「退職金にも税金が発生するの?」
「どれくらいの税金が引かれるのだろう?」
など、どんな税金がいくら引かれるのか疑問に感じている人もいることでしょう。
退職金には所得税と住民税がかかります。つまり退職時に支給されるのは、総額からこの2つの税金が差し引かれた金額となります。この記事では、ファイナンシャルプランナーの高山一恵さん監修のもと、退職金にかかる税金について解説します。税金の計算方法もご紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
この記事の監修者
高山 一恵(たかやま かずえ)
株式会社Money&You 取締役。ファイナンシャルプランナー(CFP®認定者)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。DCプランナー1級。東京都出身。慶應義塾大学文学部卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを創業。10年間取締役を務めた後、現職へ。女性向けWEBメディア『FP Cafe®』や『Mocha』を運営。全国での講演活動、執筆、マネー相談を通じて、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく、親しみやすい講演には定評がある。
退職金にかかる税金は所得税と住民税の主に3つ
退職金には、給与やボーナスと同様に税金がかかります。退職金は高額になりやすいため、想定よりも手取り額が少ないと感じることもあるでしょう。具体的には、以下の3つの税金が発生します。
なお、退職金は受け取る前に所定の手続きを行っていれば、源泉徴収または特別徴収による課税となるため、確定申告は必要ありません1)。それぞれ詳しく解説します。
参考資料
①所得税
所得税は、毎年1月1日から12月31日までの所得に対してかかる税金です2)。会社員や公務員などの給与所得者の場合は毎月給与から源泉徴収されているのが一般的ですが、退職金も同様に所得税がかかります。
所得税の課税方法には、所得を合算した総所得金額に課税する「総合課税」と、ほかの所得金額と合算せずに分離して課税する「分離課税」があります3)。
退職金は、「給与所得」や「事業所得」など10種類の所得のうちの「退職所得」に該当し、分離課税になります。退職所得は、所得税を計算する際の所得金額を減らす「退職所得控除」が適用になります。これにより、退職金にかかる税金の負担を軽くすることができます。また、退職所得控除は、勤続年数によって変わり、勤続年数が長くなるほど控除額が大きくなります。
②住民税
住民税は、地方税のひとつとして、1月1日時点の住所地のある都道府県と市区町村が課す税金です。一般的には「市区町村民税」と「道府県民税」をまとめて住民税と呼んでおり、「市区町村民税」と「道府県民税」の計算および徴収などの事務は市区町村がまとめて行っています。
住民税の計算方法はどこも同じですが、地方自治体によって規定が違うため一律ではありません。退職金を一括で受け取る場合は、所得税と同様に住民税も分離課税で計算されます4)。
また、住民税額の計算は勤務先が計算し、支給する退職金から差し引いて退職した年の1月1日に退職した人が住んでいた住所地の市区町村に納付するのが特徴です。
参考資料
③復興特別所得税
2037年までは「復興特別所得税」も納める必要があります5)。復興特別所得税は東日本大震災からの復興に必要な財源を確保するために創設された新しい税金です。会社員や公務員などの給与所得者は、源泉所得税復興特別所得税も含めて徴収されています。 確定申告をする場合は、復興特別所得税も合わせて申告・納税しなければなりません。
参考資料
退職金の受け取り方法は「一時金」と「年金」がある
退職金の受け取り方法は、「一時金」として一括で受け取る方法と、「年金」として分割で受け取る方法の2つがあります。
一時金として一括で受け取る場合は退職所得の扱いとなり、分離課税で税金が計算されます1)。一方、年金として分割で受け取る場合は雑所得の扱いとなり、総合課税の対象となります。
それぞれ課税方法や支払う税額が異なるため、状況に応じて自分に合った受け取り方法を選びましょう。
〈表〉退職金の受け取り方法
一時金として受け取る場合 | 年金として受け取る場合 | |
---|---|---|
所得の種類 | 退職所得 | 雑所得(公的年金など) |
課税方法 | 分離課税 | 総合課税 |
また、退職金は受け取り方法によっても課税金額の算出方法が変わってきます。それぞれの受け取り方法の特徴をご紹介します。
退職金を「一時金」として一括で受け取る場合のプロセス
退職金を一時金で受け取るメリットは、分離課税で計算されるため税額が抑えられることです。一時金として退職金を受け取る場合の税金の計算方法は、以下のプロセスになります。
それぞれ具体的に見ていきましょう。
STEP1.退職所得控除額を計算する
