葬儀費用は葬儀代だけでなく、お布施代や食事代など多岐にわたります。中には「自分の貯金だけでは金額が高すぎて払えない」「お金がないから葬儀をするのは難しそう」と感じている人もいるでしょう。

この記事では、行政書士でファイナンシャルプランナーの河村修一さん監修のもと、葬儀費用が払えない場合に利用したい制度や対処法を解説します。

この記事の監修者

画像: 葬儀費用が払えない時はどうする?利用できる制度や対処法を解説

河村 修一(かわむら しゅういち)

ファイナンシャルプランナー・行政書士。CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、複数の保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験を活かし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。

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葬儀費用はいくらかかる?

画像: 画像:iStock.com/AlexanderFord

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株式会社エス・エム・エスが2023年に実施した調査によると葬儀費用の平均は、97万4,844円です1)

コロナ禍が葬儀の簡素化に拍車をかけ、葬儀の形式も家族中心に故人を見送る「家族葬」が増加傾向にあり、多くの親族や知人が会葬に訪れる「一般葬」は、以前よりも減少しています2)。一般的に葬儀にかかる費用は、葬儀の規模が大きいほど高額になり、小さいほど低額になります。よって近年の葬儀費用の平均は減少傾向であるとされています。

葬儀費用は、主に以下の3つの費用で構成されています。

  • 葬式一式・返礼品費用
  • 飲食接待費用
  • 寺院費用

なお、葬儀費用は葬儀の形式によって変動します。より詳しく知りたい人は、以下の記事を確認してみてください。

【関連記事】葬儀費用の平均について、詳しくはコチラ

葬儀費用を補填できる公的制度

手元にあるお金だけでは葬儀費用が足りない場合は、公的制度を活用して費用の一部を補填するのも1つの手です。以下の4つの制度を紹介します。

それぞれ詳しく解説します。

相続預金の払戻し制度

相続預金の払戻し制度とは、遺産分割前に故人の口座から一定の預金額を引き出せる制度です2)

通常、口座の名義人が亡くなり預金が遺産分割(※1)の対象となる場合は、遺産分割手続きが終わるまで口座内のお金は引き出せません。しかし、葬儀費用や相続人の生活費として、故人の預金を当てにする場合もあるでしょう。相続預金の払戻し制度を使えば、遺産分割の完了を待たずとも故人の口座からお金を引き出せるため、葬儀費用の補填や生活費の確保に利用できます。

相続預金払戻し制度で出金できる金額は、以下のとおりです3)

・預金額×1/3×相続人の法定相続分
※:ただし、金融機関ごとに150万円の払戻し上限額あり

出金された金額は、手続きした相続人が受け取ったものとみなされ、遺産分割時に相続する財産額が調整されます。

なお、相続人の法定相続分は、以下のとおり定められています4)

〈表〉相続人の法定相続分

相続人数と内訳配偶者の相続分配偶者以外の相続分
故人の配偶者と子ども1/21/2
(複数人いる場合は均等に分割)
故人の配偶者と直系尊属(両親・祖父母)2/31/3
(複数人いる場合は均等に分割)
故人の配偶者と兄弟姉妹3/41/4
(複数人いる場合は均等に分割)

ただし、出金までの間は内容確認に時間を要します。緊急でお金が必要な場合は、以降で紹介する別の制度を利用しましょう。

※1:相続人が遺言を残さずに死亡した場合に、いったんは相続人全員の共有財産となったものを、各相続人へ話し合いによって具体的に分配していくこと。

国民健康保険・後期高齢者医療保険の葬祭費

国民健康保険や後期高齢者医療保険の被保険者が亡くなり葬儀をした場合、葬祭費が受け取れます。葬祭費を葬儀費用に充てれば、支出負担を抑えられます。

支給額は自治体によって異なります。国民健康保険の場合、支給額は、東京23区は一律7万円、そのほかの地域ではおおむね5万円(地域によっては3万円)です5)6)7)。また、必要となる書類も自治体ごとに異なります。申請できる期間は、葬祭日の翌日から2年間です。詳しい内容は、住んでいる自治体に確認してみましょう。

