そこでこの記事では、そもそも修繕積立金とはどういったお金なのか、管理費とはどう違うのか、なぜ「積み立て」をするのかなどの初歩的なことから、相場や将来の値上げまでわかりやすく解説していきます。あわせてマンション購入時に確認するべき注意点などについても紹介します。
この記事の監修者
池上 裕治(いけがみ ゆうじ)
株式会社リビングライフ執行役員 宅建士・2級ファイナンシャルプランニング技能士
1995年よりエンドユーザー向け売買仲介に従事。インターネットで多くの情報が手に入る時代に、情報を精査するのが困難に思われている顧客に向けて生身の情報を共有し、FPの視点と宅建士の視点両方から住宅購入をサポートしている。
マンションの修繕積立金とは?
分譲マンションの「修繕積立金」とは、文字どおりマンションを可能な限り建設当初の水準に戻す(修繕する)ための費用に充てられる積立金のことです。
マンションは定期的に修繕が必要
総務省統計局の「平成30年住宅・土地統計調査」2)によれば、全国のマンション(共同住宅)の戸数は2,334万戸。これは居住世帯全体の43.5%にあたり、その数は年々増加しています。そのマンションは経年とともに様々な箇所が傷んできます。それらを定期的に修繕していくことで、長期にわたってマンションを良好な生活環境の場所として維持していけるわけです。
国土交通省が示す長期修繕計画作成ガイドライン3)によると、主な修繕工事項目は、屋根・床防水、外壁・鉄部塗装、給水・排水設備など19項目挙げられています。こうした項目を計画的に修繕工事するためには、その費用として居住者は修繕積立金を支払う必要があるというわけです。
同調査によると、1回目の大規模修繕実施は築15~20年、2回目は築25~30年、3回目は築40年以上が目安と言われています。ただし、マンションで使用される材料や設備、階数や規模等によって必要な修繕内容は違ってきますし、修繕工事の新しい工法や技術開発の進展によっても、必要な金額や修繕頻度は違ってきます。そのため、購入を検討する際に長期修繕計画の有無や内容を確認することはもちろんですが、居住後も計画の見直しに備えて十分な資金準備をしていくことも大切となります。
修繕積立金の役割
大規模な修繕工事となると一度に数百万円単位、場合によっては数千万単位のお金が必要となります。このような多額な費用を、修繕工事をするタイミングでいきなり徴収することは居住者の負担が大きすぎ、実施困難です。そのため、マンションの所有者(分譲会社)はあらかじめ長期的な修繕計画を立て、それに基づいて居住者から毎月修繕積立金として費用を集め、積み立てているというわけです。
長期的な修繕計画を立てることは義務づけられているわけではありませんが、国土交通省から長期修繕計画作成ガイドラインが示されていることもあり、実際平成30年度では90.9%のマンション管理組合が長期修繕計画を作成しています。
〈図〉長期修繕計画を作成している管理組合の割合4)
修繕積立金は、マンションの売却時もしくはマンション自体の建て替え時まで続きます。なお、賃貸における敷金とは異なり、マンションの売却時に返金されない点は注意が必要です。
管理費と修繕積立金の違い
修繕積立金と並んで住宅ローン返済以外に毎月かかる費用として「管理費」があります。管理費はマンションの共用部分の維持・管理のための費用のこと。具体的には、管理人の人件費や照明などの消耗品費、防犯カメラの維持費などが相当します。数年に一度の大規模修繕に備えるお金である修繕積立金とは異なるコストとなります。
修繕積立金の相場は? 国土交通省の調査をもとに解説
修繕積立金の相場は約1.1万円。年々値上がりしている
国土交通省の「平成30年度マンション総合調査1)」によると、2018年の修繕積立金の平均月額は1万1,243円(=約1.1万円)です。この調査は5年周期で実施されていますが、修繕積立金の金額は調査の度に値上がりしており、平成11年(1999年)が月額7,378円なのに対し、平成30年(2018年)は1万1,243円と、20年で50%強、値上がりしています。なお、「機械式駐車場」を併設している場合はその修繕積立金や使用料などが加算されます。さらに、マンションの総戸数や共有部分の広さなど、修繕積立金を左右する要素はいろいろありますので、この平均値から大きく離れた積立金額になるケースもあります。
〈図〉月/戸当たり修繕積立金の額4)
均等積立方式と段階増額積立方式の違い
ところで、修繕積立金は契約時に決められた金額でずっと同じとは限りません。ここでまず気を付けなければいけないのは、修繕積立金の積立方法には、計画期間中均等に積み立てる「均等積立方式」と、当初の積立額を抑え段階的に積立額を値上げする「段階増額積立方式」の二つがある点です。
<図>積立方式それぞれのメリット・デメリット
積立方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
段階増額積立方式 | 購入当初の負担が抑えられる | 年数の経過とともに増額する |
均等積立方式 | 購入当初の負担は多少あるものの基本的には一定額のため長期的な見通しが立てやすい | 必要な修繕に伴って、修繕積立金が増額になる可能性もある |
ちなみに、国土交通省の「平成30年度マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状4)」によれば、現在の修繕積立金の積立方式は、均等積立方式が41.4%、段階増額積立方式が43.4%となっています。完成年次別内訳を見ると、完成年次の新しいマンションほど段階増額積立方式となっている割合が多いことから、近年、段階増額積立方式が増えてきていることがわかります。
〈図〉現在の修繕積立金の積立方式
