金融広報中央委員会が実施した「金融リテラシー調査(2019年)」1)。そのなかで、金融知識に関する質問を実施したところ、都道府県によって正答率や回答傾向に差があることがわかりました。この差はどこからきているのでしょうか?

そこで、経営コンサルタントでありながら、TV番組でも県民博士として監修を務める、矢野新一さんに「お金と県民性」に関して取材し、その関係を解き明かしていきます。

連載「県民マネー図鑑」第3回目のテーマは、「老後の資金計画を立てている人」が多い県です。

お話を聞いた人

矢野新一さん

株式会社№1戦略研究所 所長。市場調査機関を経て、株式会社ランチェスターシステムズに入社。企業のランチェスター戦略導入に東奔西走。その後、現研究所を設立、現在に至る。著書に『ランチェスター戦略の教科書』『犬猿県』など60冊を超える。
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最近、よく耳にする「人生100年時代」という言葉。当然、長生きすれば、それだけ老後資金も必要になります。

金融庁の報告書「高齢社会における資産形成・管理」2)には、

高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている。(中略)不足額約5万円が毎月発生する場合には、20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の取崩しが必要になる

と記されています。

いわゆる、「老後2000万円問題」としてクローズアップされたので、資金計画を立てる必要性を感じた方も多いのではないでしょうか。

そこで、今回は「老後の生活費について資金計画を立てている人の割合」の多い都道府県をピックアップ。「金融リテラシー調査(2019年)」の結果では、1位は同率で、北海道、新潟県、山梨県の三道県でした。その県民性からは、先々を見据えて資金計画を立てるヒントが見つかるかもしれません。

〈図〉老後の生活費について資金計画を立てている人の割合

画像2: 県民マネー図鑑#3 老後の資金計画を立てているのは、厳しい自然と対峙してきた三県!?

県民性博士の矢野新一さんに、それぞれの県民が持つ金銭感覚について伺いました。

おおらかだけど現実的で合理的。独自の文化を持つ「北海道民」

画像: おおらかだけど現実的で合理的。独自の文化を持つ「北海道民」

まずは北海道。現在の北海道は、明治以降に入植した人々を中心に開拓され、発展してきました。「様々な地域から集まったので、歴史の長い旧家や古くからの風習などが少ない。ある種、日本の中では独自の県民性を持っています」と矢野さん。

「道民の多くは、元々が入植者で皆がよそ者と言えます。なので、よそ者にも寛容で、排他的なムードはありません。雄大な自然も相まって、すべてに寛容でおおらかなのが特徴です」

しかし、厳冬を乗り越え開拓するには、おおらかさだけではやっていけません。そのため道民は、現実主義でもあるといいます。その象徴的な側面が、金銭感覚。矢野さんによると「合理的の一言に尽きる」とのこと。

「有名なのは結婚式。北海道は古くから会費制が一般的でした。あるスーパーが提案した<一物三価>という考え方もあります。北海道以外では、ひとつの品物に3つの価格がある時に使われる表現ですが、北海道では、同じ商品でも2つ、3つとまとめ買いすることでお得になるといった意味合いでも使われることがあるようです。また、お買い得な大容量パックが多いのも北海道の特徴でしょう。ただし、これはケチとは違います。実際、お金をかけているところにはかけています。例えば、必要以上に部屋を暖める傾向があるので暖房費も高くなりがち。真冬でも屋内ではTシャツで過ごすような人もいますし、東京に訪れた時など部屋が寒いと感じる道民は少なくありません」

矢野さんは「この現実的な視点が、老後の資金計画にも現れているのかもしれません。老後を楽観しすぎないで、必要なお金のことを考えている。ただ、これは私の予想ですが、基本的にはおおらかな性格の人が多いので、細かいライフプランニングまでは立てていないのではないでしょうか」と分析してくれました。

質実剛健、真面目で堅実。だけど、お酒だけはやめられない新潟県

画像: 質実剛健、真面目で堅実。だけど、お酒だけはやめられない新潟県

次は、新潟県です。矢野さんはその県民性を「真面目で勤勉」と語ります。新潟と言えば、戦国まで遡れば上杉家の所領。質実剛健な上杉謙信公や質素倹約を旨とする上杉鷹山公など、真面目さや勤勉さは脈々と続いている気質なのです。

