中でも、会社員の資産形成に役立つ制度が「企業型確定拠出年金(DC)」です。しかし一部ではデメリットしかないという声もあり、気になっている人もいることでしょう。この記事では、ファイナンシャルプランナーの黒川一美さん監修のもと、企業型確定拠出年金がデメリットしかないといわれる理由を解説。また、ほかの年金制度との違いについてもご紹介します。
この記事の監修者
黒川一美(くろかわ かずみ)
FPサテライト株式会社所属、ファイナンシャルプランナー。大学院修了後、IT企業や通信事業者でセールスエンジニア兼企画職として働く。出産を機に退職し、お金を稼ぐ側から家計を守る側に立場が変わり、お金の守り方を知らなかったことを痛感。自分に合ったお金との向き合い方を見つけるため、FP資格を取得する。資格取得後は、FPの勉強を通じて得られた知識をもとに、よりよい家計管理を求め試行錯誤の日々を過ごす。現在は3人の子育てをしながら、多角的な視点からアドバイスができるFPを目指して活動中。
企業型確定拠出年金(DC)とは?
企業型確定拠出年金は(掛金を積み立てること)、勤務先が拠出した掛金を運用して加入者自らが年金の資産運用を行う制度のことです1)。公的年金(国民年金、厚生年金、共済年金)に加えて任意で導入ができる企業年金の一種です。
〈図〉年金制度のしくみ
年金制度はその構成から、3階建てと呼ばれています。1階部分に基礎年金(国民年金)、2階部分に厚生年金があり、企業型確定拠出年金はその上の3階部分にあたります。
企業型確定拠出年金の加入対象は、企業型確定拠出年金を導入している企業の従業員です。勤務先が拠出した掛金を従業員自らが運用します。運用先は定期預金や保険、投資商品から選択します。
掛金は固定ですが、受け取る年金は自身の運用成績に左右されます。受け取る時は、まとめて受け取る方法(一時金)と、一定期間で取り崩す方法(年金形式)があります。
なお、一般的に「退職金」と呼ばれるものは、勤務先が準備した資金で、従業員は一時金か年金形式のいずれかで受け取ります(受け取り方が選べるかどうかは勤務先により異なる)。勤務年数によって受取額が決まるのが一般的です。
参考資料
【給付】運用した資産は60歳以降に受け取れる
企業型確定拠出年金は原則60歳以降にならないと受け取ることができません。しかし、勤務先を退職した場合は例外的に企業型確定拠出年金を脱退し、お金を受け取れるケースがあります。60歳以前にお金を受け取れる条件は企業型確定拠出年金の運用資産額によってつぎのように変わります2)。なお、運用資産とは毎月の掛金のことです。
●企業型確定拠出年金の運用資産が1万5,000円以下の場合
・企業型確定拠出年金制度のある勤務先を退職して6カ月以内であること
・退職後、加入していた企業型確定拠出年金の移換手続きなどをしていないこと
●企業型確定拠出年金の運用資産が1万5,000円を超える場合
・企業型確定拠出年金に加入して5年以内、もしくは運用資産が25万円以内であること
・国民年金保険料を支払っていない人
・免除や納付の猶予を受けている人
【掛金】基本的に勤務先が掛金を拠出するが、従業員が掛金を上乗せできる
前述したように企業型確定拠出年金の掛金は、勤務先が拠出するしくみです。掛金の限度額は月額5万5,000円で、ほかの企業年金を併用する場合は2万7,500円です。なお、掛金額の計算方法は勤務先の年金規約によって異なります。たとえば、「定額」や「給与比例(定率)」で計算する方法や、職種連動など「企業への貢献度」によって決まる場合もあります。
このように掛金は原則として勤務先が拠出しますが、マッチング拠出を採用すれば加入者である従業員も一部掛金を追加拠出できるようになります2)。マッチング拠出とは、企業型確定拠出年金で企業が拠出する掛金に、加入者が掛金を上乗せできるしくみのことです。マッチング拠出を利用して拠出できるのは企業の拠出金と合算して月額5万5,000円までです。また、企業の拠出金を上回ることもできません。
〈図〉マッチング拠出のしくみ
なお、マッチング拠出を勤務先が採用していても、従業員の制度利用は任意です。勤務先の掛金に上乗せして従業員が掛金を負担する場合、個人型確定拠出年金に加入するかマッチング拠出を利用するか選択することができます。
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企業型確定拠出年金(DC)はデメリットしかないって本当? その理由を解説
