合には65歳から年金を受給し始めると、年金のみでは平均的な生活費を下回るケースもあります。また、国民年金のみ加入している場合には70歳まで繰下げても年金だけでは平均的な生活費に足りない可能性があります

夫婦世帯でも「夫の基礎年金・厚生年金+妻の基礎年金」では、繰下げ受給しないと毎月の生活費を賄いきれない可能性があります。夫婦ともに平均付近の老齢厚生年金を受給して、はじめて年金だけで老後の生活費を賄えるようになる状況です。

また、上表の数値をもとに90歳になるまで受給した場合の通算受給額も試算しました。

〈表〉繰下げ受給をして90歳になるまで受け取った場合の通算受給額

受給開始年齢65歳66歳67歳68歳69歳70歳
受給期間25年24年23年22年21年20年
受給総額老齢基礎年金2,079万2,400円2,163万7,440円2,234万2,752円2,290万8,336円2,333万3,940円2,362万80円
老齢厚生年金4,392万8,700円4,571万
3,952円
4,720万4,004円4,839万8,856円4,929万8,508円4,990万2,960円
※:1円以下は四捨五入。

70歳まで繰下げ受給をした場合、65歳で受給し始めた場合に比べて受給期間が5年短くても、国民年金のみの場合は282万7,680円、厚生年金の場合は597万4,260円多くもらえることがわかりました

年金を繰下げ受給している人はどれくらいいる?

では、実際に繰下げ受給・繰上げ受給をしている人はどのくらいいるのでしょうか。厚生労働省の「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」4)によると、老齢厚生年金の受給権者で繰下げ受給をしている人は令和5年度時点で受給者全体の1.6%で、繰上げ受給をしている人は0.9%です。ただし、70歳の老齢厚生年金受給権者に絞ると、繰下げ率は上昇傾向にあり、令和元年が1.5%だったのが、令和5年度で3.2%まで増加していました。

なお、国民年金(老齢基礎年金)の受給権者の繰上げ受給・繰下げ受給の状況をみると、繰上げ率は低下傾向にある一方で、繰下げ率は上昇傾向にあります。令和5年度末時点で国民年金の老齢基礎年金のみの受給権者の繰上げ率は24.5%、繰下げ率は2.2%となっています。70歳の老齢基礎年金受給権者に絞った場合も同様の傾向で、老齢基礎年金のみの受給権者の繰上げ率は令和元年が17.6%に対して、令和5年では11.5%まで減少。繰下げ率は4.6%となっています。

その背景には働く高齢者が増えていることが挙げられるでしょう。「令和7年度版 高齢者社会白書」6)によると、高齢者の就業率は年々上昇傾向にあります。65歳から69歳の就業率は男性62.8%、女性44.7%で、年金の受給開始年齢である65歳を過ぎても多くの人が働いて収入を得ていることがわかります。

年金を70歳からもらうのは本当にお得?

画像1: 画像:iStock.com/takasuu

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年金を70歳から受給する場合、通常よりも42%増額された年金を受け取ることができます。ただし、5年間受給を遅らせる分、一定の年齢まで生存しないと、結果的に受給総額が少なくなる可能性があります。

ここで気になるのは、繰下げ受給をしたら、65歳から普通に受給する場合と比べて、いつ得するのか?ということです。70歳から年金を受け取り始めた際の損益分岐点をシミュレーションしてみましょう。

【老齢厚生年金】損益分岐点をシミュレーション

以下は厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」を参考に、令和5年度の厚生年金の平均年金月額(14万6,429円)の場合で、厚生年金の受給開始年齢ごとの受給総額を試算しました4)

