この記事では弁護士・鈴木淳也さん監修のもと、税金の滞納と差し押さえの関係について解説します。
※この記事は、2023年10月26日に更新しています。
この記事の監修者
鈴木 淳也 (すずき じゅんや)
大手法律事務所で活躍したのち、2018年4月に鈴木淳也総合法律事務所を設立。借金の債務整理から企業法務など幅広く対応。気象予報士や防災士の資格も保有するマルチ弁護士。
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税金の差し押さえとは? 滞納すると調査が行われる
会社員などの給与所得者の場合は、所得税や住民税が給与から天引きされるので、税金の滞納が問題になる可能性は少ないでしょう。しかし、自営業者をはじめ、会社員でも副業で一定以上の所得や不動産収入などがある場合は、確定申告をして自分で税金を納めます。
税金を滞納したまま放置しておくと、「滞納処分」が下されます。法律上は、納付書や納税通知書に書かれている納付期限(納期限)を1日でも過ぎた場合に滞納となりますが、通常はすぐに税務署から取り立てに来ることはありません。以下にて、差し押さえまでの流れを解説します。
(1)税金の滞納が発生
税金は1日でも納期限を過ぎれば「滞納」となります。住民税や自動車税、自営業者なら法人税や消費税など、税金ごとに納期限が定められており、それぞれ期日は異なります。滞納しないために、まずは支払い義務のある税金について細かくチェックしておきましょう。
(2)督促状の送付
納期限を過ぎても滞納が続くと、税務署から「督促状」が送られます。
送付される時期は国税と地方税で異なり、国税は滞納から50日以内、地方税は20日以内となっています。さらに督促状の送付から10日経っても滞納が続いていると、差し押さえの権利が発生します。すぐに実行するかは別ですが、法律上は差し押さえが可能となります。
(3)電話や文書による催促
督促状を送ったあと、基本的にはすぐに差し押さえを実行せず、電話や書面などで改めて催促が行われます。この際に、連絡が取れない、一向に納付の意思を見せないといった状況が続けば、差し押さえに向けて動きます。
(4)財産や人物の調査
差し押さえる財産を決めるために、滞納者の身辺調査が行われます。主には、口座の預金残高や月々の給料、不動産や自動車の有無など、財産に関する調査が行われます。また、金融機関にも連絡し、滞納者の契約状況を確認します。
そのほか、勤務先への在籍確認が行われることもあります。勤務が確認でき、滞納者に毎月の給料が発生していれば、その差し押さえも可能になるためです。こういった勤務先への調査権限も行政には与えられています。
(5)差し押さえ
行政からの連絡に応じず滞納を続けると、差し押さえが実行されます。事前調査をもとに、延滞税を含めた滞納額に見合う資産が差し押さえされます。
一般的には、まず金融機関の口座が取引停止となり、預金が差し押さえされるか、勤務先の給料について、毎月一定額を差し押さえされます。この場合、差し押さえ分の給料は本人に渡されず、勤務先から納税機関へ直接振り込まれます。
そのほか、状況により不動産や自動車などの資産が差し押さえられ、公売にかけられます。差し押さえの対象となるものについては後述します。
(6)差し押さえた資産の換金
不動産や自動車などお金以外の資産が差し押さえられた場合、国税局や地方公共団体により公売が行われ、現金に換金(換価)されます。口座や給料の場合には、必要金額のみが差し押さえられます。
(7)滞納した税金への充当
差し押さえで確保された現金は、滞納していた税金の支払いに充てられます。不動産や自動車が差し押さえられ、換金された場合には、滞納分を支払ったあとにお金が余るケースがあります。そのお金は滞納者に返還されます。
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滞納後の納付には「延滞税」が課される
税金を滞納すると、納期限の翌日から1日ごとに延滞税が課せられます。滞納者は、税金と延滞税を合わせて納付する必要があります。延滞税は、税金を完納(全額納める)する日まで加算されます。
では、実際にどのくらいの延滞税がかかるのでしょうか。延滞税は納付が遅れたことに対するペナルティの意味合いと、納期限から納付時点までの利息の意味合いがあります。
