長い人生を楽しく過ごすためには、老後資産の確保が大切。高齢化が進む中で、老後の“お金”に不安を抱いている人も多いのではないでしょうか。その解決法としてよく挙げられるのが「資産運用」。株をはじめとした投資を勧められることも多いですが、やったことのない人からすると、やっぱり怖いですよね?

そこでお話を聞いたのが、個別株の投資で資産1億円を超える“億り人”になった、元お笑い芸人・井村俊哉さん。資産運用について、始める前に知っておくべきことはあるのでしょうか。

「損しそう」「難しそう」「めんどくさい」といった、投資を始められない3大理由に対する井村さんの考えを聞きながら、資産運用初心者が大切にすべきルールをまとめました。

お話を聞いた人

井村 俊哉さん(いむら としや)

1984年生まれ。国内最大級の株式投資専門YouTubeチャンネル「【公式】Zeppy投資ちゃんねる」創設者。中小企業診断士。お笑い芸人として活動するかたわら、2011年から株式投資を開始。2017年4月に運用資産1億円、2020年6月に5億円を突破。2017年に芸人を引退し、『投資をもっと普通のことに』をミッションに活動を行う。著書に『年収3万円のお笑い芸人でも1億円つくれた(日経BP社)』がある。

▶︎ウェブサイト
▶︎Twitter
▶︎Youtube

井村さんの投資遍歴「母親に守銭奴と言われて(笑)」

画像: 井村さんの投資遍歴「母親に守銭奴と言われて(笑)」

井村さんは、芸人をやりながら株式投資を行なって“億り人”になったんですよね。なぜ株を始めたんですか?

小さい頃からお金を貯めるのが大好きで、テレビゲームもプレイするより、どのソフトが高く転売できるかを考える方が好き、という性格でした。母親に「あなたは守銭奴だ」と言われたほどで…(笑)。お金を増やすことに興味があったのが大きいです。

守銭奴……。貯金に熱心な人ということですよね(笑)

はい。芸人として活動していた時に結婚したのですが、結婚を早くに決めた理由の一つが「キャッシュフローが良くなる」と思ったから(笑)。

キャッシュフローとは…?

簡単に言えば「現金の流れ」です。結婚すると収入源は2つになりますし、妻の扶養に入れば健康保険料は安くなるし、妻は配偶者控除なども得られる。年間で数十万円は手元に残るキャッシュが増えると算出できたんです。そもそも一生一緒にいたいと思っていましたので、それなら早い方がいいだろうと妻に「扶養に入れてください」とプロポーズしたら、「期間限定なら」とOKしてくれて(笑)

すごい結婚理由……。

そんな人間なので、お金を増やす手段として株に自然と興味を持っていて。大学の時に始めて、その後、卒業して芸人になり、バイトのように副収入を得る感覚で続けていました。当時、芸人としての年収は3万円でしたから(笑)。

3万円!やはり厳しい世界ですね。

でも株の方は順調で、バイトを辞めて株だけで生計を立て始め6年半で運用額は1億円を突破しました。その後、芸人の夢は敗れてしまったのですが、現在は株式投資を広める活動を始めています。

「私たちは、みんな日本円に投資している」

画像: 「私たちは、みんな日本円に投資している」

株式投資で“億り人”になり、今は資産5億円ですか……。そんな井村さんに聞きたいのは、投資運用を始める上での心得です。

これから投資を始める方に向けて、ということですよね。どんなことを知りたいですか?

まず、そもそも投資って踏み出しにくいですよね。お金を貯めておく方が安全だと思ってしまいます。

それは否定しません。でも、みなさんすでに投資しているんですよ。

え、どういうことですか?

「貯金をする」という行為は、日本円を保持すること。つまり、私たちが日々使う「日本円」に投資している、と言い換えることができるんです。

日本円にですか?

