また、せっかく働くなら、退職金がある企業に就職したいと思う人が多いでしょう。しかし、退職金がない企業にもメリットは存在します。
そこで、ファイナンシャルプランナーの高山一恵さん監修のもと、退職金の現状や退職金がなくてもいいとされる理由を解説します。この記事を読めば、退職金なしの企業に勤めるとしても適切な対策をとりながら安心して働けるでしょう。
この記事の監修者
高山 一恵(たかやま かずえ)
株式会社Money&You 取締役。ファイナンシャルプランナー(CFP®認定者)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。DCプランナー1級。東京都出身。慶應義塾大学文学部卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを創業。10年間取締役を務めた後、現職へ。女性向けWEBメディア『FP Cafe®』や『Mocha』を運営。全国での講演活動、執筆、マネー相談を通じて、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく、親しみやすい講演には定評がある。
退職金なしの企業は違法ではない
はじめに、退職金はどの企業でも必ず用意されているもの、というイメージがあるかもしれませんが、決してそうではありません。労働基準法では、退職金は就業規則で定める範疇であり、企業に一任されています1)。企業は退職金を設ける法的義務はないため、退職金がなくても違法にはなりません。
退職金は、各企業によって就業規則で定められた福利厚生のひとつです。就職活動をする時や転職を検討する時、退職金の有無や金額が気になる人も多いでしょう。
なお、退職金の相場については以下の記事で解説しています。気になる人は併せて確認してみてください。
退職金なしの企業は全体の2割
厚生労働省の「平成30年就労条件総合調査の概況」をもとに、退職金の有無を企業規模別にまとめました2)。
〈表〉企業規模別の退職金の有無の割合2)
企業規模 | 退職金あり | 退職金なし |
---|---|---|
1,000人以上 | 92.3% | 7.7% |
300~999人 | 91.8% | 8.2% |
100~299人 | 84.9% | 15.1% |
30~99人 | 77.6% | 22.4% |
企業規模が大きいと、9割以上が退職金を設けています。一方で、企業規模が小さくなるほど退職金を設けていない傾向であることがわかります。
参考資料
業種別:退職金が支給される割合
続いて、業種別で退職金の支給率を見てみましょう。厚生労働省のデータをもとに、上位5位の職種を抜粋しました3)。
〈表〉業種別の退職金が支給される割合3)
業種 | 退職金が支給される割合 |
---|---|
複合サービス事業(信用事業、保険事業など) | 96.1% |
鉱業、採石業、砂利採取業 | 92.3% |
金融業・保険業 | 88.6% |
医療・福祉 | 87.3% |
卸売業・小売業 | 78.1% |
複合サービス事業の支給率が最も高く、9割以上となっています。これはあくまで目安ですが、職種によって退職金の有無が異なることがわかります。
退職金なしの企業でもいいとされる理由
退職金がないことを損だと感じる人も多いでしょう。しかし、退職金がない企業は避けるべきかというと、そうとはいいきれません。理由は以下の3つです。
それぞれ詳しく解説します。
理由①退職金の金額は徐々に下がっているから
厚生労働省のデータによると、退職後に受け取れる退職金の金額は徐々に下がっています。
〈表〉大卒・大学院卒の勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者の退職金の金額
調査年 | 退職金の金額 |
---|---|
平成9年 | 2,871万円 4) |
平成15年 | 2,499万円 5) |
平成20年 | 2,323万円 6) |
平成25年 | 1,941万円 7) |
平成30年 | 1,983万円 8) |
約5年ごとに退職金の金額を見てみると、年々下がっていることがわかります。平成9年と平成30年を比べると900万円近くも差があります。今のペースで行くと20代や30代の人たちが退職金を受け取るころには、さらに金額が少なくなるかもしれません。退職金がある企業に勤めたとしても将来安泰とはいえないのです。