具体的な延滞税の税率は以下のとおりです1)。
延滞税の税率 | |
---|---|
納期限から2カ月まで | 7.3% |
納期限から2カ月を超えたあと | 14.6% |
参考資料
差し押さえの対象になるもの・ならないもの
差し押さえの対象になる資産にはどんなものがあるのでしょうか。また、差し押さえから免除されるものもあります。差し押さえの対象になるもの、ならないものについて、以下にまとめました。
差し押さえの対象になるもの
〈図〉差し押さえの対象になるものの例
現金、口座の預金、給与から、株式や投資信託、国債などの金融商品、さらには不動産や自動車、貴金属、骨董品に至るまで、もの自体に価値があり、お金に換金できるものが対象となります2)。
ここで注意したいのが、手持ちの現金・預金だけでなく、勤務先から支払われる給与についても差し押さえられる可能性があるということです。
差し押さえに至るような状況の人が、滞納分を一括で支払えるだけの現預金を持っていることのほうが珍しいので、実際は、差し押えといえば給与が差し押さえられることと考えてもいいでしょう。
給与の差し押さえを受けると、当然、勤務先にも知られてしまい、ます。しかし、給与全額が差し押さえられて無収入になるというわけではありません。給与を差し押さえる場合、手取り額の1/4までと決められています。
たとえば、源泉徴収される税金や社会保険料を除いたあと、手取り額が20万円であったなら、差し押さえできるのはそのうち5万円までです。
5万円で滞納額をすべて支払えない時は、滞納額(+延滞税)がすべて支払えるまで毎月の給与から差し押さえが続くという状況になります。
ちなみに、手取り額の1/4を差し押さえた残額(手取り額の3/4が33万円を超える時は、手取り額の3/4のうち33万円を超えた分についても差し押さえが可能とされています。
参考資料
差し押さえの対象にならないもの(差し押さえできないもの)
〈図〉差し押さえの対象にならないものの例
滞納者やその家族の生活に欠くことができない衣服や家具などをはじめ、家族の生活に必要な3カ月分の食料および燃料も差し押さえはできません。滞納者や家族の教育・学習に必要な書籍や器具も差し押さえ不可となります。
そのほか、仕事や生計を立てるために必要不可欠なものも差し押さえの対象から外れます。
たとえば、農業や漁業を営む人が保有する道具や飼料などが当てはまります。自動車についても、業務に使う場合は差し押さえの対象にならない可能性があります。印鑑も、職業に欠くことができなければ差し押さえできません。また実印は、職業に欠くことができないかどうかは関係なく、差し押さえが禁止されています。
給与が差し押さえされたらどうなる?
給与は差し押さえ可能ですが、限度額が決まっており、「各種控除の金額」「生活維持費」「体面維持費」を合計した金額は差し押さえされません。これらの項目は以下の金額を表しています。
「各種控除の金額」
所得税、住民税、社会保険料の合計。
「生活維持費」
滞納者を含む家族数に対する金額。1人世帯の場合は10万円。生計を共にしている家族がいる場合には、10万円に「4万5,000円×滞納者本人を除く家族の人数」を追加。
「体面維持費」
総支給金額から「各種控除の金額」と「生活維持費」を差し引いた金額の2割。もしくは、「生活維持費」を2倍にした金額のいずれか少ないほう。
したがって、差し押さえされる給与の計算は以下のとおりです3)。
たとえば、夫婦2人暮らしで夫の給料のみで生計を立てており、夫の月給が40万円の場合、各種控除の金額を6万円と仮定すると、各項目は下記のようになります。
総支給金額 | 40万円 |
---|---|
各種控除の金額 | 6万円 |
生活維持費 | 14万5,000円 (10万円+4万5,000円×1人) |
体面維持費 | 3万9,000円 (40万円―6万円―14万5,000円)×0.2 |
したがって、差し押さえされない金額が24万4,000円、差し押さえされる金額が15万6,000円となります。
差し押さえ可能額に沿って、滞納分を支払い切るまで毎月給料を差し押さえるケースもあります。
参考資料
差し押さえされると給与や信用情報にも影響が出る?
