この記事では、ファイナンシャルプランナー・荒木千秋さん監修のもと、整骨院の治療費が医療費控除の対象になるケースとならないケースについて解説します。さらに、医療費控除で還付される金額の計算方法や申告の流れについても説明します。
整骨院の治療費は医療費控除の対象になる?
整骨院の治療費は医療費控除の対象となりますが、施術する人が国家資格を保有しているかにもよります。
そもそも医療費控除とは?
医療費控除とは、1年間に支払った医療費が10万円(または年間所得の5%と比較して少ないほう)を超えた場合、確定申告をすることで、納めた所得税の一部が「還付金」として戻ってくる「所得控除」の制度です1)。
国税庁によると、医療費控除の対象となるのは以下のような費用です。
〈表〉医療費控除の対象となる費用
- 医師または歯科医師による診察・治療の料金
- 治療・療養に必要な医薬品の購入代金
- 病院や診療所、介護施設や助産所に収容される際の人件費
- あん摩マッサージ指圧師、はり師やきゅう師、柔道整復師による治療のための施術の料金
- 保健師、看護師または准看護師、特に依頼した人(※)による療養の料金
- 助産師による分娩介助の料金
- 介護保険などの制度で提供された施設・居宅サービスの自己負担額
- 診療を受けるために必要な通院費や送迎費、入院時の部屋代や食事代、医療用器具購入費
- 診療や治療を受けるために必要となる義手や義足、松葉杖や補聴器、義歯や眼鏡の購入代金
※:「特に依頼した人」とは、家政婦に付き添いを依頼した場合などが含まれます。
自分自身、または自分と生計が同じである配偶者や親族のために上記の費用を支払った場合は、医療費控除の対象となります。診察・治療費や医薬品購入代金などはもちろん、通院費や医師などの送迎費も対象となります。ただし、病気の治療を直接的な目的としない治療費は、医療費控除の対象とはならない傾向にあります。
参考資料
整骨院の治療費が控除対象となる条件は3点
前述のように、あん摩マッサージ指圧師、はり師やきゅう師、柔道整復師による治療のための施術の料金は、医療費控除の対象となります。ただし、整骨院での治療に関して、医療費控除の面で注意したいことは3点あります。
1つ目は、施術する人が「あん摩マッサージ指圧師」「はり師」「きゅう師」「柔道整復師」の国家資格を保有している必要がある点です。2つ目は、施術の目的が「診察・治療」の料金となることです。3つ目は治療内容によっては医師の同意書や診断書が必要となる点です。医療費控除の対象となる具体的な施術については、後述します。
健康保険の対象外でも医療費控除の対象となる治療も
診療には大きく分けて、「保険診療」と「自由診療」があります。保険診療は公的健康保険が適用されますが、自由診療は保険適用外で患者が費用を全額自己負担するものです。
自由診療は、保険適用外の技術や薬品を使っていたり、施術の目的が治療ではなく美容にあったりするものです。整骨院の治療の場合には、骨盤矯正や慢性的な症状などに対する施術などがそれにあたります。こうした自由診療でも、前述のように、施術の目的が治療で、施術した人が国家資格を有し、医師の診断書や同意書がある場合は、医療費控除の対象となります。
整骨院の領収書やレシートに保険適用外と記載されている場合は?
受けた治療が「自由診療」である場合、レシートや領収書には「保険適用外」と記載されます。しかし前述のように、施術の目的が治療で、施術した人が「柔道整復師」などの国家資格を有し、医師の診断書や同意書がある場合には、レシートや領収書に「保険適用外」と記載されていても、医療費控除の対象となります。
整骨院の回数券を利用した場合は?
整骨院の支払いに回数券を使用した場合でも医療費控除を受けることができます。ただし、回数券自体は医療費控除の対象ではなく、支払いの手段です。医療費控除対象となるのは、あくまでも「回数券で支払った治療費」です。回数券を使用した治療が年をまたぐ場合は、回数券を購入したタイミングで回数券を控除対象として申請するのではなく、回数券で治療費を支払った時点で治療を控除対象として申請するという点に注意しましょう。
整骨院の治療費で医療費控除の対象となるのは?