理由②月々の給与に退職金分を上乗せしてもらえる企業もあるから
退職金を用意していない企業の中には、退職金を支払わない代わりに月々の給与やボーナスに賃金を上乗せしてくれる場合があります。
退職金は通常最低3年以上勤めないともらえないものですが、こういった企業であれば入社したばかりでも恩恵を受けられます。
また、退職金は一般的に勤続年数に従って増額していくものです。社歴が浅いうちから一定額をもらえるのも大きなメリットだといえます。
理由③退職金ありの企業でも、勤続年数によっては受け取れない場合もあるから
退職金がある企業でも、退職したすべての人が退職金を受け取れるわけではありません。企業によっては就業規則で退職金が支払われる勤続年数を定めている場合があります。定められた勤続年数に達していなければ、退職給付金制度自体があっても退職金は受け取れません9)。
また、勤続年数に達していれば退職金は受け取れますが、勤続年数が短ければ短いほど金額は少なくなります。なお、契約社員やパートなど非正規雇用の場合も、退職金が受け取れません。
参考資料
退職金なしで不安な人におすすめの3つの対策
退職金なしの企業でもメリットがあるとはいえ、退職金がないのは将来が不安だと感じる人も多いでしょう。現在、退職金なしの企業で働いている人や、これから退職金なしの企業に就職・転職する人におすすめの対策は、以下の3つです。
それぞれ詳しく解説します。
①毎月の給与を貯蓄にまわす
退職金が受け取れない分、早いうちからコツコツ貯蓄をするのがおすすめです。毎月余ったお金を貯蓄するのではなく、一定金額の先取り貯金をしましょう。余ったお金を貯蓄にまわそうとしても、使い過ぎてしまう場合もあり、想定していたよりも貯蓄額が少なくなる可能性があります。
先取り貯金をすれば、余ったお金で生活するように心がけるため貯蓄額を増やしやすいでしょう。銀行の自動積立定期預金10)や、企業の財形貯蓄11)を利用すると、口座にお金を移す手間がなく貯蓄できます。
なお、先取り貯金に関して以下の記事でご紹介しているので、興味のある人は参考にしてみてください。
②個人年金保険やiDeCoに加入する
国民年金や厚生年金だけでは不安な人は、民間の個人年金保険やiDeCoに加入してみるのもおすすめです。民間の個人年金保険は定期的に積み立てた保険金を原資として、60歳以降に年金を受け取れます。また、個人年金保険料税制適格特約(※1)が付加された保険であれば、個人年金保険料控除の対象になり、年末調整や確定申告で所得税や住民税が減額されます。
また、iDeCoは確定拠出年金法(※2)に基づく私的年金制度です12)。自分で掛金を拠出して運用し、掛金と損益の合計額を年金として受け取れます。iDeCoは掛金の全額が小規模企業共済等掛金控除(※3)の対象になり、運用益も非課税となります。さらに受け取る際にも控除が受けられるため、節税しながら資産を形成できます。
どちらも場合によっては元本割れのリスクはありますが、資金が増える点ではメリットがあるでしょう。なお、iDeCoについては以下の記事でご紹介しているので、興味のある人は確認してみてください。
※1:一般生命保険料控除とは別に、個人年金保険料控除を受けるために付加する特約のこと。
※2:加入者ごとに拠出された掛金を加入者自らが運用し、その運用結果に基づいて給付額が決定される年金制度のこと。
※3:小規模企業共済や、個人型確定拠出年金iDeCoなどの掛け金で受けられる所得控除のこと。
参考資料
③副業や投資など給与以外の収入源を開拓する
収入を増やしたいなら、本業以外に副業や投資などで給与以外の収入源を開拓してみましょう。働き方改革により、副業を認める企業も増えています。特技や趣味を副業に活かせるものもあるので、新しく始められることはないか考えてみるのもおすすめです。
なお、株やFXの場合は、正しい知識や経験がないと大きな損失が出る可能性もあります。初めて投資をする人は、初心者でも低リスクで少額から始められるつみたてNISAの利用がおすすめです。つみたてNISAについては以下の記事で詳しく解説しているので、気になる人は確認してみてください。
退職金を当てにせずに、計画的に貯蓄をしよう
退職金の現状や退職金のない企業でもいいとされる理由をご紹介しました。退職金がある場合でも、想定している金額を確実に受け取れるわけではありません。退職金を当てにせず、自らの人生に備えて必要な資金を貯めることが大切です。