この時、妊娠や育児の最中ではありますが、失業状態になるため、「妊娠中でも失業手当を受給できるの?」「失業手当の申請方法は?」と、疑問を抱く人もいるでしょう。
そこでこの記事では、ファイナンシャルプランナーの中村賢司さん監修のもと、妊娠中でも失業手当を受給できるのか、各種申請の方法や注意点を解説します。
※この記事は2022年10月7日に公開した内容を最新情報に更新しています。
失業保険を一度もらうと加入期間がリセットされる
そもそも、失業保険は正式には雇用保険といい、雇用保険法にもとづく保険制度です。この雇用保険に加入している人が、失業や自己都合退職などの“特定の条件下”で受給できるお金を、失業手当(正確には基本手当)といいます。失業手当は、現職を離れ、つぎの就職先が見つかるまでの期間の生活を保障することを目的としています。
失業手当を受給するためには、基本的には離職するまでの2年間のうち通算12カ月以上、雇用保険に加入していなければなりません1)。失業手当の給付日数は雇用保険の加入期間に応じて決まります。加入期間が長いほど給付日数が多くなり、受給できる金額も高くなります2)。
ただし、失業手当を一度受給すると、雇用保険の加入期間がリセットされます。つまり、再度退職したあとに、もう一度失業手当を受給するには、改めて12カ月雇用保険に加入しなければなりません。
そのため、加入期間をリセットしたくない場合には受給を控えるほうがいいでしょう。なお、離職後1年以内に転職先の雇用保険に加入できれば、加入期間の引き継ぎが可能です。
自己都合退職の場合、次回もらえるのは何年後? 回数制限はある?
自己都合退職の場合でも、失業手当を一度受給すると雇用保険の加入期間がリセットされることは変わりません。もう一度、失業手当を受給するには改めて12カ月雇用保険に加入する必要があります。
また、失業手当の受給には回数制限はありません。
会社都合退職の場合、失業保険を一度もらうとどうなる?
会社都合退職で失業手当を受給した場合も、雇用保険の加入期間がリセットされます。もう一度、失業手当を受給するには改めて12カ月雇用保険に加入する必要があります。また、会社都合の場合も失業手当の受給に回数制限はありません。
失業保険を一度もらうと年金はどうなる?
失業期間中は厚生年金から国民年金に切り替わります。その期間に支払う保険料がこれまでよりも減る分、働き続けた場合よりも将来受け取れる年金の受給額も減ります。
また、国民年金の保険料は収入額にかかわらず、毎月納める必要があります。ただし、経済的に保険料の支払いが難しい場合には、未納のままにせず、国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度3)を活用することがおすすめです。保険料の免除や納付猶予を承認された期間は、年金の受給資格期間に算入されます。ただし、将来の年金額を計算する時は、免除期間は保険料を納めた時に比べて1/2になってしまうので、就職したら追納したほうがいいでしょう。
国民年金保険料の免除や猶予について知りたい人は、以下の記事で詳しく説明しているので併せてご覧ください。
【関連記事】国民年金の保険料を払えない時の対処法は5つ。詳しくはコチラ
失業保険をもらった場合のデメリット
失業手当を受け取ると、それまでの雇用保険の加入期間がリセットされるのが最大のデメリットです。
前述のように失業手当の給付日数は雇用保険の加入期間に応じて決まります。加入期間が長いほど給付日数が多くなり、受給できる金額も高くなります。そのため、加入期間をリセットしたくない場合には受給を控えるほうがいいでしょう。ただし、離職後1年以内に転職先の雇用保険に加入できれば、加入期間の引き継ぎが可能です。
また、60歳以上で老齢厚生年金を受給している人は注意が必要です。失業手当を受け取ると、年金を減額されたり、支給が一時停止されたりする場合があります。
失業保険で知っておくべき5つのポイント
失業手当を受給する際に、押さえておきたいポイントは以下の5つです。
以下では、各ポイントを詳しく解説します。
①受給の条件は、働く意思や能力があること
失業手当を受給するには、働く意思や能力があることが必要です。以下のように、「働く意思や能力がない」場合は、失業手当を受給できません。
〈表〉「働く意思や能力がない」とみなされる例
- 病気やケガですぐに就職できない人
- 妊娠や出産、育児によりすぐに就職できない人
- 退職後しばらくは休養したい、勉強に専念したい人
- 退職後は専業主婦になりたい人
