この記事では、1級FP技能士の高田 晶子(たかだ あきこ)さん監修のもと、繰り上げ返済を検討しているなら知っておきたいローンの基本知識や繰り上げ返済の仕組みについて、詳しく解説します。
この記事の監修者
高田 晶子(たかだ あきこ)
1級ファイナンシャルプラニング技能士、宅地建物取引士。信託銀行退職後、イベント会社、不動産コンサルティング会社を経て、1996年、ファイナンシャルプランナーとして独立。2010年まで女性3人で活動、年間300件の相談業務を行う。2010年より金融デザイン株式会社(旧株式会社マネーライフナビ)の取締役。金融関係のコンテンツ作りを中心に活動している。長年、個人のお客様の声を直接聞いてきたからこそ作れるコンテンツを主に、失敗しないためのお金の知恵を学ぶ「お金の知恵アカデミー」を展開中。
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繰り上げ返済の前に…押さえておきたいローンの基礎知識
まずは、知っているようで知らないローンの基本的な仕組みを確認していきましょう。
ローンとは「お金を借りて少しずつ返済する契約」
ローンは日本語で「貸すこと」「融資」「借金」などと訳されます。一般的には、銀行などの金融機関がお金を貸し、借りた人は少しずつ返済する契約のことを指します。簡単に言えば、金融機関からの借金です。
世の中には様々なローンがありますが、多くの場合、お金を借りる時に都度審査が入ります。借りたい金額を申請すると、職業や年齢など金融機関ごとの基準をもとに審査されます。審査が通ったとしても、場合によっては不動産や土地などの物的担保や、保証人などの人的担保を用意する必要があります。
ローンと混同しやすい仕組みに、クレジットカードなどの「クレジット(販売信用)」がありますが、この2つの大きな違いは「どのタイミングで審査が入るか」というところです。
クレジットカードの場合、利用してから引き落しまでの間はお金を借りている状態と変わりません。しかし、入会時にその人の信用力を審査するのみで、利用するたびに審査されることはありません。
ローンは「目的型ローン」と「多目的ローン」の2種類
ローンには様々な種類がありますが、大きく分けると、お金の使いみちに制限がある「目的型ローン」と、お金の使いみちが自由な「多目的ローン」の2つになります。
目的型ローンは、具体的には住宅ローン、自動車ローン、教育ローンなどです。借り入れの際には物品の購入や学校等への入学を証明できる書類が必要になるため、使い道の確認を踏まえた審査が行われます(一部、証明書類が必要のない場合もあります)。
多目的ローンは、具体的にはカードローン、フリーローンなどです。簡単な審査で、様々な用途に使えるお金を融資してもらえます。
一般的には、目的型ローンの方が大きな金額を借りることが可能です。
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理解しておきたい「金利」の意味とローンの金利システム
ローンでは「金利」という言葉がよく使われますが、これはお金を借りる側が、貸し主に対して、借りたお金に追加して支払うお金(利息)の割合を指す言葉です。この金利が、世の中の経済状況によって変わるものを「変動金利」、返済完了まで変わらないものを「固定金利」といいます。
利息の金額は、その時点で残っている元金の金額により決まります。そのため、例えば、毎月の返済額が同じになる返済方法(元利均等返済)では、返済初期の内訳は利息の割合が多く設定されることになります。
ローンの返済は毎月の返済に加えて、臨時で返済することも可能です。これを繰り上げ返済といいます。
繰り上げ返済をすると、全額が元金の支払いに充てられるため、元金の残高が減少します。利息は月々の元金に対し上乗せされるので、元金が減れば利息も減るということになります。
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ローンの繰り上げ返済は、大きく分けて3種類
前述したように、ローンには様々な種類がありますが、繰り上げ返済は基本的にどのローンでも利用できます。注意したいのが、一口に「繰り上げ返済」と言ってもその種類が大きく分けて3つあることです。
ローンの種類や借入先の金融機関によって使える繰り上げ返済が異なるので、それぞれのメリット・デメリットを理解した上で繰り上げ返済を検討する必要があります。