「だからこそ、大変なことでも面倒と思わず、こつこつとやりとげることができる。雪深い厳しい自然を乗り越え、日本屈指の米所になれた一因でしょう。また、雪で閉ざされる冬は、江戸へ商売に出る人が多かった。これは出稼ぎへと形を変えて、延々と続いてきます。この辺りにも真面目で勤勉な一面が見てとれますね」(矢野さん)

この真面目さは、金銭面でも発揮されます。矢野さんによると、「無駄遣いや衝動買いはせず、堅実なのが特徴。老後の資金計画に関しても、真面目で堅実だからこそしっかりと考えている人が多いのでしょう」とのこと。

ちなみに、そんな新潟県民は何にお金を使っているのでしょうか。

「酒どころだけにお酒、特に日本酒(清酒)の1人あたりの消費量は日本一3)。飲みにはお金をかけているようです(笑)」

「上げ底」を発明したのは甲州商人。商売っ気があふれる山梨県民

最後は、山梨県。矢野さんによると、「“甲州商人”と“無尽(むじん)”が県民の金銭感覚を読み解くポイント」なのだとか。

「山梨は四方を山に囲まれた盆地に町が発展しました。土地が少ないので、農家は長男が継ぎ、次男以降は商人となり家を出る。これが、甲府商人が誕生する発端です。彼らは、利益を得るために手を変え品を変え、その豪腕振りを発揮しました。例えば、量を多く見せる<上げ底>の容器を発明したのは、甲府商人と言われています。お金に細かく、行動力がある姿勢は、土地の言葉で“メチャカモン”と呼ばれています」

商人気質だけに、無駄遣いはせずにお金を貯める気質だという山梨県民。その一方で、七五三は結婚式の披露宴並みの豪華さを誇るなど、見栄っ張りな一面もあるそうです。

山梨県民の金銭感覚を語る上で欠かせないもうひとつの要素が「無尽」。これは、江戸時代に広まった庶民の互助的な民間金融組織です。「無尽講」「頼母子講」「もあい」といった呼ばれ方で、全国各地に存在していましたが、今でも日常的に残っている土地の筆頭格が山梨なのだとか。

「今は金融というよりも、無尽仲間同士で積み立てたお金で食事会を開いたり旅行に行ったりするのが一般的です。山梨の居酒屋では、無尽の宴会承ります、と書いてあることも珍しくありません。いくつもの無尽を掛け持ちしている人も多いようですね。無尽は、一度参加すると一生のお付き合い。途中で参加したり辞めたりすることはできません。先々のお金のことを考える機会が多くなるので、それが老後の資金計画にもつながっているのかもしれませんね」

自然環境が厳しい土地だからこそ、将来に備える気質が育まれた

画像: 自然環境が厳しい土地だからこそ、将来に備える気質が育まれた

矢野さんは、北海道、新潟、山梨の共通点として、自然環境が厳しい土地であることを上げます。

「北海道は厳冬の中、開拓を進めました。新潟は冬になると雪深く閉ざされてしまうなかでも米どころとなった。山梨は土地が少ないからこそ、甲州商人が育った。三者三様ではありますが、いずれも、恵まれた土地ではなかったところから発展しました。だからこそ、無駄なお金は使わず、将来のために備えるという気質が生まれ、それが老後の資金計画につながったのだと思います」

ちなみに、今回のテーマである「老後の資金計画」を聞いた時、矢野さんが最初に思い浮かんだのは長野県なのだとか。

「山国で冬場の気候も厳しい長野県。生真面目で誠実、ときに頑固でお金に細かい県民性です。これらは既出の三道県にも通じます。加えて、勉強熱心な教育県で、長寿県でもあることから、老後に関しても意識が高いはずだと感じました」

矢野さんがおっしゃる通り、実は長野は、同率1位の3道県に次いで、老後の資金計画を考えている人が多い都道府県の2位! 金融リテラシーの高さでも2位という結果を残しているのです。

「似たような条件の県が老後をしっかりと考えているのは興味深いですね。個別の事情は違えども、土地の特性や歴史が県民の金銭感覚に与える影響は大きいと言えるでしょう」

楽観的な性格を自覚している方ならば、少しだけ現実的な視点を見習って老後の資金計画を考えてみてはいかがでしょうか。

イラスト/石井里果

この記事の著者

笹林司

インタビュー記事を中心に、ビジネス、自動車、最先端技術など、様々な分野の媒体に寄稿。複数分野の視点を組み合わせることで、少しだけためになる記事を目指しています。

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