詳細は後述しますが、働く意思や能力があることは、ハローワークでの求職活動をもって判断されます。なお、失業保険の受給条件についてもっと詳しく知りたい人は、以下の記事をご覧ください。
②受給できる期間は離職の翌日から1年間である
失業手当を受給できる期間は、離職の翌日から1年間です。受給期間が満了すると、給付日数が残っていても、受給できない点に注意しましょう。
〈図〉失業手当を受給できる期間
特に自己都合退職で離職した人は、2カ月の給付制限期間があり、受給できるタイミングが遅くなります。特別な理由がない限りは、速やかに失業手当を申請しましょう。
なお、病気やケガ、出産などですぐに就職ができない人は、受給期間延長申請書を提出すれば最大4年まで受給期間を延長できます。受給期間を延長することで、就業できる状態になったあとに受給を開始しても、失業手当を満額で受給できます。
③受給期間中に再就職すると祝い金を受け取れる場合がある
失業手当の受給期間中に就職できた場合、祝い金が受け取れる可能性があります。この祝い金は、正式には「再就職手当」といい、失業手当の受給期間を1/3以上残して就職できた場合に受給可能です4)。
残りの受給期間が長いほど、再就職手当の受給額が高くなります。受給期間の1/3を残して就職できれば、まだ受け取っていない支給総額の60%が一括で給付されます。なお、2/3を残した場合の受給額は70%です。
せっかくなので、給付日数をすべて消化し、失業手当を満額受け取りたいと思う人もいることでしょう。しかし、早く再就職した場合にもメリットはあるのです。
④自己都合の退職の場合、初回の給付が2カ月半後になる
「仕事が嫌になった」「新しい仕事に挑戦したい」などの理由で退職した場合は、自己都合による退職とみなされます。
この場合、失業手当の初回給付までに、ハローワークに申請してから「待機期間(※)7日+給付制限期間2カ月」が設定されているので注意が必要です5)。実際に失業手当が支給されるのは、振り込みまでの期間なども含めて2カ月半程度かかることになります。
なお、倒産や解雇などの会社都合や、病気などやむを得ない理由で退職した人はこの限りではありません。この場合、給付制限期間はなく、7日間の待機期間が明けたあとに受給を開始できます6)。
また、失業手当の受給には回数制限がありません。ただし、何度も離職している場合は注意しましょう。1回目の離職日から5年間に3回以上自己都合による退職をしている場合、給付制限期間は3カ月になります7)。
※:ハローワークでは「待期期間」といいます。記事内では待機期間と記載します。
⑤受給期間中にアルバイト・パートはできるが制限がある
失業手当を受給中でもアルバイト・パートはできますが、以下の3つの条件を満たさなければなりません。
〈表〉失業手当の受給中にアルバイト・パートが認められる条件
①待機期間を終えている
②失業認定申告書でアルバイト・パートをした旨を必ず申告する
③雇用保険の加入条件を満たさない範囲で働いている(※1)
※:1週間の所定労働時間が20時間未満、同一の事業主に31日以上雇用されることが見込まれない8)
特に3つ目の就業時間をオーバーすると、「就職している」とみなされ、失業手当を受給できません。内職や手伝いでも、労働で賃金が発生すれば申告の対象となります。また、無申告でアルバイト・パートを行うとペナルティーを課せられるため、必ずハローワークへ申告しましょう。
失業保険の申請方法と受給までの流れ
続いて、失業手当の申請方法や受給までの流れを紹介します。まずは手続きに必要なものを確認しましょう。
失業保険の受給手続きに必要な書類を用意する
失業手当の申請を行う際、ハローワークに持っていく必要があるものは以下のとおりです9)。
〈表〉失業手当の受給手続きに必要なものリスト
- 雇用保険被保険者離職票
- 個人番号確認書類(マイナンバーカード、通知カード、住民票のいずれか)
- 身元確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
- 証明写真2枚(縦3.0cm×横2.4cm)
- 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード
申請から受給までの流れ
失業手当は、申請から受け取るまでに早くても1カ月以上かかります。なるべく早めに手続きをするようにしましょう。以下は、手続きの詳しい内容になります。
〈図〉申請から受給までの流れ
①離職票を受け取る
