退職金には所得税と住民税がかかります。つまり退職時に支給されるのは、総額からこの2つの税金が差し引かれた金額となります。この記事では、ファイナンシャルプランナーの高山一恵さん監修のもと、退職金にかかる税金について解説します。税金の計算方法もご紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
※この記事は2022年11月10日に公開した内容を最新情報に更新しています。
この記事の監修者
高山 一恵(たかやま かずえ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)/Money&You取締役。
中央大学商学部客員講師。一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学文学部卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを創業、10年間取締役を務め退任。その後現職へ。NHK「日曜討論」「クローズアップ現代」などテレビ・ラジオ出演多数。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。「はじめての新NISA&iDeCo」(成美堂出版)、「マンガと図解 はじめての資産運用」(宝島社)、「50代から考えるお金の減らし方」(成美堂出版)など書籍100冊、累計180万部超。1級FP技能士。住宅ローンアドバイザー。
退職金に税金はかかる? かからない?
基本原則として退職金には税金がかかります1)。ただし、退職金は、長年の勤労に対する報償として支払われるものであることなどから、税負担が軽くなるよう配慮されています。そのため、退職金の金額や勤続年数によっては非課税になることもあります。
なお、退職金を一時金として一括で受け取るか、年金として分割で受け取るかによって、かかる税金の額や計算方法は異なります。以下で詳しく説明していきます。
参考資料
退職金にかかる税金は所得税と住民税の主に3つ

画像:iStock.com/Yusuke Ide
退職金にかかる税金は具体的には、以下の3種類です。
これらの税は退職時に勤め先へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出すれば、支給額から税金を差し引いて支給されます。この手続きを怠ると、退職金の収入金額から一律20.42%の所得税等が源泉徴収されて、確定申告で精算することになります1)。
以下でそれぞれについて詳しく解説します。
①所得税
会社員や公務員などの給与所得者の場合は毎月給与から源泉徴収されているのが一般的ですが、退職金も同様に所得税がかかります。所得税は、毎年1月1日から12月31日までの所得に対してかかる税金です2)。
参考資料
②住民税
住民税は、地方税のひとつとして、1月1日時点の住所地のある都道府県と市区町村が課す税金です3)。住民税の計算方法はどこも同じですが、地方自治体によって規定が違うため一律ではありません。
参考資料
③復興特別所得税
2037年までは「復興特別所得税」も納める必要があります4)。復興特別所得税は東日本大震災からの復興に必要な財源を確保するために創設された税金です。
参考資料
退職金の受け取り方で税金は変わる┃「一時金」と「年金」を比較

