この記事では、ファイナンシャルプランナー・荒木千秋さん監修のもと、人間ドックの費用が医療費控除の対象になるケースとならないケースについて解説します。さらに、医療費控除で還付される金額の計算方法や申告の流れについても説明します。
人間ドックは医療費控除の対象になる?
医療費控除とは、1年間に支払った医療費が10万円(または年間所得の5%と比較して少ないほう)を超えた場合、確定申告をすることで、納めた所得税の一部が「還付金」として戻ってくる「所得控除」の制度です1)。
国税庁によると、医療費控除の対象となるのは、国家資格を持つ医師やあん摩マッサージ指圧師などが治療を目的とした診察・治療の費用や医薬品購入代金、通院費や医師などの送迎費などです。つまり、病状の改善を目的とした診療や治療でない場合、医療費控除の対象とはならない傾向にあります。
〈表〉医療費控除の対象とならない費用
- 健康診断の費用
- 医師などに対する謝礼金
- 病気の予防や健康増進を目的として使われる医薬品の購入代金(ビタミン剤など)
- リラクゼーション目的の施術料金
- 家族や親類縁者に病人の付き添いを頼んだ際の付添料金
- 自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車場代
- 通院時のタクシー代(公共交通機関が利用できない場合は医療費控除の対象)
人間ドックは健康診断であり、病気の治療を直接的な目的としないため、原則、医療費控除の対象ではありません。ただし、例外的に人間ドックの費用が医療費控除の対象になる場合もあります2)。
参考資料
人間ドックが医療費控除の対象となるケース
人間ドックを含む健康診断は、原則として医療費控除の対象ではありません。ただし、その結果、重大な病気が発見され、引き続きその病気の治療を行った場合には、人間ドックや健康診断は、治療に先立って行われる診察と同様とみなされます2)。よって、その人間ドックや健康診断のための費用も、医療費控除の対象に含まれます。以下で控除対象となるケースについて説明します。
人間ドックが控除対象となる重大な病気とは?
人間ドックの結果、以下のような病気が発見され、引き続いて治療を行う場合、人間ドックの費用は医療費控除の対象となります。
- がん
- 心疾患
- 脳血管疾患
- 高血圧
- 脂質異常症
- 糖尿病
ただし、高血圧や糖尿病などの生活習慣病は、「重大な病気」として認められるかの判断基準が曖昧です。人間ドックでこれらの病気が発覚した場合は、確定申告を行う前に税務署や税理士に対象となるかどうか確認したほうがよいでしょう。
メタボリックシンドロームと診断された場合も控除対象になる?
メタボリックシンドロームの場合、脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化症疾患を引き起こすリスクが高まります。また、高血圧や糖尿病などの生活習慣病との関連が証明されている3)ため、「重大な病気」の一部として医療費控除の対象となりますが、やはり判断基準は曖昧です。人間ドックでメタボリックシンドロームとわかった場合も、税務署や税理士に確認したほうが無難です。
人間ドックで再検査となった場合の費用は控除対象になる?
人間ドックで再検査や精密検査になった場合、その結果、重大な病気の治療をすることになれば、人間ドックと再検査・精密検査の費用は、治療に先立って行われる診察とみなされます。その場合、人間ドック、再検査・精密検査の費用は医療費控除の対象となります。ただし、再検査や精密検査をしても重大な病気が見つからなかった場合、人間ドックと再検査・精密検査の費用は医療費控除の対象にはなりません。
人間ドックのオプション検査の費用は控除対象になる?
人間ドックと同様に、オプション検査も「治療」ではなく、「予防医療」であるため、原則、医療費控除の対象にはなりません。ただし、オプション検査の結果、重大な病気の治療をすることになれば、人間ドックとオプション検査の費用は、治療に先立って行われる診察とみなされるため、医療費控除の対象となります。
個人事業主やフリーランスの場合、人間ドックは医療費控除の対象になる?
働き方にかかわらず、人間ドックは「治療」ではなく、「予防医療」であるため、原則、医療費控除の対象にはなりません。ただし、人間ドックの結果、重大な病気の治療をすることになれば、治療に先立って行われる診察とみなされるため、人間ドックの費用は医療費控除の対象となります。
医療費控除で還付される金額の計算方法
医療費控除の還付金額の計算方法は以下の4ステップです。
【STEP1】1年間に支払った医療費を計算する
【STEP2】医療費控除対象額を計算する
【STEP3】所得税率を確認する
【STEP4】医療費控除対象額に所得税率をかける
まず1年間に支払った医療費を計算した上で、医療費控除対象額を計算します。
〈表〉医療費控除対象額の計算式
医療費から差し引かれる保険金や給付金には、民間の医療保険の入院給付金や手術給付金、公的な医療保険の高額療養費制度の払戻金、出産育児一時金などが含まれます。
いずれの場合も医療費控除対象額の上限は200万円ですが、所得税率は課税される所得金額に応じて変わり、総所得金額が200万円未満の人と、それ以上の人では計算方法が異なります。
医療費控除の計算方法について詳しく知りたい人は、以下の記事を併せてご覧ください。
【関連記事】医療費控除でいくら戻る? 計算方法や還付金額のシミュレーションを紹介
医療費控除を申告する流れ
医療費控除の手続きをするためには、確定申告が必要になります。
【STEP1】確定申告に必要な書類を準備する
【STEP2】確定申告書、医療費控除の明細書を作成する
【STEP3】書類ができたら、税務署に提出する
【STEP4】口座への入金を確認する
それぞれのステップについては、以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。
重大な病気が見つかった場合だけ、人間ドックの費用は控除対象になる
「治療」ではなく、「予防医療」が目的である人間ドックは、原則、医療費控除の対象ではありません。ただし、その結果、がんや心疾患などの重大な病気が見つかり、引き続いて治療することになった場合は、治療前の診察と同様とみなされるため、医療費控除の対象となります。病気の種類によっては、控除対象となるかの判断基準が曖昧であるため、確定申告前に税務署や税理士に確認しましょう。