この記事では、フィナンシャルプランナー・坪谷亮さん監修のもと、そもそも先進医療についてわかりやすく解説します。先進医療を受けるのにかかる費用やその負担を軽減する方法についても説明します。
この記事の監修者
坪谷 亮(つぼや たすく)
大学時にFPについて知り、22歳までにCFP®を取得。FP(金融)業界の現状を知り、お客様との利益相反を一度も起こしたくないという思いから、FPサテライト株式会社に入社し、現在は取締役を務める。個人のお客様だけでなく、法人向けのコンサルティングにも対応するために、中小企業診断士の勉強を経て2021年度に一次試験合格を果たす。個人、法人両方のコンサルティングを中立的な視点からサポートすることを心掛けている。
先進医療とは
「先進医療」とは、公的医療保険の対象にするかの検討段階にある治療・手術などを指します1)。指定の大学病院などで研究・開発され、ある程度実績を積んで確立されると、厚生労働省に「先進医療」として認められます。
先進医療は医療技術ごとに治療を実施できる医療機関が限定されています。厚生労働省が認めている医療機関以外で先進医療と同様の治療・手術などを受けても、先進医療とは認められませんので注意が必要です。
参考資料
先進医療の種類
では、先進医療にはどれだけの種類があるのでしょう。現在、厚生労働省に「先進医療」として認められている治療法は、81種類あります。なお、81種類の先進医療は「第2項先進医療(先進医療A)」と、「第3項先進医療(先進医療B)」の2つに大別されています2)。
〈表〉先進医療AとBの定義
先進医療A | ・未承認の医薬品や医療器具の適用外使用を伴わない技術 ・人体への影響が極めて小さい |
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先進医療B | ・未承認の医薬品や医療器具の適用外使用を伴う技術 ・未承認の医薬品や医療器具の適用外使用を伴わないが、安全性や有効性などについて重点的な観察・評価を必要とする技術 |
このように「先進医療A」と「先進医療B」の違いは、「未承認の医薬品や医療器具を使用するか」「人体への影響が少ないとわかっているか」の2点です。
代表的な先進医療にはどんなものがある?
詳しくは後述しますがよく知られている先進医療の中には、がんの治療に用いられる「陽子線治療」や「重粒子線治療」などがあります。そのほかで、実施件数が比較的多い先進医療の技術は以下です3)。
〈表〉代表的な先進医療
抗悪性腫瘍剤治療における薬剤耐性遺伝子検査 | 手術中に得た組織にPCR法で抗がん剤耐性遺伝子を測定し、腫瘍に対する抗がん剤の感受性を調べる。その結果に基づくことで抗がん剤でより高い効果を得たり、不必要な副作用を避けたりすることができる |
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タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養 | 培養器に内蔵したカメラで15分ごとに自動撮影ながら、受精卵を育てる方法。受精卵への環境変化を最小限に抑えたり、より正確な受精判定を行ったりするのに役立つ |
子宮内膜刺激術 | 受精卵の培養液で子宮内膜を刺激し、胚受容能力を促す技術。受精卵を培養した液の上澄みを保存し、胚移植前に子宮内に注入することで、子宮内膜が受精卵を受容しやすくなる環境づくりを助ける |
参考資料
がんで使われる先進医療
前述のように、先進医療はがん治療においても活用されています。
がんの3大治療のひとつである放射線治療は、放射線を照射することでがん細胞にダメージを与える治療です。放射線治療で使用される放射線は、X線やガンマ線などが一般的です。
しかし、X線やガンマ線には体の外から照射すると、体の表面で最もエネルギーが高まり、体内に進むに従って力が弱まってしまうという弱点がありました。また、病巣周辺にある正常な組織に放射線が当たると、その部分もダメージを受けてしまうため、がん細胞だけにピンポイントで照射することも課題でした。
こうした弱点を補うために開発されたのが「粒子線治療」です。粒子線治療には、「陽子線治療」と「重粒子線治療」の2つがあり、いずれも先進医療に定められています3)。
〈表〉陽子線治療と重粒子線治療の内容
陽子線治療 | 最も軽い元素である水素の原子核を加速してできる陽子線を患部に照射する放射線療法 |
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重粒子線治療 | 光速の70%ほどに加速した炭素イオン線を患部に照射する放射線療法 |
陽子線治療に使われる陽子線や、重粒子治療の炭素イオン線は粒子線の一種で、粒子線にはある一定の深さで最大のエネルギーを放出する特徴があります。この特徴を活用することで、最もエネルギーが強まる部分を病巣部に合わせて照射し、がん細胞周辺の正常な組織へのダメージを最小限の抑えた治療をすることができるのです。
