費用が高い治療も少なくない不妊治療は、少しでも経済的負担を軽減したいものです。でも「どんな治療が医療費控除の対象なの?」「夫婦での医療費控除、どうやるの?」と悩む人もいるのではないでしょうか。

この記事では、ファイナンシャルプランナー・荒木千秋さん監修のもと、不妊治療の医療費控除について徹底解説します。

この記事の監修者

荒木 千秋(あらき ちあき)

ファイナンシャルプランナー。荒木FP事務所代表。10年間の銀行勤務を経て独立。これからの女性が人生を楽しむためには「お金・投資」との付き合い方を変えなければならないと確信し、現在は、大学講師、セミナー、ウェブ執筆、個別相談等を行っている。 著書に『「不安なのにな〜んにもしてない」女子のお金入門』(講談社)がある。

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医療費控除の対象となる不妊治療は?

画像: 画像:iStock.com/SeiyaTabuchi

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不妊治療の治療費や人工授精の費用は、医療費控除の対象です。具体的には以下5種類が医療費控除の対象になります1)

続いて、それぞれについて詳しく説明をしていきます。

①不妊治療と人工授精の費用

2022年4月から不妊治療と人工授精の費用は、公的医療保険の適用対象となりました2)。医療費控除の対象となる金額は、支払った医療費から保険給付や民間医療保険の給付金を差し引いた残額が医療費控除の対象となります。

〈表〉保険適用となった不妊治療と人工授精の種類

一般不妊治療タイミング法、人工授精
生殖補助医療採卵・採精、体外受精・顕微授精、受精卵・胚培養、胚凍結保存、胚移植

不妊治療の種類と費用について、詳しくは後述します。

②医薬品・漢方代

医師が処方する医薬品は医療費控除の対象です。医師の指示があったり、医薬品と定義されていたりすれば、不妊治療のために購入した漢方薬も控除の対象となります。

③あん摩マッサージ指圧師、鍼師、灸師、柔道整復師の施術代

あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による治療目的の施術は医療費控除の対象です。そのため、妊娠しにくい体質を改善するためのマッサージなどは医療費控除の対象になります。ただし、施術する人がこれらの国家資格を持っていることが控除対象となる条件なので、その点に注意しましょう。

④通院のための交通費

不妊治療を受けるために利用したバスや電車などの公共交通機関の料金は医療費控除の対象となります。通院に利用したとしても、タクシーの料金は対象外になります。また、行き先を示さずに「交通系ICカードのチャージ代」とするのも不可です。

【関連記事】交通費は医療費控除の対象? 条件や申請方法を徹底解説

⑤医師の紹介料

不妊治療を受ける際に、医療機関を変えたり、施術ができる医師に診てもらったりするための紹介状を医師に書いてもらうために支払った文書代は医療費控除の対象となります。ただし、保険会社提出用に書いてもらう診断書の発行料は医療費対控除の対象外です。

医療費控除の対象外となる不妊治療は?

画像: 画像:iStock.com/DzmitryDzemidovich

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医療費控除の対象となるのは、原則、国家資格を持つ医師やあん摩マッサージ師、柔道整復師などが治療を目的に行った診療や施術、医薬品の費用です。「直接的に治療が目的であることが医療費控除の条件であるため、以下のような費用は対象にはなりません

・妊活セミナーや妊活ヨガなどの受講料
・妊活サプリメント代
・マタニティーヨガなどのレッスン代
・妊娠検査薬代・排卵検査薬代

このほか、タクシー代や交通系ICカードのチャージ代、入院中の差額ベッド代・個室代なども医療費控除の対象外です。

そもそも医療費控除とは?

画像: 画像:iStock.com/YusukeIde

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医療費控除とは、1年間に支払った医療費が10万円(または年間所得の5%と比較して少ないほう)を超えた場合、確定申告をすることで、納めた所得税の一部が「還付金」として戻ってくる「所得控除」の制度です3)

国税庁によると、医療費控除の対象となるのは以下のような費用です。

〈表〉医療費控除の対象となる費用

  • 医師または歯科医師による診察・治療の料金
  • 治療・療養に必要な医薬品の購入代金
  • 病院や診療所、介護施設や助産所に収容される際の人件費
  • あん摩マッサージ指圧師、はり師やきゅう師、柔道整復師による治療のための施術の料金
  • 保健師、看護師または准看護師、特に依頼した人(※)による療養の料金
  • 助産師による分娩介助の料金
  • 介護保険などの制度で提供された施設・居宅サービスの自己負担額
  • 診療を受けるために必要な通院費や送迎費、入院時の部屋代や食事代、医療用器具購入費
  • 診療や治療を受けるために必要となる義手や義足、松葉杖や補聴器、義歯や眼鏡の購入代金

※:「特に依頼した人」とは、家政婦に付き添いを依頼した場合などが含まれます。

自分自身、または自分と生計が同じである配偶者や親族のために費用を支払った場合は、医療費控除の対象となります。診察・治療費や医薬品購入代金などはもちろん、通院費や医師などの送迎費も計上できます。