画像:iStock.com/takasuu
退職金の受け取り方は、「一時金」として一括でもらうか、「年金」として分割してもらうか、2種類があります。ただし、企業によっては「一時金」と「年金」を併用できる場合もあります。
なお、一時金と年金ではそれぞれ課税方法が異なります。
〈表〉退職金の受け取り方法
一時金として受け取る場合 | 年金として受け取る場合 | |
---|---|---|
所得の種類 | 退職所得 | 雑所得(公的年金など) |
課税方法 | 分離課税 | 総合課税 |
所得税の課税方法には、所得を合算した総所得金額に課税する「総合課税」と、ほかの所得金額と合算せずに課税する「分離課税」があります2)。所得税は課税対象額が大きくなるほど税率も上がる累進課税なので、分離課税のほうが税負担は軽くなります。
以下で詳しく説明します。
「一時金」として受け取る場合の課税方式
退職金を一時金として受け取る場合は「退職所得」として所得税や住民税は分離課税になり、さらに「退職所得控除」が適用されます5)。退職所得の金額は、原則として以下のように計算します。
【一時金として受け取る場合(退職所得)の計算式】
(収入金額(※)退職所得控除額)× 1/2
※:源泉徴収される前の金額
つまり、退職所得で課税対象となるのは、収入金額から退職金控除を差し引いた残りの1/2です(詳しい計算方法は後述します)。
参考資料
「年金」として受け取る場合の課税方式
一方、退職金を年金として受け取る場合は、「雑所得」として扱われ、「総合課税」となります。
雑所得は、公的年金や副業に係る所得、非営業用貸金の利子などが該当します。業務にまつわる雑所得は総収入額から必要経費を差し引きしますが、退職金を年金として受け取る場合、「公的年金等控除」の対象のため、以下のように計算します6)7)。
【年金として受け取る場合(公的年金等控除)の計算式】
収入金額―公的年金等控除額
雑所得の税額は、給与所得や配当所得などのほかの所得の金額と合計して総所得金額を求めてから計算します。つまり、上の計算式で控除額を引いた残りは「雑所得」として所得税の課税対象となります。厚生年金の月額支給額が大きかったり、退職後に不動産所得や事業所得があったりする人は、総所得金額が大きくなるので、注意が必要です。
参考資料
「一時金」と「年金」の特徴を比較
退職金を一時金として受け取る場合と年金として受け取る場合、それぞれの特徴を表にまとめました。
〈表〉一時金と年金の特徴
一時金 | 年金 | |
---|---|---|
税額の抑えやすさ | 分離課税でほかの所得と合算されない | 総合課税のため、ほかの所得と合算して課税される |
受け取りの自由度 | 大きな金額を一度に使うことができる | 老後に定期的に収入を得ることにつながる |
控除額が変わる要因 | 勤続年数が長いと有利 | 年齢、収入によって控除額が変動する |
注意点 | 高額すぎると課税対象になる | 収入額が大きいと税額が増える |
それぞれの方法にメリットとデメリットがあり、どちらを選んだほうが適切かは老後のライフプランを踏まえて検討しましょう。
どちらを選ぶ? 判断のポイントを紹介
一時金と年金のどちらで受け取るのが適切かを判断するには、以下の点を考慮することが必要です。
①退職直後にまとまった資金が必要か
②退職金以外で老後の資金は十分にあるか
③退職金以外の資金はどのような形で準備しているか
④退職後に定期的な所得が発生する予定があるか
住宅ローンの完済や子どもの学費、起業など、まとまった資金を必要とする場合には、一時金で受け取るほうがいいでしょう。
また、厚生年金やiDeCo、個人年金保険などの年金形式の収入、所有する不動産からの家賃収入、再雇用や起業などで定期的な所得が発生する場合も、退職金を年金として受け取ると税額が上がるため、一時金で受け取ったほうがいいといえます。
一方、こうした定期収入がなかったり、あっても低額であったりする場合には、退職金を年金として受け取ったほうが安心でしょう。また、一時金で受け取ると管理が難しいと感じる人には、年金として受け取ったほうが安心かもしれません。
退職金を「一時金」として受け取る場合の税金の計算方法

画像:iStock.com/kiddy0265
退職金を一時金で受け取るメリットは、分離課税で計算されるため税額が抑えられることです。一時金として退職金を受け取る場合の税金の計算方法は、以下のプロセスになります。
それぞれ具体的に見ていきましょう。
STEP1.退職所得控除額を計算する
退職金を一時金で受け取る場合は、退職所得控除が適用になります。退職金は、「在職中の功績への報償」としての意味合いがあるため、通常の給与より税制上の優遇が受けられます1)。ただし、勤続年数によって計算方法が異なるため注意しましょう。
退職所得控除額の計算方法は、以下を参考にしてみてください。
〈表〉退職所得控除額の計算方法1)
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円未満なら80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数−20年) |
ポイントは、勤続年数が「20年を超えているかどうか」です。勤続20年以下までは1年につき40万円ずつ、20年超からは1年につき70万円ずつ控除額が増えます。勤続年数は端数切り上げです。たとえば、20年1カ月働いた場合は21年で計算します。
STEP2.課税退職所得金額を計算する
続いて、課税退職所得金額を計算しましょう。課税所得金額とは、収入から所得控除を差し引いたもののことを指します。退職金は税制上の優遇があるため、計算方法が多少異なります。計算方法は、以下のとおりです5)。
課税退職所得金額 =(収入金額−退職所得控除額)×1/2
課税退職所得金額は、退職金から先ほど計算した退職所得控除額を引き、1/2を乗じて求めます。課税退職所得金額は、所得税や住民税を計算する上で基準となる金額です。通常の課税所得金額より優遇が受けられるため、計算方法に注意しましょう。
ただし、勤続5年以下で退職金を受け取る場合は注意が必要です。所得控除後の金額が300万円を超える場合には、1/2課税の適用がされません。
STEP3.所得税を計算する

