「年金における家族手当」と呼ばれることもある加給年金は、定年後でも家族を養う必要がある人にとって心強い存在です。しかし、支給期間が限定されているほか、期間中でも条件によって支給停止になる場合があるので注意が必要です。

ファイナンシャルプランナー・氏家祥美さん監修のもと、加給年金の支給が停止される条件について解説します。また、制度改正により2022年4月以降から適用された支給停止のルール変更についても解説するので、併せてご確認ください。

【最新情報】令和6年度の年金額改定について

2024年1月19日に、厚生労働省より2024年4月から施行される令和6年度の年金額が発表されました。

令和6年度の年金額の例
・国民年金(老齢基礎年金(満額):1人分)…月額6万8,000円(※1)
・厚生年金(夫婦2人分の老齢基礎年金(満額)を含む標準的な年金額)…月額23万483円(※2)

※1:昭和31年4月1日以前生まれの人の老齢基礎年金(満額1人分)は月額6万7,808円。
※2:平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)43万9,000円)で40年間就業した場合に受け取る年金の給付水準。

詳しく知りたい人は、コチラをご確認ください。

※この記事は令和5年度(2024年3月31日まで)の金額を記載

※本記事の内容は、日本年金機構のウェブサイトに掲載されている「加給年金額と振替加算」の内容を参照し、制作しています。ご承知ください。

【この記事の監修者】

氏家 祥美(うじいえ よしみ)

ハートマネー代表。ファイナンシャルプランナー・キャリアコンサルタント。子育て世帯、共働き夫婦の家計相談に豊富な実績を持ち、「幸福度の高い家計づくり」を総合的にサポートしている。オンラインでの家計相談やマネー研修も実施中。

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加給年金とは「年金における家族手当」のようなもの

画像: 画像:iStock.com/aprott

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まずは、加給年金の概要について簡単に確認しておきましょう。

加給年金とは、厚生年金保険(以下、「厚生年金」と表記)に20年以上加入している人が65歳になった時点で利用できる制度です。特定の条件を満たす配偶者または子どもがいる場合に、老齢年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)のうち、老齢厚生年金の金額が一定期間にわたって加算されます。

加給年金は、支給対象者が年金生活となって収入が減少した時に、配偶者や子どもが一時的に受ける経済的な影響を少なくする制度といえます。したがって、「年金における家族手当や扶養手当」と考えてもよいでしょう。

なお、加給年金が支給される期間は決まっており、原則として配偶者の場合は65歳まで、子どもの場合は18歳までとなります。

加給年金の受給条件などの基礎知識に関しては以下の記事で解説していますので、併せてご参照ください。

【関連記事】加給年金を図解! もらえる条件や金額について、詳しくはコチラ

加給年金の支給額は、年度ごとに変動する

それでは、加給年金はどのように計算されて、支給されるのでしょうか?

配偶者に関する加給年金の場合、老齢厚生年金に加算される金額(年額)は、基本となる「加給年金額」と、配偶者の生年月日に応じて変わる「特別加算額」の合計となります。

支給される加給年金の合計額
=加給年金額+特別加算額

また、子どもに関する加給年金の金額は人数によって変動します。なお、加給年金額と特別加算額は、老齢年金と同様に物価の変動に応じて、支給される年度ごとに金額が変わります。

具体的な金額や受給できる加給年金額については、以下の記事で詳しく説明しています。併せてご参照ください。

【関連記事】加給年金額はいくら? 特別加算額や支給シミュレーションについて、詳しくはコチラ

加給年金が支給停止になるケースとは?

画像: 画像:iStock.com/Yusuke Ide

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前述したように加給年金は、年金生活となって収入が減少した時に、配偶者や子どもが一時的に受ける経済的な影響を少なくするための制度です。

そのため、配偶者が老齢年金を受け取るようになる、子どもが18歳以上になるなど、配偶者・子どもにある程度の収入が見込まれる状態になると、その時点で加給年金は支給停止となります。

〈図〉基本的な加給年金の支給停止のタイミング

画像: 加給年金が支給停止になるケースとは?