はい。たとえば同じ100円でも、その価値は時代で変わっていますよね。昔の100円と今の100円では買えるものがまったく違う。その中で、投資をまったくしていないという方は、日本円に100%投資していることと同じなのです。それを認識すると、感覚も変わってくるでしょう。

「投資では『損をしてはいけない』という気持ちが良くない」

画像: 「投資では『損をしてはいけない』という気持ちが良くない」

日本円に100%……。

はい。貯金は安心と言いますが、「円高」「円安」と言うように、日本円の相対的な価値は日々変動しているわけです。加えて、物価が上がれば実質的な円の価値は下がってしまう。その意識を持つのが、最初の一歩かもしれません。

なるほど……。とはいえ、投資を始めるのも怖いですよね。どうしてもギャンブルのイメージがあって「損しそうで怖い」と思う人も多いと思います。

そうですね、これに関しては「損をする」と思った方がいいですよ。

えっ、損はできるだけしたくないのですが…。

これは心構えの問題で、投資をする上で「損をしてはいけない」と強く思い過ぎない方がいいです。そうじゃないと、利益を得ることは難しい。

どういうことでしょうか?

もちろん投資は、損をする可能性があります。ただ、株式投資については、株価が下がって短期的に損を抱えることになっても、長期的にマーケットに居続ければ得をする可能性が高い構造になっています。ここをきちんと理解するのが大切ですね。

長期で見れば得をする構造……。

はい、私が数ある資産運用から株式投資を選ぶのもそれが理由です。歴史的に株式市場は上がり続けています。それは、経済が発展し続けているからです。経済が発展し、GDPが上がれば株価は上がっていく。それはこれまでの歴史が物語っています。

でも、損してしまう可能性があるんですよね?

経済が発展しても、株価が毎日のように右肩上がりで上がるわけではありません。日々上がったり下がったりしながら、長期で見ると全体で上がっていくのです。なので、一瞬の損は確実に訪れます。ただ、短期の上がり下がりは“ノイズ”のようなもので、惑わされないことが大事。「損をしてはいけない」と考えすぎると、ちょっと下がった瞬間にやめてしまう。短期の揺れで判断してしまう。全体では少しずつ上がっているのに。

ノイズに惑わされると。

今回のコロナショックやかつてのリーマンショックでも、株価は大きく下がりました。でもその後、回復しているんです。大切なのは、長い目で見続けること。なるべく長く株式市場に居座り続けること。そのためには「一時的に損をする」ことは覚悟しておいた方がいいんですよ。

「投資のスタートは、自分が『ドキドキしない環境』で」

画像: 「投資のスタートは、自分が『ドキドキしない環境』で」

でも、これまでは経済が発展してきたとして、今後ずっと続くのでしょうか。発展しなければ株価も上がらないような……。

もちろんその可能性もあります。これに関しては人類の未来を信じられるかどうかかもしれませんね。ただ株式投資の特徴は、投資対象が成長する意志を持っていることです。投資対象とは企業のことで、企業で働く人はみずからの価値を能動的に上げようとしています。だから発展しやすいんです。

そうなんですか。

不動産投資は、ビル自体が自分の価値を上げようと努力したりはしませんよね。為替も債券もそう。でも株式投資は、中にいる人が価値を上げようと生産活動をしています。もちろん、個々に見ると成功する会社と失敗する会社が混在していますが、全体で見ると長期的に価値が上がりやすい構造だと思うんです。

「長期では……」ということは、デイトレードなどの短期間の取引はリスクが高いということですか。

短期でも長期でもリスクはありますが、短期投資は取った取られたの繰り返しで、利益を上げ続けるのは類稀なるセンスがないと難しいと思います。デイトレードは株価の上下で利益を得るもので、投資(長期的な取引)は企業の成長から利益を得るもの。短期間の株価の上下は読みにくいですが、企業の成長は、社会に求められ続ける会社であれば長期的には実現する確率が高い。「株式投資はワインのように熟成され価値が高まっていく」、まずはこれを理解することが、始める際の心得かもしれません。

それが「損しそう」という初心者の不安に対する心得、ルールですね。

はい。損することも覚悟して、末長く続けることです。これを達成するためのコツがあります。株価の上下でドキドキしない「環境作り」ですね。

どういうことでしょうか?