画像:iStock.com/miya227
前述した課税退職所得金額を用いて、所得税を計算します。所得税の税率や控除額は、課税退職所得金額によって異なるため、以下の表を参考にしてみてください。
〈表〉所得税の税額(2024年)1)
課税退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円~194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万円~329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万円~694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円~899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円~1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円~3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
所得税を求めるには、課税退職所得金額に税率を乗じたあとに控除額を引きましょう。
所得税額 = 課税退職所得金額×税率−控除額
日本の所得税は、超過累進課税を採用しているため、所得金額が高くなるほど税率も上がります。ただし、退職金の場合は勤続年数が長くなるほど、退職金の金額も大きくなる傾向があり、その結果、控除額も大きくなるため税負担は抑えられます。
STEP4.復興特別所得税を計算する
2013年1月1日から2037年12月31日までに受け取った退職金には、復興特別所得税も課税されます4)。復興特別所得税は、税率が一律で退職金の金額によって変化しません。復興特別所得税の計算方法は以下のとおりです。
復興特別所得税 = 所得税額×2.1%
復興特別所得税は、所得税額に税率2.1%を乗じて計算します。
STEP5.住民税を計算する
住民税の税率は、市町村民税(特別区民税)が6%・道府県民税(都民税)4%の合計10%です8)。所得税とは異なり、退職金であっても税率は変わりません。住民税の計算方法は、以下のとおりです。課税退職所得金額は、先ほど求めた金額をそのまま用いて計算します。
住民税 = 課税退職所得金額×10%
なお、住民税は基本的に10%ですが、自治体によって特別課税される可能性もあるので注意しましょう。なお、住民税は特別徴収です。退職金を支払う側(勤務先)が支払いの際に住民税を特別徴収し、翌月10日までに市区町村に納入します。
STEP6.手取り金額を計算する
ここまでで算出した税額を合計し、手取り金額を算出します。
退職金支給額―(所得税+復興特別所得税+住民税)
退職金を年金として「分割」で受け取る場合の税金の計算方法

画像:iStock.com/pinstock
続いて、退職金を年金で受け取る場合をご紹介します。年金として受け取ると支給されるまで企業が運用を続けるため、一時金よりも受け取り総額が多くなるのがメリットです。年金で受け取る場合は総合課税となり、計算方法も異なるため注意しましょう。
計算方法は以下のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
STEP1.公的年金等の収入の合計額を計算する
退職金を年金として受け取る場合、公的年金等に係る雑所得に分類されます。
【雑所得に該当するもの】
・公的年金等
・副業収入など業務に係るもの
・公的年金にも副業にも分類されないもの(配当所得、不動産所得など)
雑所得は給与所得などほかの所得と合算して税金を計算する総合課税です7)。
具体的に公的年金等に係る雑所得に該当する所得には老齢基礎年金や老齢厚生年金・確定拠出年金などがあります。退職金を年金でもらう場合には、これらの所得と合算します。
ちなみに、公的年金等の収入には生命保険などの個人年金は含まれません。公的年金及び一定の企業年金のみの合計額となります。
STEP2.公的年金等にかかる雑所得の金額を計算する
続いて、公的年金等にかかる雑所得の金額を計算します。雑所得は公的年金等控除が適用になるため、これを収入金額から差し引きます9)。
なお、公的年金等控除額の算出方法は年齢と収入金額によって異なります。年齢は退職する年の1月1日時点の年齢現況で判断し、65歳が境目です。計算方法は、以下のとおりです。
〈表〉65歳未満の公的年金等にかかる雑所得の金額
公的年金等の収入金額 | 公的年金等にかかる雑所得の金額 |
---|---|
60万円以下 | 0円 |
60万円超130万円未満 | 収入金額−60万円 |
130万円以上410万円未満 | 収入金額×0.75−27万5,000円 |
410万円以上770万円未満 | 収入金額×0.85−68万5,000円 |
770万円以上1,000万円未満 | 収入金額×0.95−145万5,000円 |
1,000万円以上 | 収入金額−195万5,000円 |
〈表〉65歳以上の公的年金等にかかる雑所得の金額
公的年金等の収入金額 | 公的年金等にかかる雑所得の金額 |
---|---|
110万円以下 | 0円 |
110万円超330万円未満 | 収入金額−110万円 |
330万円以上410万円未満 | 収入金額×0.75−27万5,000円 |
410万円以上770万円未満 | 収入金額×0.85−68万5,000円 |
770万円以上1,000万円未満 | 収入金額×0.95−145万5,000円 |
1,000万円以上 | 収入金額−195万5,000円 |
参考資料
STEP3.ほかの所得や所得控除と合わせて税金を計算する

