ここではファイナンシャルプランナーの二宮清子が、会社員でも期待できる正しい節税方法と注意点についてご紹介します。
※この記事は、2022年5月17日に更新しています。
この記事の著者
二宮 清子(にのみや きよこ)
家庭科教師の時に「家計管理」を生徒に教えていたものの、主婦時代には赤字家計に転落! 『金持ち父さん 貧乏父さん』を読んで、幸せになるため、夢を叶えるためにはお金が大事だと痛感。節約や貯蓄、投資の重要性に目覚め、FPの道に。赤字家計を脱出した自分の体験から、節約や家計簿についてのアイデアを発信します!
そもそも、サラリーマンが納める所得税の額はどうやって計算されているの?
節税について学ぶ前に、まずは会社員の皆さんが納める所得税の金額が、どうやって決まるのかについて解説しましょう。
収入と所得の違い
所得税を計算するためには、給与所得を知る必要があります。給与所得とは、給与収入から給与所得控除を引いた額のことです。
給与所得
= 給与収入 - 給与所得控除
給与所得控除額は収入額によって自動的に決まりますが、年によって異なります。国税局のウェブサイトなどに詳細が書かれていますので、気になる方は調べてみてください。
そうして算出された「給与所得」から「所得控除」を引いた額に、所得税率をかけ、「税額控除」を引いた金額が実際の所得税額です。
所得税額 = (給与所得-所得控除) × 所得税率 - 税額控除
所得税と控除の関係
所得税の計算式には、「控除」という文字が多く出てきます。控除とは、ある金額から一定の額を引き去ることを指します。所得税に関わるものとして、主に3種類あります。
〈図〉所得税に関わる3つの「控除」
給与所得控除 | 個人事業主でいうところの必要経費と同じ考え方。「給与収入」から概算で差し引くことで、「給与所得」を計算する。 |
---|---|
所得控除 | 所得税額を計算する時に、納税者の個人的事情を加味する制度で、「給与所得」から差し引き、課税の対象額を算出する。 |
税額控除 | 「課税の対象額に所得税率をかけた額」から、特定の条件によって一定の金額を引く制度。 |
なかでも、所得税の節税に一番大きな影響を与えるのは、税額控除になります。
会社員と確定申告の関係
日本では、納める税金の金額は、原則として納税者本人が計算を行うしくみになっています。具体的には、1月1日から12月31日までの1年間の所得と税額を計算した結果を記した書類(確定申告書)を、翌年の2月16日から3月15日の間に所在地の所轄税務署に提出します。これを確定申告と呼びます。
とはいえ会社員の場合は、自分で確定申告をしたことのない方も多いでしょう。それは、勤務先の会社が税額を計算し、納税を代行するしくみが取り入れられているからです。これが「源泉徴収」制度と呼ばれるものです。
〈図〉源泉徴収制度のしくみ
給与明細を見ればわかるように、源泉徴収は1年間の所得が確定する前に月々納める形になっています。そのため、年末の時点で1年分の再計算を行い、納めすぎた所得税は還付(払い戻し)され、不足する場合は徴収されます。これが「年末調整」です。
〈図〉年末調整のしくみ
このように、ほとんどの会社員は確定申告を自分で行う必要がありません。
ただし、一定以上の所得がある、複数の会社等から所得を得ているなど、特定の条件に当てはまる方は、例外的に確定申告が必要になります。また、後述する「控除」を活用する際にも、確定申告が必要な場合があります。
サラリーマンの節税は「控除」の活用が基本
源泉徴収により納税が行われている会社員でも、納める税金の額を減らすことが可能です。様々な節税方法があるなかで覚えておいたほうがよいのが、「所得控除」や「税額控除」のような各種の控除を活用することでしょう。
会社員が活用できる主な控除は、以下のとおりです。
控除の申請は、確定申告が必要な場合と、確定申告以外の手続きでもよい場合があります。それぞれ内容を見てみましょう。
ふるさと納税(寄附金控除)
「ふるさと納税」とは、自分が応援したい任意の自治体に寄附をするための制度のことです。寄附金控除と呼ばれるものの一環で、寄附した金額の一部が、所得税または住民税の控除対象となります。
控除の対象となる金額の上限は、納税者の給与収入額によって変わります。たとえば、独身または共働きで給与収入の合計額が500万円の場合だと、ふるさと納税による控除額の上限の目安は6万1,000円となります。ちなみに、上限額まで寄附する必要はありません。
また控除額は、寄附した合計金額から自己負担額の2,000円を引いた金額になります。ふるさと納税で1万円寄附した場合の控除額は、8,000円になるというわけです。