企業型確定拠出年金が「デメリットしかない」といわれるのは、以下の5つの理由があるからです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.将来受け取れる給付金がいくらか決まっていないから
企業型確定拠出年金は毎月の拠出額は決まっていますが、将来受け取れる金額は決まっていません。
これは将来の資金計画が不透明ということであり、一見デメリットに見えるかもしれません。しかし、運用成績がよければ給付金が増えることでもあり、将来受け取るお金が増えることにもなります。
2.元本割れリスクがあるから
預けたお金より受け取るお金が減ることを「元本割れ」といいます。企業型確定拠出年金は、運用成績によって将来受け取れる金額が変わるため、運用商品の選択次第では元本割れのリスクがあります。
3.原則60歳まで引き出すことができないから
前述したように企業型確定拠出年金は、急にまとまったお金が必要になっても、60歳までお金を引き出すことはできません。たとえば、子どもの学費などで急にお金が必要になった場合も、現金として引き出すことができません。
しかし、60歳まで引き出せないということは退職後の資金を強制的に準備できるというメリットとしても捉えることができます。
4.加入者に投資の知識が必要であるから
企業型確定拠出年金は加入者本人が運用商品を決めて運用します。定期預金や保険など、リスクのない商品も選択できますが、資産を効率よく増やしていくには、ある程度の投資の知識が必要です。
投資に苦手意識を持たれる人もいるでしょうが、将来の資産を運用で増やしたい人にとっては、お金の知識を身に付けるいい機会でもあります。
5.受け取り方で課税額が高くなることがあるから
企業型確定拠出年金の受け取り方は、「分割(年金方式)で受け取る」か「一時金(一括)で受け取る」かを選べますが、受け取り方によって税金のかかり方が異なります。
分割(年金方式)で受け取る場合は、公的年金との合算で納税額が決まります。年金控除の対象になりますが、受け取る年金が増えると納税額が大きくなります。
一方、一時金(一括)で受け取る場合は退職金扱いになり、勤務年数で控除額が決まります。勤務年数が長ければ長いほど、控除額は大きくなります。
どちらの方法を選ぶかは本人のライフプラン次第となります。税金だけを考えて選択するのもひとつの手ですが、いつお金が必要かという視点で考えることも重要です。なお、勤務先によってはこの2つを併用できる場合もあります。
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企業型確定拠出年金(DC)で何が得になるの? メリットを解説
続いて企業型確定拠出年金のメリットを見ていきましょう。以下の3つが挙げられます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.3つの税制優遇が受けられる
〈図〉企業型確定拠出年金の3つの税制優遇
企業型確定拠出年金のメリットは、税制面での優遇措置が充実している点です。具体的には、「掛金」「資産運用」「年金の受け取り」の3つの面で、税制優遇が受けられます2)。
まず、企業が拠出する毎月の掛金は、全額経費の対象となります。 また、従業員が拠出する場合は、全額非課税(所得税・住民税)となります。さらに、社会保険料の計算の対象から除外されます。
つぎに、企業型確定拠出年金の運用で得た利益は全額非課税になります。 一般的な金融商品で運用するとその運用益に対しては約20%の税金がかかりますが、企業型確定拠出年金の場合はかかりません。
さらに、積み立ててきた資産は60歳以降、「分割(年金方式)で受け取る」か「一時金(一括)で受け取る」かのいずれかで受け取ることになります(前述)。分割(年金方式)であれば「公的年金等控除」、一時金(一括)であれば「退職所得控除」を受けることができ、税負担を軽減することができます。
2.口座管理手数料の個人負担がない
企業型確定拠出年金では、運用時にかかる手数料は勤務先が負担します。加入者が口座管理手数料を負担することはありません。
ただし、同じ確定拠出年金でも個人型確定拠出年金は、加入時や運用にかかる手数料は全額加入者負担となりますので、注意が必要です。
3.離職時・転職時に積立金を持ち運ぶことができる
企業型確定拠出年金の加入者が中途退職や転職する場合、積立金を持ち運ぶことができます3)。
転職先で採用している年金制度によりますが、持ち運んだ資産を転職先の年金制度に移換し、個人型確定拠出年金に移換して運用を継続できます。
ほかの年金制度との違いは?