画像:iStock.com/KangeStudio
一時金で受け取った場合とは異なり、年金で受け取る場合は総合課税です。そのため、STEP.2で算出した金額をほかの所得と合算して計算します。不動産所得や事業所得・給与所得・公的年金等以外の雑所得などすべての収入が対象です。
すべての所得から基礎控除や社会保険料控除の所得控除を差し引き、課税所得を求めます。課税所得金額に応じて、所得税や復興特別所得税・住民税が計算されます。前述したように、年金として受け取る退職金は、「公的年金等に係る雑所得」に該当します。公的年金等に係る雑所得がある人で公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円を超える場合には、確定申告を行う必要があります。
退職金にかかる税金をシミュレーション
では、実際のところ退職金にどのくらいの税金がかかるのかを知りたい人も多いでしょう。そこで、以下のモデルケースをもとに、退職金にかかる税金をシミュレーションしてみました。
なお、年金で受け取る場合の税金は、公的年金や社会保険料などによって変わるため、ここでは一時金として受け取る場合の税金を紹介します。
①一時金で受け取る場合(税金がかかるケース)
勤続年数:30年
退職金の受け取り方法:一時金
退職金の金額:2,200万円
前述したように、勤続年数から退職所得控除額を求めたあと、課税退職所得金額を計算します。課税退職所得金額が算出できたら、所得税・復興特別所得税・住民税を計算しましょう。
STEP | 計算式 | 試算額 |
---|---|---|
①退職所得控除額 | 800万円+70万円×(30年−20年) | 1,500万円 |
②課税退職所得金額 | (2,200万円−1,500万円)× 1/2 | 350万円 |
③所得税額 | 350万円×20%−42万7,500円 | 27万2,500円 |
④復興特別所得税額 | 27万2,500円×2.1% | 5,700円(100円未満切り捨て) |
⑤住民税額 | 350万円×10% | 35万円 |
勤続年数30年で退職金2,200万円を一時金として受け取った場合の税額は、合計62万8,200円(③+④+⑤)となりました。計算してみると退職所得控除額が大きく、税負担が軽減されていることがわかります。
②一時金で受け取る場合(税金がかからないケース)
退職金に税金がかからないのは、退職金の額面が退職所得控除額より少ない場合です。退職所得控除額は前述の計算方法を使って、算出することができます。以下は、勤続年数と課税されない退職金額です。
〈表〉勤続年数と課税されない退職金の上限額
勤続年数 | 課税されない退職金の上限額(万円) |
---|---|
1年 | 80万円 |
5年 | 200万円 |
10年 | 400万円 |
15年 | 600万円 |
20年 | 800万円 |
25年 | 1,150万円 |
30年 | 1,500万円 |
35年 | 1,850万円 |
40年 | 2,200万円 |
退職金にかかる税金は確定申告で還付される場合もある

画像:iStock.com/pcess609
一時金で退職金を受け取る際に「退職所得の受給に関する申告書」を提出し、源泉徴収されていれば確定申告は必要ありません。しかし、提出していない場合、一律20.42%の所得税及び復興特別所得税が引かれています。確定申告をして還付金を受け取りましょう。
また、年間の所得額が少なく、それに対して所得控除や税額控除が多い場合は確定申告で税金が還付される可能性があります。主な所得控除は、人的控除や社会保険料控除・医療費控除・生命保険料控除・地震保険料控除などです。退職金は確定申告不要と決めつけずに、一度計算してみましょう。
なお、確定申告をして税金が還付されるケースについて、以下の記事で詳しくご紹介しています。併せて参考にしてみてください。
退職金の受け取り方法は税制を考慮して決めよう

画像:iStock.com/upawat bursuk
退職金は、給与やボーナスと同様に所得税や住民税などが課税されます。前述した退職金の意味合いから一時金には税制上の優遇がされており、課税額が軽減されるメリットがあります。
一方、年金として受け取る場合は雑所得扱いで退職所得控除が適用されないため、支払う税金は高くなる可能性があります。
どちらで受け取るほうがいいかは人によって異なります。退職金を受け取る際には、税制も考慮して自分にメリットがあるほうを選択しましょう。