さらに、ふるさと納税を利用すると、寄附をした自治体から返礼品が届く場合も。控除に加え、返礼品ももらえるので、お得な制度といえるでしょう。
ふるさと納税を利用し控除を受けるためには、基本的に確定申告が必要です。しかし会社員の場合、1年間の寄附先が5自治体以内なら、「寄附金税額控除に係る申告特例申請書」に必要事項を記入して、寄附した自治体に送ることで、確定申告をしなくても控除が受けられる「ワンストップ特例制度」も用意されています。
住宅ローン控除
「住宅ローン控除」とは、住宅ローンを利用して住宅の購入、またはリフォームをした場合に利用できる制度です。具体的には、年末のローン残高の1%にあたる額を、約10年間にわたり、所得税から直接控除することができます。所得税で控除しきれなかった分は、住民税から控除することもできます。
各年の控除限度額は40万円(認定長期優良住宅等の場合は50万円)となっていますが、自分の納めるべき所得税と住民税の上限からしか還付されませんので、所得税と住民税を合わせても30万円しか納めていなければ30万円しか還付されません。
初年度だけ確定申告が必要ですが、2年目からは金融機関から送られてくる残高証明書を会社に提出し、年末調整をしてもらうことで控除が受けられます。
住宅ローン控除のしくみはやや複雑なので、詳しく知りたい方は、国税庁のWebページ1)をご確認ください。
生命保険料控除
一般生命保険料や、個人年金保険料、医療保険料、がん保険などの介護医療保険料を払っている場合、下の表に示した金額が控除されます。11月頃になると各保険会社から生命保険料控除証明書が届いているはずです。この証明書を会社に提出し年末調整をしてもらえば、控除を受けることができます。
〈表〉生命保険料の控除額
契約の時期 | 一般生命保険料控除 | 個人年金保険料控除 | 介護医療 保険料控除 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|
平成23年以前 | 所得税 | 最高 5万円 | 最高 5万円 | - | 最高 10万円 |
住民税 | 最高 35,000円 | 最高 35,000円 | - | 最高 7万円 | |
平成24年以降 | 所得税 | 最高 4万円 | 最高 4万円 | 最高 4万円 | 最高 12万円 |
住民税 | 最高 28,000円 | 最高 28,000円 | 最高 28,000円 | 最高 7万円 |
地震保険料控除
地震保険料控除は、居住用の住宅や家財を保険の目的とした、いわゆる地震保険の保険料を払った場合に利用できる控除です。控除額は保険料の全額(最高5万円まで)となっています。
地震保険料控除証明書は、保険証券に添付されている場合と、保険会社から郵送で別途送られる場合があります。どちらの場合も、証明書を会社に提出し年末調整してもらえば、控除を受けることができます。
医療費控除
納税者本人や、生計を一に(日常の生活の資を共に)する配偶者とそのほかの親族が支払った医療費が年間10万円以上(年収200万円未満の場合は所得の5%)になった場合は、確定申告をすることで、医療費控除を受けることができます。
医療費控除の対象になる医療費の例は、つぎのとおりです。
対象となるもの | 診療費、入院費、出産費用、通院費など |
---|---|
対象とならないもの | 美容整形の費用、人間ドッグ・健康診断(重大な病気がみつかった場合を除く)、健康増進・病気予防のためのサプリメント代、自己都合による入院時の個室代、コンタクトレンズ・メガネ代など |
医療費控除を受けるためには、1年間のレシートや領収書を集め、「医療費控除の明細書」 2)に必要事項を記入し、確定申告をしましょう。
なお、医療費控除を受けると、つぎに紹介する「セルフメディケーション税制」は利用できない点には、十分注意してください。
なお、妊娠・出産時にも医療費控除は受けられます。詳しい内容や計算方法は以下の記事で解説しています。ぜひ読んでみてください。
【関連記事】妊娠・出産で使える「医療費控除」の具体例や計算方法について、詳しくはコチラ
セルフメディケーション税制
「セルフメディケーション税制」とは、健康の維持増進や、病気の予防のための取り組みを行っている方が対象となる医薬品を購入した場合、購入費の1万2,000円を超える部分の金額(8万8,000円を限度)を控除の対象にする制度です。
対象となる医薬品は限られている点には注意が必要です。対象となる医薬品は、パッケージに「セルフメディケーション税控除対象」の表示があるので、必ず確認してください。
セルフメディケーション税制を利用するためには、購入した対象となる医薬品のレシートや領収書を1年分集め、「セルフメディケーション税制の明細書」3)に必要事項を記入して、確定申告をしましょう。
