病気やケガで障がいを負った時に経済的な助けとなる障害年金ですが、よく知らない人も意外と多いのではないでしょうか。だからこそ「障害年金には所得制限がある?」「働きながらの受給はできない?」といった疑問がある人もいるようです。

この記事では、ファイナンシャルプランナー・タケイ啓子さん監修のもと、障害年金の所得制限について解説します。世帯別の所得制限額についても一覧にして紹介します。‏‎

※この記事は、2024年4月17日に公開した内容を最新情報に更新しています。

この記事の監修者

タケイ 啓子(たけい けいこ)

ファイナンシャル・プランナー(AFP)。36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。

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障害年金の受給に所得制限はある?

画像: 画像:iStock.com/Seiya Tabuchi

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障害年金に原則、所得制限はありません。ただし、詳しくは後述しますが、20歳前の病気やケガで障害年金をもらっている場合には所得による支給制限が発生します1)

世帯の所得による制限はある?

厚生年金に入っている場合、加給年金対象者の所得証明を出す必要があります。そのことから誤解する人もいるかと思いますが、障害年金には世帯の所得による所得制限はありません

そもそも障害年金とは

画像: 画像:iStock.com/MonthiraYodtiwong

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障害年金とは、病気やケガで生活や仕事が制限されるようになった時にもらえる年金です。現役世代の人も受け取ることができます2)。対象となる主な病気やケガは以下です1)

〈表〉障害年金の受給対象となる主な病気やケガ

外部障害眼、聴覚、音声または言語機能、手足などの肢体の障がい
精神障害統合失調症、双極性障害、認知障害、てんかん、知的障害、発達障害など
内部障害呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液・造血器疾患、糖尿病、がんなど

障害年金には、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があります。障がいの原因になった病気やケガで初めて医師などの診療を受けた時(初診日)に国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」、厚生年金保険(以下「厚生年金」と表記)に加入していた場合はそれに加えて「障害厚生年金」をもらうことになります。

障害年金を受け取るには年金の保険料納付状況などの条件があります。また、障がいの状態によってももらえる金額は異なります。

障害年金をもらえる受給要件や手続きについて、もっと知りたい人は以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。

【関連記事】障害年金の受給要件について、詳しくはコチラ

20歳前の病気やケガで障害年金をもらっている場合には所得制限がある

画像: 画像:iStock.com/naumoid

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20歳前の病気やケガで障害基礎年金をもらう場合、そもそも満たすべき保険料要件を満たしていないことから、年金の受給に対して制限や調整があります1)。このため、毎年、受給者本人の前年所得の確認が必要となります。前年所得に基づく支給対象期間は10月分から翌年9月分までです。

〈図〉20歳前の病気やケガで障害基礎年金をもらう場合の支給制限

画像: 20歳前の病気やケガで障害年金をもらっている場合には所得制限がある

前年の所得額が472万1,000円を超える場合は年金の全額が支給停止となり、370万4,000円を超える場合は1/2の年金額が支給停止となります3)。支給停止になる期間は同様に、10月から翌年9月までです。

なお、扶養する親族がいる場合、1人当たり所得制限額38万円が加算されます。ただし、扶養する親族が老人控除対象配偶者(※1)か老人扶養親族(※2)である場合には、1人当たり48万円が加算されます。扶養対象者が特定扶養親族(※3)か19歳未満の控除対象扶養親族の場合は、1人当たり63万円が加算されます。

※1:その年12月現在の年齢が70歳以上の配偶者
※2:70歳以上の本人または配偶者の直系尊属
※3:所得税や住民税の控除対象となる特定の年齢(12月31日時点における年齢が19歳以上23歳未満)の扶養親族

【早見表】20歳前の病気やケガで障害年金をもらう場合の年金額

画像: 画像:iStock.com/years

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障害基礎年金のみをもらっている場合、もらえる金額は具体的にはいくら変わるのでしょう。以下では単身世帯、配偶者(70歳未満)と2人世帯、配偶者(70歳未満)と子ども(15歳以下)1人の3人世帯の場合を紹介します。

単身世帯の場合

本人のみの単身世帯の場合、制限が生じる所得額ともらえる金額は以下になります。

〈表〉障害等級1級の場合

前年の本人の所得額支給制限年齢障害基礎年金の月額支給額
〜370万4,000円全額支給67歳以下8万6,635円
68歳以上8万6,385円
370万4,001円
〜472万1,000円
1/2の年金額停止67歳以下4万3,317円
68歳以上4万3,192円
472万1,001円〜全額停止67歳以下0円
68歳以上
※:小数点以下は切り捨て。

