そこで2回目は実際に始める前の勉強について。「投資って始める前に、どのくらい勉強すればいいの?」です。投資の理論を学びつつ、素朴な疑問を聞いてみました。
お話を聞いた人
山口京子さん
大学時代からテレビ・ラジオに出演。2000年、「これからはお金を紹介する人になろう!」とFP資格を取得。その後、「ミヤネ屋」「バイキング」などに出演。近著に『なまけものが得をするワンコインつみたて投資術』などがある。
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大暴落はチャンスの時!?
前回のお話で投資の基本は理解できました。今回は、初心者が投資を実践するために必要な知識を教えてください。
任せてください! では、前回お話しした投資の3原則を覚えていますか?
えっと……「分散投資」、「積立投資」、「長期運用」ですよね?
その通りです。安全な投資を始めるために必要なので、特に「積立投資」について詳しく説明しましょう。
ありがとうございます!!
じつは私が持っていた資産の多くは3月に暴落していましたが、それほど慌てることはありませんでした。そして現在(6月12日現在)もこんなにニコニコできています。なぜだと思いますか?
暖かくなってきたから……ではないですよね。
正解は「積立投資」をしているからなんです。説明を始める前に、小野さんはこういう値動きをする商品があったら買いますか?
〈図〉激しく上下動をする株価
いや、買わないですね。値動きが激しすぎるじゃないですか。
好きか嫌いかでいうと?
嫌いです。
わかりました、“嫌い”なんですね(意味深)。それでは「積立投資」をイメージしやすいよう、リンゴを使って説明していきます。
(ゴクリ…)お願いします。
小野さんには、ひと月に1万円のお小遣いがあるとして、まず1カ月目、リンゴの価格は1万円だとしましょう。小野さんは、いくつのリンゴを買えますか?
1個です。
では、2カ月目に、豊作だったようで同じリンゴの値段が1,000円になっていました。いくつ買えますか?
10個ですね。
では、3カ月目にはリンゴの値段が1万円に戻っていました。いくつ買えますか?
1個です。
良いですね。小野さんは、この3カ月間でいくつ、リンゴを買えましたか?
12個です。
<図>3カ月でのリンゴの購入単価と購入数
正解です(パチパチパチ)! それでは、12個のリンゴを見た私が「リンゴを1個5,000円で売ってくれませんか?」と小野さんに言いました。小野さんは私から何万円もらえますか?
12個×5,000円で6万円ですね。
そうですよね。小野さんがリンゴを買った時に使ったお小遣いは3カ月間でいくらでしたっけ?
3万円です。……すごい! お金が倍に増えているじゃないですか!
<図>4カ月目にリンゴを売却した場合
倍に増えて嬉しいですか?
ムチャクチャ“嬉しい”です!
今、小野さんは「ムチャクチャ嬉しいです!」と言いましたね? でも、今のしくみというのは、先ほど小野さんにお見せした商品の値動きと同じなんですよ。
え?
こちらを見てください。1万円、1,000円、1万円、5,000円…先ほど挙げた値動きと一緒ですよね。
<図>リンゴの値動き
本当だ…。
同じ値動きなのに、なぜ小野さんの感じ方が違ったのか。それは、小野さんが「投資といえば一括投資」(※)という先入観を持っているからなのです。
※一括投資…一度にまとめて商品に投資すること。短期間で大きな利益を得る可能性があるが、損失も膨らむ可能性もある。
一括投資……ですか?
一括投資の場合だと、はじめに3万円でリンゴを大人買いすることになります。すると、そこからはリンゴの値動きと運命共同体になってしまいます。この図でいうと、売却価格は購入金額の半額である15,000円なってしまいましたね。だから、小野さんは“嫌い”と思ったのではないでしょうか?
そうです。
<図>一括購入・一括売却をした場合
ところが、積立投資の場合は、毎月、決めた一定額を投資し続けます。だから、2カ月目のように値下がりした時にはたくさんのリンゴを買うことができましたよね?
値が下がれば、たくさんのリンゴが安く買えるわけか。だから、ニコニコしていたんですね!?
ご名答! リンゴの個数でたとえましたが、株でいえば「株数」を意味します。それと、こちらの図も見てください。
〈図〉日経平均に連動する投資信託の値動き
2000年の基準価額を踏まえると、約17年間は元本割れしています。さて、20年間、毎月1万円(計240万円)を積立投資した結果、最終的にいくらになったと思いますか?