同資料によれば、平成30年度における、完成年次別に見た平成22年以降のマンションでの1カ月の修繕積立金の平均月額は8,351円。全体の平均額1万1,243円と比べて大きく下回っています。これは、段階増額積立方式の割合が増え、それに伴って当初の抑えられた額で積み立てている場合が多いからだと考えられます。その理由としては、そもそもマンション販売価格がここのところ高騰しており、購入者の毎月の住宅ローン返済額が上がる傾向にあることが挙げられます。
購入時には返済額以外の管理費や修繕積立金の負担を少しでも抑えたいという購入者側のニーズが、段階増額積立方式採用のマンションが近年増えている背景にあるというわけです。
段階増額積立方式では将来の値上がり額に注意
段階増額積立方式の場合、契約時に積立金が5年ごとなどに上昇していく計画になっており、重要事項説明書等には、その内容が記載されています。下図の場合、最初の積立額は年間7万2,000円(月額6,000円)ですが、6年目から年間10万8,000円(月額9,000円)、11年目から年間14万4,000円(月額1万2,000円)、16年目から年間18万円(月額1万5,000円)と上げていくことで、工事費をまかなう計画になっています。購入当初、購入者が35歳で子どもが幼稚園とすると、15年後は50歳で子どもは大学生。もっとも教育費負担が大きく、家計も増大している時期です。そんな時に修繕積立金が2倍以上に上がっていることになります。
段階増額積立方式のマンションに入居した場合は、あらかじめ将来の負担に備えておく必要があるでしょう。
〈図〉修繕積立基金を併用した場合の段階増額積立方式の修繕積立金の累計額と修繕工事費の累計額3)
均等積立方式でも、将来修繕費が増加することも
一方、均等積立方式でも、将来修繕費が増加しないというわけではありません。だいたい5年ごとに計画の見直しを行うため、推定の修繕工事費の増加や工賃の上昇など状況が変われば必要となる修繕積立金の額も増加する場合があるので注意が必要です。
1平米あたりの目安金額は250~340円
また修繕積立金は、マンションの規模に左右される面もあります。下表は国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン3)」による規模別の平均修繕積立金の目安です。これで見ると、まず20階以上と20階未満では、20階未満のほうが、修繕積立金が割安なことがわかります。20階以上というといわゆるタワーマンションとなり、上層階の修繕には特別な足場を設置する必要があり、そもそも修繕費が割高になるという面があります。
20階未満のマンションでも、総面積が小さくなると、マンションの総戸数が少ないということになり、1戸あたりの負担が増すことを示しています。これらを総合すると、10階建て程度で総戸数100~150戸前後のマンションの修繕積立金なら、総じて割安という分析ができるかもしれません。
〈表〉修繕積立金の平均額の目安(機械式駐車場を除く)3)
地上階数/建築延床面積 | 月額の専有面積辺りの修繕積立金平均額 | |
---|---|---|
【20階未満】 | 5,000㎡未満 | 335円/㎡・月 |
5,000㎡以上~ 10,000㎡未満 | 252円/㎡・月 | |
10,000㎡以上~ 20,000㎡未満 | 271円/㎡・月 | |
20,000㎡以上 | 255円/㎡・月 | |
【20階以上】 | 338円/㎡・月 |
新築の場合と中古の場合の相場の違い
また、新築マンションと中古マンションで、修繕積立金の金額に差はあるのでしょうか? これはそのマンションが過去にどれだけきちんと管理されてきたかによって、かなり差があります。ただ、年数を重ねるごとに修繕箇所が増え、一時金の徴収や積立金の増額をする可能性はゼロではありません。中古マンションを購入した途端に、修繕積立金が上がってしまった、一時金の徴収を求められたといったことがないよう、事前に仲介の不動産会社にも確認しておくことが大事です。
修繕積立金が値上がりする4つの理由
ここまで、修繕積立金について見てきましたが、入居後にどんな理由で値上がりする可能性があるか見てみましょう。均等積立方式であるからといって必ずしも値上がりしないとは限らないことに注意しましょう。
①段階増額積立方式で積み立てている
先ほども紹介したように、「段階増額積立方式」を採用していれば、修繕積立金は年を追って上がっていくことになります。
②工事費用が高くなり、その分値上がりする
最近は資材の値上がりや建築系の人件費の上昇が顕著です。これは、マンションの修繕費にも当然影響しています。修繕工事を実施するタイミングで工事費用が想定より高くなっていた場合、その分、積立金を積み増すことも考えられます。
③工事内容がアップグレードされている
修繕積立金は前述のとおり長期修繕計画をもとに金額が決められていますが、バリアフリー工事をはじめとしたアップグレード工事は計画に含まれていない場合があります。住民の希望などで計画にない工事を行うこととなった場合、新たに予算を集める必要があります。その際、修繕積立金の値上げや一時金の募集などの方法をとることがあります。
④災害や事故で損害を被った際に、保険でカバーできない部分を修繕積立金でまかなう
近年、気候変動などの影響で台風やゲリラ豪雨などの水害が目につきます。地震に加え、水害の被害を受けるマンションも増加しています。マンションは損害保険に加入しており、保険でカバーできる部分も多いのですが、それでは補いきれない場合、修繕積立金から費用を捻出することもありえます。
これ以外にも、思わぬ理由から、修繕積立金がアップすることがありうることは、いつも念頭に置いておきましょう。
修繕積立金を抑えるには?