陽子線治療も重粒子線治療も治療方法の原理はほとんど一緒ですが、陽子線治療は重粒子治療に比べて小型の装置・施設を使用するため、費用がより低くなる傾向にあります。また、手術を行わず治療を行えるため身体的な負担が少なくすみ、早い社会復帰を目指すことができます。
陽子線治療は、治療効果が高く、患者の体への負担や副作用が軽いという点でも注目されています。一方、重粒子線治療は細胞致死性が高く、従来の放射線療法では効果が期待できない難治がんに活用されています。なお、粒子線治療の一部は、先進医療を経て、すでに保険診療として認められています。
<コラム>公的医療保険の対象となった先進医療
前述のように、「先進医療」とは、公的医療保険の対象にするかの検討段階にある治療・手術などのことを指します。つまり先進医療として実績を積み重ねると、公的医療保険の対象となることもあるのです。
先進医療から保険適用になった治療法の中で、よく知られているものの一例として「インプラント治療」が挙げられます。インプラント治療は、2012年3月31日まで一部が先進医療として認められていました。しかし、同年4月1日より特定の症例のもとで、公的医療保険が適用されるようになりました。
また、白内障の治療法のひとつである「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」は2020年3月末に先進医療から外れました。現在では「選定療養(※)」4)として扱われています。
※:追加費用を負担すれば、保険適用の治療と併せて受けることができる医療サービス
先進医療を受診するまでの流れ
先進医療は患者が希望し、かつ医師がその必要性と合理性を認めた場合に治療を受けることができます。その流れは具体的には以下のようになります。
①主治医に相談し、先進医療を行う医療機関への紹介状を書いてもらう
②先進医療に関わる専門医に治療内容の説明を聞く
③専門医が治療は必要と判断した場合、同意書にサインする
④治療を開始する
先進医療の治療を受けることができるかどうかは、専門医はもちろん、患者本人の判断にもよります。先進医療が保険適用対象外であるということは、適用対象となっている治療法に比べて、リスクを伴います。だからこそ、専門医の説明を理解や納得することが重要であることも覚えておきましょう。
先進医療の費用
先進医療の技術料は公的医療保険の対象外で、全額自己負担となります。ただし、先進医療の支払いには、「保険外併用療養費制度」が適用されます。保険外併用療養費制度とは、保険外診療の中でも厚生労働省が定める「評価療養(保険導入のための評価を行っている治療)」と「選定療養(保険導入を前提としない治療)」については、通常の治療と共通する部分の費用を保険診療と同様の負担となる制度です。
先進医療は「評価療養」に区分されるため、先進医療の技術料以外の診察代、検査代、薬代、入院費などの治療費は、保険診療として受けることができます。この保険診療となった部分に関しては、高額療養費制度の対象になります。高額療養費制度とは、医療費の家計負担が重くならないよう、1カ月の医療費が一定額を超過した場合に超過分の給付を受けられる制度です5)。
高額療養費制度についてもっと知りたい人は、以下の記事で詳しく説明しているので、ぜひ併せてご覧ください。
【関連記事】「高額療養費制度」で対象外となる費用とは? 詳細はコチラ
先進医療の技術費200万円の治療を受けた時の自己負担額は?
では、1カ月の総医療費が300万円、そのうち先進医療の技術料が200万円だった場合、自己負担で支払う金額はいくらになるか、見ていきましょう。
〈表〉総医療費300万円のうち先進医療が200万円の場合
公的医療保険の対象となる治療費100万円は保険適用になるため、その3割に当たる30万円が自己負担額となります。しかし、保険診療は1カ月の自己負担限度額を超える場合、高額療養費が支給されます。治療を受けた人が70歳未満で年収約370万~約770万円と仮定した場合、自己負担額は「8万100円+(30万円-26万7,000円)×1%」で8万430円になります。
一方、先進医療の技術料200万円は全額自己負担です。保険適用分と合計すると、支払う金額は「200万円+8万430円」で208万430円となります。
〈表〉総医療費300万円のうち全額が保険診療の場合
なお、1カ月の総医療費300万円が先進医療の治療を含まず、公的医療保険の適用内だった場合、70歳未満で年収約370万~約770万円の人であれば、300万円のうち90万円が自己負担となります。ただし自己負担額90万円に対し、高額療養費が支給されるため、「8万100円+(90万円-26万7,000円)×1%」で8万6,430円が自己負担額となります。
このように保険適用の場合とそうでない場合で、医療費は大きく変わります。
代表的な先進医療の費用はどれくらい?