一方、病気の直接的な診療や治療でない場合、医療費控除の対象とはならない傾向にあります。

〈表〉医療費控除の対象とならない費用

  • 健康診断の費用
  • 医師などに対する謝礼金
  • 病気の予防や健康増進を目的として使われる医薬品の購入代金(ビタミン剤など)
  • リラクゼーション目的の施術料金
  • 家族や親類縁者に病人の付き添いを頼んだ際の付添料金
  • 自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車場代
  • 通院時のタクシー代(公共交通機関が利用できない場合は医療費控除の対象)

また、通院時にかかる費用であっても、自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車場代は対象外となる点に注意が必要です。

医療費控除で還付される金額の計算方法

画像: 画像:iStock.com/Pogonici

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医療費控除の還付金額の計算方法は以下の4ステップです。

【STEP1】1年間に支払った医療費を計算する
【STEP2】医療費控除対象額を計算する
【STEP3】所得税率を確認する
【STEP4】医療費控除対象額に所得税率をかける

まず1年間に支払った医療費を計算した上で、医療費控除対象額を計算します。

〈表〉医療費控除対象額の計算式

画像: 医療費控除で還付される金額の計算方法

医療費から差し引かれる保険金や給付金には、民間の医療保険の入院給付金や手術給付金、公的な医療保険の高額療養費制度の払戻金、出産育児一時金などが含まれます。

いずれの場合も医療費控除対象額の上限は200万円ですが、所得税率は課税される所得金額に応じて変わり、総所得金額が200万円未満の人と、それ以上の人では計算方法が異なります。

医療費控除の計算方法について詳しく知りたい人は、以下の記事を併せてご覧ください。

【関連記事】医療費控除でいくら戻る? 計算方法や還付金額のシミュレーションを紹介

医療費控除を申告する流れ

画像: 画像:iStock.com/JunichiYamada

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医療費控除の手続きをするためには、確定申告が必要になります。

【STEP1】確定申告に必要な書類を準備する
【STEP2】確定申告書、医療費控除の明細書を作成する
【STEP3】書類ができたら、税務署に提出する
【STEP4】口座への入金を確認する

それぞれのステップについては、以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。

【関連記事】医療費控除の申請手順は? 明細書の書き方も説明

一般的な不妊治療の種類と費用

画像: 画像:iStock.com/abezikus

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不妊治療は、検査を経て、患者の必要に応じた治療を行います。どんな治療法があり、どのくらいの費用がかかるのか、具体的に見ていきましょう。

不妊治療の種類

厚生労働省が公表した「不妊治療の実態に関する調査研究」4)によると、調査対象となった医療機関の80%以上で実施している不妊治療の治療法はつぎの6種類です。

〈表〉医療機関でよく実施されている不妊治療の治療法

タイミング法基礎体温や超音波による卵胞径の計測などによって排卵を予測し、性交のタイミングを指導する
人工授精(AIH)排卵日に合わせ、夫の精子を注入器で子宮内腔に送り込ませる
体外受精・胚移植(IVF-ET)卵子と精子を体外で受精させた受精卵を子宮内に移植する
Split採取した卵子を2つのグループに分け、IVFと顕微授精(ICSI)の両方で受精を試みる
ICSI(射出精子)顕微鏡下で細いガラス管を使い、1個の卵子の中に1個の精子を直接注入する
融解胚子宮内移植体外で受精させた受精卵を凍結保存し、妊娠出産を希望した時期に融解させて子宮内に移植する

不妊治療にはこのほか、薬剤や漢方を使って排卵やホルモンを抑制・誘発する治療法や採血や超音波などで生殖機能を調べる検査などがあります。

不妊治療の費用

前述のように2022年4月より不妊治療と人工授精は公的医療保険の適用対象となりました。以下の表は内閣府「選択する未来2.0」の「第3回会議資料」5)をもとに作成した不妊治療の主な治療法と治療費の目安です。

〈表〉不妊治療の主な治療法と治療費の目安

※:治療費は1回あたりの平均額

同資料が作成された2020年時点では保険が適用されるのは、一般不妊治療の2種類だけでしたが、2023年11月時点では、夫以外の精子を使う人工授精(AID)以外は全て保険適用となっています。

保険適用の医療費は医療機関によって異なりますが、不妊治療の自己負担額は原則、かかった医療費の3割です。詳しくは後述しますが、高額になった場合は、高額療養費制度の利用も可能です。

ただし、不妊治療の中には、公的医療保険が適用されず、全額自己負担となる「自由診療」もある点に注意が必要です。保険が適用される「保険診療」と保険適用外の「自由診療」は、先進医療と認められる治療法を除き、混合すること(混合診療)はできないからです。

たとえば、精子凍結は保険適用外です。そのため、精子凍結をして人工授精を行う場合、混合診療禁止のルールから、本来は保険診療となる人工授精も自由診療として全額負担で支払う必要が生じます。

不妊治療の医療費控除で押さえておくべきポイント

画像: 画像:iStock.com/picture

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不妊治療は夫婦で関わり、医療費を支払うため、自分1人分の医療費控除申告を行う場合とは異なる注意点があります。