さらに、年齢以外の条件によっても、加給年金が支給停止となる場合があります。ここで、加給年金が支給停止となる主な条件を整理しておきましょう。以下のいずれかの条件に当てはまった場合に支給停止となります。

【条件1】配偶者が65歳になった(年金を受給しはじめた)場合

対象となる配偶者が老齢厚生年金を受給しはじめた時点で、加給年年金は支給停止となります。最もわかりやすい基準は、年齢です。つまり、配偶者が65歳になり老齢年金を受給しはじめると、加給年金は支給停止となります。

なお、配偶者を対象とする加給年金が支給停止となっても、特定の条件を満たしていれば、配偶者が受給する老齢年金に「振替加算」という増額分が支給される場合があります。

振替加算について詳しく知りたい人は、以下の記事も併せてご参照ください。

【関連記事】振替加算の条件や金額、手続きについて、詳しくはコチラ

【条件2】子どもが18歳になった場合

子どものための加給年金は、子どもが18歳に到達した年度の3月31日を迎えた時点で支給停止となります。つまり、一般的に高校を卒業したタイミングで終了します。なお、子どもが1級・2級の障害の状態にある場合は、20歳になった時点で支給停止となります。

なお、子どもの加給年金が支給停止になっても、対象となる配偶者の加給年金は、継続して支給されます。

【条件3】「生計を維持」の条件から外れた場合

年齢の条件に比べると比較的少ないケースですが、配偶者または子どもが被保険者本人に「生計を維持」されていると認められなくなった場合でも、加給年金が支給停止となる可能性があります。

厚生年金保険法1)に「生計を維持」の条件が詳しく記されていますが、加給年金の支給対象かどうかを判断する基準のポイントは、以下の3つといえます。

  1. 前年の収入が年額850万円未満であること
  2. 前年の所得が年額655万5,000円未満であること
  3. 住民票上同一世帯に属していること。同一世帯に属していない場合は、生活費や療養費など経済的援助が行われていると認められること

この3つの条件を満たしていることを確認するために、毎年「生計維持確認届」が届くので必ず提出しましょう。

また、離婚や死別などの理由により、配偶者や子どもの「生計を維持」している状態ではなくなった場合も、加給年金は支給停止となります。

【条件4】配偶者が障害年金を受給しはじめた場合

加給年金の対象となっている配偶者が、以下の障害年金を受給している間は、配偶者の加給年金を受け取ることができません2)

  1. 厚生年金保険法の障害厚生年金
  2. 旧厚生年金保険法、旧船員保険法の障害年金
  3. 国民年金法による障害基礎年金および旧国民年金法による障害年金
  4. 各種共済組合等の障害共済年金、障害年金など

配偶者が上記の障害年金を受給する場合は、最寄りの年金事務所などに「老齢・障害給付加給年金額支給停止事由該当届」を提出する必要があります。

この書類を提出しなかった場合、受け取った加給年金を、あとで返納することになるのでご注意ください。なお、厚生年金保険法の障害厚生年金については、書類の提出は不要です(共済組合などから支払いを受けるものを除く)。

また、個々の事例により異なりますが、配偶者の厚生年金加入期間が20年以上に達し、老齢年金や特別支給の在職老齢年金を受け取りはじめた場合にも、加給年金は支給停止となる可能性があります3)

なぜ、2022年4月以降に加給年金は支給停止対象を拡大したの?