先進医療の費用は1万円程度のものから数百万円するものまで様々です。厚生労働省資料をもとに、これまでに説明した先進技術の技術料を紹介します6)。
〈表〉代表的な先進医療の技術料
技術名 | 技術料平均額 | 平均入院期間 | 年間実施件数 |
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抗悪性腫瘍剤治療における薬剤耐性遺伝子検査 | 3万7,423円 | 44日 | 227件 |
タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養 | 3万2,558円 | なし | 1万5,832件 |
子宮内膜刺激術 | 3万3,546円 | なし | 1,814件 |
陽子線治療 | 269万2,988円 | 14.9日 | 1,293件 |
重粒子線治療 | 316万2,781円 | 5.3日 | 562件 |
先進医療の技術料は年間の実施件数や実施医療機関の数、入院日数などに左右されます。ただし、陽子線治療や重粒子線治療のようにその治療自体が高額な場合もあります。
参考資料
先進医療の支払いに役立つ保険と選び方
先進医療は対象になる病気や治療を受けることができる医療機関が限られているため、実際に利用する可能性は低いと思われるかもしれません。しかし、実際に先進医療を受けるとなった時、高額な技術料が負担になる事態を避けるためには、民間の保険などで対策をすることが一手です。ただし、先進医療のみの保険は基本的になく、基本的には医療保険やがん保険などに「先進医療特約」として付けることになります。
医療保険やがん保険についてもっと知りたい人は、以下の記事で詳しく説明しているので、ぜひ併せてご覧ください。
【関連記事】医療保険の選び方、ポイントは?詳細はコチラ
【関連記事】がん保険の選び方は?詳細はコチラ
先進医療特約とは
先進医療特約は、先進医療を受けた際に特約の上限内で支払いを保障するものです。先進医療特約の上限は通算で1,000万円や2,000万円の場合が一般的です。
前述のように、中には先進医療保険として単独で加入することができる保険商品もありますが、先進医療特約は医療保険やがん保険の主契約をベースに特約として付加するのが一般的です。その場合の保険料は100〜1,000円程度になります。
先進医療特約を付けるメリットとデメリット
先進医療特約のメリットは、少額の保険料で万が一の際に多額の治療費を負担せず、選択肢を検討できることです。デメリットは、認定されている先進医療の技術や治療を受けられる医療機関が限定されていることもあり、結果的に保険料が掛け捨てになってしまう可能性があることです。
特約の保険掛金は100〜1,000円程度のものがほとんどなので、一見保険料負担は少なそうですが、長年積み重ねれば、数万円以上の支出にはなります。ただし、自己負担額が数百万円かかる治療を受けたい場合に、全額を自己負担しなくて済むことは、経済的に大きな安心を得られるともいえます。
自身が想定するリスクに合わせて、加入を検討しましょう。
がん保険と医療保険、どちらに付けるのがおすすめ?
先進医療特約は医療保険やがん保険に付加するのが一般的です。どちらの保険に付加するかによって保障される範囲が異なるため、特約の付加を検討する際はそれぞれの違いを知っておくことが重要です。
医療保険に付加した場合、がんを含め幅広い病気やケガの先進医療に対して保障が受けられます。一方で、がん保険に付加した場合、対象はがんの先進医療に関するもののみです。医療保険のほうががん保険よりも保障範囲が広いため、どちらに付加すべきか迷った際は医療保険を選択するとよいでしょう。
ただし、医療保険だと保障範囲が広い分、保険料も高くなる可能性があります。保険料の面も事前に十分に検討しましょう。
また、基本的に先進医療特約は1つの保険会社で重複加入できない決まりになっています。そのため、先進医療特約を検討する時は、どの契約に付加するのがよいか保険会社に相談しましょう。
▶︎参考になる保険例
メディカルKit R
あんしんがん治療保険
あんしん治療サポート保険
先進医療特約を選ぶ時の注意点
医療保険などに先進医療特約の付加を検討する際には、以下の6点に注意が必要です。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
①上限金額はいくらまでか
先進医療特約は、先進医療を受けた際に特約の上限内で支払いを保障するものです。1,000万円や2,000万円を上限としている場合が多く、実際にかかるお金を考えると上限には比較的余裕があるといえます。ただし、先進医療特約の上限金額は、一般的には「1回」や「1つの病気に対して」ではなく、「通算」となる点に注意が必要です。