退職金を一時金で受け取る場合は、退職所得控除が適用になります。退職金は、「在職中の功績への報償」としての意味合いがあるため、通常の給与より税制上の優遇が受けられます1)。ただし、勤続年数によって計算方法が異なるため注意しましょう。
退職所得控除額の計算方法は、以下を参考にしてみてください。
〈表〉退職所得控除額の計算方法3)
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円未満なら80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数−20年) |
ポイントは、勤続年数が「20年を超えているかどうか」です。勤続20年以下までは1年につき40万円ずつ、20年超からは1年につき70万円ずつ控除額が増えます。勤続年数は端数切り上げです。たとえば、20年1カ月働いた場合は21年で計算します。
STEP2.課税退職所得金額を計算する
続いて、課税退職所得金額を計算しましょう。課税所得金額とは、収入から所得控除を差し引いたもののことを指します。退職金は税制上の優遇があるため、計算方法が多少異なります。計算方法は、以下のとおりです3)。
課税退職所得金額 =(収入金額−退職所得控除額)×1/2
課税退職所得金額は、退職金から先ほど計算した退職所得控除額を引き、1/2を乗じて求めます。課税退職所得金額は、所得税や住民税を計算する上で基準となる金額です。通常の課税所得金額より優遇が受けられるため、計算方法に注意しましょう。
ただし、勤続5年以下で退職金を受け取る場合は注意が必要です。所得控除後の金額が300万円を超える場合には、1/2課税の適用がされません。
STEP3.所得税を計算する
前述した課税退職所得金額を用いて、所得税を計算します。所得税の税率や控除額は、課税退職所得金額によって異なるため、以下の表を参考にしてみてください。
〈表〉所得税の税額(2022年)1)
課税退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円~195万未満 | 5% | 0円 |
195万円~330万円未満 | 10% | 9万7,500円 |
330万円~695万円未満 | 20% | 42万7,500円 |
695万円~900万円未満 | 23% | 63万6,000円 |
900万円~1,800万円未満 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円~4,000万円未満 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円未満 | 45% | 479万6,000円 |
所得税を求めるには、課税退職所得金額に税率を乗じたあとに控除額を引きましょう。
所得税額 = 課税退職所得金額×税率−控除額
日本の所得税は、超過累進課税を採用しているため、所得金額が高くなるほど税率も上がります。ただし、退職金の場合は控除額も大きくなるため税負担は抑えられます。また、退職金の所得税は源泉徴収されるため、確定申告の必要はありません。
STEP4.復興特別所得税を計算する
2013年1月1日から2037年12月31日までに受け取った退職金には、復興特別所得税も課税されます5)。復興特別所得税は、税率が一律で退職金の金額によって変化しません。復興特別所得税の計算方法は以下のとおりです5)。
復興特別所得税 = 所得税額×2.1%
復興特別所得税は、所得税額に税率2.1%を乗じて計算します。また、復興特別所得税も所得税と同様に源泉徴収されます。
STEP5.住民税を計算する
住民税の税率は、市町村民税(特別区民税)が6%・道府県民税(都民税)4%の合計10%です6)。所得税とは異なり、退職金であっても税率は変わりません。課税退職所得金額は、先ほど求めた金額をそのまま用いて計算します。住民税の計算方法は、以下のとおりです。
住民税 = 課税退職所得金額×10%
住民税は基本的に10%ですが、自治体によって特別課税される可能性もあるので注意しましょう。なお、住民税は特別徴収です。退職金を支払う側が支払いの際に住民税を特別徴収し、翌月10日までに市区町村に納入します。
退職金を年金として「分割」で受け取る場合のプロセス
続いて、退職金を年金で受け取る場合をご紹介します。年金として受け取ると支給されるまで企業が運用を続けるため、一時金よりも受け取り総額が多くなるのがメリットです。年金で受け取る場合は総合課税となり、計算方法も異なるため注意しましょう。
計算方法は以下のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
STEP1.公的年金等の収入の合計額を計算する
ほかの所得とは分けて計算する分離課税の一時金受け取りとは異なり、年金で受け取る場合は総合課税です7)。公的年金等にかかる雑所得に分類されるため、まずは収入金額を算出しましょう。合算する年金には老齢基礎年金や老齢厚生年金・確定拠出年金などがあります。
公的年金等の収入には生命保険などの個人年金は含まれません。公的年金及び一定の企業年金のみの合計額となります。
