金融広報中央委員会が実施した「金融リテラシー調査(2019年)」1)。そのなかで、金融知識に関する質問を実施したところ、都道府県によって正答率や回答傾向に差があることがわかりました。この差はどこからきているのでしょうか?

そこで、経営コンサルタントでありながら、県民性博士としてTV番組でも監修を務める、矢野新一さんに「お金と県民性」に関して取材し、その関係を解き明かしていきます。

連載「県民マネー図鑑」第2回目では、投資に積極的な県の県民性を紐解いていきます。

お話を聞いた人

矢野新一さん

株式会社№1戦略研究所 所長。市場調査機関を経て、株式会社ランチェスターシステムズに入社。企業のランチェスター戦略導入に東奔西走。その後、現研究所を設立、現在に至る。著書に『ランチェスター戦略の教科書』『犬猿県』など60冊を超える。
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株式や投資信託の購入経験は平均所得の高さとは比例しない

欧米諸国に比べると投資意欲が低く、株式や投資信託よりも預貯金の資産割合が高い日本2)。しかし、最近では「貯蓄から投資へ」といった政策のもと、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)といった制度が充実してきており、投資も身近になりつつあります。

なかでも投資が活発だったのが、「金融リテラシー調査(2019年)」で「株式を購入したことがある人の割合」「投資信託を購入したことがある人の割合」のいずれともで、1〜3位となった「徳島県」「滋賀県」「奈良県」の3県でした。

株式の購入経験者は全国平均の32.2%に対して、徳島県 40.1%、滋賀県38.5%、奈良県37.7%。投資信託に至っては、全国平均の27.4%に対して徳県県 38.8%、滋賀県34.5%、奈良県32.2%と大きく上回っています。個人的には、平均所得が高い首都圏が高い順位を占めていると思っていたので、正直、この結果は意外に感じました。

しかし、県民性博士の矢野新一さんは、然もありなんと納得の様子。県民性を見ると、納得の理由が見えてくるそうです。

臨時収入は堅実な投資に回そうとする徳島県民

画像: 臨時収入は堅実な投資に回そうとする徳島県民

まずは、トップの徳島県。矢野さん曰く「商人気質で利にさとい県民性」とのこと。

「徳島は江戸時代から藍や木材産業が盛んで、商人が大阪を始めとして各地を行商していました。大阪商人と接することで、実利主義が身についていったのです。現在でも、四国のなかでも最も大阪と結びつきが深い県です。

それ故、徳島県民は四国四県のなかでも非常にお金にシビアです。思わぬ収入があったら、香川県民は貯蓄、愛媛県民は消費するのに対して、徳島県民はそれを元手にして増やそうとするのです。

ただし、増やすといっても、山師的な話ではありません。元来、勤勉で真面目、堅実な県民性。そこに、粘り強さもある。LEDで有名な日亜化学や薬や健康食品の大塚ホールディングスといった大企業が育ったのも頷けます」(矢野さん)

一攫千金を狙うというよりも、堅実な資産形成のために、株式や投資信託を購入している県民が多いのかもしれません。実利主義な県民性なので、お金を増やすなら利率が低い預貯金よりも株式や投資信託という考え方なのではないでしょうか。

チャンスとみれば積極的に行動する滋賀県民。ルーツは近江商人気質にあり

画像: チャンスとみれば積極的に行動する滋賀県民。ルーツは近江商人気質にあり

「滋賀県の県民性も商人気質。徳島県と似ている部分があり、勤勉で正直、粘り強いという県民性で、三方良しで知られる近江商人はつとに有名です」と矢野さん。

伊藤忠や丸紅といった総合商社、デパートの髙島屋、寝具の西川産業、下着メーカーのワコールなど、近江商人をルーツに持つ企業は枚挙に暇がありません。「琵琶湖のアユは外に出て大きくなる」という言葉もあり、外に出て財をなすのが近江商人なのだそう。

矢野さん曰く、「金銭感覚は、計画性があり無駄なお金は使わない、言い方を変えると、締まり屋で倹約家。一方で、チャンスとみると積極的に行動します」とのこと。まさに近江商人の気質を継承した県民性ですが、計画性がありチャンスでは積極的に行動するのは、株式投資に関しても強みになりそうです。

「近江商人の情報網に加え、戦国時代に織田信長が安土城を築くなど、交通・文化・商業の要所として古くから栄えてきたといった要因も重なり、情報感度が高いのも滋賀県民の特徴。もしかすると、こういった部分も、株式や投資信託の購入割合が高いことと関係しているのかもしれません」

大阪のベッドタウン化でのんびり気質が変化しつつある奈良県民

最後に奈良県です。徳島・滋賀は商人気質という共通点がありましたが、奈良は真逆なのだとか。それを端的に表した言葉が「奈良の寝倒れ」です。元来の意味合いは諸説あるのですが、現在では、大阪は食に、京都は着物にお金をかけて身上を潰すのに対して、奈良は寝てばかりで身上を潰すといったもの。それくらい、積極的に働かないという意味もあるそうです。

「大仏見物の観光客が多いので、しゃかりきに働かなくても生活できることを揶揄した<大仏商法>といった言葉もあります。そういったこともあり、寝倒れという表現が使われたのでしょう」

しかし、矢野さんは「それは旧来の奈良県民の特徴」とも付け加えます。

「高度成長期以降、奈良は大阪のベッドタウンとして存在感が増してきました。大阪出身で奈良に家を建てた人、大阪に出勤する人が増えることで、お金にシビアな大阪府民の気質を持った人も多くなっています。もしかすると、株式や投資信託の購入割合が高いことと、関係があるのかもしれません」

株式・投資信託の購入は、関西の文化が大きく関係している?

今回は、株式・投資信託の購入割合TOP3の県民性を取り上げましたが、これをTOP10まで広げると興味深い事実が見えてきます。それは、大阪文化圏が数多くランクインしていることです。

〈図〉株式を購入したことがある人の割合

画像1: 株式・投資信託の購入は、関西の文化が大きく関係している?

〈図〉投資信託を購入したことがある人の割合

画像2: 株式・投資信託の購入は、関西の文化が大きく関係している?

「株式は、『7位 東京都』と『9位 千葉県』を、投資信託も『7位 広島県』と『8位 東京都』を除けば、大阪を中心とした関西の文化に影響を受けている土地ばかり。これは興味深いデータです」と矢野さん。

確かに、株式や投資信託の購入割合が高い県は、地理的に大阪に近い県や上方文化の影響を色濃く受けた県、大阪との商取引が多かった土地が多数見られます。

そもそも、江戸時代に存在した大坂の堂島米市場は、米を証券化した米切手が取引されており、先物取引所の先駆けとも言われています。このように、商人が多く投資とも縁深かった大阪の気質。上位の県には、大都市が故に各地から人が集まり気質が薄まりつつある大阪府よりも、より純粋に商人気質が残ったのかもしれません。

イラスト/石井里果

この記事の著者

笹林 司

インタビュー記事を中心に、ビジネス、自動車、最先端技術など、様々な分野の媒体に寄稿。複数分野の視点を組み合わせることで、少しだけためになる記事を目指しています。

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