給与への影響
身辺調査で勤務先に連絡が行く可能性は高いといえます。また、給与の差し押さえを行う場合、勤務先は滞納者の毎月の給与のうち、決められた金額を行政機関に毎月支払います。
毎月支払う金額は税金の納付先の行政機関により定められます。給与は毎月変動する可能性があるので給与から前述の控除金額を控除した残額という形で指定されるのが一般的です。支払いは滞納分を完済するまで毎月続きます。
信用情報への影響
まず、信用情報とは、私たち1人1人の借金歴やローンの履歴を専門機関が記録しているものです。これらは、ローン契約やクレジットカードの申し込みなどにおいて、金融機関が審査の参考にしています。一般的に、過去に借金の未返済や延滞があったことが信用情報からわかれば、金融機関の審査は厳しくなるとされています。
では税金の滞納が、この信用情報に影響があるのかというと、基本的に税金の滞納は信用情報に記録されません。税金を管轄するのは国や地方自治体であり、信用情報を記録・共有する機関に加盟していないためです。
なお、住宅ローンは住民税の納税証明書が必要であり、住民税を滞納していると加入できません。また、自動車の車検は自動車税の納税証明書が必要です。滞納すると車検が受けられなくなります。
税金滞納による差し押さえを解除するには?
前提として差し押さえは、債権者の権利を保護するための手続きなので、所有者の一存で解除することはできません。解除するためには、債権者を説得する必要があります。具体的な方法を2つご紹介します。
(1)交渉による解除
1つ目は、市区町村の窓口に行き交渉する方法です。交渉を行うには、返済計画をきちんと示すことが大切です。市区町村の窓口によっては、「滞納分の全額ではなく一定額を支払い、残りを分納する」などという約束で、差し押さえを解除してくれる場合もあります。
また今後、収入回復の見込みがあることを示すことができれば、支払いの期日指定をすることで分割払いが認められることもあります。ただし、市区町村の窓口によっては交渉に一切応じないというところもあります。
(2)不動産売買による解除
2つ目の方法は、不動産売買によるものです。不動産の所有者は、差し押さえによって自由に不動産の売却をすることができなくなります。
ただし、不動産売買によって得た売却益を滞納した税金に充てることを事前に市区町村の窓口に報告することで、売却の許可を得ることが可能です。これにより解除について同意を得ることができれば売却は可能になります。
またこの時、不動産の価値が残債より少ない状態であったとしても、「任意売却(所有者の希望条件で一般市場にて不動産を売却すること)」によって売却することも可能になります。滞納した税金を支払うことができない場合は、不動産の売買で解決することもひとつの手です。
差し押さえ解除にかかる日数は完納した日から数日後
差し押さえの解除にかかる日数は完納した日から数日かかります。また、解除にかかる期間は、給与・口座の場合と不動産の場合など、債権者が差し押さえた対象物が何かによっても大きく異なります。
給与の差し押さえの場合は、通知が勤務先に行くため、完納した時点からつぎの給与振り込み日には全額が受け取れることになります。また、口座の差し押さえの場合は、「口座凍結」ではないため、該当の口座への入金や出金は問題なく行えます。
一方、不動産差し押さえの場合は日数がかかります。通常、売却代金から税金の滞納を支払うことで交渉が完了した場合、決済日の当日納付書と差押え解除証書をもって、移転登記の手続きを行います。このように、不動産売買の通常のスケジュールに沿って手続きを進めていくことになるため、売却が決まったからといってすぐに差し押さえが解除できるわけではありません。
税金の滞納による差し押さえで生活できなくなる前に対応しよう
差し押さえが始まってしまうと、家計がよりいっそう苦しくなってしまいます。差し押さえを解除できる可能性はゼロではありませんが、仮にできたとしてもそれなりの期間がかかります。そのため、税金は滞納せずに市区町村の窓口へ相談するなどして、差し押さえを受ける前に早めに対応するようにしましょう。