企業型確定拠出年金をより理解するために、ほかの年金制度についても確認しておきましょう。年金制度で知られているものには主に、個人型確定拠出年金(iDeCo)や確定給付企業年金(DB)、厚生年金基金があります。それぞれを詳しく見ていきましょう。
個人型確定拠出年金(iDeCo)との違い
確定拠出年金には企業型確定拠出年金のほかに個人型確定拠出年金(iDeCo)があります。両者の違いを以下の表にまとめました。
〈表〉個人型確定拠出年金(iDeCo)との違い
企業型確定拠出年金 | 個人型確定拠出年金 | |
---|---|---|
加入対象者 | 従業員 | 国民年金保険の被保険者、自営業者、専業主婦(夫)など |
運用 | 加入者本人(従業員) | 加入者本人 |
掛金・手数料 | 企業が積み立て | 加入者が積み立て |
給付額 | 変動あり | 変動あり |
受け取り時期 | 原則60歳以上 | 原則60歳以上 |
掛金や手数料などの費用の負担者は勤務先なのか、加入者なのかという点が異なります。また、個人型確定拠出年金は国民年金の被保険者であれば加入できますが、企業型確定拠出年金は、制度がある企業に勤めている人だけが加入できます。
【関連記事】個人年金保険とiDeCoの違いについて、詳しくはコチラ
確定給付企業年金(DB)との違い
現在の企業年金の代表的な制度には、企業型確定拠出年金と確定給付企業年金の2つがあります。
両者の違いを以下の表にまとめました。
〈表〉確定給付企業年金(DB)との違い
企業型確定拠出年金 | 確定給付企業年金 | |
---|---|---|
加入対象者 | 従業員 | 従業員 |
運用 | 加入者本人(従業員) | 企業 |
掛金・手数料 | 企業が積み立て | 企業が積み立て |
給付額 | 変動あり | あらかじめ確定 |
受け取り時期 | 原則60歳以上 | 退職時、または年金として給付 |
両者の大きな違いは、将来受け取る給付額が、運用成績によって変化するか、あらかじめ決まっているかです。
また、企業型確定拠出年金は、加入者が60歳まで運用を行えるよう、離職時・転職時に移換などの制度が整えられています。なお、確定給付型年金は離職時・転職時に脱退一時金を受け取るか、脱退一時金相当額をほかの年金制度に移換するかを選択します。ただし、転職の場合は転職先の規定で年金の扱いが決められている場合があります。
厚生年金基金との違い
厚生年金基金は、厚生年金基金や企業年金連合会が、老齢厚生年金の一部を国に代わって給付する制度です4)。また年金給付の際、代行する部分に基金独自の年金が加算されます。
しかし現在、厚生年金基金は加入企業の業績悪化や倒産などにより運営が厳しい状況に陥る団体が増え、2014年4月に実質的に廃止となりました。
現在の企業の年金制度は、企業型確定拠出年金と確定給付企業年金が主流です。なお、確定給付企業年金は退職金を企業が準備する必要があるため、負担に感じる企業もあります。近年は、企業の負担を回避するために企業型確定拠出年金が選ばれる傾向にあります。
なお、厚生年金について詳しくは以下の記事でご紹介しています。気になる人は確認してみてください。
【関連記事】厚生年金と国民年金の違いについて、詳しくはコチラ
【関連記事】厚生年金はいくらもらえる? 詳しくはコチラ
企業型確定拠出年金(DC)に関するよくある疑問
Q1.企業型確定拠出年金は退職後・転職後どうしたらいいの?
