※この記事は2022年1月25日に公開した内容を最新情報に更新しています。
失業保険とは
失業保険は正式には雇用保険といい、雇用保険に加入している人が“特定の条件下”で受給できるお金(基本手当)を失業手当といいます。
失業保険の受給要件
失業保険は、失業者なら誰でも受給できるわけではなく、以下4つの項目によって失業手当を受給できるかどうか、または受給開始日(退職からどれほどの期間で受給が開始されるか)や受給期間が決まります。
〈表〉失業保険受給の4つのポイント
①働く意思・能力
②求職の意思
③雇用保険への加入
④退職理由(自己都合退職か、会社都合退職か)
失業手当を受け取るには、失業状態である上に①働く意思・能力や②求職の意思がなければいけません。そのため、ハローワークに行き、求職活動を行う必要があります。
③雇用保険への加入も必須となります。離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12カ月以上あれば失業保険の受給資格があります。ただし、倒産・解雇など会社の都合での離職の場合は「特定受給資格者」または「特定理由離職者」となり、離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6カ月以上ある場合に失業手当を受給できます。
④退職理由については、自分の都合による退職か、会社の都合による退職かによって受給期間や受給開始日が異なります。一般的に、会社都合の退職の場合、受給開始日は受給資格決定から約1カ月後、受給期間は90〜330日となり、自己都合退職の場合は、受給開始日は約3~4カ月後、受給期間が90〜150日となります。
失業保険の受給額
失業保険で受給できる金額(=受給額)は、退職の直前6カ月間の賃金(賞与を除く)をもとに決められます。まず、1日当たりの受給額(=基本手当日額)が計算されます。具体的な計算方法は以下のとおりです。
〈表〉基本手当日額の計算式
基本手当日額=退職前6カ月間の給与総額(賞与は除く)÷180日×給付率(50~80%)
給付率は、賃金日額が低い人のほうが高くなります。この基本手当日額が受給期間の分だけ発生します。なお受給期間については、前述のとおり、個人の退職事情などで変わります。
本記事で重要となる「扶養」との兼ね合いでは、基本手当日額の金額が重要になります。
〈基本手当日額の一例〉1)
・賃金日額2,746円以上5,110円未満の場合
規定で給付率80%と定められているため、基本手当日額は2,196~4,087円
失業保険を申請するには、退職する会社から離職票を受け取り、ハローワークで失業手当受給手続きを行います。その後、ハローワークで受給説明会に参加します。この時発行される「雇用保険受給資格証」に、受給者の基本手当日額や所定給付日数などが記載されています。
なお、このあとに求職活動を行うと、失業手当が口座に振り込まれます。
失業保険の受給要件やタイミングについては以下の記事でより詳しくまとめていますのでコチラをご覧ください。
【関連記事】失業保険(失業手当)をもらえる条件とは?期間や金額、手続きを解説
失業後に家族の扶養に入る条件
結婚している状態で一定の収入額を下回った場合、配偶者の「扶養」に入ることが可能です。扶養に入ると、年金や健康保険の保険料、あるいは所得税などの税金面でメリットが生じます。
そもそも扶養とは
一般的に「扶養」が指す意味は2種類あります。
- 税制上の扶養
- 社会保険上の扶養
2つの扶養はメリットや入る要件が異なるため、注意が必要です。
「税制上の扶養」とは、自身の収入が一定額を下回った場合に、その人自身の所得税や住民税が免除されるだけでなく、配偶者の所得にも「配偶者控除」「配偶者特別控除」などの所得控除が適用されることを意味します。これにより、配偶者の所得税や住民税が少なくなります。