なお、葬祭費は葬儀を執り行った人のみ申請できます。喪主(※2)や施主(※3)を務めた人が市区町村窓口へ申請するようにしましょう。

※2:遺族を代表して葬儀を催す人。現在は費用負担含め葬儀全体を管理する役割が多い。
※3:本来はお布施など葬儀費用を負担する人。現在は喪主のサポートをする役割。喪主が施主を兼ねるケースが多い。

健康保険の埋葬料

健康保険に加入している人が亡くなった時は、亡くなった人に生計を維持されていて埋葬を行う人に対して、5万円の埋葬料が支給されます。もし配偶者や子どもなど生計を維持されている人がいない場合は、埋葬をした人に対して埋葬に要した費用(最大5万円)分の金額が支給されます。埋葬に要した費用として対象になるものは、以下の費用です8)

  • 霊柩車代
  • 霊柩運搬代
  • 霊前供物代
  • 火葬料
  • 僧侶の謝礼

また、健康保険の加入者に扶養されている人が亡くなった場合は、家族埋葬料が支給されます。家族埋葬料の金額は埋葬料と同様の5万円です9)

なお、埋葬料を申請できる期間は、死亡年月日の翌日から2年間です。埋葬費は埋葬日の翌日から2年のうちに申請する必要があります。2年を超えてしまうと申請してもお金を受け取れないため、早めに手続きを済ませましょう。

生活保護の葬祭扶助制度

生活保護を受給している人が亡くなった場合、生活保護法に基づき葬祭扶助制度が適用されます。生活保護を受給していない人は、扶助を受けられません。

生活保護法第18条では、葬祭扶助に関する内容が記されています。扶助の対象となるのは、主に以下の行為です10)

  • 検案
  • 死体の運搬
  • 火葬・埋葬
  • 納骨

なお、支給額は自治体により異なります。葬祭扶助の申請は、葬儀をする前に行います。葬儀後に申請しても、受け付けてもらえません。市区町村窓口か福祉事務所に、喪主が申請しましょう。葬儀会社が代理で申請することも可能です。

葬儀費用が払えない場合はどうすればいい? 払えない場合の対処法

画像: 画像:iStock.com/takasuu

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「葬儀費用が払えないかも」と不安な人や「葬儀をすることになったけれどもお金がない」と困っている人は、以下の対策を試してみましょう。

それぞれ詳しく解説します。

故人の遺産から払う

故人の遺産を使って、葬儀費用を捻出すれば、比較的スムーズに支払いを済ませられます。自分自身の貯金が少ない時や、ほかの親族を頼れない時は、故人の遺産を使うことを考えましょう。

ただし、自分のほかに相続人がいる場合、故人の遺産を勝手に使うのは好ましくありません。必ずほかの相続人全員の同意を得てから使うようにしてください

故人の遺産を口座から遺産分割完了前に引き出したい時は、前述の相続預金払戻し制度を活用しましょう。相続預金払戻し制度を使えば、相続人単独で預金の引き出しができます。

遺族で葬儀費用を負担する

自分だけで葬儀費用が払えない場合は、遺族で負担するのもいいでしょう。複数人で平等な金額を払えば、1人当たりの負担額は減少します。

遺族で費用負担をする際は、負担割合や支払う費用の内訳などを細かく話し合って決めましょう。親族が亡くなった時は精神的に疲弊するため、遺族同士で些細な喧嘩やトラブルが起こりがちです。また、これまで関わりの少なかった親族と過ごす場合もあるため「費用を負担してもらうのは気が引ける」と感じてしまうこともあるでしょう。

時間は限られるかもしれませんが、トラブルにならないよう繰り返し話し合いを重ねて、どのように費用を負担するかを決めるようにしましょう。

クレジットカードで分割払いをする

手元に多額のお金が用意できない人は、クレジットカードでの分割払いが便利です。分割払いは支払い回数こそ増えますが、一度の負担額が少ないため、一括で多額のお金を払えない時に有効です