なお、セルフメディケーション税制を利用した場合、従来の「医療費控除」が利用できなくなる点には、十分注意してください。
小規模企業共済等掛金控除
確定拠出年金の掛金を支払っている場合に適用できる控除で、掛金の全額が控除されます。
企業型確定拠出年金に加入し給与から天引きされている場合は、特に手続をしなくても控除が受けられます。
また、個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入して掛金を支払っている場合は、iDeCoを統括する国民年金基金連合会から送られてくる「小規模企業共済等掛金払込証明書」を会社に提出し、年末調整してもらうことで控除を受けることができます。
iDeCoは、節税効果が高いだけではなく、老後資金を準備するためにとても有効な資産運用方法です。詳しい内容や運用のコツなどを以下の記事でご紹介しています。併せて読んでみてください。
【関連記事】iDeCoの節税効果やメリットについて、詳しくはコチラ
寡婦控除・寡夫控除
配偶者と死別・離別したあとに、婚姻をしていない場合、または配偶者の生死が明らかでないなど、一定の条件を満たしている方が受けられる控除です。
控除額の例は、つぎのとおりです。
〈表〉控除額例
寡婦 | 所得が500万円以下の場合、27万円控除されます |
---|---|
特別の寡婦 | 所得が500万円以下で扶養している子供がいる場合、35万円控除されます |
寡夫 | 所得が500万円以下で扶養している子供がいる場合、27万円控除されます |
寡婦控除・寡夫控除の条件を満たしている方は、11月頃に会社から配布される「扶養控除等(異動)申告書」に印字されている「寡婦」「特別の寡婦」「寡夫」の欄に印をつけ、年末調整をしてもらうことで控除が受けられます。
特定支出控除
「特定支出控除」とは、給与所得者の仕事に必要だと認められた経費が、ある一定額を超えた場合に受けられる制度です。
具体的には、通勤費、転居費、研修費、資格取得費、単身赴任の場合の帰宅旅費、書籍や制服、交際費等にかかる費用(会社から補填されるものは除く)などが年中の給与所得控除額×1/2を超えた場合は、確定申告をすることで税金の還付を受けることができます。
たとえば年収が500万円の場合、給与所得控除額は154万円なので、154万円×1/2=77万円を超えた分が、経費として控除されます。
この制度を利用するには、勤務先に「給与所得者の特定支出控除に関する証明書」4)を記入してもらい、特定支出に関する明細書および、搭乗・乗車・乗船に関する証明書や支出した金額を証明する書類を申告書に添付し、確定申告をする必要があります。
参考資料
【番外編】サラリーマンが副業を利用して節税する方法
ここまで“控除を利用した節税”について解説しましたが、近年、副業を解禁する企業が増えたことで、“副業を利用した節税”にも注目が集まるようになってきました。そもそも、一般のサラリーマンが“副業を利用した節税”を行うことができるのかということから、解説しましょう。
「副業の赤字」を利用した節税は可能
結論からいえば、“副業を利用した節税”は可能です。
主に、副業が赤字となる(経費が収入を上回る)ことで、総所得が減り、結果として納税額を少なくすることができます。
また、副業でもフリーランスと同じく、開業届と青色申告承認申請書を提出し、青色申告をすることで、最大65万円の控除を受けることも可能です。
〈図〉「副業の赤字」により所得が少なくなる例
代表的なのは「事業所得」と「不動産所得」
サラリーマンが“副業を利用した節税”を行う場合、よくあるパターンは以下の2つです。
① 起業して「事業所得」を得る場合
事業所得とは、製造業や農業、小売業、サービス業などの事業を運営して得る所得のことです。自分で作ったモノを売ったり、自分のスキルを利用してサービスを提供するなど、いわゆる副業全般がこちらに入ります。
たとえば、パソコンを利用したサービス業の場合、パソコンや通信費を経費として計上することが可能になります。
② 不動産投資等で「不動産所得」を得る場合
不動産所得とは、不動産の賃借等で得る所得のことです。利益を得ることは同じですが、事業所得とは区別されます。
不動産投資の場合、初期費用(不動産購入費用等)が高いため、初期の数年間は赤字になることが多くなります。この赤字を利用して節税を行うことが多いです。
経費として計上できる代表的な項目
「事業所得」と「不動産所得」では、以下のようなものが経費として計上できます。
〈表〉経費として計上できる項目例
事業所得の場合 | 不動産所得の場合 |
---|---|