参考資料
7)国税庁「雑所得」
STEP2.公的年金等にかかる雑所得の金額を計算する
続いて、公的年金等にかかる雑所得の金額を計算します。雑所得には退職所得控除はありませんが、公的年金等控除が適用になるためそちらを差し引きましょう8)。
公的年金等控除の算出方法は年齢と収入金額によって異なります。年齢は退職する年の1月1日時点の年齢現況で判断し、65歳が境目です。公的年金等にかかる雑所得の金額の計算方法は、以下のとおりです。
公的年金等にかかる雑所得金額 = 公的年金等の収入の合計額−公的年金等控除額
〈表〉65歳未満の公的年金等にかかる雑所得の金額
公的年金等の収入金額 | 公的年金等にかかる雑所得の金額 |
---|---|
60万円以下 | 0円 |
60万円超130万円未満 | 収入金額−60万円 |
130万円以上410万円未満 | 収入金額×0.75−27万5,000円 |
410万円以上770万円未満 | 収入金額×0.85−8万5,000円 |
770万円以上1,000万円未満 | 収入金額×0.95−145万5,000円 |
1,000万円以上 | 収入金額−195万5,000円 |
〈表〉65歳以上の公的年金等にかかる雑所得の金額
公的年金等の収入金額 | 公的年金等にかかる雑所得の金額 |
---|---|
110万円以下 | 0円 |
110万円超330万円未満 | 収入金額−110万円 |
330万円以上410万円未満 | 収入金額×0.75−27万5,000円 |
410万円以上770万円未満 | 収入金額×0.85−68万5,000円 |
770万円以上1,000万円未満 | 収入金額×0.95−145万5,000円 |
1,000万円以上 | 収入金額−195万5,000円 |
参考資料
STEP3.ほかの所得や所得控除と合わせて税金を計算する
一時金で受け取った場合とは異なり、年金で受け取る場合は総合課税です。そのため、ほかの所得と合算して計算します。不動産所得や事業所得・給与所得・公的年金等以外の雑所得などすべての収入が対象です。
すべての所得から基礎控除や社会保険料控除の所得控除を差し引き、課税所得を求めます。課税所得金額に応じて、所得税や復興特別所得税・住民税が計算されます。一時金とは違い、確定申告を行う必要があるので注意しましょう。
退職金にかかる税金をシミュレーション
では、実際のところ退職金にどのくらいの税金がかかるのかを知りたい人も多いでしょう。そこで、以下のモデルケースをもとに、退職金にかかる税金をシミュレーションしてみました。
勤続年数:30年
退職金の受け取り方法:一時金
退職金の金額:2,200万円
前述したように、勤続年数から退職所得控除額を求めたあと、課税退職所得金額を計算します。課税退職所得金額が算出できたら、所得税・復興特別所得税・住民税を計算しましょう。
STEP | 計算式 | 試算額 |
---|---|---|
①退職所得控除額 | 800万円+70万円×(30年−20年) | 1,500万円 |
②課税退職所得金額 | (2,200万円−1,500万円)× 1/2 | 350万円 |
③所得税額 | 350万円×20%−42万7,500円 | 27万2,500円 |
④復興特別所得税額 | 27万2,500円×2.1% | 5,700円(100円未満切り捨て) |
⑤住民税額 | 350万円×10% | 35万円 |
勤続年数30年で退職金2,200万円を一時金として受け取った場合の税額は、合計62万8,200円(③+④+⑤)となりました。計算してみると退職所得控除額が大きく、税負担が軽減されていることがわかります。
なお、以下の記事では退職金の相場をご紹介しています。併せて確認してみてください。
退職金にかかる税金は確定申告で還付される場合も
一時金で退職金を受け取る際に「退職所得の受給に関する申告書」を提出し、源泉徴収されていれば確定申告は必要ありません。しかし、提出していない場合、一律20.42%の所得税及び復興特別所得税が引かれています。確定申告をして還付金を受け取りましょう。
また、年間の所得額が少なく、それに対して所得控除や税額控除が多い場合は確定申告で税金が還付される可能性があります。主な所得控除は、人的控除や社会保険料控除・医療費控除・生命保険料控除・地震保険料控除などです。退職金は確定申告不要と決めつけずに、一度計算してみましょう。
なお、確定申告をして税金が還付されるケースについて、以下の記事で詳しくご紹介しています。併せて参考にしてみてください。
退職金の受け取り方法は税制を考慮して決めよう
退職金は、給与やボーナスと同様に所得税や住民税などが課税されます。前述した退職金の意味合いから一時金には税制上の優遇がされており、課税額が軽減されるメリットがあります。
一方、年金として受け取る場合は雑所得扱いで退職所得控除が適応されないため、支払う税金は高くなる可能性があります。
どちらで受け取るほうがいいかは人によって異なります。退職金を受け取る際には、税制も考慮して自分にメリットがあるほうを選択しましょう。