ただし、分割払いやリボ払いでは手数料がかかります。そのため、総負担額は一括で払うよりも増えてしまうということを覚えておきましょう。

葬儀ローンを活用する

葬儀ローンを活用すれば、葬儀後に計画的な返済ができます。葬儀ローンは、葬儀会社で申し込み手続きをします。車や住宅のローンと同じように、金融機関での与信審査が必要です。審査に通過すると、融資を受けられます。継続的な支払いができる見通しのある人やクレジットカードに不安を抱いている人に、おすすめの方法です。

ただし、葬儀会社のなかには葬儀ローンに対応していないところもあります。葬儀ローンを使う際は、契約前に必ず葬儀ローンに対応しているか確かめておきましょう。

また、葬儀会社で対応していない場合は、銀行などの金融機関に葬儀ローンについて確認するのもいいでしょう。メモリアルローン(※4)やフリーローン(※5)が葬儀ローンとして活用できます。お住まいの地域の金融機関や地方銀行などにも問い合わせてみると、選択肢が広がります。 

※4:葬儀や法要、墓地・墓石の購入などに利用できる、目的が決められたローンのこと。
※5:旅行資金や家具の購入資金にも利用できる、自由度の高いローン商品。

お金をかけずに葬儀をする方法

画像: 画像:iStock.com/Yuuji

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お金をかけずに葬儀をするには、事前の備えや葬儀会社とのやりとりが重要です。負担をかけずに葬儀をする方法は以下のとおりです。

それぞれ詳しく紹介します。

方法①複数の会社で見積もりを取る

複数の葬儀会社で見積もりを取れば、料金の差やサービス内容の違いがわかります。見積もりは事前に複数の葬儀会社から取り、葬儀の依頼先を決めておきましょう。

葬儀会社を手配するタイミングは、「故人が逝去した直後」が一般的です。遺体を霊安室に安置できる期間が限られるため、早めに葬儀会社を手配し、自宅や別の安置場所などに移動させる必要があります。このように葬儀まで時間が限られていることから、適切な判断ができない場合もあります。

全国には様々な葬儀会社があります。最近では、葬儀に加えてホテルでお別れ会(ホテル葬)をしようと考える人もいるようです。葬儀会社やホテルによって、基本料金やオプション料金、サービスの有無などが異なります。費用が気になる人は、費用が明確であることに加え、できる限り安い金額を提示している会社に依頼するといいでしょう。

ただし「費用が安い」というだけで安易に葬儀会社を決めると、サービス内容や対応に不満を抱くこともあるでしょう。料金面・サービス面どちらも比較し、納得できるところに依頼するのがおすすめです。

方法②飲食接待費用を見直す

葬儀費用の中でも、比較的抑えやすいのが飲食接待費用です。飲食接待費用は食事のグレードや個数によって変わります。葬儀の規模を小さくして用意する食事の個数を減らしたり、グレードを下げたりして費用を抑えれば、支出を減らせます。

ただし、グレードを下げ過ぎてしまったり食事自体を無くしてしまったりすると、参列してくれた人に失礼にあたる場合もあります。参列者へお礼の気持ちを考えながら、価格とグレードのバランスを考慮するのがいいでしょう。

方法③葬儀の規模を小さくする

葬儀の規模を小さくすれば、参列者が少なくなり返礼品費用や飲食接待費用を減らせます。また、以下のように家族葬や一日葬など葬儀の規模が小さくなるにつれて、費用も少なくなっています。

〈表〉葬儀の形式ごとの平均費用1)

葬儀の形式平均費用
一般葬131万8,283円
家族葬91万3,119円
一日葬69万3,758円
火葬式・直葬36万3,807円

なお、家庭によっては故人が生前に「葬儀は小規模にしてほしい」「迷惑をかけたくないから家族葬にしてもらいたい」と希望する場合もあるでしょう。その際は故人の希望を汲み取り、規模や価格を抑えながらも、後悔なくお見送りができる葬儀にすれば、費用も内容にも満足できます。

家族葬でも支払いが難しい場合は、一日葬や火葬のみをする直葬による葬儀も検討しましょう。

もめることなく葬儀費用を払うポイント

画像: 画像:iStock.com/dreamnikon

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繰り返しになりますが葬儀費用の支払いは、遺族内や葬儀会社との間でトラブルが起こりがちです。もめることなくスムーズに費用の支払いを済ませるには、以下のポイントを押さえておきましょう。