パソコン、自動車、通信費、光熱費、家賃、旅費、交通費、交際費、名刺代、書籍代、研修・セミナー代 など | 固定資産税、火災保険料、修繕費、建物の減価償却費、借り入れ利子 など |
ただし、当たり前ですが、経費として計上できるのは、事業に必要で購入・利用したものに限られます。
家賃や光熱費などは、プライベートでの利用も考えられます。その場合、“家事按分”という考え方で、事業とプライベートにかかった適正な割合を合理的な基準に照らし合わせて算出します。
副業を利用した節税の注意点
ここまで読むと、副業をやれば簡単に節税できる! と考える方もいるかもしれません。しかし、節税を目的として副業を始めるのは得策ではありません。ここからは注意点を紹介します。
① 節税はオマケ。あくまで副業は稼ぐことを目的に
赤字により納税額が少なくなるのは、あくまでも副業が軌道に乗るまでのことに過ぎません。事業所得を得るにせよ、不動産所得を得るにせよ、利益を上げていくことが大切です。
サラリーマンとしての本業で忙しいなか、副業を行うのですから、赤字のまま継続するのではなく、しっかり収益を上げられるようにしましょう。
特に投資用マンションの運用をするサラリーマン大家は、ずっと赤字が継続する事態に陥りがちです。節税になるから、と物件を購入しても、資産になるはずが、結果的に負債になり、自己資金を追加投入するといったことになりかねません。
「あくまで節税はオマケ。副業は儲かるように頑張る!」ということを肝に銘じましょう。
② 経費はしっかりと説明できるように
特に事業所得は、経費にできるものの範囲が広いため、手当たり次第に経費にしがちです。
しかし、当然ながら、経費とは「事業のために支出した費用」のことです。完全にプライベートな支出は計上できません。経費として計上する場合には、事業に対して、どのような目的で利用したのかなど、しっかりと説明できるようにしましょう。
③ 領収書は5年間保管する
経費を計上する場合、それを証明する領収書が必要です。領収書は5年間保管する必要がありますので、くれぐれも注意しましょう。
なお、副業を始める際には、税理士に相談することがおすすめです。最初は小額なので自分でやりくりする、という方がいますが、結果的に事業が大きくなって、不要な税金を払うことになることも少なくありません。
サラリーマンが節税をする際の注意点
間違った税金対策による罰則とは?
サラリーマンの場合、“控除を利用した節税”がほとんどでしょう。そのため、誤った方法により罰則を受けることはほとんどないと思われます。
しかし、近年は副業に関する社内規定を緩和する企業が増え、副業を行うサラリーマンも増えているはずです。
お金を稼いだら必ず納税の義務が発生します。サラリーマンだったとしても、副業で20万円以上を稼いだ場合は確定申告の義務があります(これは開業届を提出する、しないにかかわらず必要です)。
副業を行った場合の納税時の注意点などは、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひ該当する方はご確認ください。
【関連記事】副業に伴う納税の必要性や、はじめての確定申告について、詳しくはコチラ
うっかりミスで所得の操作が行われてしまった場合でも、脱税と判断されれば罰則があります。この際の罰則には「延滞税」「加算税」のふたつがあります。それぞれについて、要件によって割合が変更され、正当な理由があると軽減や不適用となる場合もあります。詳しくは財務省のウェブサイト5)でご確認ください。
(1)延滞税
延滞税とは延滞利息のようなもので、税金を期限までに納めなかったり、期限後申告や、修正申告したりすると課されます。
(2)加算税
加算税は、主につぎの4つに分かれます。
過少申告加算税 | 申告期限内に申告したものの納税額が過少であった場合に課される。最大15%の課税。 |
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無申告加算税 | 申告期限までに申告しなかった場合に課される。原則として、納付すべき税額に対して、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%になるが、自主的に期限後申告をした場合には、5%に軽減される。 |
不納付加算税 | 源泉徴収を行わなければならない人が源泉所得税を納付期限までに納付しなかった場合に課される。課税割合は10%。 |
重加算税 | 事実を仮装隠蔽した場合に課されるため税率は高く、最大40%の課税。 |
参考資料
当然ながらお金や税金の世界で「嘘」をついてはいけません。きれいに稼いできれいに使う、ということを念頭に置き、正しい「節税」を身に付けるようにしましょう。