医療費控除の対象となるのは以下の3点のように、原則、国家資格を持つ柔道整復師などが治療を目的に行った診療や施術の費用です。
直接的に「治療が目的」である場合は器具医薬品も控除の対象になります。以下でそれぞれについて説明します。
①治療のための施術費
保険適用となる以下のような症状の治療は医療費控除の対象となります2)。
- 急性の打撲
- ねんざ
- 肉離れなどの挫傷
- 骨折
- 不完全骨折(ひび)
- 脱臼
- 負傷原因がはっきりしているぎっくり腰
ただし、骨折、不完全骨折、打撲に関しては、応急処置を除き、医師の同意書や診断書が必要です。
②治療の一環で必要な医療用品の購入費
- 湿布(医薬部外品)
- テーピング
- コルセット
- サポーター
上記のような治療に必要な医療用品を整骨院で購入した場合も医療費控除の対象になります。
③通院のための交通費
整骨院で治療を受けるために利用したバスや電車などの公共交通機関の料金は医療費控除の対象となります。通院に利用したとしても、タクシーの料金は対象外になります。また、行き先を示さずに「交通系ICカードのチャージ代」とするのも不可です。
整骨院の治療費で医療費控除の対象とならないのは?
国家資格を持つ柔道整復師などが診療を行ったとしても、以下のように目的が治療以外である場合は、医療費控除の対象にはなりません。
- 肩こり、筋肉疲労、神経性など痛みなどを和らげる施術
- リラクゼーションを目的とした施術
- 美容目的の骨盤矯正
- EMS(神経電気刺激法)を使った筋力トレーニング
- 医師の同意を得ていない骨折、不完全骨折、打撲の治療
- 病気予防や健康維持のためのサプリメント代
- ガソリン代や駐車場代、タクシー代
- 交通系ICカードのチャージ代
肩こりなどの日常生活による疲れやスポーツによる肉体疲労、加齢による痛みなど、症状の根本的な改善が目的ではない場合は、「治療目的」とみなされないため、医療費控除の対象になりません。交通費もマイカーやタクシーを利用した場合や交通系ICカードのチャージ代は医療費控除の対象外となります。
医療費控除で還付される金額の計算方法
医療費控除の還付金額の計算方法は以下の4ステップです。
【STEP1】1年間に支払った医療費を計算する
【STEP2】医療費控除対象額を計算する
【STEP3】所得税率を確認する
【STEP4】医療費控除対象額に所得税率をかける
まず1年間に支払った医療費を計算した上で、医療費控除対象額を計算します。
〈表〉医療費控除対象額の計算式
医療費から差し引かれる保険金や給付金には、民間の医療保険の入院給付金や手術給付金、公的な医療保険の高額療養費制度の払戻金、出産育児一時金などが含まれます。
いずれの場合も医療費控除対象額の上限は200万円ですが、所得税率は課税される所得金額に応じて変わり、総所得金額が200万円未満の人と、それ以上の人では計算方法が異なります。
医療費控除の計算方法について詳しく知りたい人は、以下の記事を併せてご覧ください。
【関連記事】医療費控除でいくら戻る? 計算方法や還付金額のシミュレーションを紹介
医療費控除を申告する流れ
医療費控除の手続きをするためには、確定申告が必要になります。
【STEP1】確定申告に必要な書類を準備する
【STEP2】確定申告書、医療費控除の明細書を作成する
【STEP3】書類ができたら、税務署に提出する
【STEP4】口座への入金を確認する
それぞれのステップについては、以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。
整骨院の医療費控除には領収書やレシートが必要
整骨院の治療費などが医療費控除の対象となる条件は、①施術の目的が治療、②施術した人が国家資格を有する、③医師の診断書や同意書がある、という3つの条件を満たしていることです。また、医療費控除の還付を受けるための確定申告では、領収書やレシートが必要になります。なくさないように注意しましょう。