ここからは、3つの繰り上げ返済のメリット・デメリットを比較しながら詳しくみていきましょう。
①「全額繰り上げ返済」のメリット・デメリット
全額繰り上げ返済は、残りの返済分(元金の残高)を全てまとめて返済する方法です。本来かかるはずの利息分の支払額を大幅に減らすことができるのがメリットです。
デメリットは、返済額が大きいとその分貯蓄が減るので、緊急時には家計が逼迫する恐れがある、という点です。事故や病気などの急な出費に対応できないほど家計が厳しくなる場合、避けた方が良いでしょう。なお、金銭的に余裕がある場合には、デメリットは特にありません。
②「一部繰り上げ返済(返済期間短縮型)」のメリット・デメリット
返済期間短縮型の繰り上げ返済は、残りの返済分(元金の残高)の一部を繰り上げて支払い、その分支払い期間を短くする方法です。ローンの返済を早く終わらせたい、という方に向いています。
メリットは、返済期間を短縮できるので、短縮した期間の元金にかかる利息を軽減できる点です。後述する返済額軽減型に比べると、利息の支払い軽減効果が大きくなります。
〈図〉返済期間短縮型のイメージ
デメリットとしては、金融機関によっては繰り上げ返済に手数料が発生する場合があることでしょう。また、繰り上げ返済したあとの月々の支払額は変わらないため、「今後の月々の支払いを軽くしたい」と考える場合には不向きです。
なお、住宅ローンの場合、ローンの残年数を10年以内まで短縮すると住宅ローン控除を受けられない可能性があるので注意が必要です。
③「一部繰り上げ返済(返済額軽減型)」のメリット・デメリット
返済額軽減型の繰り上げ返済では、繰り上げ返済を行った後の毎月の返済額を減らすことができます。
メリットは、返済期間は短くならないものの、月々の返済費を減らすことができることです。直近の固定費を削減したい人に適した返済方法と言えます。
〈図〉返済額軽減型のイメージ
返済期間短縮型に比べると、軽減される利息の金額が少ないことがデメリットと言えるでしょう。また、こちらの方法でも金融機関によっては繰り上げ返済に手数料が発生する場合があります。
繰り上げ返済の種類別 メリット・デメリット比較
ここまで紹介してきた繰り上げ返済の種類別のメリット・デメリットを比較してみましょう。
〈表〉ローンの繰り上げ返済の種類
種類 | メリット | デメリット |
---|---|---|
全額繰り上げ返済 | ・利息額が大幅に減る | ・返済額が大きいと家計に影響が出る場合がある |
一部繰り上げ返済 (返済期間短縮型) | ・返済期間が短くなる ・利息の支払い軽減効果が返済額軽減型よりも大きい | ・月々の返済額は変わらない ・金融機関によっては繰り上げ返済に手数料が発生する場合がある |
一部繰り上げ返済 (返済額軽減型) | ・月々の返済額が減る | ・返済期間は短くならない ・利息の支払い軽減効果が返済期間短縮型よりも小さい ・金融機関によっては繰り上げ返済に手数料が発生する場合がある |
繰り上げ返済をするなら、早い方がおトク
「ローンは繰り上げ返済をした方が良い」とよく言われるのは、繰り上げ返済をすると利息額が減る、つまり返済総額が減るからというのが大きな理由です。
さらに、支払額に占める利息の割合は支払い初期の方が大きいため、返済初期に繰り上げ返済を行なった方がメリットは大きくなります。
〈図〉返済初期・後期で繰り上げ返済を行う場合の比較
繰り上げ返済を行うなら早い方が良い、ということは覚えておくと良いでしょう。
ローンの種類別・繰り上げ返済の特徴
様々な種類のローンがあると前述しましたが、ローンごとに利用できる繰り上げ返済の種類や考え方は異なります。ローンごとの繰り上げ返済の特徴を見ていきましょう。
【住宅ローン】
ローンのなかでも借入額が高額になることの多い住宅ローンでは、一部繰り上げ返済を利用することが多いでしょう。融資額が高額な分、利息として支払う金額も大きいため、繰り上げ返済の効果は大きいと言えます。
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【自動車ローン】
自動車ローンは、銀行等で借りられるものやディーラーで借りられるものがあります。ディーラーのローンで自動車を購入する場合、ローンを全額返済するまでは車の持ち主がディーラーであるという状態になります。そういった場合、繰り上げ返済で早期に返済することで、自動車の所有者を自分にすることが可能です。また、ローンの返済が残っている状態で自動車を手放す場合は、自動車を売却したお金でローンの返済を行うこともできます。