〈表〉障害等級2級の場合

前年の本人の所得額支給制限年齢障害基礎年金の月額支給額
〜370万4,000円全額支給67歳以下6万9,308円
68歳以上6万9,108円
370万4,001円
〜472万1,000円
1/2の年金額停止67歳以下3万4,654円
68歳以上3万4,554円
472万1,001円〜全額停止67歳以下0円
68歳以上
※:小数点以下は切り捨て。

配偶者と2人世帯の場合

配偶者(70歳未満)と2人世帯の場合、扶養する親族が1人なので、所得制限額に38万円が加算されます。制限が生じる所得額ともらえる金額は以下になります。

〈表〉障害等級1級の場合

前年の本人の所得額支給制限年齢障害基礎年金の月額支給額
〜408万4,000円全額支給67歳以下8万6,635円
68歳以上8万6,385円
408万4,001円
〜510万1,000円
1/2の年金額停止67歳以下4万3,317円
68歳以上4万3,192円
510万1,001円〜全額停止67歳以下0円
68歳以上
※:小数点以下は切り捨て。

〈表〉障害等級2級の場合

前年の本人の所得額支給制限年齢障害基礎年金の月額支給額
〜408万4,000円全額支給67歳以下6万9,308円
68歳以上6万9,108円
408万4,001円
〜510万1,000円
1/2の年金額停止67歳以下3万4,654円
68歳以上3万4,554円
510万1,001円〜全額停止67歳以下0円
68歳以上
※:小数点以下は切り捨て。

配偶者と子ども1人の3人世帯の場合

配偶者(70歳未満)と子ども(15歳以下)1人の3人世帯の場合、扶養する親族が2人いるので、所得制限額に76万円が加算されます。また、子どもが1人いるため、全額支給の場合には月額1万9,941円、1/2の年金額停止の場合には9,971円が受給額に加算されます4)。制限が生じる所得額ともらえる金額は以下になります。

〈表〉障害等級1級の場合

前年の本人の所得額支給制限年齢障害基礎年金の月額支給額
〜446万4,000円全額支給67歳以下10万6,576円
68歳以上10万6,326円
446万4,001円
〜548万1,000円
1/2の年金額停止67歳以下5万3,288円
68歳以上5万3,163円
548万1,001円〜全額停止67歳以下0円
68歳以上
※:小数点以下は切り捨て。

〈表〉障害等級2級の場合

前年の本人の所得額支給制限年齢障害基礎年金の月額支給額
〜446万4,000円全額支給67歳以下8万9,249円
68歳以上8万9,049円
446万4,001円
〜548万1,000円
1/2の年金額停止67歳以下4万4,625円
68歳以上4万4,525円
548万1,001円〜全額停止67歳以下0円
68歳以上
※:小数点以下は切り捨て。

【シミュレーション】働きながら障害年金をもらう場合の年金額

画像: 画像:iStock.com/kyonntra

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では、実際に働きながら障害年金をもらう場合、障害年金の年金額はいくらになるのか、見てみましょう。

ここでは、会社員や自営業のケースを例に、実際の受給額がどのように計算されるのかをシミュレーションしてみましょう。

①会社員Aさん(既婚・子ども1人)がもらえる年金額

会社員のAさんは、現在は勤務しているものの、初診日に厚生年金に加入していなかったため、障害厚生年金は受け取れません。この場合、受給できるのは障害基礎年金のみとなります。

以下の条件の場合に会社員Aさんがもらえる障害年金の額を算出します。

  • 障害等級は2級
  • 前年の所得は月40万円
  • 賞与を含めた平均標準報酬額(※)は40万円
  • 厚生年金の加入期間は15年間
  • 厚生年金に加入したのは平成15年4月以降
  • 扶養家族に配偶者(70歳未満)と子ども(19歳未満)1人がいる
    ※:平成15年4月以降の標準報酬月額と標準賞与額の総額を平成15年4月以降の加入期間で割って得た金額。所得とは異なる

