マイナンバーカードの保険証を使うと、医療費が安くなるといわれていますが、実際の医療費負担額を把握しているという人は多くはないはずです。

この記事では、ファイナンシャルプランナーの西尾愛奈さん監修のもと、マイナンバーカードを保険証として利用する際の医療費負担額や、その制度の概要について解説します。そのほか、高額療養費制度の一時支払い免除や、医療費控除の申請簡略化など、マイナンバーカードの保険証利用におけるメリットも紹介します。

※本記事は2023年10月20日時点の情報を基に執筆しています。

この記事の監修者

西尾 愛奈(にしお まな)

FPサテライト株式会社所属、ファイナンシャルプランナー。大学卒業後、医療設備メーカーに勤務。20代最後に何か為になる資格を取ろうと思い立ち、生きていく上で欠かすことのできない「お金」について学びたいと思い、2級FP技能士、AFPを取得。FPの勉強を通して、お金に対して不安になるのはお金の知識がないからだと気づく。現職の知識を活かし、医療に強く、お金の基礎知識を広めていけるFPを目指し、FPサテライト所属FPとして活動している。

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マイナンバーカードの保険証(マイナ保険証)とは?

画像: 画像:iStock.com/metamorworks

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マイナンバーカードの保険証は、マイナンバーカードの機能の1つで、2021年10月から本格運用がスタートしました。「マイナ保険証」とも呼ばれています。政府はマイナンバーカードを普及させる取り組みとして、マイナンバーカードと健康保険証の一体化を推進しています。これにより、国民の利便性向上と医療サービスの品質向上を目指すとのことです。

マイナンバーカードの保険証を利用するには、マイナンバーカードと健康保険証を紐付ける必要があります。2023年10月15日現在、マイナンバーカードと保険証の紐付け数は7,145万1,552件で、交付枚数に占める割合は7割を超えています1)。詳しくは後述しますが、スマートフォンやコンビニエンスストアなどで簡単に紐付けることができます。なお、現時点でマイナンバーカードと保険証を紐付けたとしても、現行の健康保険証も利用可能です。

マイナンバーカードの取得と同様、マイナンバーカードと保険証を紐付けるかどうかはあくまでも任意です。ただし、2024年秋には現行の健康保険証が廃止され、マイナンバーカードの保険証に一本化される方針が政府により示されています2)

マイナ保険証の詳しい情報は、以下の記事で解説しています。気になる人は併せてご覧ください。

【関連記事】マイナンバーカードと保険証の紐付け方は? メリット・デメリットも解説

そもそもマイナンバーカードとは?

マイナンバーカードとは、マイナンバー(※)が記載された顔写真付きのカードのことです。マイナンバーのほかに、氏名、住所、生年月日、性別などが記載されています。

マイナンバーカードは、本人確認書類として利用できるほか、コンビニで公的な証明書を取得したり、政府が運営するオンラインサービス「マイナポータル」を通じて各種行政手続きを申請できたりなど、様々な行政サービスにも利用できます。また、証券口座の開設、住宅ローンの契約などの民間取引にも、マイナンバーカードの活用が進んでいます。

マイナンバーカードの取得はあくまでも任意ですが、マイナポイント付与による普及促進の効果もあり、2023年10月15日現在、全国の交付枚数は9,648万3,405枚に達し、人口に対する交付率は約77%となっています1)

※:2016年に日本国内で導入された国民識別番号制度。日本の住民票を持つ全住民に付番される12桁の番号のことで、番号正式名称は「個人番号制度」といいます。

マイナ保険証で安くなる医療費は「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」部分

画像1: 画像:iStock.com/SeiyaTabuchi

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2023年10月時点、マイナ保険証の利用体制が整っている医療機関・薬局では、健康保険証を利用するよりも、マイナ保険証を利用したほうが初診料・再診料・調剤管理料が安くなります

この安くなる部分に該当しているのが「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」という診療報酬です。

じつは、この加算ができる前の2021年10月〜2022年9月は、マイナ保険証を利用したほうが患者の自己負担額が高くなっていました。その結果、医療費が高くなってしまっていたのです3)

医療機関・薬局がマイナ保険証の利用体制を整えるのに、政府が想定していたよりも多くの費用や時間がかかってしまいました。利用体制を整えるための費用を補填するかたちで診療報酬の加算が行われた結果、マイナ保険証を利用する患者の負担が増えてしまうという矛盾が生じてしまったのです。

しかし、この矛盾に対して国民からの反感もあり、2022年10月に現制度の医療情報・システム基盤整備体制充実加算が新設され、マイナ保険証を利用したほうが医療費が安くなる設計に変更されました。

「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」が適用される医療機関と適用されない医療機関がある

画像: 画像:iStock.com/Ratana21

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「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」が適用されるには、医療機関・薬局が一定の条件を満たす必要があります。

厚生労働省の「オンライン資格確認等システムについて」によると、①オンライン請求を行っていること、②オンライン資格確認を行う体制を有していること、①・②に関する情報を用いて診療を行っていることを施設内の見やすい場所やホームページなどに掲示すること、といった施設基準が設けられています4)

これらの基準や要件を満たした医療機関・薬局はマイナ保険証の利用によって「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」が適用され、窓口での患者負担が低くなります。

「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」が適用されない医療機関を受診する場合はどうなる?