〈表〉繰下げ受給をした場合の老齢厚生年金の受給総額

年齢受取開始年齢
65歳66歳67歳68歳69歳70歳
65歳175万7,148円
66歳351万4,296円190万4,748円
67歳527万1,444円380万9,496円205万2,348円
68歳702万8,592円571万4,244円410万4,696円219万9,948円
69歳878万5,740円761万8,992円615万7,044円439万9,896円234万7,548円
70歳1,054万2,888円952万3,740円820万9,392円659万9,844円469万5,096円249万5,148円
71歳1,230万36円1,142万8,488円1,026万1,740円879万9,792円704万2,644円499万296円
72歳1,405万7,184円1,333万3,236円1,231万4,088円1,099万9,740円939万192円748万5,444円
73歳1,581万4,332円1,523万7,984円1,436万6,436円1,319万9,688円1,173万7,740円998万592円
74歳1,757万1,480円1,714万2,732円1,641万8,784円1,539万9,636円1,408万5,288円1,247万5,740円
75歳1,932万8,628円1,904万7,480円1,847万1,132円1,759万9,584円1,643万2,836円1,497万888円
76歳2,108万5,776円2,095万2,228円2,052万3,480円1,979万9,532円1,878万384円1,746万6,036円
77歳2,284万2,924円2,285万6,976円2,257万5,828円2,199万9,480円2,112万7,932円1,996万1,184円
78歳2,460万72円2,476万1,724円2,462万8,176円2,419万9,428円2,347万5,480円2,245万6,332円
79歳2,635万7,220円2,666万6,472円2,668万524円2,639万9,376円2,582万3,028円2,495万1,480円
80歳2,811万4,368円2,857万1,220円2,873万2,872円2,859万9,324円2,817万576円2,744万6,628円
81歳2,987万1,516円3,047万5,968円3,078万5,220円3,079万9,272円3,051万8,124円2,994万1,776円

上表を見ると、70歳まで年金を繰下げ受給すると、81歳時点(上の図の赤文字部分)で年金受給額の総額が2,994万1,776円になり、65歳から年金を受け取るよりも、受給額が7万260円多くなります。つまり、老齢厚生年金を70歳で受給開始した場合、損益分岐点は81歳となります

【老齢基礎年金】損益分岐点をシミュレーション

一方、老齢基礎年金の場合は以下です。

〈表〉繰下げ受給をした場合の老齢基礎年金の受給総額

年齢受取開始年齢
65歳66歳67歳68歳69歳70歳
65歳83万1,696円
66歳166万3,392円90万1,560円
67歳249万5,088円180万3,120円97万1,424円
68歳332万6,784円270万4,680円194万2,848円104万1,288円
69歳415万8,480円360万6,240円291万4,272円208万2,576円111万1,140円
70歳499万176円450万7,800円388万5,696円312万3,864円222万2,280円118万1,004円
71歳582万1,872円540万9,360円485万7,120円416万5,152円333万3,420円236万2,008円
72歳665万3,568円631万920円582万8,544円520万6,440円444万4,560円354万3,012円
73歳748万5,264円721万2,480円679万9,968円624万7,728円555万5,700円472万4,016円
74歳831万6,960円811万4,040円777万1,392円728万9,016円666万6,840円590万5,020円
75歳914万8,656円901万5,600円874万2,816円833万304円777万7,980円708万6,024円
76歳998万352円991万7,160円971万4,240円937万1,592円888万9,120円826万7,028円
77歳1,081万2,048円1,081万8,720円1,068万5,664円1,041万2,880円1,000万260円944万8,032円
78歳1,164万3,744円1,172万280円1,165万7,088円1,145万4,168円1,111万1,400円1,062万9,036円
79歳1,247万5,440円1,262万1,840円1,262万8,512円1,249万5,456円1,222万2,540円1,181万40円
80歳1,330万7,136円1,352万3,400円1,359万9,936円1,353万6,744円1,333万3,680円1,299万1,044円
81歳1,413万8,832円1,442万4,960円1,457万1,360円1,457万8,032円1,444万4,820円1,417万2,048円
※:1円以下は四捨五入。

老齢基礎年金の場合も老齢厚生年金と同様の結果となりました。上表を見ると、70歳まで年金を繰下げ受給すると、81歳時点(上の図の赤文字部分)で年金受給額の総額が1,417万2,048円になり、65歳から年金を受け取るよりも、受給額が3万3,216円多くなります。繰下げ受給後の受給総額が65歳で受給する場合の受給総額を追い抜くのには、やはり17年ほどかかることがわかりました

70歳から年金をもらう場合のデメリット・注意点

画像: 画像:iStock.com/kazuma seki

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年金の受給は月々もらえる年金の金額が増えますが、場合によっては、もらえる金額が低くなってしまったり、思うほど増えなかったり、もらえると思っていたお金がもらえないということも考えられます。そこで、年金の繰下げ受給をする際のデメリット・注意点を4つ紹介します。

それぞれについて以下で説明します。ただし、年金制度は近年、実情に合わせて調整が重ねられているので、将来的には状況が変わっている可能性もあります。繰下げ受給する場合には、その時の制度を再度確認しましょう