Aさんの前年の所得は、40万円×12カ月=480万円です。前述の表と照らし合わせると、障害基礎年金は1/2の年金額停止となります。

【Aさんの障害基礎年金の年金額】

月額 6万9,308円
+子どもの加算額(月額1万9,941円)
=月額8万9,249円

1/2所得制限
=月額8万9,249円×1/2=月額4万4,624円
※:小数点以下は切り捨て。

Aさんがもらえる障害年金の年金額は、月額4万4,624円になります。金額は少ないものの、給与収入はあるため、生活には困らない範囲だと考えられます。

②自営業Bさん(既婚・子ども1人)がもらえる年金額

自営業Bさんは、厚生年金に加入していないので、もらえるのは障害基礎年金のみです。

  • 障害等級は2級
  • 前年の所得は月40万円
  • 扶養家族に配偶者(70歳未満)と子ども(19歳未満)1人がいる

BさんもAさん同様、所得額が480万円になるのでやはり1/2の所得制限が発生します。

【Bさんの障害基礎年金の年金額】

月額 6万9,308円
+子どもの加算額(月額1万9,941円)
=月額8万9,249円

1/2所得制限
=月額8万9,249円×1/2=月額4万4,624円
※:小数点以下は切り捨て。

Bさんがもらえる障害年金の年金額は、月額4万4,624円になります。

加入している年金が異なる、会社員のAさんと自営業のBさんでは受け取れる障害年金の額に差が出そうに思えます。しかし、Aさんは初診日に厚生年金に加入していなかったため、障害厚生年金の対象とはならず、Bさんと同様に障害基礎年金のみの支給となります。

また、扶養家族や所得も同じ条件であることから、最終的に両者の年金額は同額になりました。

障害年金をもらえる金額について、もっと知りたい人は以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。

【関連記事】障害年金の受給額について、詳しくはコチラ

障害年金の受給額にまつわる注意点

画像: 画像:iStock.com/MicroStockHub

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障害年金の受給額にまつわる注意点を確認しましょう。

20歳前の病気やケガによる受給の場合、年に1回の所得額確認と所得制限がある

前述のように、20歳前の病気やケガで障害基礎年金をもらう場合、毎年、受給者本人の前年所得の確認が必要となります。単身者の場合、前年の所得額が472万1,000円を超える場合は年金の全額が支給停止となり、370万4,000円を超える場合は1/2の年金額が支給停止となります3)。支給停止になる期間は同様に、10月から翌年9月までです。

障害等級が重度なほど受給額は多くなる

障害年金は、法令で定められた障がいの程度(等級)に応じて支給されます1)。障害基礎年金は、1・2級に該当する場合、もらうことができます。障害厚生年金は3級まであります。

〈表〉障害状態該当要件

1級他人の介助を受けなければ、日常生活のことがほとんどできない状態
2級必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得ることができない状態
3級日常生活にはほとんど支障はないが、労働については著しい制限がある状態
障害手当金(※)・障害等級表に定める障がいの状態である
・初診日から5年以内に治っている(症状が固定している)
・治った日に障害厚生年金を受け取ることができる状態よりも軽い
※:一時金として支給

障害基礎年金の1級の年金額は2級の年金額の1.25倍になります。同様に、障害厚生年金も1級の年金額はやはり2・3級の年金額の1.25倍です。

障害年金でもらえる金額について、もっと知りたい人は以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。

【関連記事】障害年金の受給額について、詳しくはコチラ

更新手続きが1~5年ごとに発生する場合がある

障害年金の認定には、「永久認定」と「有期認定」の2種類があります。永久認定は、たとえば手足の切断など、時間が経過しても障がいの程度に変化や改善の見込みがない場合が対象になります。一方、有期認定は、時間の経過によって障がいの程度に変化が起こりえる病状やケガが対象になります。その場合、一定期間ごとに「障害状態確認届(診断書)」を日本年金機構に提出し、更新(再認定)してもらいます4)。その結果によっては等級が上下し、受給額も増減する可能性がある点に注意しましょう。

障害年金に所得制限が発生するのは、20歳前の病気やケガが原因の場合

画像: 画像:iStock.com/JGalione

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所得制限が発生するのは、20歳前の病気がケガで生じた障がいで障害年金をもらっている場合のみです。また、障害年金生活者支援給付金にも同様に所得制限があります。いずれも単身者の場合には、472万1,000円がボーダーラインになります。当てはまる人は注意しましょう。

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