画像: 画像:iStock.com/takasuu

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前述の条件を満たしていない医療機関は、「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」が適用されていないため、加算自体が付きません。加算がないため、マイナ保険証の有無にかかわらず、医療費は適用している医療機関よりも安くなります。

なお、マイナ保険証を所持していても、従来の健康保険証がなければ健康保険への加入の確認が取れず、一時的に全額自己負担となる場合もあります。

医療施設を受診する際は、受診先がマイナ保険証に対応しているかをあらかじめウェブサイトなどで確認する、もしくは健康保険証とマイナ保険証の2枚を持って受診するようにしましょう。

マイナ保険証を利用すると、医療費はいくら安くなる?

画像: 画像:iStock.com/niwatoko

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「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」が適用される医療機関・薬局でマイナ保険証を利用する場合と従来の健康保険証を利用する場合で、どのくらい医療費が変わるのでしょうか。

政府は医療機関のオンライン資格確認の導入ならびに国民のマイナンバーカードの保険証利用を促すため、2023年4月~12月に「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」の特例措置を設け、マイナ保険証を利用した場合にさらに医療費が安くなるようにしています。

なお、「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」が適用される医療機関・薬局で現行の健康保険証を利用した場合、「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」が医療費に上乗せされます。

※:医療費が3割負担の場合

〈表〉マイナ保険証と健康保険証のシステム基盤整備体制充実加算の窓口負担の比較2)4)

現行の健康保険証マイナ保険証
令和5年4~12月令和6年1月~令和5年4~12月令和6年1月~
初診料18円
(6点)
12円
(4点)
6円
(2点)
6円
(2点)
再診料6円
(2点)
0円
(加算なし)
0円
(加算なし)
0円
(加算なし)
調剤管理料12円
(4点)
9円
(3点)
3円
(1点)
3円
(1点)
※再診での算定は1カ月に1回、調剤での算定は6カ月に1回。
※3割負担の場合の自己負担額を表示。
※()内は医療情報・システム基盤整備体制充実加算の点数を表示。

医療費が安くなる理由は、マイナ保険証を利用した場合は医療機関がオンラインで薬剤情報などの患者情報を確認でき、問診などの業務負担が減るからです4)

マイナ保険証は高額療養費制度や医療費控除申請にも役立つ

画像2: 画像:iStock.com/SeiyaTabuchi

画像:iStock.com/SeiyaTabuchi

マイナ保険証は医療費が安くなるだけでなく、高額療養費制度利用時の一時支払い手続きが不要になったり、医療費控除申請を簡略化できたりします。

詳しい内容を見ていきましょう。

高額療養費の限度額以上の一時支払い手続きが不要になる

医療費が高額になり、年齢や所得ごとに定められた上限額を超えた場合に「高額療養費制度」を利用できます5)

マイナ保険証の利用が始まる前は、必要書類である「限度額適用認定証」の申請や準備が間に合わないと、患者が上限を超えた額を一時的に支払う必要があり、患者の金銭的負担になっていました。

しかし、マイナ保険証が利用できる医療機関や薬局では、情報提供に同意さえすれば、「限度額適用認定証」がなくても、限度額を超える支払いが免除されるようになりました。

受診時に、顔認証付きカードリーダーで情報提供の同意をするだけで申請が完了するのでとても簡単です。

高額療養費について詳しくは、以下の記事よりご覧ください。

【関連記事】「高額療養費制度」で対象外となる費用とは? しくみや計算方法をわかりやすく解説

医療費控除の申請も簡単にできる

医療費控除とは、1年間にかかった医療費が10万円(総所得金額等が200万円未満の人は総所得金額等の5%)を超えた場合に受けられる、所得控除の1つです。

控除を受けるには確定申告をする必要があり、従来、医療機関や薬局を利用した際の領収書をすべて保管・管理しておかなければなりませんでした。しかし、マイナ保険証を利用すれば、マイナポータルで医療費の情報を閲覧・管理することができ、確定申告サイト「e-Tax」に情報連携ができるため、手続きが簡単になりました5)