たとえば、100万円の資産の人が全額投じてしまったらものすごくドキドキすると思います。10%下落するだけで10万円もお金が減ってしまいますから。でも、100万円のうち10万円しか投じていなかったらどうでしょうか?その10%の1万円しか動かないのでそんなにドキドキしないでしょう。人それぞれリスク許容度が違いますので、ご自身が失っても怖くない、ドキドキしない金額で投資するのが一番です。

ドキドキしない金額……。

はい。ポイントとしては「投資した資金が半分になる」というくらいのリスクを想定しておくことです。例えば、100万円持っていて10万円なら失ってもいいと思えるなら20万円を目安に投資を行う。半分になることは滅多にありませんが、この心構えでいるとドキドキを抑えられます。一時の資産の上下に心が揺さ振られることなく、長く持ち続けられると思います。

そういうことですか。

ドキドキは「自分の許容範囲を超えている」というサインなんです。投資に慣れれば、次第に許容範囲は広がるので、ドキドキしないラインで金額を増やしていく。それが長期で投資するコツですね。

「リスクを下げたければ、手間暇をかけること」

画像1: 「リスクを下げたければ、手間暇をかけること」

他にも投資を始めるハードルはあると思うのですが、何か心得はありますか。

多くの人が投資を始める上で嫌がるのは、今話した「損しそう」に加えて、「難しそう」「めんどくさい」ではないですか。

まさしくです……。

まず「難しそう」については、これは否定しきれないところもありますが、投資で生きているいわゆる専業投資家の間でも、「俺たちは株を雰囲気でやっている」と冗談まじりに話すケースもあります(笑)。

雰囲気ですか……。でもいろいろな理論があるじゃないですか。

もちろんありますが、一番大事なことは自分にぴったりの投資スタイルを見つけることです。100人100通りの投資スタイルがあって、それぞれ好む理論は違います。基本的なところは押さえてほしいですが、まずは難しく考えずにあれこれ試すのもアリだと思います。株主優待を目的にしてもいいし、自分が気に入ったお店や商品を出す会社の株を買ってもいい。

そんな簡単で大丈夫ですか。それで損したら……。

さっきの話を思い出してください(笑)。大きな金額で、損を恐れながらやってはダメです。今は数百円から株を買えるサービスも出ているので、損をしてもいい小さな金額から始めるのがいいでしょうね。

なるほど。最後の「めんどくさい」についてはどうですか?

これは厳しい言い方ですが、個別株の株式投資を行う場合、「めんどくささを減らすこと」と「リスク・リターンを最大化すること」はトレードオフの関係にあると思うんですね。

トレードオフ……とは?

どちらかを得るには、どちらかを犠牲にするということです。リターンを大きくしたいなら、あるいはリスクを減らしたいなら、面倒でも勉強するしかない。面倒を避けたいなら、リスクを背負う、リターンを大きくできないことも受け入れるしかない。

急に厳しい意見ですが、そんなに甘くはないということですよね。

そういうことですね。僕も中小企業診断士の資格を取得したり、企業の決算書をくまなく読んで勉強しました。逆に言うと、しっかり勉強をすれば、リスクを減らしかつ大きなリターンを得る可能性を高くすることができる。努力してもどうにもならないことが多い中で、これってすごいことだと思いませんか?

なるほど、確かにそうですね。これも知っておくべき心得かもしれません。

それと、繰り返しですが、基本的に株式市場は長期的には儲かるようにできています。適切なリスクと時間を投じれば、それなりのリターンが得られるでしょう。最後に、初心者の資産運用について、株式投資のルールをまとめるなら、この3つが重要ではないでしょうか。

画像2: 「リスクを下げたければ、手間暇をかけること」

3つのルール、投資の1歩目を踏み出す上で大切だと思います。お話、ありがとうございました!

撮影/小島マサヒロ

【この記事の著者】

有井 太郎(ありい たろう)

1984年生まれ、長野県出身のフリーライター。今後の人生におけるお金の問題を考え始め、マネー系の取材に挑戦中。ライターという立場を利用し、取材しながら自分の知識も蓄える、一石二鳥戦法で学んでいます。

This article is a sponsored article by
''.