一方、「社会保険上の扶養」とは、収入が一定額を下回った場合に、自身の社会保険料(年金保険料や健康保険料のこと)が免除されることです。仮に妻が夫の扶養に入れば、妻は年金や健康保険に加入でき、その社会保険料は夫の勤務先が納付します。すなわち妻の負担はゼロになります。
扶養に入る条件
失業後に家族の扶養に入る場合の収入の基準は以下のとおりです。
〈表〉扶養に入る収入の基準
税制上の扶養
- 年収103万円未満
社会保険上の扶養
- 年収が130万円未満であること(60歳以上は180万円未満)
- 年収が被保険者の年収の1/2未満
気をつけていただきたいのが、年収の考え方です。税制上の扶養は退職した年の見込み年収を想定しますが、社会保険上の扶養においては、過去の収入ではなく、今後1年間に予想される収入をもとに計算します。
なお、年収130万円以下でも扶養に入れないケースがいくつかあります。それらについては、扶養の詳細をまとめた以下の記事をご覧ください。
【関連記事】扶養に入ると年金はどうなる? 保険料支払いの有無や受給額の変化、手続きをまとめて解説
失業保険の受給中に扶養に入れないことも! ケースを解説
失業者にとって、失業保険と扶養は大きな助けになる制度です。できれば両方とも活用したいところですが、失業手当を受給している場合には扶養に入れないケースも出てきます。
なお、先ほど扶養には2種類ある(税制上の扶養と社会保険上の扶養)とお伝えしましたが、失業保険の受給中に入れない可能性があるのは「社会保険上の扶養」です。税制上の扶養において、失業手当は非課税となり、扶養に入れるかどうかを左右する収入にはカウントされません。ですので、これ以降の「扶養」は、社会保険上の扶養を指すこととします。
社会保険上の扶養に入れないケースとは
社会保険上の扶養に入る基準のひとつとして年収130万円を挙げました。社会保険上の扶養では、失業手当も収入扱いになるため、仮にその金額が年間130万円を超えると扶養に入れなくなります。
失業保険の基本手当日額が3,612円以上になると、年収130万円を超えることになります。前述のように、扶養の収入は「これから1年間で予想される収入」になりますので、3,612円以上の基本手当日額で受給を開始した場合、扶養に入ることはできません。
ハローワークで雇用保険受給資格証をもらったら、基本手当日額が書かれています。必ずその金額を確認しておきましょう。
130万円を超える場合でも、失業保険の給付が始まるまでの期間は扶養に入れる!
ハローワークで失業保険を申請してから実際に給付が始まるまでには約1~4カ月あります。この期間は退職の理由(会社都合か自己都合か)により異なります。
仮に基本手当日額が3,612円を超えていても、受給開始までは収入がないため、扶養に入ることが可能です。長い場合は受給まで4カ月かかるので、その間は扶養に入り、受給開始日から扶養を外すのがよいでしょう。
もしも知らずに、失業手当を受給しながら扶養に入っていたらどうなる?
仮に、失業手当が130万円の壁を超えていたにもかかわらず、扶養に入った場合はどうなるのでしょうか。
知らずに扶養に入ってしまったのなら、被扶養者の勤務先にその旨を伝えて、すみやかに扶養から抜ける必要があります。 さらに事務処理が求められる場合もあります。たとえば、扶養に入っている間に医療機関にかかっていた場合は、社会保険が負担していた医療費の7割をさかのぼって返還する必要があります。
以下では、健康保険、年金、失業保険でするべき手続きについて説明します。
健康保険について
わかりやすく説明するために、仮に妻が夫の扶養に入っていたケースを想定します。130万円の壁を超えていることがわかった場合、扶養を外すことになり、夫は加入先の保険組合に妻の「資格喪失届」を出す必要があります。
妻が誤って扶養に入っていた期間に保険証を使用して通院した場合などは、その医療費を妻が3割負担し、残り7割は夫の保険組合が負担していたはずです。これは無効になりますので、前述のように、妻は7割の費用を一度、夫の保険組合に納める必要があります。