以下でそれぞれについて説明します。

①夫婦の治療費を合算して申告できる

医療費控除は配偶者や生計を同一とする家族の医療費も合算して申告することができます6)。ただし、人工授精や体外受精など、夫や妻の両方に負担がかかる治療の医療費は、合理的な割合で配分し、それぞれで医療費控除を申告することも可能です。医療機関によっては配分を明記してくれるところもあります。配分がわからない場合は、税務署に相談してみましょう。

②共働き夫婦は所得が多いほうが申告したほうがいい場合がある

医療費控除を申告した場合、住民税が減税され、所得税の還付金を受け取ることができます。住民税は所得にかかわらず医療費控除の対象となる金額の10%が減税されます。一方、所得税の還付金額は、所得金額が多いほど所得税率が高くなり、もらえる金額が多くなります。そのため、夫と妻の収入差が大きい場合は、所得税率が高いほうが申告したほうが、還付金が多くなる可能性があります。

③事実婚の場合は医療費を合算して申告できない

一緒に不妊治療に取り組んでいても、結婚をしていない場合、生計を同一にしていると認められないため、医療費を合算して申告することはできません。事実婚で両者に負担がかかる治療を行っている場合は、負担を配分して、それぞれが申告を行う必要があります。

不妊治療で助成金と医療費控除は併用できる

画像1: 画像:iStock.com/takasuu

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2022年4月の不妊治療の保険適用に伴い、国の助成金制度である厚生労働省の「特定不妊治療費助成制度」は2021年度で終了しました7)

ただし、地方自治体でも不妊治療に関する助成金制度を行っているところはあり、これは医療費控除と併用することができます。たとえば、東京都の場合、体外受精や顕微授精を行う際に、保険適用の治療と併用する「先進医療」にかかる費用の一部を助成する制度があります8)

さらに不妊治療の費用負担を軽減する方法

画像2: 画像:iStock.com/takasuu

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一般的な不妊治療と人工授精が保険適用されたといっても、前述のように治療によっては全額自己負担となるケースもあります。そこで、少しでも不妊治療の費用負担を軽減する工夫を紹介します。

医療保険に加入する

2022年4月の不妊治療の保険適用に伴い、民間の医療保険で不妊治療の際に保険金を受け取ることができるケースが増えているようです。また、人工授精などを行った際に給付金を受け取ることができる医療保険や特約もあります。妊娠・出産の際に切迫流産や帝王切開などになった場合にも医療保険は役立ちます。妊活や不妊治療を始めると、医療保険の加入が難しくなる場合もあるので、出産を考えている人は早めの加入がおすすめです。

勤務先の健康保険組合・福利厚生制度を活用する

2022年4月に厚生労働省で不妊治療と仕事の両立に関する認定制度「くるみんプラス」の創設9)などを受け、不妊治療支援に力を入れる企業も増えてきています。不妊治療のための休暇や休職制度のほか、治療費の補助金や貸付制度を設けている企業もあります。勤務先の福利厚生や健康保険組合の制度を確認してみましょう。

高額療養費制度を活用する

高額療養費制度10)とは、公的医療保険制度の加入者に対し、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1カ月で上限額を超えた場合、その超えた金額を支給する制度です。上限額は年齢や収入によって異なります。69歳以下の場合は以下のようになります。

〈表〉69歳以下の人の上限額

不妊治療も保険適用となったことで、治療費が高額になった場合、高額療養費制度を活用することができるようになりました。

さらに詳しく高額療養費制度について知りたい人は、以下の記事を併せてご覧ください。

【関連記事】「高額療養費制度」で対象外となる費用とは? しくみや計算方法をわかりやすく解説

不妊治療の医療費控除に関するよくある質問

画像: 画像:iStock.com/metamorworks

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続いて、医療費控除に関するよくある質問に回答します。

Q「ふるさと納税」や「住宅ローン控除」と併用できる?

併用することは可能です。ただし、2点に注意が必要です。税金の控除は、医療費控除を含む所得控除、ふるさと納税、住宅ローン控除の順に行われます。このため、医療費控除の金額によっては、ふるさと納税の寄付金上限額(控除上限額)が変わる可能性があります。また、住宅ローン控除を申告しても、医療費控除の金額によっては、全額を差し引けない可能性があります。

Q住宅ローン控除で所得税が0円の場合、医療費控除は併用できる?

上述のように、住民ローン控除は医療費控除のあとに差し引かれます。併用は可能ですが、医療費控除の金額によっては、やはり全額を差し引けない可能性があります。

Q先進医療は医療費控除の対象になる?

先進医療と認められている治療は公的医療保険の対象外ですが、医療費控除の対象にはなります。

費用負担を減らすために、医療費控除を活用しよう

画像: 画像:iStock.com/gerenme

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2022年の保険適用によって、不妊治療の費用負担は軽減される傾向にあります。とはいえ、保険適用にならない治療法もあれば、厚生労働省の特定不妊治療費助成制度終了に伴い、かえって費用負担が大きくなったケースもあるようです。医療保険や会社の福利厚生制度などを活用しながら、医療費控除もしっかり申告しましょう。

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