修繕積立金を安くする方法はあるのでしょうか? 実際、買い主個人が修繕積立金をコントロールできるわけではありません。ただ、先ほども紹介したように、中層マンションで100~150戸といった適度な規模のマンションを選ぶことで積立金が比較的割安になるといった工夫の仕方があります。
また、修繕工事の費用を安く抑えたり、管理費を安くすることで結果的に月々の負担を減らすことはできます。工事費や管理費は、一般的には、居住者がつくる管理組合によって発注先を決めるので業者を変えたり、相見積もりを取って安くしたりすることができます。それらについて詳しくみていきましょう。
管理費を抑える
修繕積立金を安くするには、より費用を抑えやすい管理費を見直し、修繕積立金に充てられる費用を捻出するというのも一つの手です。分譲当初の管理会社をそのまま継続して、ただただ管理を任せるのではなく、多少面倒でも複数の会社で見積もりを比較して、よりリーズナブルな管理会社を選ぶことで、管理費を抑え、その分を修繕積立金に回すのです。
修繕費を交渉で安くする
大規模修繕をする際の工事業者の選定も管理会社任せにしないということも大事です。必ず、数社の見積もりを比較して、質と料金のバランスのよいところを選ぶという意識をマンションの居住者みんなが持つことでも、工事費が安く済み、修繕積立金が結果的に上がらずに済むことにつながります。
修繕積立金は建物の資産価値につながる
修繕積立金の積み立て状況は、住み替えをするうえで重要な指標になります。たとえば、新築マンションを購入する際に、将来売却することも視野に入れている方も少なからずいると思います。そうしたケースでは、目先の修繕積立金の安さに惹かれがちですが、逆に、10年後、20年後に売却する際には、マンションに修繕積立金が十分に貯まっているかという点が資産価値にも影響することに留意しましょう。
例えば、その他の条件が同じであれば修繕積立金が十分に貯まっている中古マンションとそうでない中古マンションでは販売価格に差がつきます。購入者にとっては入居後の修繕積立金額が比較的少なくなるというだけでなく、それだけしっかり資金計画がなされているマンションということで安心感につながるためです。
〈図〉修繕積立金の積立状況4)
上図で見ても、中古マンションのうち、約3割は修繕積立金に余裕があると答えている一方で約3割が「不足」と回答しています。中古マンションの購入基準に修繕積立金がきちんとプールされているかを入れることは大事なことといえます。
また、修繕計画のよしあしをどのように判断すればよいかわからないという場合は、不動産の仲介会社やそれをサービスにしている第三者の会社に相談するとよいでしょう。
戸建ての場合は修繕積立金はいらない?
マンションと違って戸建ての場合、毎月の修繕積立金の支払いは必要ありません。とはいえ当然ながら一戸建てであっても、マンションと同じく家を維持・修繕するための費用はかかります。ただ、マンションのように多くの世帯が共同で暮らしているわけではないので、住宅を保有する本人が判断することになりますが、いざという時に慌てることのないよう、計画的に修繕費を積み立てておくとよいでしょう。
マンションを購入する時は、修繕積立金の変動要因に十分注意して将来設計をしましょう
以上のように、マンションを購入する際には、修繕積立金の変動要因を十分認識する必要があることがわかりました。目先の安さにとらわれず、きちんと修繕計画が立てられているかどうかを重視し、将来のコストとして計算しておくことで、より計画的なマネープランを実践できます。