〈図〉企業型確定拠出年金の退職後・転職後の手続き
企業型確定拠出年金に加入している人が、その企業を退職した場合の進路によって手続きが異なります。
まず、転職先で企業型確定拠出年金に加入する場合、これまで積み立てた資産を転職先の企業型確定拠出年金へ移換できます。転職先で忘れずに移換手続きを済ませましょう。また、企業によって企業型確定拠出年金の商品が異なることから、運用商品は転職先の商品から改めて選択することになります。自身の状況やリスクと照らし合わせた上で商品を選ぶことが大切です。
転職先に企業型確定拠出年金がない場合や制度があっても加入しない場合には、個人型確定拠出年金へ移換します。期限までに手続きを済ませるようにしましょう。また、転職先で確定給付企業年金などに加入する場合には、企業型確定拠出年金の運用資産を移換できるケースがあります。詳しくは転職先の企業に確認してみてください。
Q2.企業型確定拠出年金は解約できるの?
原則解約はできません。ただし、退職した場合は例外的に認められることはあります。詳しくは「例外的に60歳未満で受け取れるケースがある」の項目をご覧ください。
Q3.企業型確定拠出年金に入らないとどうなるの?
企業型確定拠出年金は企業によって加入者の条件や、未加入の場合の対処法が決められています。加入するかどうかを従業員が自由に選択できる場合で、未加入を選択した人は、退職金を定期的に前払いする方法が一般的です。
Q4.企業型確定拠出年金に入らないほうがいい人は?
拠出した掛金は原則60歳まで引き出すことができません。そのため、生活に余裕がない人は加入しないほうがいいかもしれません。ただし、勤務先の規定で全従業員の加入が定められている場合があり、加入しないことを選択できないケースもあります。
また、確定拠出年金は長く続けることで、リスクが低くなります。長期の運用年数が見込めない場合、運用の成果が出ない可能性があります。確定拠出年金で運用できる年数が少ない人は、ほかの制度も併せて検討するといいでしょう。
Q5.企業型確定拠出年金と個人型確定拠出年金(iDeCo)を併用できる?
企業型確定拠出年金と個人型確定拠出年金(iDeCo)は、マッチング拠出を利用していなければ併用可能です(前述)。ただし、拠出額の合計の上限が決まっていますので、併用する場合は企業型確定拠出年金の拠出額を確認しておきましょう。
Q6.企業が倒産した場合、企業型確定拠出年金はもらうことができる?
企業型確定拠出年金は勤務先とは異なる運用機関で保管されているため、年金は受け取ることができます。ただし、倒産した場合は企業型確定拠出年金の加入資格を失ってしまいますので、転職先でほかの確定拠出年金に移換が必要です。
なお、自営業(フリーランス)、無職になる場合は、企業型確定拠出年金の運用資産の移換先は、個人型確定拠出年金か企業年金連合会になります。
Q7.本人が亡くなった場合、企業型確定拠出年金は遺族に支給される?
加入者本人が亡くなった場合は、遺族の手続きにより確定拠出年金口座の運用商品はすべて売却、現金化されます。そこから手数料を差し引いた金額が遺族に死亡一時金として支払われます。
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企業型確定拠出年金(DC)はデメリットもあるものの、会社員におすすめ
企業型確定拠出年金は、従業員自らの運用成績で受け取る年金額が変わるため、退職後の資金計画が難しい面があります。また、運用による資産形成のため、苦手意識を持つ人もいるかもしれません。
しかし、掛金が全額所得控除になることや、運用益が非課税になるなど、企業型確定拠出年金は会社員にとって税制面でのメリットが期待できる制度となっています。勤務先が企業型確定拠出年金制度を導入している際は、加入を検討するといいでしょう