値下がりの期間が長いですね。先ほどの理論で言うと、数は多く買えますが、100万円くらいは下がっているのでは?
まだ一括投資の考えが抜けてないですね。積立投資の場合、ずっと元本割れしていても、最終的には儲かることがあるんです。
こんなにひどい値動きでも?
はい。この場合、暴落時にたくさん口数を購入した後、価格が回復してきたので儲かったのです。なぜなら、一括投資の成果は「売買時の値段の差」だけで決まりますが、積立投資の成果は「購入した数×価格」で決まるからです。たくさんの数を買っておけば、最後に掛け算するので、(このケースでは)積立投資を開始した時の値段まで回復しなくてもプラスになったというわけです。
<図>投資元本の累計と、売却した際の価格
点線が投資元本の累計金額で、実線はその時点での投資の結果です。2020年の売却価格は460万円。そして、儲けがプラスになったのは、2005年過ぎですが、積立投資を開始した2000年と比べると株価はまだ低い最中なんです。しかしながら、株価が大きく落ち込んだ2002年〜2004年までにたくさんの株を安く購入できていたので、プラスになったわけです。
なるほど。では、積立投資をする時は「下がれ、下がれ、最後に上がれ」と願っていればいいわけですね?
そういうことです。だからこそ、数を稼ぐためには、少しでも早く積立投資を始めることが肝心なんです。
3原則さえ知っていれば、早く投資は始めた方がいい
なるほど、とにかく早くリンゴの数を増やすことが先決だということですね! でも、まだまだ投資のことを勉強して間もないですし…一般的に投資を始める時ってどれくらい勉強しないといけないんですか?
現在、すでに投資を実践している方は900万人。とりあえず口座を開いている方は900万人。始めたいけど何をしたらいいのかわからず困っている方は2,000万人。そして、小野さんのように投資の世界を全く知らない方は4,500万人います。
このうち、始めたいけど何もできていない「2,000万人」の方は、すぐに始めて大丈夫です。
え、そうなんですか?
昔だったら、全部わかっていないとダメでした。情報を自分で探せなかったから、みんな投資セミナーに通ったり、証券会社の推奨した株を買ったりしていました。しかし、今は勉強しなくていいんです。
それは不安だと思うのですが……。
ネットで検索すれば、分からない用語も、情報も出てきますので、その都度調べればいいのです。最低限知らなければいけないのは、基本の3原則である「分散投資」、「積立投資」、「長期運用」。この力を知り、しっかりと守ることができれば大丈夫です。
今ではこの3原則を自動的に実践してくれるAIを駆使したサービスや、スマホを使った投資運用など、今の時代には便利なサービスが数多くあります。
そんなものまであるんですか! ただ、しくみがよくわかっていないものを始めるのは恐怖がありますね…。
例えば、小野さんはスマホを使いますよね? 使い始める前に、スマホの中の構造やアプリの作り方、バグが出た時の対処法を調べましたか?
いや、使っていくうちになんとなく覚えました。
そういうことです。まずは手軽なサービスを利用して始めてみる。値動きや成績を見てもっと知りたくなったら、検索したり、本を買って学べばいいんです。それに、どの証券会社にもコールセンターは必ずあるので聞いてください。なんで、投資だけ1人でやろうとするんですか?
確かに。逆に「勉強してからやろう」と思っていると、いつまでたっても始めなさそう……。
そうです。そうやって勉強している間にリンゴを買うチャンスを失ってしまいますよ。仮に勉強に3年かかったら、36回分のチャンスを失っていることになります。それならば、少しでも早く始めた方が将来のためになりますよ。
途中で面倒くさくならないですかね(笑)?
そういう方は、お給料の口座から自動で投資にお金を回すこともできるので活用してください。ちなみに今月はお金がないという時は休むことだってできますから。
そうなんですね! 便利すぎて怖いな……。
まずは、少額からでいいので、始めてみませんか?
そ、そうですね。でもまだ始める決断ができなくて…。
焦れったいですね(笑) 次回は、最後の決断がなぜできないのか、突き詰めていきましょう。
撮影/小島マサヒロ
この記事の著者
小野洋平
1991年生まれ埼玉県育ち。編集プロダクション「やじろべえ」所属。服飾大学を出るも服が作れず、ライター・編集者を志す。お札を折りたくないので長財布派ですが、お札はあまり持っていません。
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