それぞれ詳しく解説します。

ポイント①事前に家族内で葬儀について話し合っておく

事前に家族で葬儀の形態やおおよその予算について話し合っておくと、葬儀を行う際にプランどおりに進行できます。特に葬儀の形態について話しておくと、おおよその金額を決めやすくなります。

誰かが亡くなってから葬儀について話し合うと、どうしても精神的に参っていたり弱っていたりするため、的確な判断ができなくなります。心の余裕がなくなると、1つの選択ミスで負担金額に大きな差が生まれてしまったり、親族と喧嘩したりする可能性もあります。正常な状態で正しい判断ができるよう、事前に葬儀のことを話し合っておくといいでしょう。

ポイント②あらかじめ払う人を決めておく

あらかじめ誰が葬儀費用を払うのか決めておけば、スムーズな支払いが可能です。たとえば、以下のように決めておくといいでしょう。

  • 配偶者が払う
  • 子どもが払う
  • 喪主や施主が払う
  • 故人の遺産から払う
  • 複数人の遺族で平等に負担する

どのような形で払うかは、家族によって異なります。家族の形態や年齢、健康状態など様々な点を考慮して、最適な方法で払うようにしましょう。

なお、葬儀をしてもらう側の人が生前に「自身の遺産から払ってほしい」「配偶者や子どもに負担してほしい」といった希望を出しておくと、よりスムーズに払う人を決められます。遺言書やエンディングノートなどに葬儀費用の支払いについて記載しておけば、トラブルが起きるリスクはさらに減らせるでしょう。

ポイント③葬儀会社とコミュニケーションを取る

葬儀会社とよくコミュニケーションを取りながら葬儀を進めれば、満足いく葬儀ができる可能性が高いです。

国民生活センターでは、2022年に947件の葬儀サービスに関する相談が寄せられています。相談事例には「Webサイトの金額よりも高くついた」「説明なくオプションばかり付けられて困った」といったトラブルについての内容が見られました11)

葬儀会社にあらかじめ「予算内に収めたい」「費用がないので安く済ませたい」といった旨を伝えておけば、ある程度金額を抑えたプランを提案してくれます。見積もりやプラン内容をよく確認して、不要なものは削除しましょう。特にオプションを追加すると金額が高くなりがちです。事前に「オプションは必要最低限にしてほしい」と葬儀会社に伝え、費用を抑えるようにしましょう。

葬儀会社とのコミュニケーションは、精神的に弱っている状況で取らなければなりません。感情的になってしまうこともあるかもしれませんが、費用を抑えながら満足いく葬儀ができるよう落ち着いて話し合いを重ねましょう。

葬儀費用の支払いに関する疑問

葬儀費用に関する疑問をまとめました。葬儀のお金で悩んでいる時や支払いが不安な時の参考にしてください。

Q1.一番お金がかからない葬儀形式は何?

最もお金がかからない葬儀形式は直葬です。直葬は火葬のみ行う葬儀で、飲食接待費用や葬式一式費用、返礼品費用などがほとんどかかりません。

故人が葬儀形式について特段希望のない場合や「お金がないけれどもどうしても最低限の弔いだけはしたい」という場合に検討してみましょう。直葬を行う際は葬儀会社にも相談し「形式に問題はないか」「費用を払えるか」を確認するようにしましょう。

Q2.直葬の費用がない時はどうすればいい?

直葬の費用でも払えない場合は、市区町村窓口に相談してみましょう。収入金額によっては生活保護を受けられる場合があります。生活保護を受給していれば、葬祭扶助が受けられて葬儀が執り行えます。

葬儀費用が払えない時は状況に合わせて対策しよう

画像: 画像:iStock.com/kyontra

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葬儀は突然執り行うことになる可能性があります。もし十分な準備時間があったとしても、大切な人の葬儀が満足いくものでないと後悔することもあるでしょう。いつ葬儀をしてもお金に困らないよう、この記事で紹介したことを確認して、日頃から備えておくのがおすすめです。

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