画像: 画像:iStock.com/MicroStockHub

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年金制度の改正により、2022年4月以降の加給年金における、支給停止の対象が拡大されました。シニア世代が働きやすい環境にするために行われた制度改革の一環と考えられますが、これにより加給年金を受け取れる人の条件が狭まりました。

ここでは、加給年金の制度改正の概要について解説します。

加給年金の支給停止拡大と深いかかわりを持つ2つの年金

老齢厚生年金を受給する資格は、原則として65歳から発生します。しかし、以前の制度を引き継ぐ経過措置として、一定の条件に当てはまる人は、65歳未満でも「特別支給の老齢厚生年金」を受け取れるほか、働きながら老齢厚生年金を受け取れる「在職老齢年金」を受給できます。

この特別支給の老齢厚生年金と在職老齢年金は、加給年金の支給と密接な関係を持っています。

特別支給の老齢厚生年金とは?

かつて昭和60年(1985)の法改正により、老齢厚生年金の受給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられました4)。この際、経過措置として設けられたのが、60歳から64歳までの間に受け取ることができる「特別支給の老齢厚生年金」です。

特別支給の老齢厚生年金を受給するために必要な条件は、以下のとおりです。

  1. 生年月日が、男性の場合は「昭和36年(1961)4月1日以前」、女性の場合は「昭和41年(1966)4月1日以前」であること
  2. 老齢基礎年金に10年以上加入していること
  3. 厚生年金保険などに1年以上加入していること
  4. 生年月日に応じた受給開始年齢に達していること

なお、特別支給の老齢厚生年金の受給対象となる年齢は生まれた年や性別によって変わります。

ただし、支給対象にあたる年齢でも、以下の在職老齢年金を受給しており、総報酬月額相当額が一定額以上の場合には、特別支給の老齢厚生年金の一部または全額が支給停止となります。

在職老齢年金とは?

60歳以降の人が、厚生年金保険に加入しながら(働きながら)受け取る老齢厚生年金を「在職老齢年金」といいます5)。在職老齢年金の金額は、老齢厚生年金の基本月額(加給年金を除く)と、働くことで得ている総報酬月額相当額(賞与分などを含む月収)によって決まります。

〈表〉在職老齢年金による調整後の年金支給月額の計算式

基本月額と総報酬月額相当額との合計が48万円以下の場合全額支給
基本月額と総報酬月額相当額との合計が48万円を超える場合基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-48万円)÷2

たとえば、老齢厚生年金の基本月額が15万円、総報酬月額相当額が40万円の場合、在職老齢年金の金額は、11万5,000円となります。

15万円-(15万円+40万円-48万円)÷2=11万5,000円

特別支給の老齢厚生年金や在職老齢年金と加給年金の関係

65歳未満でも老齢厚生年金を受給できる在職老齢年金や特別支給の老齢厚生年金の制度は、前述したように、配偶者の加給年金と密接な関係を持っています。

以前は、配偶者が在職老齢年金や特別支給の老齢厚生年金を受給する資格を持っている場合でも、全額支給停止になっていれば、該当する期間分だけ、配偶者の加給年金を受け取ることができました。

しかし、2022年4月以降は、配偶者が在職老齢年金や特別支給の老齢厚生年金を受給する資格を持っている時点で、配偶者の加給年金を受け取ることができなくなりました(子どもの加給年金は対象外です)6)

2022年3月時点で、すでに加給年金が加算されている場合など、経過措置として以前の制度が適用される例外的なケースもあります。しかし、配偶者が在職老齢年金や特別支給の老齢厚生年金を受給する資格を持っている場合は、加給年金を受け取れるかどうかを、年金事務所などで確認するとよいでしょう。

加給年金のしくみは複雑。不明点は年金事務所などに確認しよう

加給年金は、家族の暮らしを支えるために役立つ存在です。しかし、支給されるための条件や支給停止の条件も複雑なため、自分がいつまで、どれくらいの加給年金を受け取れるのか、正しく把握するのは難しいかもしれません。自分の家族が加給年金の支給対象にあたるのか、または、支給停止の条件に当てはまるのかなど、不明点がある場合は、「ねんきんダイヤル」または最寄りの年金事務所に問い合わせをしましょう。

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