この記事では、ファイナンシャルプランナー・荒木千秋さん監修のもと、歯列矯正が医療費控除の対象となるか疑問に思う人に向けて、医療費控除の対象になるケースとならないケースについて解説します。さらに、医療費控除で還付される金額の計算方法や申告の流れについても説明します。
大人の歯列矯正でも医療費控除は受けられる?
見た目の美しさを整えることを目的とした歯列矯正の場合、医療費控除の対象外になります1)。ただし、発育段階にある子どもの成長を阻害しないようにすることを目的とした不正咬合(※)の歯列矯正をはじめ、治療を目的とした歯列矯正の場合には医療費控除の対象になります。
※:噛み合わせや歯並び悪い状態。放置すると日常生活に支障が出ることもある。
参考資料
そもそも医療費控除とは?
医療費控除とは、1年間に支払った医療費が10万円(または年間所得の5%と比較して少ないほう)を超えた場合、確定申告をすることで、納めた所得税の一部が「還付金」として戻ってくる「所得控除」の制度です2)。
国税庁によると、医療費控除の対象となるのは、国家資格を持つ医師やあん摩マッサージ指圧師などが治療を目的とした診察・治療の費用や医薬品購入代金、通院費や医師の送迎費などです。
〈表〉医療費控除の対象とならない費用
- 健康診断の費用
- 医師などに対する謝礼金
- 病気の予防や健康増進を目的として使われる医薬品の購入代金(ビタミン剤など)
- リラクゼーション目的の施術料金
- 家族や親類縁者に病人の付き添いを頼んだ際の付添料金
- 自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車場代
- 通院時のタクシー代(公共交通機関が利用できない場合は医療費控除の対象)
つまり、病状の改善を目的とした診療や治療でない場合、医療費控除の対象とはならない傾向にあります。
参考資料
歯列矯正が医療費控除の対象となるのは?
前述のように治療が目的で行う歯列矯正は医療費控除の対象として認められる可能性があります。では具体的にどのようなケースで医療費控除の対象とされるのか、見てみましょう。
控除対象になるのは、目的が機能改善・向上にある場合
以下のように、歯の機能性に問題があり、歯列矯正が機能を改善・向上させるために行われる場合、医療費控除の対象とされる可能性は高いでしょう。
【大人の場合】
- 受け口や開咬などで正しい発音ができない
- 重度の出っ歯で食べ物を噛み切れない
【子どもの場合】
- 不正咬合が顎や歯の成長を阻害している
特に発育過程の子どもの歯列矯正は、適切な成長をするために必要な治療と判断されることが多いといえます。
歯列矯正の費用の内訳と相場
歯列矯正は公的医療保険適用外の自由診療になるため、国で金額を規定しておらず、治療にかかる金額は歯科医院によります。
〈表〉歯列矯正の費用の目安
初回相談料 | 3,000円程度 |
---|---|
精密検査・診断料 | 約5万円前後 |
ワイヤー(表側矯正) | 約60万~100万円 |
ワイヤー(裏側矯正) | 約80万~150万円 |
マウスピース矯正 | 約80万~150万円 |
処置料 | 1回5,000円程度 |
治療費は主に矯正装置費用、調整料、処置料を合算した金額で、矯正装置によって値段が大きく異なります。「治療」の前にはカウンセリングや精密検査による「診断」、治療後に歯を固定するためにマウスピースなどで「保定」を行います。上の表の金額はあくまで目安と考え、歯科医院に金額を確認しましょう。
支払いにデンタルローンやクレジットカードを利用した場合は?
支払い方法は医療費控除の対象となるかどうかの判断には影響を与えません。ただし、デンタルローンやクレジットカードを支払いに利用した場合、医療費控除を申請するタイミングに注意が必要です。
デンタルローンやクレジットカードで治療費を支払う場合、信販会社が歯科医院に治療費の全額を一括で立替払いをし、患者は分割で信販会社の立替分を返済していきます。つまり治療費が医療費控除の対象となるのは、患者が信販会社に立替分を全額支払い終わった時ではなく、信販会社が歯科医院に立替分を支払ったタイミング=ローン契約が成立した年になります。
また、デンタルローンやクレジットカードを利用した場合、患者の手元には歯科医院の領収書がないことが考えられます。医療費控除を受ける時の支出を証明する書類として、歯科ローンの契約書や信販会社の領収書を保存しましょう。なお、ローンの利子は医療控除の対象とならない点にも注意が必要です。
歯列矯正が医療費控除の対象外となるのは?
前述のように、歯列矯正が審美目的である場合、医療費控除の対象にはなりません。ただし、見た目を整えようと歯列矯正の相談をして、歯列矯正が機能改善・向上につながるとわかる場合もあります。まずは歯科医に相談してみるのがよいでしょう。
医療費控除で還付される金額の計算方法
医療費控除の還付金額の計算方法は以下の4ステップです。
【STEP1】1年間に支払った医療費を計算する
【STEP2】医療費控除対象額を計算する
【STEP3】所得税率を確認する
【STEP4】医療費控除対象額に所得税率をかける
まず1年間に支払った医療費を計算した上で、医療費控除対象額を計算します。
〈表〉医療費控除対象額の計算式
医療費から差し引かれる保険金や給付金には、民間の医療保険の入院給付金や手術給付金、公的な医療保険の高額療養費制度の払戻金、出産育児一時金などが含まれます。
いずれの場合も医療費控除対象額の上限は200万円ですが、所得税率は課税される所得金額に応じて変わり、総所得金額が200万円未満の人と、それ以上の人では計算方法が異なります。
医療費控除の計算方法について詳しく知りたい人は、以下の記事を併せてご覧ください。
【関連記事】医療費控除でいくら戻る? 計算方法や還付金額のシミュレーションを紹介
医療費控除を申告する流れ
医療費控除の手続きをするためには、確定申告が必要になります。
【STEP1】確定申告に必要な書類を準備する
【STEP2】確定申告書、医療費控除の明細書を作成する
【STEP3】書類ができたら、税務署に提出する
【STEP4】口座への入金を確認する
それぞれのステップについては、以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。
歯列矯正の医療費控除に診断書は必要ない?
医療費控除の申告には診断書は必ずしも必要ではありません。ただし、歯列矯正は高額なため、施術が審美目的か治療目的かを客観的に判断するための資料として、税務署が医師の診断書を求める場合があります。とはいえ、診断書の発行には数千円がかかるので、税務署の依頼があってから用意するかたちで十分です。
歯列矯正が控除対象となるかは目的次第
審美目的の歯列矯正は医療費控除の対象外ですが、治療が目的の場合には医療費控除の対象となります。また、審美目的で歯科医に相談して、機能の改善・向上のために治療として歯列矯正が必要とわかるケースもあります。歯列矯正をしたい人はまずは歯科医に相談してみるのがおすすめです。