ただし、保険適用外の費用など、一部マイナポータルに反映されない医療費もあります。該当する医療費がある場合は注意しましょう。

医療費控除について詳しくは、以下の記事をご覧ください。

【関連記事】医療費控除でいくら戻る? 計算方法や還付金額のシミュレーションを紹介

マイナ保険証を利用する時の注意点

画像: 画像:iStock.com/Maks_Lab

画像:iStock.com/Maks_Lab

マイナ保険証を利用する場合、従来の健康保険証とは異なる注意点があります。一時的に医療費を全額負担しなければいけないなど、経済的デメリットが発生する場合もあるため、事前知識として覚えておきましょう。

一部対応していない医療機関で使うと医療費が全額負担になる場合がある

繰り返しになりますが、マイナンバーカードの保険証はマイナンバーカードの保険証に対応している医療機関・薬局でしか利用できません。

2023年4月より、すべての医療機関・薬局にマイナンバーカードの保険証への対応(オンライン資格確認の導入)が義務付けられました。厚生労働省によると、2023年10月15日現在、マイナンバーカードの保険証に対応している医療機関・薬局は全体の88%です6)

対応可能な医療機関・薬局が増えているとはいえ、まだ対応していない施設も一部ありますので注意しましょう。

もし、対応していない医療機関・薬局を利用し、現行の保険証を持ち合わせていない場合は全額負担することもあります。

有効期限が切れていると、健康保険証として使用できない

マイナンバーカードに書き込まれた電子証明書には、5年の有効期限があります。この有効期限が切れると、健康保険証としての利用もできなくなるので注意が必要です。電子証明書の有効期限は、マイナンバーカードの表面に記載されています。有効期限の2~3カ月前に有効期限通知書が届くので、忘れずに手続きをしましょう。

なお、マイナンバーカード自体の有効期限は10年(未成年者は5年)です。マイナンバーカードと保険証の紐付けがされた日によってそれぞれの有効期限が異なりますので、この点についても注意が必要です。

マイナ保険証の有効期限が切れていると、医療費などが全額負担となる場合もあるため、事前に確認してから受診するようにしましょう。

システムの不具合が発生した場合、マイナ保険証が利用できないことがある

マイナ保険証はオンラインシステムで管理をしているため、通信トラブルなどの不具合が生じた場合に、利用することができません。停電などで電気が使えない場合も同様です。

また、患者の自己負担割合が誤って表示されるなどのトラブルも相次いでいます7)。システムが整うまでの間は、現行の健康保険証も持参したほうが安心でしょう。

マイナ保険証のデメリットについて詳しくは、以下の記事で解説しています。気になる人は併せてご覧ください。

【関連記事】マイナンバーカードと保険証の紐付け方は? メリット・デメリットも解説

従来の健康保険証からマイナ保険証へ切り替える手続き方法

画像: 画像:iStock.com/itakayuki

画像:iStock.com/itakayuki

マイナンバーカードを健康保険証として利用するには、マイナポータルアプリによるオンライン申請のほか、市区町村の窓口、セブン銀行のATMから利用登録ができます。

マイナンバーカードを保険証として利用するための申請方法は、以下の3つです。

1.スマートフォン

①スマートフォンに「マイナポータルAP」をインストールする
②アプリを起動後、「マイナンバーカードが健康保険証として利用できます」の画面から「申し込む」を押し、申し込みページを開く
③「マイナポータル利用規約」を確認し、「同意して次へ進む」を押す
④数字4桁の暗証番号を入力し、スマートフォンでマイナンバーカードを読み込む
⑤申込完了

2.パソコン

※ICカードリーダーが必要です

①パソコンに「マイナポータルAP」をインストールする
②マイナポータルの健康保険証利用ページにアクセスし、「利用を申し込む」をクリック
③「マイナポータル利用規約」を確認し、「同意して次へ進む」をクリック
④ICカードリーダーをパソコンに接続し、マイナンバーカードをセットする
⑤数字4桁の暗証番号を入力する
⑥申込完了8)

3.セブン銀行ATM

①ATM画面の「各種お手続き」を押す
②「健康保険証利用の申込み」を押す
③画面の案内に従って操作する ※マイナンバーカード、数字4桁の暗証番号が必要
④申込完了9)

マイナンバーカードの保険証を使えば医療費が安くなる場合もある

マイナンバーカードの保険証利用に対応している医療機関・薬局でマイナ保険証を使うと、健康保険証を使用する場合と比べて医療費が安くなります。ただし、前述したようにマイナ保険証に対応していない医療機関・薬局では、現行の健康保険証を使う方が医療費が安くなる場合があります。

政府は従来の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードの保険証利用の一本化を目指しています。ゆくゆくはすべての医療機関・薬局・診療所でマイナンバーカードの保険証利用が可能になることが想定されます。今のうちに、マイナンバーカードの保険証利用のメリット・デメリット理解し、準備を検討しておくとよいかもしれません。

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