②保障範囲はどこまでが対象か
先進医療特約を医療保険に付加する場合、厚生労働大臣が承認した先進医療が保障の対象となります。一方、がん保険の特約として付加する際は、がんに関連する先進医療のみが対象になります。
③更新型か終身型か
先進医療特約には「更新型」と「終身型」の2種類があります。終身型の場合は基本的に一生涯の保障が続きますが、更新型では定期的に保障内容や保険料が見直される可能性があります。保険料の値上がりを避けたい場合は終身型、その時々に応じて保障内容を見直したい場合は更新型を選ぶとよいでしょう。
保険会社によっては、先進医療特約をあとから主契約となる保険に付加したり、特約だけを解約したりすることができるものがあります。その場合は、終身型を選んでも、保障内容が希望するものと合致しなくなったら、見直しを行うことも可能です。
なお、主契約の医療保険やがん保険が終身型であったとしても、先進医療特約は更新型であるという場合もあります。契約内容をしっかりと確認しておきましょう。
④医療機関に直接支払いが可能か
先進医療特約を利用する際に、保険の給付金があとに支払われる場合は、一時的に多額の費用を用意しなければなりません。このような場合に備えて、保険会社から給付金を直接医療機関に支払ってもらうことができる先進医療特約を付加したほうが、負担が少なくて済みます。
ただし、直接支払いのサービスは「保険会社が指定している医療機関の場合のみ」というケースもあります。直接支払いを選ぶ場合には、指定されている医療機関がどこなのかを事前に確認しておきましょう。
⑤先進医療の対象は随時更新される
先進医療は前述のように「評価療養」と呼ばれるカテゴリーの1つになっています。評価療養とは、公的医療保険の未適用の治療のうち、主に安全性と有効性の観点から将来的に公的医療保険の適用にするかどうか検証されている医療行為のことをいいます。
検証の結果、有効性と安全性が認められれば、先進医療から公的医療保険の適用になる場合もありますし、逆に十分な有効性と安全性を確認できなければ先進医療から削除されることもあります。先進医療として承認されている医療行為の種類は随時変化していくため注意しましょう。
⑥責任開始日はいつか
責任開始日とは、契約の責任が保険会社に発生する日のことをいいます。一般的な保険の責任開始日は「申し込みや保険料の払い込みなどが完了した日」を指しますが、がん治療の保障に関しては契約の90日後に責任開始日が設定されていることが多くあります。
保険の契約から責任開始日以前は免責期間などと呼ばれ、期間中は保障の対象となりません。期間中に先進医療を受けても給付金を受け取れないため、特約を付加するなら健康な状態かつ早めに手続きしましょう。
先進医療に関するよくある質問
最後に、先進医療に対するよくある質問にお答えします。
Q先進医療の治療を受けられないのはどんな場合?
先進医療は、本人が希望し、さらに医師が必要性と合理性を認めた場合のみ受けられます。そのため、先進医療は誰でも受けられるものではありません。先進医療に興味がある場合には、適応される技術があるかどうか、まずは主治医に尋ねてみましょう。
Q先進医療で治療した場合、医療費控除はできる?
先進医療の技術料も、医療費控除の対象となります。医療費控除を受ける場合には、確定申告が必要です。先進医療にかかる費用、公的医療保険の適用部分についての一部負担金、食事代などの領収書は確定申告に必要となるので、大切に保管しておきましょう。
医療費控除についてもっと知りたい人は、以下の記事で詳しく説明しているので、ぜひ併せてご覧ください。
Q先端医療と先進医療の違いは?
先進医療は公的医療保険の対象にするかを検討する段階にある治療・手術を指すのに対し、先端医療は“最先端の技術を使った医療”を示す言葉です。先端医療には明白な定義はなく、医療制度には影響がない俗語といえるでしょう。
治療の選択肢を増やす先進医療の費用負担に備えておこう
先進医療は、一定の有効性や安全性を認められた高度な医療技術です。がんをはじめ、様々な病気の治療に用いられています。その技術は、これまで難しかった病状の改善に役立ったり、ほかの治療法をより効果的に行ったりすることを可能にしています。
しかし、先進医療の技術料は公的医療保険が適用されないため、高額な治療費がかかる可能性があります。そのため、先進医療を受ける可能性が低くても、万が一の際の費用に備えて先進医療特約・保険の検討も1つの選択肢に入れておきましょう。