繰り上げ返済では、全額繰り上げ返済・一部繰り上げ返済を選べる場合が多いです。
【教育ローン】
大学在学中などの期間は返済を猶予される場合が多いです。借り入れ先によって利用可能な繰り上げ返済の方法が異なるため、事前に確認しておく必要があります。
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【カードローン】
カードローンは、必要なタイミングで少額ずつ借りることも多いです。繰り上げ返済では、毎月の返済タイミングとは別に、お金が用意できたタイミングで1万円単位の一部繰り上げ返済が利用できる場合がほとんどです。
【フリーローン】
まとまった金額を借りることが多いフリーローンでは、毎月決まったタイミングで返済を行います。繰り上げ返済では、全額繰り上げ返済・一部繰り上げ返済を選んで利用できる場合が多いでしょう。
【住宅ローンの繰り上げ返済シミュレーション】返済額はこう変わる
では、実際に繰り上げ返済を行うと、その後の返済にどれくらい違いが出るのでしょうか。ローンを組むことが最も多い、住宅ローンについて、一部繰り上げ返済の「返済期間短縮型」と「返済額軽減型」でのシミュレーションを見てみましょう。
【条件】 5年前に住宅ローンを組んだAさん。 余剰資金が200万円できたため、繰り上げ返済しようとしている | |||
ローン期間 | 35年(残り30年) | ||
---|---|---|---|
借り入れ金額 | 3,000万円 | ||
金利 | 2% | ||
毎月の返済額 | 99,378円 | ||
総返済額 | 41,738,760円 |
返済期間短縮型の場合
次回以降の返済額 | 99,378円(変化なし) |
---|---|
残りの返済期間 | 27年1カ月(マイナス2年11カ月) |
総返済額 | 40,206,061円(減少する利息額1,532,699円) |
返済額軽減型の場合
次回以降の返済額 | 91,971円(マイナス7,407円) |
---|---|
残りの返済期間 | 30年(変化なし) |
総返済額 | 41,079,430円(減少する利息額659,330円) |
まず注目したいのは、減少する利息額です。同じ金額を繰り上げ返済しても、返済期間短縮型と返済額軽減型では約87万円もの差が生まれます。今後も月々の返済額に不安が無い場合は、利息が大幅に減る返済期間短縮型を選ぶと良いということが分かります。
次回以降の返済額を見てみると、返済額軽減型では、次回以降の返済額が約7,500円減ることになっています。子育て世帯など「今」の生活にお金がかかる場合は、返済額軽減型を選んで生活にゆとりを持つようにするのも一つの考え方といえます。
ローンの繰り上げ返済の注意点。余裕のある範囲で行った方がいい
返済総額が減るということからも、「ローンの繰り上げ返済はした方が良い」と言えます。ただし、繰り上げ返済をするのはお金に余裕がある場合に限ります。
そもそもローンとは、本来は手にできないお金を手にし、「やりたいことを実現させる」「ほしいものを手に入れる」などの願望を叶える手段です。特に住宅購入のように大きな金額が必要な場合は、ほとんどの人はローンを組まなければ家を手にすることはできません。
しかし同時に、利息が発生したり、返済が遅れると個人の信用が損なわれたりと、マイナス面やリスクを伴う手段でもあります。
だからこそ、お金に余裕ができたら他のことに回さずに繰り上げ返済に充て、ローン期間を縮めたり、月々の返済額を少なくしたりすることが大切です。投資などで資産を増やすことも大切ですが、まずはローンの利息を減らすことを考えましょう。ローンの利息を減らすことは、安全に手元に残るお金を増やすことであるとも言えます。
ただし、繰り上げ返済ばかり頑張って、生活に余裕がなくなってしまっては本末転倒です。まとまったお金が手に入ったら、どのくらいの金額を繰り上げ返済に充てるのか、どの繰り上げ返済の方法を利用するのか、十分に検討してください。
この記事の著者
末吉 陽子(すえよし ようこ)
1985年生まれ。広告制作会社で営業・制作ディレクターを経験後、編集者・ライターとして独立。インタビューをメインにビジネスからカルチャーまで幅広いジャンルの記事を担当。現在、iDeCoとつみたてNISAをコツコツ運用中。