妻は130万円の壁を超えており、本来夫の保険組合には入れないので、別途国民健康保険などに加入し直し、その期間の保険料をさかのぼって支払う必要が出てきます。その後、妻の国民健康保険への加入手続きが済むと、先ほど支払った7割の医療費は国保から妻の手元に返ってきます。
年金について
年金については、本来なら退職後は国民年金を支払う必要があります。誤って扶養に入っていた場合は、さかのぼって届出(第3号被保険者から第1号被保険者への切り替えの届出)を出して、保険料を納めなくてはなりません。この届出が2年以上遅れた場合、2年より前の期間は保険料を納付することができないため、保険料の「未納期間」が発生します。
なお、失業中については、国民年金は申請によって特例免除を受けることも可能です。免除を受けた期間は国民年金の加入期間には数えられますが、将来受け取る年金は「納付した月数」をもとに換算されるので、免除された分、給付額は少なくなります。そのほか、納付を先延ばしにする「納付猶予」の制度もあります。
失業保険について
失業保険については、130万円の壁を超えていても返金や減額などの手続きは発生しません。扶養に入ることが、失業保険の受給要件に影響を与えないためです。
失業保険を受給するか、扶養に入るかを決めるタイミング
退職後の失業保険の受給と扶養の手続きの流れを列記し、2つのメリットを同時に受けられるかどうかを確認するタイミングをまとめました。
① 退職する会社から離職票を受け取る
② 配偶者の扶養に入る手続きをする
③ ハローワークに行き、受給説明会に参加し、「雇用保険受給資格者証」を受け取る
②の段階では、失業保険の受給額にかかわらず、給付が始まるまでは扶養に入れます。この間の社会保険料は負担しなくてよくなります。また、③の段階で、記載されている基本手当日額が3,612円(=年収130万円の壁)を超えるかどうかを確認しましょう。3,612円を超えてない場合は、扶養に入ったまま失業手当を受給できます。3,612円を超えている場合は、失業手当の給付が始まる前に扶養を外します。
失業保険と扶養、どっちが得?
この記事のおさらいとして、失業者の置かれている状況に対し、失業保険の受給と扶養をどう選べばいいか考えてみます。
失業保険と扶養のどちらか迷った時の考え方
もしも失業手当が「130万円の壁」を超えることで、扶養に入れない場合、どちらを選べばよいのでしょうか。正しい選択をするためには、事前に2つの制度で発生するメリットを比較するとよいでしょう。
●失業保険のメリット
「基本手当日額×給付日数」の手当を受給できる。ただし、社会保険料(国民年金と国民健康保険)は支払う。
つまり扶養に入らない場合は、(失業手当-社会保険料)がメリットになります。
●社会保険上の扶養のメリット
年金や健康保険といった社会保険の支払いが免除される。
一方、扶養に入る場合は、社会保険料分がメリットになります。
この2つを比べ、よりメリットの高いほうを選ぶのがよいでしょう。
【扶養に入るほうが得】妊娠をきっかけに退職した場合
妊娠による退職の場合、その期間に働くことは難しいのが一般的です。そのため、失業保険の受給要件である「働く意思・能力」と「求職の意思」が認められず、失業手当が受給できない可能性が高いと考えられます。迷わず扶養に入りましょう。
なお、妊娠にともなう退職の場合、失業保険の受給期間を3年間延長できます。退職から4年以内であれば、妊娠や育児が終わり、働く意思・能力と求職の意思が生まれた段階から失業手当を受給できるのです。
この際、基本手当日額が3,612円を超えないか確認しましょう。超える場合は扶養を外す必要があります。
【関連記事】妊娠中でも失業保険は受給できる? 詳しくはコチラ
【失業保険のほうが得】失業保険の受給額が「130万円の壁」をわずかに上回る場合
もし失業保険の受給額が130万円の壁(基本手当日額3,612円)をわずかに上回る場合、失業保険と扶養のどちらを優先するほうがメリットは大きいのでしょうか。
ここでは基本手当日額が3,700円の場合で考えてみましょう。前述したように、失業保険と扶養のメリットを比較してみます。