①加給年金や振替加算の対象外になる可能性がある

加給年金とは、厚生年金に20年以上加入している人が65歳になった時点で利用できる制度です7)。特定の条件を満たす配偶者または子どもがいる場合に、老齢年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)のうち、老齢厚生年金の金額が一定期間にわたって加算されます。

ただし、加給年金は以下の場合に受け取れなくなります。

【加給年金が支給停止となる主な場合】

  • 配偶者が65歳になった(年金をもらいはじめた)場合
  • 子どもが18歳になった場合
  • 配偶者または子どもが「生計を維持」の条件から外れた場合
  • 配偶者が障害年金を受給しはじめた場合
  • 配偶者の厚生年金加入期間が20年以上になった場合

また、繰下げ受給をする際に注意したいのは、繰下げている期間中には、加給年金・振替加算を受け取ることができない点です1)。振替加算とは、配偶者が65歳になることによって加給年金が打ち切られた際、配偶者の老齢基礎年金に加算される金額です7)

配偶者や子どもがいる第2号被保険者は繰下げ受給をする場合、受給のタイミングを見極める必要があるでしょう。

加給年金についてもっと知りたい人は以下の記事で説明しているので、併せてご覧ください。

【関連記事】【図解】加給年金とは?もらえる条件や金額について、詳しくはコチラ

②税金や社会保険料の増額で手取りが思ったほど増えない

年金の受給額が増えるということは、所得が増え、それに伴って所得税が増えます。また、社会保険料、介護保険料の金額も上がり、その分の手取りが減ることになります

年金所得は雑所得に該当し、公的年金だけでなく、企業年金やiDeCoも対象です。年金額が増えれば雑所得が大きくなり、税負担が増えます。結果的に、繰下げ受給をしても、年金が増えた実感を得にくくなる可能性があるのです。

また、高額療養費制度で定められている自己負担限度額が高くなる可能性があります8)。窓口で支払う医療費の自己負担額は年収で区分されるため、収入が増えれば、支払う必要がある医療費も増加します。自己負担限度額を超える分については高額療養費制度により払い戻されますが、通院や入院の機会が多くなると医療費支出がかさみ、家計にも影響を及ぼすのです。

iDeCoや高額療養費制度についてもっと詳しく知りたい人は以下の記事で紹介しているので、併せてご覧ください。

【関連記事】iDeCo(イデコ)について、詳しくはコチラ

【関連記事】高額療養費制度はいくら以上から適用される?基礎知識について、詳しくはコチラ

③医療費の自己負担割合が増える可能性がある

医療費の自己負担限度額だけでなく、医療費の負担割合も増える可能性があります。

70〜74歳までは国民健康保険に加入するため、基本的に医療費は2割で、現役並みに所得がある人は3割です。そして、75歳からは後期高齢者医療保険に加入し、医療費の負担割合は原則1割です。

しかし、2025年10月1日から、一部の後期高齢者の医療費負担割合が2割になりました。医療費が2割負担となるのは、以下をすべて満たす場合です9)

  • 世帯内の75歳以上の人のうち、課税所得が28万円以上の人がいる
  • 単身世帯は「年金収入+その他所得」の合計が200万円以上、夫婦世帯は「年金収入+その他所得」の合計が320万円以上

年金を繰下げ受給した場合の増額率は一生変わりません。そのため、70歳まで年金を繰下げて受給した場合、年金収入が高くなり、医療費負担割合が2割になる可能性があるのです。

繰下げ受給する際は、繰下げ後の年金収入が年間いくらになるのか、確かめておくとよいでしょう。

④70歳まで繰下げ受給ができない場合もある

遺族年金や障害年金を受給する権利が生じた場合、権利が発生した時点で受給額の増額率が固定されます1)。特に66歳以前にその権利が生じた場合、繰下げ待機を続けることができなくなるため、繰下げ受給自体もできなくなります。

従来、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げ受給できます。ただし、日本年金機構が支給する老齢厚生年金のほかに、共済組合などから複数の老齢厚生年金を支給する場合、どちらか一方のみを繰下げ受給できないので注意しましょう7)

70歳から年金をもらうのに向いている人・向いていない人

画像: 画像:iStock.com/polkadot

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では、年金を70歳から受給したほうがいい人とはどんな人でしょう。