まずは退職した会社から離職票を受け取りましょう。大抵の場合は、事前に離職票が欲しい旨を伝えておけば、退職から2週間程度で郵送されます。しかし、会社によっては発行に時間がかかるので、なるべく早めに手続きをお願いするほうが得策です。
②ハローワークへ行く
離職票を受け取ることができたら、前述の失業手当の受給手続きに必要なものリストで紹介したものを持ってハローワークに行きましょう。雇用保険被保険者証、離職票をもとにハローワークで条件を満たしていることが判断され、受給資格が決定されます。また、この時に初回の説明会の日程と会場も決まります(説明会については④で説明します)。
③待機する(7日 or 7日+2カ月間)
受給資格の決定から初回説明会までの間には、待機期間が7日間10)あります。この期間は、失業状態の確認を行うことが趣旨となります。
つまり待機期間は、アルバイトであっても働くことができません。もしアルバイトをした場合は、その日数分が待機期間として延長されます。また、待機期間中に求職活動をすることは可能ですが、この期間中は求職活動の実績としてカウントされないので注意してください。
なお、会社都合で退職した場合は待機期間7日間、自己都合で退職した場合は、待機期間7日間+給付制限期間2カ月が設定されています。給付制限期間中は、失業手当が受給できないため覚えておきましょう。
ただし、給付制限期間中のアルバイトは可能です8)。雇用保険加入要件を満たす「1週間の所定労働時間が20時間以上」「同一の事業主に31日以上雇用されることが見込まれる」アルバイトの場合は就職と判断され、失業手当が受給できなくなりますので注意しましょう。
④受給説明会に参加する
②で示した初回の説明会に参加します。初回の説明会では、失業手当の受給やハローワークの使い方などについて詳しい説明が行われます。雇用保険受給資格者のしおりなど、最初にハローワークへ行った際に説明された必要な持ちものを持参しましょう。説明会に参加すると、「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」の2種類の書類が配布されます。
⑤求職活動をする
ハローワークの窓口で職業相談や職業紹介を受けるなど、求職活動をスタートさせます。失業手当はつぎの職を探す人に給付されるものであるため、28日間ごとに失業状態であることを認めるための認定日が設定されています。基本的には、この28日間で最低でも2回以上は求職活動をする必要があります11)。なお、求職活動として認められる活動は以下のようなものです。
- 求人への応募
- 職業相談やセミナーへの参加
- 国家試験や資格試験の受験
認定日は、②の受給資格の決定から28日後に初回認定日が設定され、その後28日間ごとにつぎの認定日が設定されます。ただし、自己都合退職で給付制限期間がある場合には、給付制限期間明けの認定日が2回目の認定日となります。
なお、求職活動のスケジュールは、会社都合退職と自己都合退職で異なります。
〈図〉会社都合退職の場合の求職活動スケジュール例
会社都合退職の場合、初回の認定日までの期間に1回以上求職活動をする必要がありますが、初回の受給説明会が求職活動1回としてカウントされるため、加えて求職活動を行う必要はありません。2回目以降から28日間ごとに2回以上求職活動をしましょう。
〈図〉自己都合退職の場合の求職活動スケジュール例
自己都合退職の場合は、2回目の認定日までに合計で3回以上求職活動を行う必要があります。ただし、会社都合退職と同じく初回の受給説明会が求職活動1回としてカウントされるため、実際に必要な求職活動は2回となります。
参考資料
⑥失業の認定を受ける
失業手当の給付を受けるためには、前述のように原則として28日間に1度、失業の認定を受ける必要があります。「失業認定申告書」に求職活動の状況などを記入し、「雇用保険受給資格者証」とともに、指定された認定日にハローワークに行って提出しましょう。
認定日にハローワークに行かないと、対象期間中の失業手当を受給できなくなってしまいます。もし急用などで行けなくなった場合には、あらかじめその旨を担当の窓口に連絡して、指示を仰ぎましょう。
⑦失業手当が口座に振り込まれる
失業が認定されたら、約1週間後に28日分の失業手当が振り込まれます。なお、退職理由によって初回の受給日が異なります。自己都合による退職の場合は7日間の待機期間に加え、2カ月間の給付制限が設けられるので、初回の失業手当は約2カ月半後です。一方で、会社都合による退職の場合は、待機期間が終了した直後から受給を開始できます5)。