●失業保険を優先した場合のメリット
失業手当として、11万1,000円(基本手当日額3,700円×30日間)が受け取れる。
※失業手当の支給は、2回目以降4週単位(28日分)ですが、ここでは社会保険料1カ月分と比較するため30日間で計算しています。
ただし、社会保険料は支払う必要があります。国民年金保険料
▲1万6,980円(※1)
※1:2024年1月現在。
国民健康保険料(退職先の健康保険を任意継続しなかった場合)
▲1万2,680円(※2)
※2:東京都新宿区の国民健康保険料の目安と照らし合わせた場合(「介護分あり」で算出)。失業保険の基本手当日額が3,700円、それを決める際の給付率が80%と考え、前年度の賃金日額を4,625円と想定。国民健康保険料は前年度の所得から算出されるため、これらを踏まえ、30日間の月収は13万8,750円、年収は1,66万5,000円として計算。
(東京都新宿区の保険料の計算方法について)
社会保険料を支払った場合の総額は以下になります。
11万1,000円ー(1万6,980円+1万2,680円)=8万1,340円
●扶養によって減る負担額(国民年金+国民健康保険)
国民年金保険料
▲1万6,980円(※1)
国民健康保険料
▲1万2,680円(※2)
扶養を優先した場合は、以下を負担することになります。
1万6,980円+1万2,680円=2万9,660円
失業保険を選択した場合は8万1,340円が受け取れますが、扶養に入った場合は2万9,660 円を負担することになります。両者を比較すると、明らかに失業保険を受給した方がメリットは大きいことがわかります。扶養には入らず、失業保険の受給を優先するのがよいでしょう。
【失業保険+扶養】もともと年収130万円以内で働いていて扶養に入っていた場合
前職での年収が130万円以内であれば、その後の失業手当が130万円を超える可能性は基本的にないといえます。ですので、失業保険の受給を申請し、扶養もそのまま継続しましょう。
失業保険と扶養にまつわる「よくある質問」
これまでの復習も兼ねて、失業保険と扶養にまつわる「よくある質問」を紹介します。
Q1.妻(夫)が会社を退職後、扶養に入ることできる?
扶養に入ることは可能です。ただし、失業保険の基本手当日額が3,612円以上になると、年収130万円を超えることになり、扶養から外れる必要が生じます。ハローワークで雇用保険受給資格証をもらったら、基本手当日額が書かれています。必ずその金額を確認しておきましょう。
Q2.失業保険の受給中、被扶養者になれない理由は?
社会保険上の扶養では、失業手当も収入扱いになるため、仮にその金額が年間130万円を超えると扶養に入れなくなります。つまり3,612円以上の基本手当日額で受給を開始した場合、年収130万円を超えることになるので、扶養に入ることはできません。
Q3.妻(夫)が会社を退職したが、今年の収入が130万以上あった場合、扶養に入れるタイミングは?
受給開始までは収入がないため、この期間は扶養に入ることが可能です。ハローワークで失業保険を申請してから実際に給付が始まるまでには約1~4カ月あります。この期間は退職の理由(会社都合か自己都合か)により異なります。失業保険の基本手当日額が3,612円を超えていたら、扶養から外れましょう。
Q4.失業保険の受給中、扶養から外れる手続きを忘れた場合はどうなる?
扶養に入っていた期間に保険証を使用して通院した場合などは、その医療費は3割が自己負担、残り7割は扶養者の保険組合が負担していたはずです。これが無効になるので、扶養者の保険組合に医療費の残り7割を納める必要があります。
130万円の壁に注意しながら、失業保険と扶養の手続きを適切に行おう
失業者にとって助けとなる失業保険と扶養。どちらも活用したいところですが、2つにはそれぞれ要件があります。要件を超えた範囲で入ると様々な手続きが発生するので、失業した場合は細かく確認しておくのがよいでしょう。