悠々自適……とまではいかずとも、お金の不安に怯える老後は送りたくない。となれば、今のうちから資産運用などでコツコツお金を蓄えておくしかなさそうです。しかし、筆者は投資未経験。投資にまつわる情報やメソッド、噂話を聞いても今一つピンと来ません。
そこで、この連載では筆者のような投資ビギナーが思う「投資についての素朴な疑問」をプロにビシッと答えていただきたいと思います。
「素人が覗く!トウシの真相」の第1回のテーマは「絶対に儲かる投資」ってあるの?です。
お話を聞いた人
山口京子さん
大学時代からテレビ・ラジオに出演。2000年、「これからはお金を紹介する人になろう!」とFP資格を取得。テレビ番組『ミヤネ屋』『バイキング』などでお金の情報をやさしく解説。近著は、誰でもできるドキドキしない投資法を書いた『なまけものが得をするワンコインつみたて投資術』(ダイヤモンド社)。
100万円のリターンは10円?
投資については全くの素人ですが、よろしくお願いします。さっそくですが、今日はズバリ聞かせてください。「絶対に利益が出る投資」ってあるんでしょうか?
素人さんは大歓迎です!そうですねぇ…。ハッキリ言うと、あるにはあります(笑)。
え、あるんですか? ぜひ教えてください!!
では、まず小野さん。メガバンクの普通預金のリターン金利って何%かご存知ですか?
(投資と関係あるのでしょうか?)……ええっと、3%…くらい?
説明しがいがあって良いですね! 正解は「0.001%」です。つまり、普通預金に100万円を1年間預けたとしても、税引き前で10円のリターンしか得られないんですよ。税金引かれたら7円!
……少ない!
そう、とっても少ないですよね。ただ「絶対に利益が出る」ことを踏まえて考えた場合、「預貯金」は選択肢のひとつになるんですよ。とはいえ、ATM手数料でなくなってしまう程度ですが。
なるほど。だから「あるにはある」ってことだったんですね。でも、そのリターンだけでは全く老後資金の足しにならないですね…。
そうなんです。きっと、小野さんがイメージしている投資の利益は、もっと大きいお金なはず。となると、別の方法でないといけませんね。まずは、様々な資産運用の種類を確認しておきましょう。
リターンが高いものは、リスクも高い
「絶対に利益が出る」という意味での「絶対に」というのは、「リスクが限りなくゼロに近い」こと。どの商品にもリスクとリターンはあります。おそらく「リスク」と聞くと、危険なイメージを持たれると思いますが、資産運用においてリスクとは「ブレ幅(※)」のことを意味します。
※ブレ幅…価格の振れ幅(値動きの大きさ)のこと。あくまで、リスクとは「投資によって損失を被る可能性」ではなく、「結果がわからない不確実性」を指す。そのため、マイナスだけではなく、プラスもある。
つまり、「預貯金」はブレ幅が小さいと?
そう、「預貯金」にはブレ幅がほとんどありません。リスクが低いものは、期待できるリターンも小さいんです。一方で「株式」は高いリターンを期待する代わりに、大きなリスクも受け入れなければいけません。
〈図〉リスクとリターンの関係
「債券」と「投資信託」は、どんな商品ですか?
「債券」とは国や政府、地方公共団体、企業などが資金を調達するために発行するもの。“満期”というものが存在して、基本的には満期まで所持していれば、必ず利益が出ます。ただし…。
リターンは少ない…?
はい、そうですね! 日本政府が発行するの「固定5年国債」(第 107 回債)に100万円投資しても5年間で2,500円(税引き前)の利益にしかなりません。
では、「投資信託」は?
「投資信託」は株や債券など、複数の商品を専門家が選び、投資・運用をしてくれる商品のこと。リターンは商品によって異なりますが、基本的にブレ幅があります。
ちなみに投資の世界には2羽の鳥がいます。「リスクが少ないのに、すごい儲かる」というサギ(詐欺)。「リスクが高いのに、リターンが低い」商品を買うカモです。小野さんも気をつけてくださいね。
こわい……。増やすどころか一瞬で資産がなくなってしまいそうですね。
そう、小野さんがイメージするような大きい額が「絶対に儲かる」と持ちかけてきたら、きっとサギの方でしょうね。
〈図〉資産運用に潜む2匹の鳥
素人必見!投資の基本3原則
リスクが小さい「貯預金」はリターンが少ないし、リターンの大きい「株式」はリスクが高いし。おまけにうまい話は、詐欺だなんて……。何だか、投資をする気がなくなってきましたよ。
まぁまぁ(笑)。残念ながら、何事においても“美味しすぎる話”はあり得ません。しかしながら、「大きな損はしない安全な投資法」なら教えて差し上げられます。
え、それを教えてください!!