繰下げ受給が適しているのは、以下に該当する人です。

【70歳まで繰下げたほうがいい人】

  • 年金受給額が少ない人
  • 繰下げ待機期間中の収入にあてがある人

厚生年金に加入していなかったり、加入していても期間が短かったりする人は年金受給額が少ないため、繰下げ受給によって増額するのがおすすめです。また、65歳以降も働く予定がある人や繰下げ待機期間中の生活費に問題がない人は、繰下げ受給も選択肢として考えてもいいでしょう。

一方、繰下げ受給に向いていないのは、以下に該当する人です。

【70歳まで繰下げないほうがいい人】

  • 繰下げ待機期間中の収入にあてがない人
  • 貯蓄が少ない人
  • 年金受給額が多い人

繰下げ受給に向かないのは、待機期間中の生活費のあてがない人といえます。年金額が多い場合は、繰下げ受給で増額しても税金や社会保険料などの負担を大きくしてしまう可能性があります。私的年金制度を一時金ではなく、年金としてもらおうと考えている人も注意が必要です。

70歳から年金をもらうための手続き方法

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続いて、70歳から繰下げ受給する場合の手続き方法やポイントとなる箇所を説明します。

【手続き方法①】繰下げ受給を希望する場合

受給開始年齢に達し、老齢年金の受給権が発生すると、受給開始年齢の3カ月前ごろに、年金を受け取るために必要な「老齢年金請求書」が届きます10)。これを年金事務所に提出するか、あるいは電子申請を行うことで年金受給が開始します。

国民年金・厚生年金とも繰下げ受給をしたい場合には、65歳時点では請求手続きは不要です11)

【手続き方法②】繰下げ受給をやめて年金受給を開始する場合

繰下げした年金の受給を希望する時期になったら、年金請求書を年金事務所に提出します。繰下げ請求の手続き時には、「老齢基礎年金・老齢厚生年金繰り下げ申出書」の提出が必要です12)
年金の手続きは複雑なので、年金事務所で確認しながら進めるといいでしょう。

〈図〉老齢基礎(厚生)年金裁定請求書/支給繰下げ請求書

画像: 【手続き方法②】繰下げ受給をやめて年金受給を開始する場合

「老齢厚生年金の受取方法」と「老齢基礎年金の受取方法」で選択肢となる「ア」に丸印をつけて提出すると、請求した日の属する月の翌月分から増額された年金を受給できます。なお、いずれか一方だけ受給する場合は、受給しないほうの受け取り方法を「ウ」に丸印をつけます。加給年金の支給対象となる家族がいる場合には、「生計維持申立」も記入し、加給年金額の対象者の住民票と所得証明を添えて提出します。

【注意】「繰下げ見込み額のお知らせ」を確認する

なお、老齢年金を受給する権利が生じていても年金の請求を行わない場合、受給待機期間中は毎年、誕生月に「繰下げ見込額のお知らせ」が届きます

〈図〉繰下げ見込額のお知らせ

画像: 【注意】「繰下げ見込み額のお知らせ」を確認する

「繰下げ見込額のお知らせ」には、誕生日月時点で年金の繰下げ請求をした場合の年金見込額が記載されています。誕生日月以外で年金見込額を確認したい場合には、年金事務所に問い合わせるか、ねんきんネットにアクセスしましょう

65歳までさかのぼって一括受給することもできる

繰下げを希望し、66歳以降に年金を請求する場合、繰下げ受給ではなく、それまでの年金額をさかのぼって一括で受け取ることも可能です1)。ただし、さかのぼれるのは過去5年間までで、過去分の年金を一括で受給する場合、医療保険や介護保険の自己負担や保険料、税金なども同様に過去にさかのぼって影響を受ける可能性があります。

一括受給を選択する場合、前述の「老齢基礎(厚生)年金裁定請求書/支給繰下げ請求書」の「老齢厚生年金の受取方法」と「老齢基礎年金の受取方法」で「イ」に丸印をつけて提出します。言い換えると、繰下げ待機期間の一括受給を選択することで、実質的に繰下げ受給を取り消すことができるわけです。なお、「老齢基礎(厚生)年金裁定請求書/支給繰下げ請求書」を提出すると、増額率が固定され、変更できなくなります12)

70歳で年金をもらいたい場合は、将来のライフプランを立ててから検討しよう

70歳から年金を受給するのは、月額受給額を増やしたい場合には有効な手段といえますが、受給総額を考えた場合にはマイナスに働く場合があります。また、加給年金や振替加算が受け取れなくなったり、税金や社会保険料が増えたりする可能性もあります。老後のライフプランや資産運用、貯蓄額を見据えた上で検討しましょう。

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