失業手当の所定給付日数をすべて消化するまで、求職活動と失業認定、失業手当の受給を繰り返します。
注意点として、以下のような不正受給をすると、ペナルティーが課せられます。
〈表〉不正受給の例
- 求職活動の実績について虚偽の申請をする
- アルバイトなどをしていたことを隠す
- 就職や自営を開始したことを申告しない
給付が停止されるだけでなく、失業手当の返還や不正に受給した金額の2倍の納付が命じられます12)。
失業手当を受給できる期間は、原則離職日の翌日から最長1年間です。失業の認定と受給を繰り返しながら、自身に合ったつぎの職業を見つけましょう。
参考資料
失業保険の金額の計算方法を3ステップで解説
失業手当の金額を知ることができれば、今後の収支計画を立てやすくなります。自分が受給できる失業手当の金額は、以下の3ステップで求められます。
以下では、各ステップを解説します。
①賃金日額を計算する
失業手当の金額を計算するには、まず基準となる賃金日額を計算しましょう。賃金日額は「退職する前の6カ月分の賃金額合計(賞与は除く)÷180日」で計算できます。
離職する半年前の給与が反映されるため、その間に欠勤や早退があった場合、受け取れる金額が少なくなることには注意しましょう。
②基本手当日額を計算する
賃金日額を求めたら、基本手当日額を計算します。基本手当日額は、賃金日額のおおよそ50~80%になります(60~64歳は45~80%)。
基本手当日額を算出する計算式は賃金日額と年齢によって変わります。基本手当日額の目安や計算式は以下の記事で説明しているので、併せてご覧ください。
なお、給付率は賃金日額が低い人のほうが高くなります。これは生活できる水準を考えて設定されているため、低所得の人ほど手厚いサポートが受けられるようにするしくみのためです。
また、基本手当日額は年齢区分ごとの上限額が定められており、現在は以下のとおりです13)。
〈表〉賃金日額と基本手当当日額の上限額(年齢別)
離職時の年齢 | 賃金日額の上限額 | 基本手当日額の上限額 |
---|---|---|
29歳以下 | 1万3,890円 | 6,945円 |
30〜44歳 | 1万5,430円 | 7,715円 |
45〜59歳 | 1万6,980円 | 8,490円 |
60〜64歳 | 1万6,210円 | 7,294円 |
下限額に年齢は関係ありません。現在、賃金日額の下限額は2,746円、基本手当日額の下限額は2,196円です。
なお、賃金日額は厚生労働省が実施する「毎月勤労統計」の平均定期給与額の増減でその額を変更しています。これに伴い、基本手当日額の算定基準が変わり、支給額が途中で変わる場合がある点に注意しましょう。
③給付日数から支給総額を計算する
支給総額は「基本手当日額×所定給付日数」で算出できます。所定給付日数は退職理由によって異なります。以下の表にまとめたので、ご覧ください。
〈表〉自己都合退職の場合の所定給付日数2)
離職時の年齢 | 被保険者期間 | ||
---|---|---|---|
1年以上(※)10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
65歳未満の場合 | 90日 | 120日 | 150日 |
〈表〉会社都合退職の場合の所定給付日数2)
離職時の年齢 | 被保険者期間 | ||||
---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | – |
30歳以上35歳未満 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
35歳以上45歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
45歳以上60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
60歳以上65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
失業保険はよく考えて申請しよう
失業手当は一度受給すると、雇用保険の加入期間がリセットされます。加入している期間が長いほど受給額は高くなる傾向にあるため、加入期間を引き継ぎたい人は申請しないことも1つの手段です。
一方で再就職に時間がかかりそうな時は、早めに失業手当を申請することがおすすめです。申請が遅れると、手当を満額受け取れない可能性があります。失業手当をしっかり活用するために、この記事を参考に、しくみをよく理解しましょう。