はい。ではまず、小野さんはエスパーですか? 凡人ですか?
……エスパーではないので凡人だと思います。
よかった(笑)。凡人でしたら、まずは「分散投資」がオススメです。エスパーならば、儲かる商品だけ購入すればいいのですが凡人には難しいですよね? そこで、投資先を分散して、仮に1つの商品が下がっても、他の商品が上がってくれれば、トータルでプラスになるのをねらいます。
よく聞く「リスク分散」というやつですね。
はい。続いて、2つ目は、時間を分ける「積立投資」です。こちらは毎月、決めた一定額を投資する方法です。イメージとしては、積立定期預金の投資バージョンだと思ってください。
なるほど、わかりやすいです。
そして、3つ目は、長く続ける「長期運用」です。分散投資をしたとしても1年のスパンではプラス・マイナスどちらになるかは予測がつきにくいものです。しかし、10年のスパンで見てみると、マイナスの年をプラスの年が補うので結果的にはプラスになっている可能性が高いのです。
持っている期間が長いだけでプラスになるってことですか?
ええ、そうですよ。この図を見てみてください。投資信託を1年間保有した時のリターンです。緑が年率の最も良かった年、赤が年率の最も悪かった年ですね。
〈図〉1年間保有した時のリターン
かなりリターンにブレがありますね…。
はい、これでもかなりバランスよく分散投資しているのですが、短期だとプラスになる時もあれば、逆に大きなマイナスになることが示されています。でも、10年間保有し続けると…。
〈図〉10年間保有した時のリターン
キレイにすべてプラスですね!
これは2014年〜2019年を最終年としたリターンを年率でまとめたものなのですが、安定した成果が出ていますね。リーマンショックも東日本大震災も、保有期間の10年に入っています。将来、必ずこの通りになるとは限りませんが、長期で投資することの大切さがよくわかります。
「投資」とは成長していく企業にお金を預けること
ちなみに投資するには、どれくらいの資金が必要でしょうか? すべての商品に投資するとなると、かなりのお金が必要じゃないかと…。
小野さんは投資にいくら必要だと思いますか?
そうですね……100万円くらいは…?
ブブー。正解は「100円」です。100円あれば、世界の株式や債券に投資することもできますし、証券会社によっては、毎日、毎週、毎月、積立投資することもできるんですよ。
なんと! すぐにやるべきじゃないですか?
must doですよ! ちなみに今では、スマホからワンコインで積立投資ができたり、クレジットカードのポイントで投資信託などを購入することもできる世の中なんですよ。
なんとなんと! なぜ、みんなやらないのですか?
「株価が下がったら私のお金は減るんでしょ? こわい!」という不安が払拭できないまま、始めるのは気が進まないからでしょう。今後、小野さんは生きている間にもっと便利な世の中になると思いますか? それとも、世界中が畑だらけになり、馬で移動する時代がくると思いますか?
前者であってほしいです。
そういう考えの方には投資がピッタリです。なぜならば、“投資する”というのは、成長していく企業にお金を預けるということ。企業は、ボランティアではありません。投資家から集めたお金で、新しいサービスやモノを開発して売り上げを上げていきます。治らなかった病気を治す薬を開発したり、あした本が届くサービスを作ったり、おいしいお菓子を作ったり! みんなが「いいね!」と思った会社の株は上昇し、さらに安心、安全、便利な世の中になっていくのです。これが経済の成長へと繋がっていくわけです。
だから、株を長く保有しているとプラスになりやすかったんですね。 少しずつ投資のしくみを理解してきました。
それは良かったです。今日は特別に私の資産運用を少しだけ、チラ見せしましょう。投資信託で12年間、積立てていただけで……。
投資総額1,300万円が……2,400万円に!?
ホホホホ。これも「分散投資」「積立投資」「長期運用」を守っただけですよ。次回、この原則について詳しくお教えますね。
撮影/小島マサヒロ
この記事の著者
小野洋平
1991年生まれ埼玉県育ち。編集プロダクション「やじろべえ」所属。服飾大学を出るも服が作れず、ライター・編集者を志す。お札を折りたくないので長財布派ですが、お札はあまり持っていません。
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